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第三十話「ランク昇級」
しおりを挟む「あのー、もう一度言ってもらえませんかね? 何を倒してきたですって?」
グロムベルクに帰還したサダウィンは、すぐさま冒険者ギルドへと向かい事の顛末を報告した。時刻は冒険者が依頼を達成して戻ってくる夕方頃で、ギルド内には多くの冒険者でごった返している。
そんな中で突然、冒険者になったばかりの新人が「オークを三匹倒してきた」等と宣えばどうなるのか、答えは言うまでもない。
「おい、聞いたか。冒険者になったばかりの子供がオークを倒したってよ?」
「どうせ、オークを別のモンスターと勘違いしてんだろ。それか、ガキが受付嬢にいいとこ見せようと虚勢を張ったかのどっちかだ」
「だな。新人がオークを狩るなんてまず不可能だ」
冒険者の常識としていくつかの内容が存在する。その中の一つに“オークを狩ることは新人では不可能”という定説のようなものがある。
それは、オークというモンスター自体が新人冒険者から見て高ランクであるということと、オークは基本複数個体での活動をすることが多く、余程のことがない限り単独行動をすることがない。
だというのに、サダウィンはそれを一人でしかも三匹も狩ってきたと公言したのだ。そんなことをいきなり言われて信じる人間はこの世界には存在しな――。
「さすがはサダウィン様です! あたしが目を付け……受付を担当しただけはあります!」
「……(いや、それまったく関係ないじゃん)」
どうやら、いたようだ。たまたま彼の依頼報告を担当していたベティが、彼から詳しい事情も確認せずにあからさまな贔屓をしている。その後も周りを無視してサダウィンに言い寄ろうとする彼女の頭に、丸められた書類が振り下ろされることになる。誰が落としたかは言うまでもない。
「サダウィン君、さっき言っていたことは本当なの?」
「本当だ。薬草採集の依頼は失敗した。すまない」
「いえ、そっちのほうじゃなくてあの森にオークが出現したことを聞きたかったのだけれど」
「? ああ、確かにあれはオークだった」
「それを証明するものは持っているかしら?」
どこかの贔屓受付嬢とは違い、ただ淡々と事実確認をしていくメリーに、サダウィンも事実だけを淡々と報告していく。
薬草採集の依頼は、基本的には冒険者になったばかりの冒険者が受けることがほとんどで、薬草の自生する場所も、Jランクよりも上のIランクやHランク冒険者の手により定期的に間引きが行われている。
だからこそ、サダウィンが今日訪れた森にオークなどというモンスターが出現したことに違和感があり、何か不測の事態が起こったのではないかというのがメリーの見解であった。
もし仮に彼がオークを倒したというのが本当であれば、その言葉が真実であるという物的な証拠、例えば死骸などがあれば彼の言葉にも真実味が増すと同時に、森での異常性が認められるため、すぐに調査のための冒険者を派遣する段取りもスムーズに行うことができるのだ。
サダウィンとしては、嘘は言っていないため「あるぞ、ここにな」と自分の腰に下げているポーチをトントンと叩いた。
そのポーチは元々アイテムリングの中に収納していたもので、レイラスからもらった平民の平服の中に混ざっていたものであり、お忍びで行くならアイテムリングの存在を隠した方がいいという彼の判断から彼が独断で持ってきていたものだった。
実際とは別の形でそのポーチが役に立ったことに、サダウィンが内心で苦笑いを浮かべつつ、彼の示したポーチが魔法鞄であると判断したメリーが「わかったわ、じゃあこっちにきて見せて頂戴」と彼をある場所へと案内するため、受付カウンターから出てきた。
「ちょ、ちょっと先輩! サダウィン様はあたしが――」
「あなたは今冒険者の依頼報告を聞く業務で忙しいでしょ。彼は私が案内します」
「そ、そんなぁ~」
ベティの抗議の声も虚しく、正論を言っているのはメリーであるため、逆らうことはできず黙って二人を見送るしかなかった。サダウィンの背中から「あんまりだぁ~」という声が聞こえてくるが、それを自然に聞き流した彼はメリーの後を付いていく。
すると、サダウィンの後ろにも数十人の冒険者が付いてきていた。どうやら今回の騒ぎの顛末を知りたい野次馬な冒険者たちのようだ。
メリーの案内に従い連れてこられたのは、モンスターを解体して素材とする解体場だった。解体をするための作業台には、ファングボアや兎型のモンスタープチラビットなど低級モンスターが載せられており、今からそれを解体するつもりらしい。
そんな光景をサダウィンがボーっと眺めていると、それに気付いた解体場の人間の中から一人の男がやってくる。精悍な顔つきをしたナイスミドルといった感じの中年男性だ。
「おう、メリーじゃねぇか。この団体は何なんだ?」
「実は……」
メリーは彼に事情を説明し、彼が「なるほど」と呟いたタイミングで、サダウィンに視線を向けた。
「で、その件の新人冒険者ってぇのが、この坊主ってわけか」
「はい、それでオークを魔法鞄に入れているということだったので、こちらに案内しました」
「で、後ろの冒険者は?」
「……ただのギャラリーかと」
それを聞いた男が「おう、見せもんじゃねぇぞゴルァ」と大音声で声を張り上げると、蜘蛛の子を散らす様に受付の方へと帰って行った。その状況に目をぱちくりとさせるサダウィンだったが、ここで男が彼に自己紹介をしてくる。
「おっと、忘れてたが俺はガリヴァンだ。元は冒険者だったが、今はこうして解体作業員として働いてる」
「どうも、サダウィンだ。冒険者になってまだ一日目だが、よろしく頼む」
「……」
ガリヴァンの自己紹介に応える形でサダウィンも名乗る。だが、突如として沈黙がその場を支配し、辺りが重い空気になる。だが、サダウィンはそれを歯牙にもかけず、いきなり相手が黙り込んだことを不思議がるような顔を浮かべているだけであった。
「フフフフフ。はぁーはっはっはっはっはっ! 俺の圧力を受けても何も感じていないとはな。坊主、サダウィンといったな。気に入った。冒険者のことで何かわからないことがあれば、俺を頼れ。俺の知っている限りを教えてやろう」
「はあ、どうも」
訳のわからないといったサダウィンの頭をぐしゃぐしゃとガリヴァンが撫でる。それと同時に、ガリヴァンの中でサダウィンという冒険者の名前が確実に記憶に刻まれることになったのは彼の態度から察するに余りある。
彼が放った重圧は、モンスターのランクで換算すればBランクに相当するものだ。並の駆け出し冒険者であれば、動くことはおろか失禁して気絶してもおかしくないほどの強力な威圧であった。その重圧をものともしない彼を只者ではないと感じ取るのは当然のことだ。
そして、そんな重圧を放てる彼であるからこそ、オーク三匹を倒したというサダウィンの言葉が真実であるということも理解できた。だが、万人に彼の言葉が真実であるということを知らしめるためには、物的証拠が必要なのもまた事実な訳で、さっそくサダウィンに仕留めたというオーク三匹を取り出してもらうことにする。
「こ、これは……」
「ほ、本当にオークが三匹。まさか、そんな」
(メリーの嬢ちゃんは気付いてねぇが、このオークの刎ねられた首。かなりの手練れがやったみてぇだな。これをサダウィンの坊主がやったとしたら……あの野郎にも坊主のことを話しておいた方がいいかもしんねぇな)
本当にオークの死骸が目の前に出てきたことに驚愕するメリーに対し、ガリヴァンはオークのやられ方に着目する。これが受付嬢と元冒険者の目線の違いによるものなのだが、そんなやり取りがあったことなど露とも知らず、二人がオークを確認するのを見守っている。
「サダウィンの坊主。これは坊主がやったのか?」
「そうだけど。仕留め方が悪かったか?」
「いや、そういうわけじゃねぇ。寧ろ、倒し方が綺麗すぎて驚いてるくれぇだ」
「と、とりあえず、サダウィン君がオークを倒したことについては了解しました。ガリヴァンさんはこのオークの解体をお願いします。それとサダウィン君にはランク昇級が認められますが、昇級しますか」
「ランク昇級?」
聞き慣れない言葉に、訝し気な表情を浮かべるサダウィンだったが、言葉の内容的に想像できる内容であったため、すぐに冒険者のランクが上がるということを理解した。
「冒険者にはランクがあるのは知ってるわね? 普通はいくつかの雑用に近い依頼をこなして一つずつランクを上げていくのだけど、単独でオークを複数体相手取れる冒険者をいつまでもJランクに留めておく意味はないから、ランク昇級をしてもらいたいのだけどいいかしら?」
「ああ、別に問題ない」
それから、オークの解体をガリヴァンに頼み、二人は受付に戻る。それを目聡く見つけたベティが、視線をサダウィンにちらちら向けながら受付業務をこなすという器用な芸当をこなしていたが、そのことに気付いたのはメリーだけだった。
「……あの子は本当に仕様がない子ね。あとで説教しなくちゃ」
「何か言ったか?」
「いいえ、なんでもないわ。では、これよりランク昇級の手続きに入らせていただきます」
そこからは、メリーの事務的な作業が続いたが、どっかの誰かさんとは違って淀みなく的確で素早い作業は、すぐに必要な手続きを完了させた。
「では、サダウィン君にはHランクの昇級が認められます」
「……いきなり二段階も昇級させて問題ないのか?」
「大丈夫よ。サダウィン君は、Hランクの昇級条件を十分に満たしているもの」
ちなみに、サダウィンが倒したオークのランクはGランクに分類されており、それを簡単に屠った彼ならば一気にGランクに昇級させても問題ないとメリーは考えていた。
だが、いきなり駆け出し冒険者が一気にランクを上げてしまうと悪目立ちしてしまうことと、特定の冒険者を贔屓にしているのではないかという他の冒険者のやっかみがあるということで、ひとまず二段階の昇級に留めたのだ。
「はい、これギルドカードね」
「まさか、初日からこんなことになるとはな……」
「ギルドの歴史から見ても、一日でランク昇級するなんてかなり珍しいわね」
冒険者になって短期間で昇級してしまう者は一定数の人数は存在するが、登録したその日にランク昇級を果たす者はほんの一握りの人間だけだ。それを大したことをしていない自分がその中に入ってもいいのだろうかと、何とも言えない複雑な思いを抱きながらも、今後の活動に必要なこととしてサダウィンは今回のランク昇級を受け入れたのだ。
手続きも完了し、元々受けていた薬草採集の依頼失敗の手続きも終わらせてしまおうということになったその時、突然サダウィンの後ろから声を掛けてきた者がいた。
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