上 下
18 / 180
第一章 冒険者に俺はなる

18話

しおりを挟む


 次に受付嬢の少女から、冒険者として活動する上で守らなければならないルールの説明をし始める。
 基本的にそれほど難しいルールはなく、“犯罪行為をしてはならない”“ギルドの不利益となる情報を外部に漏らしてはならない”などの極々自然なものだった。


「それと冒険者同士の争いに関してですが、基本的にギルドは冒険者とのトラブルに関しては関与いたしません」

「それって、ギルドとしては問題ないのかよ?」

「あくまでも冒険者としての活動は自己責任となります。仮に任務中に命を落としても、そうなる可能性があることを理解した上で皆さん冒険者をやっていますでしょうから。冒険者同士のトラブルに関しても、ギルドとしては当人同士の自主性に任せる形を取っております」

「じゃあ何か、仮に冒険者同士で喧嘩になってどちらかが殺されても、殺した冒険者は罪に問われないのか?」

「ギルドとしては、基本的には黙認する形を取っています。ですが、さすがに全てを容認しているわけではありませんので、場合によりけりといった感じですね」


 何ともアバウトなルールに秋雨は内心で呆れるも、基本荒事の多い冒険者ならばある程度ルールを緩めに設定しないと、人が集まらないのだろうと推察する。


(あまりきついルールを設けると、自分たちで勝手に冒険者活動をする奴も出てくるだろうしな、そこは打算的な意味も含まれてんだろうな……)


 そんなことを考えている間に、受付嬢の少女は次の説明に移っていた。
 次に説明されたのは冒険者のランクについてのもので、内容としては概ねテンプレートと言っていい内容だった。


「冒険者のランクは一番下のGランクから始まって、最高でSSランクの九段階となっています。またギルドから発注される依頼、クエストにも同じようにランクが設定されていて、冒険者は自分が所属するランクの一つ上までのクエストを受けることができます。ランクの昇格に関しては、Cランクまでは自分と同じランクもしくは一つ上のランクのクエストを一定数達成するか、特定の功績を上げるとランクアップが任意で可能となります。Bランク以上の昇格に関しましては、ギルドが発行する特定のクエストを達成していただくとランクアップとなります」

「なるほど」


 よくもまあこれほど長い説明を噛まずに言えるものだなと、別なところで感心している秋雨だったが、そんな彼の思いもよそに少女はさらに説明を続ける。


「またクエストに失敗しますと、違約金というものが発生しますので自分の実力に見合ったクエストを受けることをおすすめします」


 というような感じで説明が続いたが、最後に彼女が説明を終えると今まで説明してくれた内容が記載された小冊子を渡してきた。
 それを貰った秋雨が「別に説明しなくてもこれを渡せば良かったのでは?」と少女に問いただすと、苦笑いを浮かべながら首を竦めた。


「申し訳ありません、有望そうな方には直接説明してるんです。通常ならその冊子を渡して終わりなんですけど、アキサメさんのような方は大抵後になって詳しく聞きに来る人が多いんですよね」

「だからわざわざ説明してくれたと?」

「そうですが、何か?」


 そう言われてしまえば秋雨もそれ以上追及できなくなり、そのまま口を噤んでしまう。
 それから、冒険者の適性を見るための試験を受けないかと言われたが、試験を受けるかどうかは本人次第であったことと、適正ありと認められた場合のメリットとして最下位ランクより一つ上のFランクから始められるという事だけだったので、試験は辞退することにした。


(下手にこっちの実力を見せるわけにはいかないからな、こういうことはきっちりしておかないと)


 そして、ギルドから貰える支給品の木剣を受け取った後、思い出したように彼女が口を開く。


「そう言えば申し遅れましたが、わたしはこの冒険者ギルドで職員をやっております。ベティーと申します。以後よろしくお願いいたします」

「ああ、よろしくな」


 改めて秋雨は彼女の姿を観察する。
 年の頃は今の秋雨と同じくらいで、肩まで伸びた薄い緑髪と薄琥珀色の瞳を持った少女だ。
 同年代でありながら凶悪なものを持っているケイトとは違い、ベティーのそれはまさに年相応なくらい慎ましい膨らみであった。


 しかしながら、女性として少し丸みを帯び始めてきた均整の取れた身体つきに、愛くるしい顔と相まって美人とは言えないが、可愛い女の子であることは間違いはない。
 ギルド職員の制服なのか、薄めのブラウスとパンツスーツに身を包んでいる姿は清潔感が溢れ、彼女の雰囲気と相まってマスコット的な可愛さを醸し出していた。


「なあ、ベティー。クエストについて一つ聞きたい事があるんだが?」

「はい、なんでしょうか?」


 ベティーに不審に思われない程度の時間彼女を観察していた秋雨は、依頼であるクエストについてふと疑問に思ったことを投げかけた。


「クエストの重複受注はできるのか? あと納品系のクエストの場合、先に納品するアイテムを集めてからその後クエストを受注するという事は可能だろうか?」

「結論から申し上げれば、二つとも可能です。クエストはいくつ重複して受けてもらっても構いませんが、クエストによって達成するまでの期限が設けられていることがありますので、あまりたくさんの受注はおすすめしません。二つ目の目的であるアイテムを入手してからのクエストの後受けに関しては、何ら問題ありません。受注してからアイテムを探しに向かわれても構いませんし、先に入手してから後でクエストを受注しても大丈夫です」


 冒険者ギルドでは冒険者一人当りのクエスト消化率を高めるため、冒険者がクエストを受注できる数の制限を設けていない。
 特にCランク以上のクエストでは期限が数日しかない事も少なくないため、態々ギルドに戻ってクエスト受注をしていては期限に間に合わなくなってしまう。


 クエストの後受けに関しても、時間効率を省くという意味でも先にアイテムを入手してからの方が確実であるため、これもギルドは特に制限を設けていない。
 ただし、後受けの場合クエスト達成までの期限が過ぎてしまい、せっかくアイテムを手に入れてもクエストが破棄されてしまっているなんていう事もあり得るため、それを防ぐために先に受けた方が無難であることは確かだ。


「そうか、ああ、あと素材の買い取りなどはいつでもやってくれるのか?」

「はい、そちらの冊子にも記載されていますが、基本的にクエスト受注や素材の買い取り、その他の手続に関して24時間いつでも受け付けております」

「なかなか便利なんだな」

「場合によってはクエストから帰還した時間が真夜中になることもありますし、鮮度が重要な食材などを納品する場合もありますから、いつでも受け付けているんですよ」

「よくわかった。教えてくれたありがとう」

「いえ、これも仕事ですから。それではこちらが冒険者の証となりますギルドカードです」


 そう言うとベティーは1枚のカードを秋雨に渡した。
 大きさは縦10センチ、横15センチほどで、銀行のキャッシュカードの2倍くらいの物だ。


 そこには先ほど記載した内容が書かれている他、ランクやクエスト達成の数などの項目が掛かれていた。
 秋雨はそれを受け取ると懐にしまうふりをしてアイテムボックスに収納した。


「ちなみにこちらのギルドカードは、紛失しますと再発行に銀貨5枚ほど掛かりますので、管理には十分注意してください」

「そりゃ手痛い出費だな、まあ気を付けるよ」


 それから少し雑談した後、改めてベティーに礼を告げ秋雨はその場を後にした。
 受付カウンターから踵を返し、入り口に向かっている途中ふと酒場の方から誰かに見られている視線を感じてそちらに顔を向けた秋雨だが、そこには酔いつぶれて眠りこけた冒険者しかいなかった。


「気のせいか?」


 そう呟くと秋雨は、再びギルドの入り口に歩を進め、今度こそギルドを後にした。
 当初の目的通り他の冒険者に絡まれることなく安全に登録を済ませることに成功した秋雨だったが、彼にとって誤算だったのは、最後に感じた視線が気のせいではなかったという事であった。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...