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16話 ミコト編③
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16話 ミコト編③
「はあ、はあ、はあ、はあ」
私は肩で息をしながら、立っているのもやっとといった状態の体を休ませるべくその場にへたり込む。一体何があったのかといえば、激しい“行為”が行われたとしか言いようがないが、これだけは言っておく。下ネタじゃないからね?
詳しい戦闘内容といえば、とにかくスライムエリートの攻撃を躱し、こちらの攻撃を当て続けるというヒット&アウェイ戦法で押し切った感じだ。
言葉で説明するとなんだかスマートな勝ち方に聞こえるだろうが、実際その戦い方を見た人が抱く感想はおそらく「見苦しい」の一言だっただろう。
通常のスライムよりも高いステータスから繰り出される突進攻撃や、トリッキーな動きを見せる奴らに攻撃を当てなければならないという作業を一人でやらなければならなかった。
奴らの集中砲火を浴び、一時体力がレッドゾーンに突入してしまい、慌てて回復アイテムを使いまくったり、脇目も振らず奴らから距離を取ろうと逃げる場面も何度かあった。
そんな見苦……もとい苦しい戦いを耐え抜き、私は勝利を手にすることができたのだ。
勝利の余韻に浸っていたその時、戦闘リザルトとインフォメーションが次々に表示される。
《強MOB【スライムアーミー】を倒した。スライムの核を1個、スライムゼリーを15個、スライムの体液を10個を入手しました》
《【スライムアーミー】を撃破したことで、チュートリアルが終了します》
《【初級剣術】がLv5になりました。【スラッシュ】を覚えた。【初級鑑定】がLv5になりました。【鑑定精度上昇Ⅰ】を覚えた》
まず最初に着眼すべきはアイテムで、スライム系のアイテムがたくさん入手できたことだ。どうやらスライムの核はレアドロップのようで、今回の入手分を入れても二個しか入手できていない。
次に強MOB撃破によるチュートリアル終了のお知らせについてだが、これについては多少疑問に残る部分もなくはない。内容については少々難易度が高すぎる印象があったからだ。
だが、今になって考えればこのチュートリアルはパーティ推奨のチュートリアルだったのかもしれない。こういったRPG系のゲームは基本パーティを組むことが多いしね。
……言っておくが、私はぼっちじゃないぞ? これでも友達は多い方だ。比率的に女子よりも男子の友達が多いのが多少気になってはいるがな……。
最後に待望のアーツを覚えた。詳しい説明によると、アーツとは各スキルのレベル上昇によって覚えられる技のようなもので、アクティブアーツとパッシブアーツの二種類が存在する。
アクティブアーツは、プレイヤーの任意のタイミングで発動することができる系統のアーツで、それとは反対にパッシブアーツはプレイヤーの意思に関係なく常に発動し続ける系統のアーツだ。
今回の場合【スラッシュ】がアクティブアーツで、【鑑定精度上昇Ⅰ】がパッシブアーツということになる。
「ふう、とりあえず今回の情報についてはこんな感じかな」
得られた情報を精査しつつ、疲れ切った体を休める。体力的なものはアイテムで回復し、精神的なものはしばらく動かずにじっとしていることで回復させる。
それにしても、初ログインにしていきなりこんな激戦を強いられるとは思っていなかった……私じゃなかったら挫折してたかもしれない。
チュートリアルも終わり、ちょうど回復アイテムや携帯食料などの物資も底を突いたので、大人しく街に戻ることにした。……こんな状況で戦いを続けるなど、MOFOにいた死にたがりのアイツくらいなもんだ。
「たしか、“男には負けるとわかっていても戦わなければならない時がある”だったか……ふ、それでホントに負けちゃあ意味がないと思うんだけどなー」
かつてともに戦った懐かしき面々を思い浮かべながら、私は街へと帰還してすぐにログアウトした。
現実に戻り、諸々の所用を済ませて再びログインする。
ゲーム時間で数時間の出来事が、現実世界でほんの数分しか経過していないというこの技術に、改めて驚かされると同時に自分自身がこのゲームにのめり込み過ぎないよう注意しようと決意を新たにする。
「とりあえず、ギルドとやらに行ってみるか」
実を言うと、チュートリアルを消化している過程でギルドには既に登録が済んでいる。このMOAOでは、生産職と戦闘職の二種類のプレイヤーがいるということはわかっているが、この世界での常識として物を作る“メイカー”と戦いを生業とする“ハンター”という呼ばれ方が一般的らしい。
それに準ずる形でメイカーが所属するギルドが生産ギルド、ハンターが所属するギルドが狩人ギルドとなっている。当然私が登録したのは、狩人ギルドだ。
ギルドではクエストと呼ばれる依頼があり、それをこなすことで報酬としてお金やアイテムなどが貰えたりするのだが、チュートリアルが終了するまでクエストが受けられなかったので、先にフィールドでMOBと戦うことを優先した。
ちなみにチュートリアルがクリアできなかった場合、救済措置として常設依頼という常に依頼が出されているクエストを受けることができるらしい。
内容はスライムなどの特定MOBを特定数討伐するというものから、クエストを受けることで出現する特定アイテムを街やフィールドで見つけて来ることといった具合だ。
「うん? あれはなんだ」
狩人ギルドに向かっている途中、周囲の建物とは明らかに様式の異なる建物が目に飛び込んできた。
どうやらここは、生産職プレイヤーと戦闘職プレイヤーが唯一接触を図ることのできる施設で、その名も【交流広場】という場所であった。
基本的に生産職プレイヤーと戦闘職プレイヤーは、生産職が作ったアイテムや装備を戦闘職が購入するという店と客という同じ関係性を持っている。しかしながら、運営の意図かそれとも最初からそういう仕様なのかは定かではないのだが、お互いが直接接触するという機会が極端に削られている。
プレイヤーは最初に生産職か戦闘職かのどちらかを選択するのだが、そのときに別々の専用サーバーに振り分けられ、生産職だけがいる街と戦闘職だけがいる街という構図が形成されているのだ。
お互いがコンタクトを取れる場所はかなり限られており、公式掲示板とショップやオークションなどの特定の販売機能を使った売買取引、最後に今いる交流広場のみとなっている。
「知り合いがいるかもしれないし、行ってみようかな」
少し迷ったが、別に攻略組のように先を急いでいる訳でもないため、様子見で立ち寄ってみることにした。
交流広場の中は俗に言う酒場だった。いくつもの木製テーブルと椅子のセットが何組も設置されており、そこには結構なプレイヤーたちの談笑する姿が見受けられた。
そして、そのうちの一つのテーブルから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「死に戻りこそ、至高のプレイスタイルである!!」
「お前はいきなりなにを宣言してるんだ。とうとう頭のネジが飛んだのか?」
「伯爵殿、それはいくらなんでも辛辣でござるよ」
「あんたたちはホント相変わらずなんだから、MOFOの時とまるっきり変わってないじゃない」
「……うるさい、リアルの方でホントに死ねばいいのに」
「リリー殿、その言葉は伯爵殿よりも酷いでござるよ!?」
「はあ、相変わらずあなたたちの周りは賑やかね」
私の言葉にその場にいたプレイヤーが顔を向ける。声を掛けたのが私だと知ると全員顔を綻ばせ挨拶をしてくる。
「久しぶりねミコト、元気してた?」
「メイリスも元気そうね、今回も生産職一筋なのね」
「あったり前よー、いつか絶対あの人を超えるっていう目標があるんだから」
そう言ってメイリスは握りこぶしを掲げガッツポーズを取る。私も詳しい話は知らないんだけど、なんでも伝説のグランドマスターと一悶着あって一時はふさぎ込んでたんだけど、いつかそのグランドマスターを超えてやるって一念発起したって話らしい。
「おう、“突撃屋”相変わらず無茶な戦いをやってんのか?」
「あんたほどじゃないと思うんだけど? “デスペナジャンキー”」
「その呼び名は心外だな。俺はデスペナが好きだから死に戻っているのではない。死に戻ることに意義を感じているからこそ、俺は死に戻っているの――」
「それに巻き込まれる俺らの身にもなりやがれ!」
「そうでござるよ! いい加減真面目にやって欲しいでござる」
「ほろ酔い伯爵さんとハッタリ半蔵さんもお久しぶりね」
彼らはニコルソン・ほろ酔い伯爵・ハッタリ半蔵という名のプレイヤーで、一部のプレイヤーたちからはVRMMO好きのプレイヤーとして名が通っている。彼らには特にこれといった実力もなければ特質した能力も持ち合わせてはいない。しかしながら、VRMMOを全力で楽しんでいる彼らの姿は見るものを引き付け何故か憎めないのだ。
「……ミコト、お久」
「リリー、久しぶり。あなたは相変わらず猫みたいね」
「……ボクは、子供じゃない」
「ああ、ごめんなさい。リリーが可愛かったからついね」
彼女はリリー、主にアイテム収集を中心に活動している特化型のプレイヤーで、そのプレイスタイルから英語で集めるという意味のあるアグリゲイトから取って“アグリゲーター”と呼ばれている。
見た目が愛らしい彼女の姿から、一部のプレイヤーに熱狂的なファンがいると言われている。その可愛いさのあまり、私が思わず彼女の頭を撫でてしまうほどに。
元【クリエイトワーカーズ】ギルドマスターにデスペナジャンキーとその仲間たち、それにアグリゲーターというMOFOで名を馳せたそうそうたるメンバーが揃っていた。
それが証拠に周囲のプレイヤーたちが「あそこのテーブルやべー」とか「有名人ばっかじゃん」とか「リリーちゃんカワユス」とか「突撃屋のおっぱい揉みたい」という言葉が飛び交っていた。……最後の奴GMコールしてやろうか?
そんな中、この場に一人いないことに気付いた私は彼らに問いかけた。
「ねぇ、トウヤはどうしたの?」
「ああ、元【闘剣十字騎士団】のギルマスさんなら、フィールドで大暴れしてるぜ」
「彼は最前線攻略組だもの、仕方ないわよ」
「……あの人は血に飢えた獣、ボクたちとは相容れない存在」
「でも、彼の力が無ければ攻略できなかったイベントもたくさんあるでござる」
「死に戻りの素晴らしさを理解できない愚かな奴だ」
「愚かなのはお前だ!!」
私の問いにニコルソン、メイリス、リリー、ハッタリ半蔵の順番に答え、最後にニコルソンの言葉にほろ酔い伯爵がツッコミを入れる。
トウヤはMOFOの大手ギルド【闘剣十字騎士団】の元ギルドマスターであり、最前線攻略組のプレイヤーだ。前作ではその戦闘力を遺憾なく発揮して、数多くの高難度クエストやイベントに貢献し勝利へと導いたトッププレイヤーの一人でもあった。
「まあ、このゲームをやってたらいずれ顔を合わせることもあるだろうし、今は会えなくてもいいわ」
それから少し彼らとの雑談を楽しんだあと、お互いにフレンド登録をしてその場をあとにした。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
私は肩で息をしながら、立っているのもやっとといった状態の体を休ませるべくその場にへたり込む。一体何があったのかといえば、激しい“行為”が行われたとしか言いようがないが、これだけは言っておく。下ネタじゃないからね?
詳しい戦闘内容といえば、とにかくスライムエリートの攻撃を躱し、こちらの攻撃を当て続けるというヒット&アウェイ戦法で押し切った感じだ。
言葉で説明するとなんだかスマートな勝ち方に聞こえるだろうが、実際その戦い方を見た人が抱く感想はおそらく「見苦しい」の一言だっただろう。
通常のスライムよりも高いステータスから繰り出される突進攻撃や、トリッキーな動きを見せる奴らに攻撃を当てなければならないという作業を一人でやらなければならなかった。
奴らの集中砲火を浴び、一時体力がレッドゾーンに突入してしまい、慌てて回復アイテムを使いまくったり、脇目も振らず奴らから距離を取ろうと逃げる場面も何度かあった。
そんな見苦……もとい苦しい戦いを耐え抜き、私は勝利を手にすることができたのだ。
勝利の余韻に浸っていたその時、戦闘リザルトとインフォメーションが次々に表示される。
《強MOB【スライムアーミー】を倒した。スライムの核を1個、スライムゼリーを15個、スライムの体液を10個を入手しました》
《【スライムアーミー】を撃破したことで、チュートリアルが終了します》
《【初級剣術】がLv5になりました。【スラッシュ】を覚えた。【初級鑑定】がLv5になりました。【鑑定精度上昇Ⅰ】を覚えた》
まず最初に着眼すべきはアイテムで、スライム系のアイテムがたくさん入手できたことだ。どうやらスライムの核はレアドロップのようで、今回の入手分を入れても二個しか入手できていない。
次に強MOB撃破によるチュートリアル終了のお知らせについてだが、これについては多少疑問に残る部分もなくはない。内容については少々難易度が高すぎる印象があったからだ。
だが、今になって考えればこのチュートリアルはパーティ推奨のチュートリアルだったのかもしれない。こういったRPG系のゲームは基本パーティを組むことが多いしね。
……言っておくが、私はぼっちじゃないぞ? これでも友達は多い方だ。比率的に女子よりも男子の友達が多いのが多少気になってはいるがな……。
最後に待望のアーツを覚えた。詳しい説明によると、アーツとは各スキルのレベル上昇によって覚えられる技のようなもので、アクティブアーツとパッシブアーツの二種類が存在する。
アクティブアーツは、プレイヤーの任意のタイミングで発動することができる系統のアーツで、それとは反対にパッシブアーツはプレイヤーの意思に関係なく常に発動し続ける系統のアーツだ。
今回の場合【スラッシュ】がアクティブアーツで、【鑑定精度上昇Ⅰ】がパッシブアーツということになる。
「ふう、とりあえず今回の情報についてはこんな感じかな」
得られた情報を精査しつつ、疲れ切った体を休める。体力的なものはアイテムで回復し、精神的なものはしばらく動かずにじっとしていることで回復させる。
それにしても、初ログインにしていきなりこんな激戦を強いられるとは思っていなかった……私じゃなかったら挫折してたかもしれない。
チュートリアルも終わり、ちょうど回復アイテムや携帯食料などの物資も底を突いたので、大人しく街に戻ることにした。……こんな状況で戦いを続けるなど、MOFOにいた死にたがりのアイツくらいなもんだ。
「たしか、“男には負けるとわかっていても戦わなければならない時がある”だったか……ふ、それでホントに負けちゃあ意味がないと思うんだけどなー」
かつてともに戦った懐かしき面々を思い浮かべながら、私は街へと帰還してすぐにログアウトした。
現実に戻り、諸々の所用を済ませて再びログインする。
ゲーム時間で数時間の出来事が、現実世界でほんの数分しか経過していないというこの技術に、改めて驚かされると同時に自分自身がこのゲームにのめり込み過ぎないよう注意しようと決意を新たにする。
「とりあえず、ギルドとやらに行ってみるか」
実を言うと、チュートリアルを消化している過程でギルドには既に登録が済んでいる。このMOAOでは、生産職と戦闘職の二種類のプレイヤーがいるということはわかっているが、この世界での常識として物を作る“メイカー”と戦いを生業とする“ハンター”という呼ばれ方が一般的らしい。
それに準ずる形でメイカーが所属するギルドが生産ギルド、ハンターが所属するギルドが狩人ギルドとなっている。当然私が登録したのは、狩人ギルドだ。
ギルドではクエストと呼ばれる依頼があり、それをこなすことで報酬としてお金やアイテムなどが貰えたりするのだが、チュートリアルが終了するまでクエストが受けられなかったので、先にフィールドでMOBと戦うことを優先した。
ちなみにチュートリアルがクリアできなかった場合、救済措置として常設依頼という常に依頼が出されているクエストを受けることができるらしい。
内容はスライムなどの特定MOBを特定数討伐するというものから、クエストを受けることで出現する特定アイテムを街やフィールドで見つけて来ることといった具合だ。
「うん? あれはなんだ」
狩人ギルドに向かっている途中、周囲の建物とは明らかに様式の異なる建物が目に飛び込んできた。
どうやらここは、生産職プレイヤーと戦闘職プレイヤーが唯一接触を図ることのできる施設で、その名も【交流広場】という場所であった。
基本的に生産職プレイヤーと戦闘職プレイヤーは、生産職が作ったアイテムや装備を戦闘職が購入するという店と客という同じ関係性を持っている。しかしながら、運営の意図かそれとも最初からそういう仕様なのかは定かではないのだが、お互いが直接接触するという機会が極端に削られている。
プレイヤーは最初に生産職か戦闘職かのどちらかを選択するのだが、そのときに別々の専用サーバーに振り分けられ、生産職だけがいる街と戦闘職だけがいる街という構図が形成されているのだ。
お互いがコンタクトを取れる場所はかなり限られており、公式掲示板とショップやオークションなどの特定の販売機能を使った売買取引、最後に今いる交流広場のみとなっている。
「知り合いがいるかもしれないし、行ってみようかな」
少し迷ったが、別に攻略組のように先を急いでいる訳でもないため、様子見で立ち寄ってみることにした。
交流広場の中は俗に言う酒場だった。いくつもの木製テーブルと椅子のセットが何組も設置されており、そこには結構なプレイヤーたちの談笑する姿が見受けられた。
そして、そのうちの一つのテーブルから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「死に戻りこそ、至高のプレイスタイルである!!」
「お前はいきなりなにを宣言してるんだ。とうとう頭のネジが飛んだのか?」
「伯爵殿、それはいくらなんでも辛辣でござるよ」
「あんたたちはホント相変わらずなんだから、MOFOの時とまるっきり変わってないじゃない」
「……うるさい、リアルの方でホントに死ねばいいのに」
「リリー殿、その言葉は伯爵殿よりも酷いでござるよ!?」
「はあ、相変わらずあなたたちの周りは賑やかね」
私の言葉にその場にいたプレイヤーが顔を向ける。声を掛けたのが私だと知ると全員顔を綻ばせ挨拶をしてくる。
「久しぶりねミコト、元気してた?」
「メイリスも元気そうね、今回も生産職一筋なのね」
「あったり前よー、いつか絶対あの人を超えるっていう目標があるんだから」
そう言ってメイリスは握りこぶしを掲げガッツポーズを取る。私も詳しい話は知らないんだけど、なんでも伝説のグランドマスターと一悶着あって一時はふさぎ込んでたんだけど、いつかそのグランドマスターを超えてやるって一念発起したって話らしい。
「おう、“突撃屋”相変わらず無茶な戦いをやってんのか?」
「あんたほどじゃないと思うんだけど? “デスペナジャンキー”」
「その呼び名は心外だな。俺はデスペナが好きだから死に戻っているのではない。死に戻ることに意義を感じているからこそ、俺は死に戻っているの――」
「それに巻き込まれる俺らの身にもなりやがれ!」
「そうでござるよ! いい加減真面目にやって欲しいでござる」
「ほろ酔い伯爵さんとハッタリ半蔵さんもお久しぶりね」
彼らはニコルソン・ほろ酔い伯爵・ハッタリ半蔵という名のプレイヤーで、一部のプレイヤーたちからはVRMMO好きのプレイヤーとして名が通っている。彼らには特にこれといった実力もなければ特質した能力も持ち合わせてはいない。しかしながら、VRMMOを全力で楽しんでいる彼らの姿は見るものを引き付け何故か憎めないのだ。
「……ミコト、お久」
「リリー、久しぶり。あなたは相変わらず猫みたいね」
「……ボクは、子供じゃない」
「ああ、ごめんなさい。リリーが可愛かったからついね」
彼女はリリー、主にアイテム収集を中心に活動している特化型のプレイヤーで、そのプレイスタイルから英語で集めるという意味のあるアグリゲイトから取って“アグリゲーター”と呼ばれている。
見た目が愛らしい彼女の姿から、一部のプレイヤーに熱狂的なファンがいると言われている。その可愛いさのあまり、私が思わず彼女の頭を撫でてしまうほどに。
元【クリエイトワーカーズ】ギルドマスターにデスペナジャンキーとその仲間たち、それにアグリゲーターというMOFOで名を馳せたそうそうたるメンバーが揃っていた。
それが証拠に周囲のプレイヤーたちが「あそこのテーブルやべー」とか「有名人ばっかじゃん」とか「リリーちゃんカワユス」とか「突撃屋のおっぱい揉みたい」という言葉が飛び交っていた。……最後の奴GMコールしてやろうか?
そんな中、この場に一人いないことに気付いた私は彼らに問いかけた。
「ねぇ、トウヤはどうしたの?」
「ああ、元【闘剣十字騎士団】のギルマスさんなら、フィールドで大暴れしてるぜ」
「彼は最前線攻略組だもの、仕方ないわよ」
「……あの人は血に飢えた獣、ボクたちとは相容れない存在」
「でも、彼の力が無ければ攻略できなかったイベントもたくさんあるでござる」
「死に戻りの素晴らしさを理解できない愚かな奴だ」
「愚かなのはお前だ!!」
私の問いにニコルソン、メイリス、リリー、ハッタリ半蔵の順番に答え、最後にニコルソンの言葉にほろ酔い伯爵がツッコミを入れる。
トウヤはMOFOの大手ギルド【闘剣十字騎士団】の元ギルドマスターであり、最前線攻略組のプレイヤーだ。前作ではその戦闘力を遺憾なく発揮して、数多くの高難度クエストやイベントに貢献し勝利へと導いたトッププレイヤーの一人でもあった。
「まあ、このゲームをやってたらいずれ顔を合わせることもあるだろうし、今は会えなくてもいいわ」
それから少し彼らとの雑談を楽しんだあと、お互いにフレンド登録をしてその場をあとにした。
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