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14話 ミコト編①
しおりを挟む――時はスケゾーが【メイク・オア・アドベント・オンライン】ことMOAOに初ログインした頃にまで遡る。伝説の生産職プレイヤーが躍動を開始した時を同じくして、とある一人のプレイヤーもまた動き出していた――
「よし、これで設定はオッケーね」
必要事項の記入が終わると、私はウインドウの設定完了ボタンをタップする。
【名前】:ミコト
【職業】:戦闘職
設定といっても入力する項目が二つしかないので、それほど時間は掛からない。
「これで必要事項の登録は完了しました。次にこの中から使用する武器をお選びください」
ナビゲーターがそう言うと、武器を選択してくださいという内容が記載されたウインドウが出現する。ちなみに内容はこんな感じ。
【剣】・【槍】・【斧】・【ハンマー】・【グローブ】・【杖】
……うーん、どれにしようかな?
かなり長く熟考したが、奇をてらったものよりもスタンダードに戦える方を優先し、まずは【剣】を選択することにした。
気に入らなければ途中で変えてもいいし、逆に気に入ったのであればそのまま使い続ければいいだけの話だからね。
「これですべての登録作業が完了しました。他になにか質問はございませんか?」
「大丈夫よ、問題ないわ」
これでようやくこのMOAOを始められる。新しい冒険が待っていると思うと、胸の高鳴りが抑えきれない。
「それでは【メイク・オア・アドベント・オンライン】をお楽しみくださいませ!」
ナビゲーターの女性がそう言ったあと、間を置かず周囲の視界が白い靄に包まれていった。
「ふう、ようやく始まったみたいね。それにしても、いやに壮大なオープニングだったわね」
オープニングを見終わり、まず思った感想がそれだった。ああいう重苦しいのは嫌いじゃないけど、今回は遠慮したかった。
改めて、自己紹介をしよう。私の名前は天寺美琴 (あまでらみこと)。十九歳の大学二年生である。
身長163センチ、体重○○キロ。スリーサイズは上から8……ってこんな情報言う必要ないわね、うっかりうっかり。
晴れて第一志望だった大学に無事合格し、つつがなく進級もでき、まさに大学生ライフを謳歌している。
唯一足りないものといえば恋人だが、なぜか私は男の人に異性として見られたことがあまりなく、現在は独り身である。
その事について仲の良かった男友達に聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「お前って、妙に男らしいところがあるから、女の子と一緒にいるっていうよりも男と一緒にいるって感じがして、どうも異性として見れないんだわ」
誠に以って遺憾である。これでも顔は目鼻立ちもくっきりしており、自分で言うのもなんだがかなり美人だと思う。胸だって一般女性の平均よりもかなりあり、発育がいいのか先日ブラのサイズがワンサイズ上がったばかりだ。
「どうしてだ!? FだぞF!!」と自分の胸を両手で挟みながらその男友達に見せつけたら「そういうところだよ!!」と怒鳴られた……今のサイズはGだけどね。
そんな中、かねてより応募していた【メイク・オア・アドベント・オンライン】の実機が届き、配信開始の時刻と同時にログインしたのだ。
子供の頃からずっと好きで続けている私の趣味、それはゲームだ。別にオタクのようにディープなところまで深く踏み込んではいない。精々新作のゲームが出ると、数日間は徹夜でプレイする程度だ。
友達や知り合いからは「それは最早廃人クラスだぞ」と何度も指摘を食らうが「いやいや、ご冗談を」と毎回あしらっている。本物の廃人は一週間不眠不休を涼しい顔でこなすのが私の中での常識だ。
ともかく、前作の【マイン・オブ・ファンタジー・オンライン】通称“MOFO”の続編という触れ込みもあって、初回生産分30000本に対し応募総数が三千万を超え、倍率1000倍という驚異の数値を叩き出した。
その狭き門を突破し、こうして私は新作のVRMMOの世界にやってくることができたのだ。
異世界ファンタジー風の街並みをしばらく眺めたあと、最初にやるべきことを実行に移す。
「とりあえず、ステータスの確認ね。ステータスオープン!」
まずは自分の能力の確認が最優先とばかりに、異世界物の小説みたく“ステータスオープン”と口ずさむ。
【名前】:ミコト
【職業】:戦闘職
【ステータス】
HP 40 レベルアップまであと50
MP 10 レベルアップまであと50
STR H レベルアップまであと50
VIT H+ レベルアップまであと50
AGI H レベルアップまであと50
DEX H- レベルアップまであと50
INT H- レベルアップまであと50
MND H- レベルアップまであと50
LUK H- レベルアップまであと50
【スキル】:なし
【称号】:なし
ステータス表記自体は、前作の【マイン・オブ・ファンタジー・オンライン】とほとんど同じ仕様だった。
ただ一つ異なる点があり、キャラクター自体にレベルはなく右部分に“レベルアップまであと50”という見慣れぬ表記が追加されていた。
おそらくだが、あと○○の数字が0になるとステータスが強化されるのだろうということはわかるのだが、この数字がどういった行動で減っていくのかが現時点では不明瞭だった。
次に装備の確認をすることにした。詳細はこんな感じだ。
【武器】:ビギナーズソード(【STR上昇 最小】耐久度∞)
【頭】:なし
【胴】:ビギナーズシャツ(【VIT上昇 最小】耐久度∞)
【腰】:ビギナーズパンツ(【VIT上昇 最小】耐久度∞)
【腕】:なし
【脚】:ビギナーズシューズ(【AGI上昇 最小】 耐久度∞)
【装飾品】:なし
見た目は木製の剣に薄い布の服と麻のズボンと皮の靴というはっきり言って強そうには見えない格好だった。見るからに初期装備な感じの出で立ちに思わず苦笑いを浮かべる。
ただこの装備の有用性として、耐久度が減らず無限だというところだろう。少なくとも、この装備が壊れて全裸になるというコメディ展開は回避できるようで、内心でホッと胸をなでおろす。
「まあ、いろいろと疑問は残るけど、そこはおいおい確認しながらやっていくとして、まずは導入のチュートリアルからね」
何事も初心が肝心というわけではないのだが、こういったゲームでまずやるべきことはチュートリアルをこなすことだ。
チュートリアルはゲームの仕様や操作方法を把握するための重要なもので、これをやらずにプレイすると詰む可能性すらある。
だからこそ、初見のゲームであれば必ずやるべきものだと私は思っている。
チュートリアルの内容は“歩いてみよう”や“ジャンプしてみよう”といった操作に関する簡単な内容のものだったが、チュートリアルをこなしていくうちに多少報酬としてお金がもらえるのが有難かった。
順調にチュートリアルを消化していくと、ついに戦闘に関する内容が出てきた。
「いよいよモンスターとのバトルができるのね。ふふ、楽しみ」
今の私の顔を他の人が見たら、悪い顔をしているだろうなというのが自分でもわかる。やはりこういったRPGものでの花形といえば戦闘……即ちバトルだ。
元々体を動かすことは嫌いじゃない。というか寧ろ大好きなので、今から楽しみで胸がドキドキしている。
しかしながら、このまま猪みたくフィールドに突入するのは愚の骨頂だ。それくらいのことは私でも理解できる。
小さい頃はよくそのことで男友達に「お前は考えなしに突っ込み過ぎなんだ。だからすぐにやられちゃうんだ」と指摘されていた。
それを体現するような出来事が小学生の時にあった。小学生の高学年になり成長期で胸が膨らみ始めた時も、以前と同じように男子にしがみついたら「お前はもっと自分のことをよく見た方がいい」と言われた。
男子の言っていることがわからなかったので、家に帰って母親に聞いてみたところ「美琴も女の子なんだから、もう男の子に無闇にくっついてはだめよ」と諭された。
その時は母親の言っている意味がわからなかったが、母親の言うことなら間違いないとその指示に従い、それ以降男子にくっつくのは控えるようにした。
後になってその意味がわかったときには、その男子に悪いことをしてしまったなと今になっては思う。私がくっついたらなんか前屈みになっていたしね……ははは。
さて、少し脱線してしまったような感じだが、気を取り直してまずは店に向かう。目的は回復系アイテムの購入だ。
最初のフィールドということもあり、それほど強いMOBも出てこないだろうが、絶対死なないという保証はどこにもない。
以前プレイしたことのあるRPGで、回復アイテムなどを購入せずどんどん突き進んでいったら、いつの間にか強くなった雑魚キャラにやられたことがあった。
そのときも、自分の猪突猛進ぶりに自分自身で呆れたほどだ。
とまあ、そういった過去の過ちから学習することを覚えた私は、不測の事態に備えて戦いの前に回復アイテムを準備してからフィールドに出かけるというのが癖になっていた。
NPCが出している出店で回復アイテムを購入し、準備も整ったところで意気揚々と街の外へと出かけていく。
街の外にあるフィールドは【出立の草原】という名前で、その名の通りプレイヤーが一番最初にMOBと出会う場所だ。
フィールドはかなり広く、まばらにプレイヤーの姿も見受けられる。しかしながら、配信が開始されてすぐとはいえ異様にプレイヤーの数が少ないことに私は違和感を覚える。
前作の【マイン・オブ・ファンタジー・オンライン】の最初のフィールドは、あまりに人が多すぎて知らないプレイヤー同士でおしくらまんじゅう状態が起こっていた。その中には男性プレイヤーの手が女性プレイヤーの胸に当たってしまい「キャー痴漢」という案件も発生していた。
というか、私もその被害の一人で私の場合手が当たったどころの話ではなく、がっつりと“もみもみ”されてしまい速攻でGMコールしたことを覚えている。
そんな経験があるため、今のこの閑散としたフィールドの状態が妙に解せないと感じていたが、どうやらこれは運営が過去の作品の傾向から対策を講じた結果だったようだ。
今回のMOAOのフィールドの仕様は複数のサーバーが存在しており、ランダムで振り分けが行われる。
具体的にはサーバーは全部で99個存在し、一つのサーバーにつき最大255人までが同時接続可能となっている。
つまり各フィールドにおける最大同時接続人数は現時点で25245人ということになる。このゲームの仕様上生産職プレイヤーはフィールドに出ることができないため、仮に生産職プレイヤーが5000人、戦闘職プレイヤーが25000人いるとすれば妥当な数字なのかもしれない。
公式サイトには、追加生産分が出荷されるのと並行して順次サーバーの数を増築していくと表記されていたので、今の状態でも問題なく運用できるのだろう。
「うし、これなら胸を揉まれる心配もないから安心だな」
そんな身も蓋もないことを呟きながら、ターゲットとなるMOBを私は探し始めた。
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