王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号

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第十四話「トライ、家庭教師」

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「父さま、ちょっといいですか?」

「おおレイオールじゃないか。どうした?」


 普段ガゼルが執務仕事をしている部屋へと赴いたレイオールは、さっそく彼に用向きを伝えた。執務室に入る際、入り口を警護していた騎士がガゼルの確認もなしに部屋に入れようとしたのにはさすがに戸惑ったが、今はそんなことはどうでもいいとばかりに自分の用事に意識を向けた。


「僕も五歳になったので、いろいろなことを勉強するために家庭教師をつけて欲しいのです」

「ほほう、お前も五歳になったか……そうかそうか」


 レイオールの言葉に感慨深い顔を浮かべながら、ガゼルが鷹揚に頷く。自分の息子が立派に成長していることを誇らしく思うと同時に、父親としてしてやれることが減っていることに寂しさを抱いているのかもしれない。それが証拠に――。


「俺はお前の父親だからなっ! まだ子離れは早いからなっ!!」

「あの、父さま。ちょっと言っている意味がわかりません」


 彼の頭の中でどんな妄想が繰り広げられたのかは皆目見当がつかないが、少なくともあまりいい妄想でないということは彼の言動で何となく理解できる。それを指摘すると、堰を切ったようにガゼルの妄想に対する見解の講義を何時間でも聞かされる羽目になると判断したため、レイオールは曖昧な返答をするに留めた。


 とにかく、今は新たな知識を手に入れるための手段として家庭教師を導入することが肝要だ。ガゼルの妄言を華麗にスルーしたレイオールは、家庭教師について話し始める。


「必要なのは一般知識と剣術。あとは魔法ですね」

「わかった。一流の家庭教師を用意してやるから期待していなさい」

「いや、普通の家庭教師で十分です」

「いいや、お前の家庭教師なのだ。国で一番の実力者でなければ!」

「……」


 まるで“それくらいなければうちのレイオールとは釣り合わない”と言われているような気がして、この親は自分の息子を神か何かと勘違いしているのではないのかとレイオールは呆れてしまう。


 レイオールとしても、教えてくれる相手の能力は高いに越したことはないため、ガゼルの提案を跳ね除けることはしなかった。だが、それが良くなかったと後になってレイオールは後悔することになる。


 当然のことといえば当然なのだが、レイオールに関連することは母親のサンドラにも逐一報告が行くようになっているようで、家庭教師をつけるという情報を聞きつけた彼女もレイオールの家庭教師選びに参戦することになった。そこまでは通常運転でレイオールとしても良かったのだが、問題はその家庭教師がなかなか決まらなかったということだろう。


 いくつかの候補が挙がったのだが、専属護衛の時と同じように何かにつけていちゃもんを付け、結局レイオールの家庭教師が決まったのは、彼がガゼルに進言してから半年後のことであった。




 ☆ ☆ ☆




「お初にお目にかかります。今日から殿下の家庭教師をさせていただくマイルズ・ケトラーと申します」

「よろしくお願いします」


 そんなこんなで、半年というレイオールとって不毛な、彼の両親にとって有意義な期間が経過し、ようやく家庭教師がつくことになった。親バカな彼の両親が長い期間選びに選び抜いたということもあってか、マイルズと名乗った人物はとても知性に溢れる雰囲気を持っている。


 年の頃は三十代前半の男性で、すらりとした体形に女性受けする整った顔立ちをしており、その見た目だけで高貴な家の出であることは明白だ。


「ケトラー先生は……」

「殿下。私のことはマイルズと呼び捨ててください。私はただの一介の家庭教師に過ぎないのですから」

「それはできません。これから物を教わろうとしている相手に対し、そのような礼を失するような真似はできません。そうですね。これからはマイルズ先生と呼ぶことにしましょう」

「おお。なんという広い度量の持ち主でございましょう。このマイルズ、誠心誠意あなた様の家庭教師を務めさせていただきます!!」

(なんか、雰囲気がちょっとヤバめなんだけど……)


 レイオールとしては当然のことを言ったまでなのだが、彼の言葉でマイルズの琴線に触れたらしく、その目が些か不穏なものへと変貌していくのがわかった。具体的には、王家に忠誠を誓う狂信者のそれであり、その目は如実に物語っていた。“あなた様のためなら、この命も差し出します”と。


 のっけから不安になる出来事があったものの、国王と王妃が直接選定しただけあって、彼の教え方はわかりやすく家庭教師としての能力はかなり高いことが窺えた。


 しかしながら、ここでマイルズが予想だにしなかったことが起きてしまうのである。それは、レイオールが彼の予想の範疇を超えて優秀だったということだ。


 マイルズは家庭教師としては一流だが、教えている生徒は身分の高い王族や貴族だけではなく、一時は庶民が通う学校などでも教鞭を取ったことがある。


 彼の思惑としては、最初は文字の読み方や書き方から始めようとしたのだが、レイオールにとってはそのレベルの教養は既に習得済みであり、彼個人としてはさらに上のレベルの教育を望んでいた。


(ま、まさかこれほどまでとは……さすがは神童王子と呼ばれるだけのことはある)


 元々彼のレイオールに対する有能さは高いと踏んでいたのだが、そのレベルの段階を二段も三段も引き上げる事態になることになるとは思っておらず、内心で驚愕していた。


 それと同時にこれほどまでに優秀な生徒を持った経験がマイルズにはなく、どの段階までレベルを引き上げていいのか困り果ててもいた。


「で、ではレインアーク王国の歴史についてはいかがでしょうか?」

「はい、そこからお願いします」


 レインアークの歴史については、書庫にある書物である程度は知っているが、人伝から聞いた方がわかりやすいということと書物の内容との相違点も確かめられるということから、手始めにレイオールはそこから教えてもらうことにした。



 ☆ ☆ ☆



「という経緯から、レインアーク王国とフレイマル帝国は互いに敵対することになるのです」

「なるほど」

(えぇー! 今のも理解できたというのか!?)


 しばらくレインアークの歴史の授業が続く中、マイルズは内心で困惑していた。というのも、今彼がレイオールに教えている歴史は、本来十歳から始める授業内容なのだ。


 通常の王族であれば五歳から文字の読み書きを習い始め、個人差があれど大体だが二年ほどで読み書きを覚える。それと並行して数字の計算や礼儀作法など、王族として必要な教養をある程度の時間を掛けて学んでいくことになる。


 だというのに、まだ五歳のレイオールは既に文字の読み書きはおろか、数字の計算も完璧にこなし、礼儀作法自体もマイルズが一言二言助言するだけですぐに覚えてしまった。


 教える人間の立場としては、生徒が優秀であるに越したことはないが、すでに教えることが限られているというのも困りものなのである。


(私の見立てでは、十年ほどは殿下の家庭教師としてやっていける算段だったが、このままでは五年と持たずにお役御免になってしまう)


 マイルズの思惑は決してお門違いなどではなく、通常であればそれくらいの期間は家庭教師として雇うことが必要になってくるのだ。そう、通常であればの話だが……。


「マイルズ先生」

「な、なんでしょう」

「僕の悪巧みに協力する気はありませんか?」

「悪巧み……ですか?」


 当然、レイオールがマイルズの置かれている立場を理解できないわけもなく、このままでは五年と持たずに彼が路頭に迷うことは把握していた。


 だからこそ、そんな不安定な立場の彼だからこそ、レイオールは彼に対して自らの計画の一部をに参加させようと試みたのだ。


「まだ話せないことは多いのですが、このままではマイルズ先生が僕の家庭教師としてやっていける期間はおそらく五年……いや、もって四年でしょう」

「そ、それは……」

「そこで僕からマイルズ先生に頼みたいことがあるのです」

「頼みとはなんでしょうか?」


 マイルズは、藁にも縋る思いでレイオールの頼みの内容を聞いてくる。それだけ、今の自分の置かれた立場が危ういことを理解しているということだろう。


 レイオールは内心で彼を取り込めそうだということに口端を吊り上げながらも、それを表に出さずに彼に提案する。


「僕に弟がいることは当然知っていますよね?」

「は、はい。マーク第二王子殿下ですよね」

「実は、僕の頼みというのは、そのマークについてです」


 レイオールは、自分が国王になりたくないという真意を隠しつつも、弟マークを優秀な王族にしたいという名目で彼にも教育を施してほしい旨を伝えた。


「王太子の僕としても、いずれこの国を背負っていかなければなりません。そんな時、優秀な弟がいてくれればどれだけ心強いことでしょうか。今日のマイルズ先生の授業を見て思いました。あなたの教え方はわかりやすく、生徒の能力に合わせた教え方ができる人だと。そんなあなただからこそ、将来僕の片腕となってくれるマークの指導を任せたいのです!」

「殿下……私をそこまで評価してくださるなんて。このマイルズ、感服いたしました!!」


 マイルズが涙を流しながら平伏する様子を見て、レイオールは自身の作戦が上手くいったことを確信する。彼を騙していることについては罪悪感が否めないが、自分の身代わりを立てるためにも手段を選んではいられないのである。


 こうして、家庭教師との顔合わせは予想以上の成果を生み出し、彼の計画は確実に進行していくのであった。
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