25 / 47
第二十四話「実験」
しおりを挟む「さて、やってみようか」
迫りくるモンスターを目の前に、レイオールは不謹慎にもワクワクしていた。理由としては、今まで試すことができなかったことが試せるからである。
この数年の間、彼は毎日魔法の訓練に明け暮れ、城にいる騎士たちとの模擬戦に明け暮れ、自己を鍛錬することを怠らなかった。その結果として、その実力は現騎士団長のライラスよりも、そして宮廷魔導師長のザザックという老人よりも上と噂されてきた。
この上とされてきたというのは、実際にレイオールはこの二人と模擬戦を行うことを頑なに拒絶していたからである。なぜならば、仮に自分が模擬戦に勝利してしまえば騒ぎになるということと、二人の立場が無くなるという彼なりの優しさだったのだが、かえってそれが噂を増長する結果となってしまったことに加え、本人たちが“殿下には敵わない”と公言してしまったためにレインアーク王国最強はレイオールという噂が流れることになってしまったのだ。
そんな実力を持つと噂されているレイオールだが、実際のところ自分がどれだけの力を持っているのかは、彼自身もよく理解できていなかった。今まで本気で戦ったことがなく、全力を出す必要がない日々を送ってきたがために起こってしまった必然と言える。
だからこそ、今回のスタンピードは彼にとっては渡りに船のような出来事であり、初めて本気で力をぶつけることができる機会を与えられたために、実際のところ今のレイオールは某戦闘民族のようにワクワクとしていたのであった。
「『豪火よ。我が魔力を糧とし、顕現せよ。そして、すべてを焼き払え』 ……フレイムインフェルノ!!」
レイオールが詠唱を始めると、周囲の空気が一変する。それはモンスターたちも同様で、その威圧感に進軍が止まってしまうほどだ。体に内在する全魔力のうちの一割ほどを使用し、上級魔法の一つであるフレイムインフェルノを行使する。
火魔法の上級魔法の一つであり、その規模と威力は上級と言うだけあってかなりのものだ。そのあまりの威力の高さに、レイオールは今まで表立って使用することができなかった。それほどまでに、この魔法は危険であるということを示唆している。
彼の手から出現した炎と表現しても差し支えないほどの火の奔流が、モンスターたちに容赦なく襲い掛かる。全力を出していないというのにもかかわらず、超広範囲に渡って被害を及ぼす。
荒れ狂う火は周囲のモンスターたちを瞬く間に焼き払い、死骸の数を増やしていく。一度に千弱ほどのモンスターが犠牲となり、一人が生み出す戦果としては十二分と言えるほどの効果があった。
「うわー、マジヤバくねこれ」
「じょ、上級魔法……」
たった一つの魔法で起きた出来事に、いつもの口調からかけ離れた言葉遣いでレイオールが驚愕する。傍にいた魔法兵の一人がそのあまりの威力に呆然とする中、ガストンが口を開く。
「で、殿下。なんですか今のは?」
「火魔法の上級魔法フレイムインフェルノだ」
「上級魔法って……そんな戦略級の魔法を断りなしに簡単に使わないでくださいよ!!」
「そんなことを言ってる場合じゃないと思うんだけどな。とりあえず、次だ」
レイオールがもたらした魔法によってモンスターたちが恐慌状態に陥る中、更なる追い打ちとばかりに再び彼が詠唱を開始する。
「『水陣よ。我が魔力を糧とし、顕現せよ。そして、すべてを押し流せ』 ……ダイタルウェーブ!!」
詠唱を終え、彼が両手を前に突き出すと同時に巨大な水の壁が現れる。それが今だ混乱するモンスターたちに向かって津波のように押し寄せ、彼が唱えた呪文の通りすべてを押し流した。
三メートルを優に超える津波は、モンスターたちの進軍を止めるどころか遥か後方へと追いやり、それと同時に押し流した水の力によりその体力を確実に奪っていく。
レイオールが今回の魔法に込めた魔力は全体の二割ほどで、先の魔法よりもその効果が大きなものとなっており、それが結果として現れている。
水といってもその威力は侮れるものではなく、実際にダイタルウェーブによって百や二百のモンスターが物言わぬ死骸となっていることからも、この魔法が及ぼす被害は想像以上だ。
それでもまだ数千のモンスターが残っており、その大半が中級モンスターで占められている。低級モンスターが進化した上位種やもともとランクの高いモンスターがひしめいており、まともにぶつかれば王都を守る兵士たちでは少なくない被害が出てしまうのは必定である。
「凄いです殿下! やはりあの噂は本当だったのですね!!」
「噂?」
「今のレインアーク王国最強の戦士はレイオール殿下だという噂です」
「誰がそんなことを言ったんだ?」
「皆が噂しております。現に騎士団長であるライラス団長と宮廷魔術師のザザック様が「殿下には勝てない」と仰っていたと」
ダイタルウェーブの魔法によりモンスターの群れが後退したところで、レイラスがレイオールに称賛の言葉を送る。それと同時に、噂の真相を確かめられたことに対する満足感を得たような表情を浮かべていたが、レイオールにとってはあまり嬉しくない噂であった。
彼は確かに今まで自分自身の身を護る術を学んでいたが、何も最強を目指しているわけではない。だというのに、周囲では既に最強の存在として祀り上げられてしまっており、彼からすれば“どうしてこうなった状態”になっているのだ。
「それはあくまでもただ噂だ。それに、俺は最強の存在になるつもりはない。最強の戦士はお前の父ライラス。最強の魔導師はザザック。これは変わりはない」
「ですが――」
「そんなことよりも、次の魔法を放つから少し離れていてくれ。次の魔法はちょっと規模がデカくなるからな」
レイラスの反論を遮るように、レイオールは次の魔法の詠唱を開始する。その魔法に使用する魔力は四割を投入し、ここで一気に陣形を崩しにかかる腹積もりだ。
「『爆風よ。我が魔力を糧とし、顕現せよ。そして、すべてを切り刻め』 ……サイクロンテンペスト!!」
「こ、これは」
レイオールが呪文を唱えると同時に右手を天へと掲げる。それに呼応するように突如として空が陰り、鼠色の雲に覆われる。そこからすぐに強風が吹き荒れ、数十メートルという大きさの巨大竜巻が出現し、モンスターたちに牙を剥く。
竜巻に捕らわれた者の体は切り刻まれ、その四肢をバラバラに解体されてしまう。その威力は凄まじく、魔法の効果範囲外にいるはずの城壁までその風圧が届いてしまうほどだ。
込められている魔力の量もあってか、ほとんどのモンスターの体がバラバラになり、醜い肉塊へと姿を変える。その被害も尋常ではなく、レイオールの放った先のフレイムインフェルノやダイタルウェーブなど比ではないほどに甚大なものとなっている。その数は五千を下らないほどだ。
サイクロンテンペストの魔法効果が切れる頃には、まともに動けるモンスターは五百以下となっており、その種類も足の遅い低級モンスターたちだけとなっていた。
「やりましたよ殿下! 残っているモンスターは低級のモンスターばかりです」
「……いや、最後に親玉が残っているようだ。あれを見てみろ」
「……あ、あれは。ま、まさかジャイアントオーガ!?」
「最後にとんでもない奴が残っていたらしい」
そこに現れたのは、一つ目を持った巨人だった。その大きさは軽く六メートルを超えており、王都の城壁からでもその大きさが理解できるほどの巨体を持っている。
その表皮は岩よりも固く、ありとあらゆる物理的な攻撃を受け付けないほどの硬度を持ち、その巨体から繰り出される攻撃は人間程度であればたったの一撃でオーバーキルされるほどの威力を有している。
濁り切ったピンク色とも薄い茶色とも見て取れる肌色をしており、その凶悪な顔には理性よりも殺戮と破壊の意志を宿していた。
「グオオオオオオオオオ」
まだ数百メートル以上離れているというのに、その威嚇のような雄たけびは鼓膜を突き破らんとするほどに彼らの耳に届いた。
兵士たちがその姿に絶望する中、レイオールは体の状態を確かめながら一つ息を吐くと、驚愕しているレイラスとガストンに向けて言い放った。
「じゃあ、ちょっとあいつと戦ってくるから。そういうことで」
「えっ? ちょ、で、殿下!?」
「戦ってくるって、どういうことですか!?」
「こういうことだよ!!」
レイオールは狼狽えている二人を置き去りにするかのように、十数メートルはあろうかという高さから飛び降りた。地面に降りている最中二人の悲鳴のような叫び声が聞こえてきたが、今はそんなことを気にしている場合ではないため、彼らの言動を黙殺するかのように大地へと降り立つ。
「さて、魔法の実験はこれくらいにして。次は肉体的な実験に移ろうか」
こうして、ジャイアントオーガとの戦いの火蓋が切って落とされるのであった。
27
あなたにおすすめの小説
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる