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31話
しおりを挟むログインするといつものマイエリアではなく、MOAOにログインして最初にやってきたあの白い空間だった。
ということはそこには当然あのナビゲーターがいるわけで……。
「スケゾー様、お久しぶりでございます。本日新しく追加されたアップデートがあるのですが、その説明をさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない」
「ありがとうございます。さっそくですが、ご説明に入らせていただきます」
そう言ってナビゲーターがアップデートの内容を淡々と説明してくれた。主なアップデートの内容は三つあるらしく、箇条書きにすると以下のようになる。
1、サーバー調整が完了し、ログインできる時間が二十四時間いつでも可能になった。
2、素材ダンジョンと魔物ダンジョンの追加。
3、プレイヤーが出品したもの以外の新アイテムの追加。
順を追って説明すると、まず一つ目は説明するまでもないがログイン可能な時間帯に制限を設けられていたが、その制限がなくなり二十四時間いつでもログインが可能となったということらしい。
なんでも、当初の予定としては数日という時間を掛けてサーバーを調整してから改めて二十四時間ログインが可能になるよう持っていきたかったらしいのだが、ユーザーからかなりの苦情メールや問い合わせが殺到したため、急遽予定を前倒しにしてサーバー調整を行ったということだそうだ。
次に二つのダンジョンについてだが、これは生産職と戦闘職のそれぞれの専用ダンジョンという位置付けとなっており、素材ダンジョンが生産職専用で魔物ダンジョンが戦闘職専用となっている。
各ダンジョンの特性としては、素材ダンジョンはMOBの出現確率が極端に低くなっている代わりに、各エリア毎に罠やギミックが設置されている。一方魔物ダンジョンは、その名の通りMOBの出現率が素材ダンジョンよりも高いが、罠などはほとんどないということらしい。
生産職のプレイヤーは素材ダンジョンで素材を入手し、戦闘職のプレイヤーは魔物ダンジョンで倒したMOBのドロップアイテムを獲得できるといった仕様となっている。
最後の新アイテムについては詳細までは教えてくれなかったが、そこはあとで確認すればいいと考え深くは追及しなかった。
「以上が今回のアップデート内容になります。何かご質問はございますでしょうか?」
「サーバー調整の時間がかなり早いようだが、どうやったんだ?」
「詳しくは伝えられておりませんが、どうやら徹夜でサーバー調整を行っていたと聞いております」
「おお、それは災難だったようだな」
「ええ、なんでも元々メールの受付は二十四時間行っていたので、徹夜でサーバー調整するということが決定してからもひっきりなしに苦情メールが寄せられていたそうです」
「うわあ、俺だったらメール受付を拒否したいところだな」
「実際開発部でそうしようとしてた人がいたらしいですけど、さすがに止められたみたいですね」
「誰だそんな子供みたいな真似をするのは?」
『……俺だ』
どこからともなく響いてきた声に驚いていると、何もない場所にウインドウが表示されそこに見覚えのある人物が映し出される。
「……早乙女部長」
『七五三君、俺のことは主任と呼んでくれたまえ』
「開発部にも主任さんはいるんですよね? その人はどうするんですか」
『そいつは名前で呼ばれているから何の問題もない。そんなことよりも、君に伝え忘れたことがいくつかあったので、悪いが割り込ませてもらった』
「はあ」
いろいろと思うところはあったが、彼の用件の方が気になったので、そのことについて聞くことにした。
「それで、伝え忘れたことというのは?」
『ああ、それなんだが先ほど君もナビゲーターから聞いた通り、新しく追加されたものの中に素材ダンジョンがあるのは聞いたと思うが、君にはできるだけ早くこのダンジョンを利用してもらいたいのだよ』
「理由を聞いても?」
『なに、それほど大したことではないんだが、実はこのダンジョン突貫工事で作成したため抜け穴がある可能性があるのだよ』
「それってマズくないですか!?」
『マズい、非常にマズい。だからこそ君にダンジョンに向かってもらいバグなどの不具合がないか確かめて欲しいのだよ』
「どうしてそんなことに?」
『さっきもナビゲーターから聞いただろ? ユーザーがログイン可能時間を二十四時間にしろっていうクレームが殺到したからそれに対応するため我々開発部が徹夜することになってしまったんだよ』
「その対応に追われていたからダンジョン作成に割ける時間がなかったと?」
『察しが良くて助かる』
なら次のアップデートでもよかったのではないかという疑問が浮かんだが、そこはいろいろと事情というものがあるのだと判断し、口から出かかった言葉を飲み込んだ。
『もう一つが君に確認が取れていなかったんだが、君がMOAOでプレイした内容はすべてこちらで見させてもらっている。だから、君がプレイした内容が我々会社の人間に筒抜けになってしまうことを了承して欲しいということだ』
「それについては契約書の内容にもありましたし、こちらとしてはそういう認識でしたので問題ありません」
『そう言ってくれると助かる。君のプレイは些か特殊な面があるからな、貴重なサンプルだ』
俺の返事に満足したように頷くと「話はこれだけだ、ではゲームを楽しんでくれたまえ」とだけ言って早乙女主任の顔を映したウインドウが消えた。
いきなりのことで驚きはしたもののとりあえず彼の指示されたことを実行するべく、ナビゲーターにゲームに戻りたい旨を伝えようやくマイエリアへと戻ってくることができたのであった。
いろいろとイレギュラーな出来事が起こってしまったが、ようやくマイエリアに戻ってくることができた安堵感から思わずため息が出てしまう。
しかし、イレギュラーというのは続けて起こりやすいというのが相場であり、それは俺も例外ではない。
――ゴゴゴゴゴゴゴ――
マイエリアに戻ってくると、いきなり轟音が響き渡った。音の正体がなんなのか周囲を見渡しているとその原因がわかった。正確に言えばその原因がこちらに近づいてきていたのだ。
「ごーーしゅーーじーーんんんんんん!!」
「……」
俺の目に飛び込んできたのは、こちらに向かって猛ダッシュで向かってくるドロンの姿だった。生意気にも陸上選手が走る時の無駄に綺麗なフォームでこちらに向かって走り込んできているのだ。
ここでちょっとした質問を投げ掛けたいのだが、ハニワの姿をした物体が全速力でこちらに向かってきた場合、どういう対応をするだろうか? おそらく答えは二択だろう。
「ご主人!!」
「ひらり」
「なっ!? ぶべらべぼっ」
一つがこちらも全速力で逃走するというもので、もう一つがぎりぎりのところで躱すという選択だ。そして、今回俺は躱すという選択を選んだわけだが、その効果はテキメンだった。ちょうど俺が入ってきた場所がマイエリアの入り口部分だったということもあり、それ以上後ろには下がることができず進入禁止の見えない壁が張られていた。
そこに俺に向かって突進してくるドロンを回避したことで、その推進力が衰えることなくそのままの勢いで壁に激突してしまったのだ。
「……な、なんで避けるニワ」
「当たり前だ。本当なら避けたところにカウンターで右ストレートをお見舞いしてやりたかったが、我慢してやったんだ。感謝しろ」
「そ、そんなぁー」
壁に寄り掛かりながら情けない声を上げているドロンは無視して、一旦工房の方に足を向けた。工房に入りひとまず現在の状況を確認していると、所持アイテムの量が増えていることに気付いた。どうやら俺がいない間に素材を集めていたらしく、かなりの量があった。
「……」
「ご、ご主人! 置いていくなんて酷いニワ」
「……」
どうやら復活したらしいドロンが俺の後を追ってきたらしく、俺に向かって抗議の声を上げていたが、俺がドロンの頭に手を置いたら急に黙った。
「……ご、ご主人。どど、どうしたニワ」
「どうやら、俺がいない間に真面目に素材を集めていたようだな。偉いぞ」
「へ、へへへへへ」
俺に褒められたことが嬉しかったのか、気持ちの悪い声を上げながらもじもじと身をよじらせる。一瞬ぶん殴ってやろうかと思ったが、真面目に仕事をした人間にする行為ではないと思い留まった。
……なに、いつもと対応が違うって? まったく、俺を一体何だと思っているんだ。俺が今までドロンに対して辛く当たっていたのは、奴が真面目に仕事をしなかったからに他ならない。俺は鬼ではないのだ。しっかりと結果を出した人間を褒めるだけの度量は持ち合わせているし、真面目に仕事をした人間に鞭を打つような趣味や嗜好は持っていない。
(だが、あまり調子に乗らせるのも今後のためにはよくないだろうから、きっちり釘を刺しておくか)
そう判断した俺はドロンに「この調子でサボらずにちゃんと仕事するんだぞ?」と注意したのだが、俺に褒められたことに浮かれていたドロンが俺の話に耳を傾けていなかったため、結局アイアンクローで目を覚まさせてやった。地に伏したドロンから「結局こうなるんだニワ……」と言っていたが、そんなこと俺の知ったことではない。褒められたことに浮かれて話を聞かない方が悪い。
いろいろあったが、諸々の確認が終わったので早乙女主任から受けた依頼を達成するべく、俺はマイエリアから生産ギルドへと向かった。
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