上 下
8 / 14
悪役令嬢のシスコンすぎる兄

7 悪役令嬢の私(妹)ですが、兄に追いつきたい

しおりを挟む


 「父様!!なぜ今月の支出がこんなにあるのですか!?」


 私が勉強のためにお父様の書斎に足を踏み入れた瞬間、
 エリックの怒号が響き渡った。

 「エリック兄様何かあったのですか?」

 「リリ…………」

 「リリアンヌ!!助けてくれ~」

 「リリに助けを求めても無駄ですよ!それで?何に使ったのですか?この大金は…………」


 お父様は私に隠れるようにして恐る恐るルカを見ると、申し訳なさそうに呟いた。


 「王都からこの間商人が来たであろう…………。それでだな…………

 「なんですか?」


 「エリックが頑張ってくれたおかげで最近は領地も活気が出てきたから私も領民のために何かをしなければと思ったのだ…………。だから、もしもの時の為の備蓄の食料を商人から破格で買ったのだよ…………。」



 「そうですか…………その食料はどこに?」


 「商人もなんせ大量の食料だから代金を先に払ったのだがな…………なかなか届かないんだよ…………。
 代金を払って以来、商人とも連絡がつかなくてね…………」

 お父様が頭を掻きながら困ったように話す。



 「父様、買い物をするときは私に相談してくださいと言っているではありませんか…………
 残りの予算だと今年の冬を越せるかどうか…………」


 エリック兄様が呆れたようなため息交じりの言葉を発する。


 そう、お父様はいわゆる脳筋という人で、武術や魔法に関しては超がつくエリートなのだが、人を疑うことを知らず今日みたいに騙されることも一度や二度ではない…………。いわゆる領地経営や内政というものにはめっぽう弱い…………。領民思いであり頑張っているのはわかるのだが…………。

 ゲームでもリリアンヌの父のアデルは空回りに空回りを重ねて、しまいには没落の運命を辿ってしまう。そしてリリアンヌの父であるアデルは病んでしまい母と一緒に心中してしまう。兄のエリックは自分の力で上級騎士まで上り詰めるのだが、リリアンヌは婚約破棄後は修道院へ送られることになる。


 私としては修道院送りになることは全然いいのだが、両親が亡くなってしまうことは絶対に避けたい。お父様は騙されやすくて、内政に関しては頼りないけど優しくて私を無条件に可愛がってくれるし、お母様は少し厳しいところもあるけれど美人でとても素敵な人だ。今年で6歳になり、記憶が戻ってから3年間になるが私はこの両親がとても大好きで大切にしたいと思っている。


 「エリック~どうしよ~う」

 父がエリックにすがるようにエリックの服の裾を掴む。

 エリック兄様は私が3歳の時には神童と呼ばれるくらいの才能を持っていた。若干6歳にしてこの世の全ての読み書きをマスターし書斎の本を読み尽くしさらには領地の内政にも手をだしその手腕を発揮している。


 私は異世界に転生したからと言って特にチートや魔法には興味がなかった。自分や身の人のためになるならと前世の知識を借りる時はあるが、特に自分から知識を振りまくことはしていないので『実際にいるんだな~天才って』としか思っていなかった。
 ゲームのエリックは上級騎士まで上り詰めたが内政に関しては、からきしダメだったということを私は忘れていた…………。



 「今年はまだ収穫もしていないですし、一度視察に行ってどのような状況か確認してみましょう。
 考えるのはそれからにして、もし収穫が少ないようなら資金を調達して国内から買うか他国買うかでもしましょう
資金繰りには考えがあります」

 「エリック~」


 エリック兄様は下見に行くとなるとすぐに使用人に的確な指示を出した。

 ——エリック…………単なる妹バカじゃなかったんだ…………。

 そう思ってエリックを見ていると、エリックがこちらを向いた。


 「リリも一緒に行くかい?」

 「えっ、いいんですか?」



 「もちろん!」

 「ご一緒いたします」


 「そうかそうか!私のかっこいい姿を見てほれなおすといい!」


 前言撤回。単なる妹バカだった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇



 アルマニャック家の領地はでっかい鉱山がある。もともと王都に面している土地なのだが王都との間に鉱山がある為、王都に行く際はノルマンディー領を経由してから王都に向かうことになる。王都と反対方向には海があり、海風が鉱山に遮られアルマニャック領に残る為、夏は涼しく冬は寒さが厳しい地形だ。温度が低いということもあり作物がよく育たない。3年前エリックが大規模な領地改革を行い革新的に良くなってきたのだが、この気候の為父の備蓄を増やして置きたいという気持ちをわからないわけでもなかった。


 私たちは、今日一日でたくさんの村や街を回った。
 お父様はまだ、やることがあるみたいだったので今はエリックと二人でお家に帰る馬車の中だった。


 「うーーーん。やっぱりギリギリの数の収穫になりそうかな…………。
 だとしたら…………確認…………見てみ…………」



 エリックが何かを考えながらブツブツ話している。


 私はエリックの9歳とは思えない知識や上に立つものの言動の数々に触れることになった。
 まず、農地だ。私は国内でも豊かとされるノルマンディー領とも違う方法で耕された畑を見て驚きを隠せなかった。それに道路は整備され、見る街見る街活気付き栄えているのがわかった。
 エリックは領民一人一人に近頃の様子を聞いて回り、ある人は楽しそうにエリックと会話をし、またある人はすごい勢いでエリックに感謝し、そしてある人は拝むように手を合わせていた。父様よりエリックの方が領主なのではないかと思うくらいだった。


 私は今日を振り返りなんだか引っかかる想いを抱えていた。


 ——本当にエリック…………なの…………?


 私はゲームでのエリックのことを思い出した。エリックは上級騎士になった後、小さい領地を王からもらうのだが自分には内政には向かないとその権利を返上し生涯騎士であることを願い出たのだ。
 今のエリックにはそのようには見えない。

 それにゲームでの兄はリリアンヌが修道院送りになった際、特に何もしなかった。今のエリックはバカがつくほどの妹想いで私のことを溺愛している。私が修道院送りになろうものなら他国に攫ってまで私をかばってくれる気がしないでもない…………。



 エリックの設定と違う部分を分析していくうちに私はある人を思い出した。
 その人は幼い頃からとても優秀で、なんでも華麗にこなし、知らないことがないんじゃないかって思うほど生涯を終えるまでは研究の虫になりひたすら学び夢を追いかけていた。幼い頃からその背中を見て育ち、その背に守られて育ってきた…………。

 …………その世に生まれる前の話。


 前世での兄、朝倉陸あさくら りくの面影をエリックに映していた。



 「お、お兄ちゃん…………」



 「ん?何、梨々(リリ)?」


 お兄ちゃんとエリックの姿が重なる。



 「陸お兄ちゃん…………なの?」


 エリックは少し驚いたような表情を浮かべ、表情が柔らかくなる。


 「梨々、今頃気付いたの?」


 ニカっとエリックは笑った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう

蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。 王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。 味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。 しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。 「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」 あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。 ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。 だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!! 私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です! さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ! って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!? ※本作は小説家になろうにも掲載しています 二部更新開始しました。不定期更新です

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

処理中です...