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第一章 冒険者に俺はなる
18話
しおりを挟む次に受付嬢の少女から、冒険者として活動する上で守らなければならないルールの説明をし始める。
基本的にそれほど難しいルールはなく、“犯罪行為をしてはならない”“ギルドの不利益となる情報を外部に漏らしてはならない”などの極々自然なものだった。
「それと冒険者同士の争いに関してですが、基本的にギルドは冒険者とのトラブルに関しては関与いたしません」
「それって、ギルドとしては問題ないのかよ?」
「あくまでも冒険者としての活動は自己責任となります。仮に任務中に命を落としても、そうなる可能性があることを理解した上で皆さん冒険者をやっていますでしょうから。冒険者同士のトラブルに関しても、ギルドとしては当人同士の自主性に任せる形を取っております」
「じゃあ何か、仮に冒険者同士で喧嘩になってどちらかが殺されても、殺した冒険者は罪に問われないのか?」
「ギルドとしては、基本的には黙認する形を取っています。ですが、さすがに全てを容認しているわけではありませんので、場合によりけりといった感じですね」
何ともアバウトなルールに秋雨は内心で呆れるも、基本荒事の多い冒険者ならばある程度ルールを緩めに設定しないと、人が集まらないのだろうと推察する。
(あまりきついルールを設けると、自分たちで勝手に冒険者活動をする奴も出てくるだろうしな、そこは打算的な意味も含まれてんだろうな……)
そんなことを考えている間に、受付嬢の少女は次の説明に移っていた。
次に説明されたのは冒険者のランクについてのもので、内容としては概ねテンプレートと言っていい内容だった。
「冒険者のランクは一番下のGランクから始まって、最高でSSランクの九段階となっています。またギルドから発注される依頼、クエストにも同じようにランクが設定されていて、冒険者は自分が所属するランクの一つ上までのクエストを受けることができます。ランクの昇格に関しては、Cランクまでは自分と同じランクもしくは一つ上のランクのクエストを一定数達成するか、特定の功績を上げるとランクアップが任意で可能となります。Bランク以上の昇格に関しましては、ギルドが発行する特定のクエストを達成していただくとランクアップとなります」
「なるほど」
よくもまあこれほど長い説明を噛まずに言えるものだなと、別なところで感心している秋雨だったが、そんな彼の思いもよそに少女はさらに説明を続ける。
「またクエストに失敗しますと、違約金というものが発生しますので自分の実力に見合ったクエストを受けることをおすすめします」
というような感じで説明が続いたが、最後に彼女が説明を終えると今まで説明してくれた内容が記載された小冊子を渡してきた。
それを貰った秋雨が「別に説明しなくてもこれを渡せば良かったのでは?」と少女に問いただすと、苦笑いを浮かべながら首を竦めた。
「申し訳ありません、有望そうな方には直接説明してるんです。通常ならその冊子を渡して終わりなんですけど、アキサメさんのような方は大抵後になって詳しく聞きに来る人が多いんですよね」
「だからわざわざ説明してくれたと?」
「そうですが、何か?」
そう言われてしまえば秋雨もそれ以上追及できなくなり、そのまま口を噤んでしまう。
それから、冒険者の適性を見るための試験を受けないかと言われたが、試験を受けるかどうかは本人次第であったことと、適正ありと認められた場合のメリットとして最下位ランクより一つ上のFランクから始められるという事だけだったので、試験は辞退することにした。
(下手にこっちの実力を見せるわけにはいかないからな、こういうことはきっちりしておかないと)
そして、ギルドから貰える支給品の木剣を受け取った後、思い出したように彼女が口を開く。
「そう言えば申し遅れましたが、わたしはこの冒険者ギルドで職員をやっております。ベティーと申します。以後よろしくお願いいたします」
「ああ、よろしくな」
改めて秋雨は彼女の姿を観察する。
年の頃は今の秋雨と同じくらいで、肩まで伸びた薄い緑髪と薄琥珀色の瞳を持った少女だ。
同年代でありながら凶悪なものを持っているケイトとは違い、ベティーのそれはまさに年相応なくらい慎ましい膨らみであった。
しかしながら、女性として少し丸みを帯び始めてきた均整の取れた身体つきに、愛くるしい顔と相まって美人とは言えないが、可愛い女の子であることは間違いはない。
ギルド職員の制服なのか、薄めのブラウスとパンツスーツに身を包んでいる姿は清潔感が溢れ、彼女の雰囲気と相まってマスコット的な可愛さを醸し出していた。
「なあ、ベティー。クエストについて一つ聞きたい事があるんだが?」
「はい、なんでしょうか?」
ベティーに不審に思われない程度の時間彼女を観察していた秋雨は、依頼であるクエストについてふと疑問に思ったことを投げかけた。
「クエストの重複受注はできるのか? あと納品系のクエストの場合、先に納品するアイテムを集めてからその後クエストを受注するという事は可能だろうか?」
「結論から申し上げれば、二つとも可能です。クエストはいくつ重複して受けてもらっても構いませんが、クエストによって達成するまでの期限が設けられていることがありますので、あまりたくさんの受注はおすすめしません。二つ目の目的であるアイテムを入手してからのクエストの後受けに関しては、何ら問題ありません。受注してからアイテムを探しに向かわれても構いませんし、先に入手してから後でクエストを受注しても大丈夫です」
冒険者ギルドでは冒険者一人当りのクエスト消化率を高めるため、冒険者がクエストを受注できる数の制限を設けていない。
特にCランク以上のクエストでは期限が数日しかない事も少なくないため、態々ギルドに戻ってクエスト受注をしていては期限に間に合わなくなってしまう。
クエストの後受けに関しても、時間効率を省くという意味でも先にアイテムを入手してからの方が確実であるため、これもギルドは特に制限を設けていない。
ただし、後受けの場合クエスト達成までの期限が過ぎてしまい、せっかくアイテムを手に入れてもクエストが破棄されてしまっているなんていう事もあり得るため、それを防ぐために先に受けた方が無難であることは確かだ。
「そうか、ああ、あと素材の買い取りなどはいつでもやってくれるのか?」
「はい、そちらの冊子にも記載されていますが、基本的にクエスト受注や素材の買い取り、その他の手続に関して24時間いつでも受け付けております」
「なかなか便利なんだな」
「場合によってはクエストから帰還した時間が真夜中になることもありますし、鮮度が重要な食材などを納品する場合もありますから、いつでも受け付けているんですよ」
「よくわかった。教えてくれたありがとう」
「いえ、これも仕事ですから。それではこちらが冒険者の証となりますギルドカードです」
そう言うとベティーは1枚のカードを秋雨に渡した。
大きさは縦10センチ、横15センチほどで、銀行のキャッシュカードの2倍くらいの物だ。
そこには先ほど記載した内容が書かれている他、ランクやクエスト達成の数などの項目が掛かれていた。
秋雨はそれを受け取ると懐にしまうふりをしてアイテムボックスに収納した。
「ちなみにこちらのギルドカードは、紛失しますと再発行に銀貨5枚ほど掛かりますので、管理には十分注意してください」
「そりゃ手痛い出費だな、まあ気を付けるよ」
それから少し雑談した後、改めてベティーに礼を告げ秋雨はその場を後にした。
受付カウンターから踵を返し、入り口に向かっている途中ふと酒場の方から誰かに見られている視線を感じてそちらに顔を向けた秋雨だが、そこには酔いつぶれて眠りこけた冒険者しかいなかった。
「気のせいか?」
そう呟くと秋雨は、再びギルドの入り口に歩を進め、今度こそギルドを後にした。
当初の目的通り他の冒険者に絡まれることなく安全に登録を済ませることに成功した秋雨だったが、彼にとって誤算だったのは、最後に感じた視線が気のせいではなかったという事であった。
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