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第十八話「社交界デビュー3」
しおりを挟む「ちょっと、一体どういうつもりかしら?」
レイオールがトイレに向かって廊下を歩いていると、そんな声が聞こえてきた。声質的に小さな女の子の声であることから、自分と同じ夜会の参加者なのはわかるが、その光景は少し異様だった。
そこにいたのは、四人のドレスに身を包んだ少女たちで、三人が一人の少女を囲んで罵倒している姿が目に映った。状況判断的に三人が一人をいじめているように見えるのだが、現時点ではそう見えるだけであるため、レイオールは成り行きを見届ける。
「あなたのような田舎出身の貧乏貴族が、王太子殿下とダンスを踊ろうなんて、身の程を弁えたらいかがかしら?」
「そうよそうよ」
「大体、このパーティーに出席すること自体おこがましいと思わないわけ?」
(なるほどな)
彼女たちの様子を見ていると、やはりと言うべきかレイオールが想像していた通りの状況だったようで、彼は内心でため息を吐く。どんな世界でもこういった人種はいるのかと呆れる一方で、レイオールの興味はそのいじめられているであろう一人の少女に向く。
「関係ないじゃないですかっ! 私だってこの国の貴族の一人として、このパーティーに参加する権利がありますわ!!」
「それこそ関係ないわよ。あなたという存在自体が貴族として相応しくないんだから」
「私のお父様は、この国に仕える立派な貴族です。そして、私はそんなお父様の娘なのです。誰が何と言おうと、それを否定することは許しません!!」
「ふんっ、あんまり調子に乗らないことね。私は子爵家でこの子たちは男爵家の令嬢なんだから。たかが騎士爵家の令嬢が、何を言ったところで結果は変わらないのよ」
絡んでくる令嬢たちに毅然とした態度で反論する彼女だったが、上級貴族と下級貴族の間に圧倒的な差があるのと同じく、下級貴族と準貴族の間にも差があることもまた事実なのだ。
だからこそ、こういった身分の差を盾に理不尽な言いがかりをつけてくる者も少なくなく、下の身分の者が苦しんでいるのが現状だ。
「何をしているの?」
「こ、これはレイオール殿下! いや、これはその……」
そんな彼女たちのやり取りにいい加減嫌気が差してきたため、レイオールは介入することにする。まさか王太子が現れるとは思っていなかったのだろう、その場にいた四人が驚きの表情を浮かべる。
先ほどのやり取りを聞いていたレイオールが、少し厳しい視線を三人に向けながら、彼女たちのやっていたことに言及する。
「三人で一人を寄ってたかってとはね。そういったことはあまり感心しないな」
「ち、違います! これは――」
「言い訳無用だよ。君たちが彼女を罵倒していたところは見ていた。言い逃れはできない」
三人のうちのリーダー格と思しき令嬢が言い訳をしようと口を開くが、それを遮るようにレイオールは言葉を重ねる。こういった上位の人間が下の身分の者に対して悪意ある態度を取るというのは、地球でもよくあったことだ。だからこそ、それを見て見ぬふりをするという行為をするべきではない。
レイオールの前世でも似たようなことはよくあったが、自分の立場上下手に介入すると余計に拗れる結果になることが多かった。そのため前世ではそういった行為を目の当たりにしても、表立っては行動を起こせずにいた。
だからこそ、前世で見て見ぬふりをしていたという引け目があるからこそ、今生では手を差し伸べたくなったのかもしれない。
「君たちは誇りある貴族だ。そんな人間が今のようなことをしていいと思っているのかい?」
「……」
「そういったことばかりやっていると、いつかその行いが自分に跳ね返ってくることだってある。少なくとも、こんなことをしている人間を僕は信用しない」
「うっ」
レイオールの指摘に、バツの悪そうな顔を彼女たちが浮かべる。自分自身でも後ろめたい行動だったという自覚があったという証拠である。
だが、いくら自覚があろうともやっていい理由にはならないし、自覚がある分余計に質が悪いことであるとさえ言える。
「一応聞くけど、君たちがやってることは良くないことだってわかってやってるんだよね?」
「そ、それは……」
「じゃあ、なんでこんなことをするんだい? 理由があるはずだよね」
「……」
リーダー格の彼女の態度を見て、レイオールはだんだんと彼女がこんな行動に出てしまったことに、何か理由があるのではという当たりを付けていた。それだけ、彼女の行いが不自然だったからだ。
「君」
「え、わ、私ですか?」
「彼女と君の関係を教えて欲しい。彼女は最初からこんな態度だったのかい?」
「いいえ、最初はとても仲が良かったです。他の二人も小さい頃からの知り合いでした」
リーダー格の令嬢からは詳しい話は聞けないと判断したレイオールは、いじめられていた令嬢から聞き出すことにした。彼女の話では、元々四人とも隣接する領地の貴族家ということもあって、小さな頃から知り合い仲良くなったらしい。
三歳の頃に知り合い二年が経過した時のことだ。それまで仲良くしていた四人だったが、突然一人の女の子が他人行儀な態度を取るようになったのである。
五歳になり自分と他の三人との身分の違いに気付いた彼女は、それ相応の態度を取ろうとしたのだろうとレイオールは推測する。そして、その女の子というのが今回いじめられていた令嬢であり、他の三人は元々彼女と仲が良かった相手ということになるのだ。
「なるほどね。彼女の言っていることは間違いない?」
「……はい」
彼女の説明を一通り聞いたレイオールは、確認のために他の三人に彼女の言っていることが本当のことかどうか問い掛けた。すると、諦めたかのように一つため息を吐くと、彼の問い掛けに頷く。
しばしの沈黙が流れ、レイオールの中で思考を巡らせた結果、再び彼女たちに向かって投げ掛けた。
「君は彼女のことが嫌いなのかい?」
「……」
「あれほどまでに辛辣な態度を取るということは、もう彼女のことを好きではなくな――」
「好きに決まってるじゃありませんか!!」
レイオールの問いを遮るようにリーダー格の令嬢が叫ぶ。本来王族の言葉を遮ることは不敬だが、今は彼女の本音を聞き出すことを優先するため、レイオールは押し黙った。
「リスタとは、小さい頃からずっと一緒に育ってきたのです。親が治める領地が隣同士とか関係なく、リスタもメリンもチルクも私の大切なお友達です」
「アルヒダ……」
リーダー格の令嬢の言葉にいじめられていた令嬢が彼女の名前を呟く。だが、現実的な問題がまだ解決できていないため、レイオールは心を鬼にしてリーダー格の令嬢アルヒダに現実を突き付けた。
「アルヒダ嬢。そんな大切な友人である彼女を、君は蔑んでいた。そのことについてどう釈明するつもりだい?」
「そ、それは」
「君がどんなに彼女のことを大切に思っていたとしても、君が彼女に行ってきたことが消えるわけじゃない。どうするんだい?」
レイオールの言葉に一瞬戸惑いを見せたアルヒダだったが、すぐに決意に満ちた表情を浮かべ、力強く答えた。
「私の一生を懸けて償いたいと思います」
「そうか。リスタ嬢はそれについてどう考える?」
「元はと言えば、私がアルヒダたちを遠ざけたことが原因です。償うというのなら、私が償います」
「ちょっと待ちなさいリスタ。あなたは何も悪くないわ。悪いのは私」
「いいえそれは違うわアルヒダ。あなたがそんな態度を取る原因を作ったのは私なんだから悪いのは私よ」
というような具合に、お互いのわだかまりはなくなったのだが、今回の一件の責任が誰にあるのかという件についてすべての非は自分にあるということをアルヒダとリスタが主張し始めた。二人の友人であるメリンもチルクもどうしていいのかわからず、ただただ戸惑っているだけである。
「二人ともそこまでだ。今回の一件、どちらに非があるのかは、王太子の僕が決めてあげる」
「「お願いします」」
これ以上は収拾がつかないと思ったレイオールは、彼女たちを仲裁する。そして、今回の件について非があるのはどちらなのか第三者の立場で判定することにした。
「まずはアルヒダ嬢だが、自身で大切だと公言しているにもかかわらず、大切な友人に非道な行為を繰り返したことは許されない行為だ」
「……はい」
「次にリスタ嬢は今回のアルヒダ嬢の非道な行いの被害者ではあるものの、自身の手によってそのきっかけを作ってしまったと考えている。それについては間違いないね?」
「その通りです」
まずは二人の行った行為についての言及をすることで、お互いに悪かった点を具体的に提示する。こうすることで、何がいけなかったのかを第三者の人間でも理解できるよう明確にすることができるのだ。
そして、何よりもレイオール自身が、改めて二人の行いのうちどちらに非があるのかを再確認する意味もあり、それにより彼の中で一つの答えが導き出された。
「よって二人のうちどちらに非があるのか……それは――」
「アルヒダお嬢様、こちらにいらっしゃったのですね。さあ、すぐにダンスが再開してしまいます。私と一緒に参りましょう!」
「ちょ、ちょっと。ちょっと待ちなさい! まだ殿下のお言葉が――」
「殿下なら、もうすでにご令嬢たちのダンスのお相手をするため待っておられるはずです。さあ、行きましょう!!」
「そうじゃなくって、話を聞きなさーい!!」
「……」
いろいろと考えた末に出た答えをレイオールが発表しようとしたその時、彼の言葉を遮るように侍女が割って入ってきた。どうやらアルヒダの侍女らしく、彼女を見つけた侍女はすぐさまアルヒダの手を取り、そのまま連れて行ってしまった。
他の三人も何とか彼女に事情を説明しようとするも、王城での夜会という大舞台とあってか周りが見えておらず、そのままレイオール一人がその場に取り残される結果となった。
「……まあいいか。そうだ。トイレに行くんだったな」
その場には誰もいないというのに、一人ぽつりとそんなことを呟く。それが先ほどの一件を忘れるためのものなのか、はたまた恥ずかしさをごまかすためなのかのどちらなのかは本人以外は知る術をもたなかったのであった。
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