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18話 ミコト編⑤
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「んー」
口を引き結び、どこか遠くを見つめるような顔をしながら“んー”という擬音を放つ女性がいる……私だ。
まあ、その、なんだ、あれだ……死に戻りました。てへぺろっ。
何があったのかありのまま、さっき起こったことを話せばこうなる。
1、調子が出てきたので、このまま街に戻らず次のエリアに進撃する。
2、夕方から夜になり、視界が闇に包まれる。
3、襲ってきたMOBの影も形も見えず、何が攻撃してきているのかわからないままボコボコにやられてしまう。
4、初めての死に戻りを経験し、死に戻ったという事実から逃れるのと、さっきまで調子に乗っていた自分の姿を想像して呆れと後悔に打ちひしがれる。
5、そして、この顔である。
「やかましい!」
誰にともなくツッコミを入れ、一人漫才を展開している私を周囲のプレイヤーが怪訝な表情で見てくる。中には「おい、あれって“突撃屋”だよな?」とか「どうやら死に戻ったみたいだな」という声が聞こえてくるが、そんなことはどうでもいい。
今考えたらこんなことをしている場合ではない。次の行動に生かすべく、この経験を糧にしなければ。
「ええと、死に戻りに対するペナルティは……と」
そう呟きながら、このゲームでの死に戻りでどんなペナルティがあるのか確認する。
デスペナルティ、略してデスペナと呼ばれるそれは、主に戦闘行為の最中にHPが0になり戦闘不能状態から一定時間復帰できなかった場合、定められた復活地点に戻されるのと同時に死亡してしまったことに対する罰として、何かしらのペナルティを課せられるシステムのことである。
基本的にRPG系のゲームにおいて、ゲームプレイ中に死亡するということ自体イレギュラーな出来事であるため、死亡=ペナルティという方程式が成り立つほどにほとんどのゲームでデスペナは導入されている。
ペナルティについての具体的な内容は、所持金が減ったりアイテムが消失したりという軽いものから、一定時間ステータスが何割か減少するなどのペナルティも存在し、比較的重い内容としては今まで手に入れてきた経験値を失いレベルが下がってしまうことによる弱体化や、死亡時に装備していた装備品が消失してしまうなどその内容は多種多様だ。
「うーん、死に戻ったことで特に変わったことはなさそうね」
今の自分の状態をくまなくチェックしてみたが、死に戻る前と後とでこれといった変化は見られない。これは勝手な推測だが、配信されてまだそれほど時間が経過していないことを見ても、新たな新規ユーザーを取り込むべくそういったペナルティ関連の規制を緩くしている期間なのではないかと考えた。
最近のゲームの傾向として、難易度が高く攻略するのに時間が掛かるものよりも、多少難易度を落として攻略できる時間も短めに作られているゲームが主流になってきている。MOAOもおそらくその系統のゲームなのだろう。
「デスペナがないのはいいけど、一部のヘビーユーザーからは“ヌルゲー”呼ばわりされるのが目に見えてるわね。特にあの死にたがりは、うるさそうだわ」
死に戻りに対しての考え方は、各プレイヤー毎に価値観の違いがあるが、私はこれといって思う所はない。死に戻りに対して執念とも言うべき強い思い入れのあるとあるプレイヤーの顔を思い浮かべながら、その怨嗟の声を聞かされる羽目になる運営に向かって、私は心の中で静かに両手を合わせた。
デスペナに関しての考察はこれくらいとし、私は次の行動に移ることにした。何かといえば、やはりここは再挑戦……即ちリベンジである。
しかしながら、暗闇での襲撃とはいえ何も抵抗することなくやられてしまったという一点を鑑みるに、おそらく今の私が目の見える明るい時間帯に突撃をしたところで、良くてぎりぎり勝てるという状況だという結論に至った。
「とりあえず、手に入れた素材を売りに行こうかな。いや、ゲーム的には夜だしクールダウンのためにも一旦ログアウトしておこう」
早くリベンジに行きたい気持ちもなくはないが、焦ったところでいい結果がでる保証もないため、ここは一度ログアウトして明るくなってから出直すことにした。
現実に戻り腹に何か入れておきたかったので、軽い食事を取りベッドに寝ているだけとはいえなんだか少し体が湿っぽい感じがしたため、軽くシャワーを浴びてから再びログインする。……言っておくが、オネショじゃないからね?
再びゲームの世界へと舞い戻った私は、シャワーを浴びたあとネットでMOAOのことを少し調べてみたり、公式の掲示板などを見たりして情報収集を行っていた。その過程でとある噂が掲示板を賑わせていた。
なんでも他の生産職のプレイヤーが作り出すものよりも遥かに高性能な装備が出回っているのだが、その出所が不明瞭でわかっていることといえば、製作者の名が【スケゾー】というプレイヤーであるということだけらしい。
「そういえば、ショップに売る相手を指定できる機能があったっけ。噂の真相を確かめてみたいし、物は試しに出してみようかな」
そう言うが早いか、前回死に戻るまでに手に入れたドロップアイテムをショップのプレイヤーを指定して取引する機能を使い【スケゾー】に売ってみることにした。
このMOAOでは売ったアイテムなどを他の誰かが購入する場合、売値の十倍という法則がある。スケゾーに出した時のアイテムの売却額が3510マニーだったので、これらのアイテムを全て買うには35100マニーが必要になってくる。
何とも恐ろしい話ではあるが、生産職とは生産で戦闘職はMOBのドロップアイテムで資金を稼ぎことができるので、その調整も兼ねた仕様なのだろう。
前回のこともあり、しばらくショップでさらにいい装備はないかと見て回っていると、インフォメーションにメッセージが表示される。
《プレイヤー【スケゾー】から、あなたに対しサジェスト商品が提示されました》
口を引き結び、どこか遠くを見つめるような顔をしながら“んー”という擬音を放つ女性がいる……私だ。
まあ、その、なんだ、あれだ……死に戻りました。てへぺろっ。
何があったのかありのまま、さっき起こったことを話せばこうなる。
1、調子が出てきたので、このまま街に戻らず次のエリアに進撃する。
2、夕方から夜になり、視界が闇に包まれる。
3、襲ってきたMOBの影も形も見えず、何が攻撃してきているのかわからないままボコボコにやられてしまう。
4、初めての死に戻りを経験し、死に戻ったという事実から逃れるのと、さっきまで調子に乗っていた自分の姿を想像して呆れと後悔に打ちひしがれる。
5、そして、この顔である。
「やかましい!」
誰にともなくツッコミを入れ、一人漫才を展開している私を周囲のプレイヤーが怪訝な表情で見てくる。中には「おい、あれって“突撃屋”だよな?」とか「どうやら死に戻ったみたいだな」という声が聞こえてくるが、そんなことはどうでもいい。
今考えたらこんなことをしている場合ではない。次の行動に生かすべく、この経験を糧にしなければ。
「ええと、死に戻りに対するペナルティは……と」
そう呟きながら、このゲームでの死に戻りでどんなペナルティがあるのか確認する。
デスペナルティ、略してデスペナと呼ばれるそれは、主に戦闘行為の最中にHPが0になり戦闘不能状態から一定時間復帰できなかった場合、定められた復活地点に戻されるのと同時に死亡してしまったことに対する罰として、何かしらのペナルティを課せられるシステムのことである。
基本的にRPG系のゲームにおいて、ゲームプレイ中に死亡するということ自体イレギュラーな出来事であるため、死亡=ペナルティという方程式が成り立つほどにほとんどのゲームでデスペナは導入されている。
ペナルティについての具体的な内容は、所持金が減ったりアイテムが消失したりという軽いものから、一定時間ステータスが何割か減少するなどのペナルティも存在し、比較的重い内容としては今まで手に入れてきた経験値を失いレベルが下がってしまうことによる弱体化や、死亡時に装備していた装備品が消失してしまうなどその内容は多種多様だ。
「うーん、死に戻ったことで特に変わったことはなさそうね」
今の自分の状態をくまなくチェックしてみたが、死に戻る前と後とでこれといった変化は見られない。これは勝手な推測だが、配信されてまだそれほど時間が経過していないことを見ても、新たな新規ユーザーを取り込むべくそういったペナルティ関連の規制を緩くしている期間なのではないかと考えた。
最近のゲームの傾向として、難易度が高く攻略するのに時間が掛かるものよりも、多少難易度を落として攻略できる時間も短めに作られているゲームが主流になってきている。MOAOもおそらくその系統のゲームなのだろう。
「デスペナがないのはいいけど、一部のヘビーユーザーからは“ヌルゲー”呼ばわりされるのが目に見えてるわね。特にあの死にたがりは、うるさそうだわ」
死に戻りに対しての考え方は、各プレイヤー毎に価値観の違いがあるが、私はこれといって思う所はない。死に戻りに対して執念とも言うべき強い思い入れのあるとあるプレイヤーの顔を思い浮かべながら、その怨嗟の声を聞かされる羽目になる運営に向かって、私は心の中で静かに両手を合わせた。
デスペナに関しての考察はこれくらいとし、私は次の行動に移ることにした。何かといえば、やはりここは再挑戦……即ちリベンジである。
しかしながら、暗闇での襲撃とはいえ何も抵抗することなくやられてしまったという一点を鑑みるに、おそらく今の私が目の見える明るい時間帯に突撃をしたところで、良くてぎりぎり勝てるという状況だという結論に至った。
「とりあえず、手に入れた素材を売りに行こうかな。いや、ゲーム的には夜だしクールダウンのためにも一旦ログアウトしておこう」
早くリベンジに行きたい気持ちもなくはないが、焦ったところでいい結果がでる保証もないため、ここは一度ログアウトして明るくなってから出直すことにした。
現実に戻り腹に何か入れておきたかったので、軽い食事を取りベッドに寝ているだけとはいえなんだか少し体が湿っぽい感じがしたため、軽くシャワーを浴びてから再びログインする。……言っておくが、オネショじゃないからね?
再びゲームの世界へと舞い戻った私は、シャワーを浴びたあとネットでMOAOのことを少し調べてみたり、公式の掲示板などを見たりして情報収集を行っていた。その過程でとある噂が掲示板を賑わせていた。
なんでも他の生産職のプレイヤーが作り出すものよりも遥かに高性能な装備が出回っているのだが、その出所が不明瞭でわかっていることといえば、製作者の名が【スケゾー】というプレイヤーであるということだけらしい。
「そういえば、ショップに売る相手を指定できる機能があったっけ。噂の真相を確かめてみたいし、物は試しに出してみようかな」
そう言うが早いか、前回死に戻るまでに手に入れたドロップアイテムをショップのプレイヤーを指定して取引する機能を使い【スケゾー】に売ってみることにした。
このMOAOでは売ったアイテムなどを他の誰かが購入する場合、売値の十倍という法則がある。スケゾーに出した時のアイテムの売却額が3510マニーだったので、これらのアイテムを全て買うには35100マニーが必要になってくる。
何とも恐ろしい話ではあるが、生産職とは生産で戦闘職はMOBのドロップアイテムで資金を稼ぎことができるので、その調整も兼ねた仕様なのだろう。
前回のこともあり、しばらくショップでさらにいい装備はないかと見て回っていると、インフォメーションにメッセージが表示される。
《プレイヤー【スケゾー】から、あなたに対しサジェスト商品が提示されました》
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