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第一章 冒険者に俺はなる
7話
しおりを挟む盗賊に襲われていた少女ことピンク乳首ちゃんを助けた秋雨はそのまま森を抜け、グリムファームへと続く街道を歩いていた。
徒歩30分の道のりは現代社会で生きていた秋雨はからすれば、少し退屈な時間だったが忙しい時間を生きてきた彼にとってこれほどゆったりとした時間を過ごすのは久しぶりだった。
(ああ、いいねえ……これが悠々自適生活という奴ですよ)
自由気ままの気の向くままに、寝たいときに眠り起きたいときに起き、食べたいときに食べ、稼ぎたいときに仕事をするフリーダムな生活。
そんな生活を手に入れてしまった秋雨にとってこれからゆっくりとした時間を生きることができる期待で胸が一杯だった。
そうこうしていると30分という時間はあっという間に過ぎてしまい、グリムファームの街の正門が見えてきた。
十数メートルという高い壁が周囲を覆い、その上空部分にも緊急時のみではあるものの魔道具による防御結界を展開させることができる造りとなっておりまさに鉄壁の一言に尽きる。
門の前には人の列ができており、中には馬車を引いている者もいた。
街に入るためには手続きを行わなければならないため、秋雨は大人しくその列の最後尾に並んだ。
城塞都市グリムファーム。
人口約15万人ほどの中規模寄りの都市であり、バルバド王国全土の都市の中でも5番目に人口が多い。
一見するとなんだか畜産業を営んでいそうな名前の都市だが、この都市の主な名産は鍛冶職人が手掛けた業物の武具と王都と比べても引けを取らないほどの規模を持つ冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドとは、主にモンスター討伐やモンスターから採取できる希少な素材の入手などを生業としている武装集団の一角で、通称冒険者と呼ばれる者たちを管理運営する役割を持つ機関であり、その規模はイースヴァリア大陸のみならず、他の三つの大陸にまで拡大している。
国というものに対して唯一対等中立な立場を貫いており、例え一国の王の命令でも冒険者を私的に動かすことはできないとされている。
国家間で戦争が起きた場合においても、国は冒険者を傭兵として雇う事は出来ず、完全な独立機関としてこの世界全土に支部を展開している。
(まあとりあえず、最初は冒険者として登録して、そこから薬草採取なり雑魚モンスターの討伐なりをやっていこうかね)
そんなことを考えているとようやく自分の番が回ってきたらしく、門兵に声を掛けられた。
下級衛兵と思しき革製の鎧に身を包んだ男が、白い歯を剥き出しにしながら問いかけてくる。
「おう坊主、このグリムファームに何の用だ?」
「冒険者になるために来た、ここはバルバド王国の中でも規模の大きな冒険者ギルドがあるからな」
「なんだ坊主、詳しいじゃないか。お前の言う通り、この街の冒険者ギルドはこの王国でも王都の次くらいに規模がデカい。それはこの街が鍛冶職人達が作った武具を名産として売ってるっていうのもあるんだが……おっと、少し長話し過ぎちまったな、悪い。街に入りたいなら身分を証明できるものを提示するか、入街税として銅貨1枚かかるんだが……坊主、金持ってるか?」
「じゃあこれで」
そう言って秋雨は、腰の辺りに下げているお金の入った革の袋から銅貨を取り出し衛兵に渡した。
実年齢が22歳である秋雨に対して、衛兵の“坊主”という呼び方に若干の違和感を感じつつも、早く街に入りたかった秋雨は、特にツッコむこともなく手続きを進める。
銅貨を受け取った衛兵の男はその金が偽物でないことを確認したあと「確かに」と呟き自身の身体で塞いでいた道を譲った。
「ならこれで手続きは完了だ」
「どうも」
そのまま秋雨が衛兵の横を通り過ぎ、街に入ろうとしたその時、急に肩に手を置かれてしまい行く手を阻まれる。
(な、なんだ? 何かバレたのか?)
別にこれといってやましいことはない秋雨だったので、軽く小首を傾げながら衛兵を見ると、ニコリと微笑みながらこう告げた。
「言い忘れてたけど、ようこそグリムファームの街へ」
「あ、ああ……じゃあ俺はこれで」
内心安堵のため息を漏らしながら、ようやく解放された秋雨はそのままグリムファームの街へと入っていった。
門を潜るとそこには、石畳が敷き詰められた道が伸びており、建物の建築様式はやはりというべきか中世のヨーロッパの雰囲気に似ている。
異世界の建築技術というのはどの世界においても似たり寄ったりのようで、どうしても中世の時代の建築様式に近いものが多くなると秋雨は内心で苦笑いを浮かべる。
それでもそんな建築技術が乏しい異世界において共通しているのは、総じてどこの街も活気があるという事だろう。
露店を営んでいる店主の威勢のいい客引きの声が響き渡っていたり、遠路はるばる運んできた積み荷を取引するために馬車を引く行商人の姿があった。
行き交う人の往来もバラエティに富んでおり、町娘の少女や冒険者風のパーティー集団だったり、果ては貴族が乗っていそうな豪華な馬車を護衛する騎士の集団だったりと多種多様だ。
そんな中秋雨はまるで田舎から出てきた御上りさんのように視線をあっちへこっちへと巡らせていた。
(田舎から上京した時のことを思い出すな……)
そんなあからさまに田舎者然とした秋雨をカモだと思ったのか、怪しい雰囲気を纏った男が近づいてきた。
すぐに秋雨もその男に気付き、男の目的がなんなのか分かったので、その男を避けるように人の流れとは直角に移動した。
多少動きづらかったが、そこは体力と魔力以外全パラメーター1000の力を少し使い難なく移動することに成功する。
流石の男も相手の懐に入れなければスリを働くこともできず、悔しい表情というよりも秋雨の行動に呆れながら黙って彼を見送った。
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