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国落とし編
教わった通りですが?
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「こんにちは。本日はどうされましたか?」
「どうも。僕たちこの町に来たばかりなんですが、さっそく依頼を受けようと思いまして。盗賊の討伐依頼を受けたいんですが、良いものはありますか?」
「盗賊の討伐依頼ですか?すみませんが、まずはギルドカードをお見せいただいてもよろしいですか?」
「はい」
カマエルはそう言うと、フィエラたちにもカードを出すよう指示を出し、全員からカードを渡された受付嬢は一枚ずつ確認をしていく。
「ふむ。ラフィさん、ヴィシェさん、アンさん、アリィさん、そしてレハムーさんですか。ん?レハムー?……あぁ、そういう…」
フィエラたちのカードを順番に確認し、最後にカマエルのカードを見たところで名前と彼の状況を察した受付嬢は、少し軽蔑したような目でカマエルのことを見た。
(うぅ。泣きたい。なんで僕がこんな目に……)
ルイスの悪戯は思った以上にカマエルに対してダメージを与えていたようで、心の中で泣きながら返されたカードを受け取ると、受付嬢から盗賊討伐の依頼について説明がされる。
「ランクの方に問題はありませんでしたので、盗賊討伐の依頼についてお話しさせていただきます。今この町にある盗賊討伐の依頼は2件で、一つが近くの山にある洞窟を拠点としているもの、もう一つは村を襲い、そこを根城にしている盗賊たちのものになりす。現状と致しましては、洞窟の方には冒険者を派遣いたしましたが失敗に終わり、村の方は最近発覚したことのため、現在は両方とも依頼を受けてくださる冒険者を募集している最中になります」
「募集ということは、盗賊の人数が多いんですか?」
「今回の盗賊団の規模はどちらも中規模程度であり、人数は15人から20人程度という情報が入っております。そのため、今回は冒険者パーティー単体ではなく、複数の冒険者パーティーによる共同依頼として、依頼を出させていただいております」
「なるほど」
他国と近いところにある小さな町や村は盗賊たちの標的になりやすく、どちらの国の首都からも遠いことと人口が少ないことを理由に、盗賊たちが集まりやすい場所でもあった。
「現在はどちらの依頼もあと一パーティーの参加待ちとなりますので、レハムーさんたちがどちらかの依頼を受けるのであれば、その依頼のため他の冒険者と共に指定された場所へと向かっていただくことになります」
「わかりました。なら両方受けます」
「え、両方ですか?」
「はい」
「ですが、それでは片方の依頼が遅れてしまうことになりますし、他の冒険者も依頼を受けるため迷惑をかけることになってしまいます」
「それなら安心してください。ラフィとアンは村の方に行って、僕とヴィシェ、そしてアリィは洞窟の方に行こう」
「ん。わかった」
「村の方はあたしたちに任せなさい」
「了解よ」
「わかりました」
カマエルの提案にフィエラたちは当たり前のように頷くが、近くで話を聞いていた受付嬢は思わず驚いてしまう。
「え、パーティーを二つに分けるんですか?」
「はい。彼女たちであれば実力に問題はありませんし、それに他にも冒険者がいるのであれば大丈夫でしょう」
「で、ですがそれでも危ないと思いますよ?あなたはお仲間が心配じゃないんですか?」
受付嬢はそう言いながらまるで非難するかのようにカマエルを睨むが、その視線を受けた彼は気まずそうに苦笑いしながら説明をする。
「あの、何か誤解しているようですが、僕と彼女たちはそういう関係ではありませんからね。それと、僕たちはランクこそそこまで高いわけではありませんが、実力はある方ですよ。それはすぐに証明できるかと」
「それはいったいどういう……」
「おい兄ちゃん。ちょっと話があんだけだよ」
「ほらね」
カマエルの言葉にどういうことかと受付嬢が尋ねようとした瞬間、周りにいた5人の男たちがゆっくりと近づいて来ると、下心が透けて見えるような下卑た笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「なんですか?」
「お前、聞いてた話によると力に自信があるようだが、どれくらい強いんだ?」
「はは。こんな可愛い嬢ちゃんたちを4人も侍らせるとは、さぞかし強いんだろうなぁ?」
案の定と言うべきか、4人の美少女を連れているカマエルに嫉妬して近づいてきた男たちは、さながら花に吸い寄せられた虫のようであるが、それが猛毒を持った花であることに彼らは気付いていない。
「そこそこ自信はありますし、あなた方より強いとも思いますが、一つだけ忠告しておきます。彼女たちに気安く触れないように」
「はは!俺たちより強いだぁ?それに彼女たちに触れないようにだとぉ?」
「騎士のように気取ってんじゃねぇぞ!」
「そんなに自信があんなら、自分の女くらい守れるよなぁ!!」
男たちはそう言うと、リーダーらしき男を残して他の4人がフィエラたちに触れようとするが、残念ながら勝敗は一瞬でついてしまった。
まず、フィエラに触れようとした男は手を伸ばした瞬間に側頭部を蹴られると、下がった頭を蹴り上げられギルドの天井へと突き刺さる。
次にシュヴィーナの腰に触れようとした男は彼女に足払いを掛けられると、そのまま地面へと蹴り倒され、胸の辺りを膝で押さえられながれ眼球の前で右手に持った矢を寸止めされる。
ソニアに向かって近づこうとした男は、一歩近づいた瞬間、彼女の重力魔法によって押し潰され床にめり込み、肋骨が折れたのか苦しそうに呻き声を漏らす。
最後にセフィリアに近づいた男は、彼女が回復魔法を何重にも掛けた結果、魔力酔いを起こして膝を突き、その場で何度も嘔吐した。
「汚い。触るな」
「あなた如きが触れていいほど、私は安い女じゃないわ」
「あたしに触れて良い距離まで近づくことを許している人は限られてるの。あなたはその対象外だから、それ以上近づかないでくれる?」
「申し訳ありませんが、この体は神とあの方にのみ捧げたものです。なので、無断でお触れにならないようお願い致します」
「……は?」
仲間が一瞬でやられたことで、リーダーの男は状況を飲み込めないまま呆然と立っているが、それは他の冒険者やギルド職員も同じで、あまりにも一瞬の出来事だったため、誰一人この状況を理解することができなかった。
「だから言ったでしょう。彼女たちに触れないようにと。あれは僕が強いとか、彼女たちを心配しての言葉ではなく、寧ろあなたたちを心配して言ったんですよ」
「こ、これは……いや、まて!俺たちは武器を抜いていなかった!つまりお前たちの行動は正当防衛として認められない!慰謝料を払ってもらうぞ!」
カマエルの言葉で何とか正気に戻った男が、自分たちが武器を抜いていないことやフィエラたちの行動が正当防衛に当たらないと主張すると、それを聞いた彼女たちが今度は急に萎らしくなる。
「腕を伸ばされて怖かった。殴られると思った。だから正当防衛」
「腰に伸ばされた腕を見た瞬間、そのまま腰を折って殺されると思ったわ。正当防衛よね」
「精神系魔法でも使われたのか、彼が歩き出した瞬間、踏み潰される幻覚を見たような気がする。正当防衛だわ」
「神に捧げたこの身に触れることは簡単に許されるものではありません。それに怖かったので正当防衛ですね」
「だって」
「そんなふざけた言い分が通るわけないだろ!」
「なら、職員さんに聞いてみようか。ねぇ、お姉さん。この状況を見て、どちらに非があると思う?」
「……え?私ですか?」
「そうです」
まさか自分が話しかけられるとは思っていなかった先ほどの受付嬢は、困惑した様子で男とカマエルたちを見比べるが、そこでふと、先ほどのカマエルの言葉を思い出す。
『なら、両方受けます』
カマエルは先ほど、盗賊討伐の依頼をパーティーを二つに分けて両方受けると言っていた。
実はこの討伐依頼の募集が始まったのは四日ほど前なのだが、残り一つのパーティーが見つかっていない状態で数日が経っており、そのせいで他のパーティーからは依頼の参加を辞退したいと言われていたのだ。
「今回は相手が女性であったこと、そして神に仕えるシスターにむやみに触れようとしたことを考慮し、正当防衛とさせていただきます」
「な!?」
「しかし、過剰防衛であったことも認めざるおえない状況のため、今回は互いに慰謝料の請求は認めないものとします。また、レハムーさんのパーティーについては二箇所の破壊がありましたので、そちらの修理費をお支払いください」
「あぁ、はい。わかりました」
男は最後まで不服そうに文句を言っていたが、フィエラに濃密な殺気を向けられると子犬のようにおとなしくなり、天井から仲間を引き抜いた後、他の仲間も連れてギルドを出て行った。
「レハムーさん。あなたたちのパーティーの実力はわかりました。なので、例外として二つに別れて依頼を受けることを許可します。他の方々には私の方から説明しておきますので、二日後にこの場所に来てください」
「わかりました」
その後、カマエルはルイスから渡されていたお金で修理費を支払い、胃痛に耐えながらフィエラたちを連れてギルドを出ると、少し怒りを込めた声でフィエラたちに話しかける。
「君たちやりすぎ」
「ん?これはエルに教わったことだから問題ない。それに、エルも敵には容赦するなって言ってた」
「そうね。彼なら腕くらい折ってたと思うわよ?」
「え」
「実際、前にエルに絡んできた人は、腕を切り落とされたり、腕と足の腱を切られて、魔力回路も壊された」
「は?」
「私の時は両足を切り落として動けなくした後、氷の剣で刺したり炎で死なない程度に焼いたりしていたわね」
「それ……本気で言ってる?」
「ん。だから私たちはまだ優しい方」
「そうね。それに、レハムーもよく言ってたわよね?彼がいれば、彼も言ってたって」
「ん。つまり、私たちはエルに言われた通り」
「教わった通り」
『やっただけ』
(やられた。これ、僕の言葉が完璧に裏目に出たやつじゃん)
最後に声を合わせてニヤリと笑ったフィエラとシュヴィーナの姿は、まるで悪戯が成功した時のルイスにそっくりで、謎の敗北感と悔しさがカマエルの胸を一杯にする。
フィエラたちがルイスを仄めかされる度にカマエルの指示に従っていたのは、こういう状況でルイスに教えられた事だからと逆手に取るためであり、それを察することのできなかったカマエルは、ただ彼女たちによって揶揄われていただけだった。
(帰ったら覚えてろよルイス。絶対にやり返してやる)
何もしていないにも関わらず、何故かカマエルに復讐されることが決まったルイスは、この作戦が終わった後、忙しい夏休みを過ごすことになる。
ちなみにだが、彼女たちの他にもカマエルの胃に大ダメージを与えた者がいた。
それは唯一の常識枠だと思っていたセフィリアで、彼女は怒らせると歯止めが効かなくなることを知ったカマエルは、結局このパーティーにいる常識枠は自分だけなのだと思い絶望したのであった。
「どうも。僕たちこの町に来たばかりなんですが、さっそく依頼を受けようと思いまして。盗賊の討伐依頼を受けたいんですが、良いものはありますか?」
「盗賊の討伐依頼ですか?すみませんが、まずはギルドカードをお見せいただいてもよろしいですか?」
「はい」
カマエルはそう言うと、フィエラたちにもカードを出すよう指示を出し、全員からカードを渡された受付嬢は一枚ずつ確認をしていく。
「ふむ。ラフィさん、ヴィシェさん、アンさん、アリィさん、そしてレハムーさんですか。ん?レハムー?……あぁ、そういう…」
フィエラたちのカードを順番に確認し、最後にカマエルのカードを見たところで名前と彼の状況を察した受付嬢は、少し軽蔑したような目でカマエルのことを見た。
(うぅ。泣きたい。なんで僕がこんな目に……)
ルイスの悪戯は思った以上にカマエルに対してダメージを与えていたようで、心の中で泣きながら返されたカードを受け取ると、受付嬢から盗賊討伐の依頼について説明がされる。
「ランクの方に問題はありませんでしたので、盗賊討伐の依頼についてお話しさせていただきます。今この町にある盗賊討伐の依頼は2件で、一つが近くの山にある洞窟を拠点としているもの、もう一つは村を襲い、そこを根城にしている盗賊たちのものになりす。現状と致しましては、洞窟の方には冒険者を派遣いたしましたが失敗に終わり、村の方は最近発覚したことのため、現在は両方とも依頼を受けてくださる冒険者を募集している最中になります」
「募集ということは、盗賊の人数が多いんですか?」
「今回の盗賊団の規模はどちらも中規模程度であり、人数は15人から20人程度という情報が入っております。そのため、今回は冒険者パーティー単体ではなく、複数の冒険者パーティーによる共同依頼として、依頼を出させていただいております」
「なるほど」
他国と近いところにある小さな町や村は盗賊たちの標的になりやすく、どちらの国の首都からも遠いことと人口が少ないことを理由に、盗賊たちが集まりやすい場所でもあった。
「現在はどちらの依頼もあと一パーティーの参加待ちとなりますので、レハムーさんたちがどちらかの依頼を受けるのであれば、その依頼のため他の冒険者と共に指定された場所へと向かっていただくことになります」
「わかりました。なら両方受けます」
「え、両方ですか?」
「はい」
「ですが、それでは片方の依頼が遅れてしまうことになりますし、他の冒険者も依頼を受けるため迷惑をかけることになってしまいます」
「それなら安心してください。ラフィとアンは村の方に行って、僕とヴィシェ、そしてアリィは洞窟の方に行こう」
「ん。わかった」
「村の方はあたしたちに任せなさい」
「了解よ」
「わかりました」
カマエルの提案にフィエラたちは当たり前のように頷くが、近くで話を聞いていた受付嬢は思わず驚いてしまう。
「え、パーティーを二つに分けるんですか?」
「はい。彼女たちであれば実力に問題はありませんし、それに他にも冒険者がいるのであれば大丈夫でしょう」
「で、ですがそれでも危ないと思いますよ?あなたはお仲間が心配じゃないんですか?」
受付嬢はそう言いながらまるで非難するかのようにカマエルを睨むが、その視線を受けた彼は気まずそうに苦笑いしながら説明をする。
「あの、何か誤解しているようですが、僕と彼女たちはそういう関係ではありませんからね。それと、僕たちはランクこそそこまで高いわけではありませんが、実力はある方ですよ。それはすぐに証明できるかと」
「それはいったいどういう……」
「おい兄ちゃん。ちょっと話があんだけだよ」
「ほらね」
カマエルの言葉にどういうことかと受付嬢が尋ねようとした瞬間、周りにいた5人の男たちがゆっくりと近づいて来ると、下心が透けて見えるような下卑た笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「なんですか?」
「お前、聞いてた話によると力に自信があるようだが、どれくらい強いんだ?」
「はは。こんな可愛い嬢ちゃんたちを4人も侍らせるとは、さぞかし強いんだろうなぁ?」
案の定と言うべきか、4人の美少女を連れているカマエルに嫉妬して近づいてきた男たちは、さながら花に吸い寄せられた虫のようであるが、それが猛毒を持った花であることに彼らは気付いていない。
「そこそこ自信はありますし、あなた方より強いとも思いますが、一つだけ忠告しておきます。彼女たちに気安く触れないように」
「はは!俺たちより強いだぁ?それに彼女たちに触れないようにだとぉ?」
「騎士のように気取ってんじゃねぇぞ!」
「そんなに自信があんなら、自分の女くらい守れるよなぁ!!」
男たちはそう言うと、リーダーらしき男を残して他の4人がフィエラたちに触れようとするが、残念ながら勝敗は一瞬でついてしまった。
まず、フィエラに触れようとした男は手を伸ばした瞬間に側頭部を蹴られると、下がった頭を蹴り上げられギルドの天井へと突き刺さる。
次にシュヴィーナの腰に触れようとした男は彼女に足払いを掛けられると、そのまま地面へと蹴り倒され、胸の辺りを膝で押さえられながれ眼球の前で右手に持った矢を寸止めされる。
ソニアに向かって近づこうとした男は、一歩近づいた瞬間、彼女の重力魔法によって押し潰され床にめり込み、肋骨が折れたのか苦しそうに呻き声を漏らす。
最後にセフィリアに近づいた男は、彼女が回復魔法を何重にも掛けた結果、魔力酔いを起こして膝を突き、その場で何度も嘔吐した。
「汚い。触るな」
「あなた如きが触れていいほど、私は安い女じゃないわ」
「あたしに触れて良い距離まで近づくことを許している人は限られてるの。あなたはその対象外だから、それ以上近づかないでくれる?」
「申し訳ありませんが、この体は神とあの方にのみ捧げたものです。なので、無断でお触れにならないようお願い致します」
「……は?」
仲間が一瞬でやられたことで、リーダーの男は状況を飲み込めないまま呆然と立っているが、それは他の冒険者やギルド職員も同じで、あまりにも一瞬の出来事だったため、誰一人この状況を理解することができなかった。
「だから言ったでしょう。彼女たちに触れないようにと。あれは僕が強いとか、彼女たちを心配しての言葉ではなく、寧ろあなたたちを心配して言ったんですよ」
「こ、これは……いや、まて!俺たちは武器を抜いていなかった!つまりお前たちの行動は正当防衛として認められない!慰謝料を払ってもらうぞ!」
カマエルの言葉で何とか正気に戻った男が、自分たちが武器を抜いていないことやフィエラたちの行動が正当防衛に当たらないと主張すると、それを聞いた彼女たちが今度は急に萎らしくなる。
「腕を伸ばされて怖かった。殴られると思った。だから正当防衛」
「腰に伸ばされた腕を見た瞬間、そのまま腰を折って殺されると思ったわ。正当防衛よね」
「精神系魔法でも使われたのか、彼が歩き出した瞬間、踏み潰される幻覚を見たような気がする。正当防衛だわ」
「神に捧げたこの身に触れることは簡単に許されるものではありません。それに怖かったので正当防衛ですね」
「だって」
「そんなふざけた言い分が通るわけないだろ!」
「なら、職員さんに聞いてみようか。ねぇ、お姉さん。この状況を見て、どちらに非があると思う?」
「……え?私ですか?」
「そうです」
まさか自分が話しかけられるとは思っていなかった先ほどの受付嬢は、困惑した様子で男とカマエルたちを見比べるが、そこでふと、先ほどのカマエルの言葉を思い出す。
『なら、両方受けます』
カマエルは先ほど、盗賊討伐の依頼をパーティーを二つに分けて両方受けると言っていた。
実はこの討伐依頼の募集が始まったのは四日ほど前なのだが、残り一つのパーティーが見つかっていない状態で数日が経っており、そのせいで他のパーティーからは依頼の参加を辞退したいと言われていたのだ。
「今回は相手が女性であったこと、そして神に仕えるシスターにむやみに触れようとしたことを考慮し、正当防衛とさせていただきます」
「な!?」
「しかし、過剰防衛であったことも認めざるおえない状況のため、今回は互いに慰謝料の請求は認めないものとします。また、レハムーさんのパーティーについては二箇所の破壊がありましたので、そちらの修理費をお支払いください」
「あぁ、はい。わかりました」
男は最後まで不服そうに文句を言っていたが、フィエラに濃密な殺気を向けられると子犬のようにおとなしくなり、天井から仲間を引き抜いた後、他の仲間も連れてギルドを出て行った。
「レハムーさん。あなたたちのパーティーの実力はわかりました。なので、例外として二つに別れて依頼を受けることを許可します。他の方々には私の方から説明しておきますので、二日後にこの場所に来てください」
「わかりました」
その後、カマエルはルイスから渡されていたお金で修理費を支払い、胃痛に耐えながらフィエラたちを連れてギルドを出ると、少し怒りを込めた声でフィエラたちに話しかける。
「君たちやりすぎ」
「ん?これはエルに教わったことだから問題ない。それに、エルも敵には容赦するなって言ってた」
「そうね。彼なら腕くらい折ってたと思うわよ?」
「え」
「実際、前にエルに絡んできた人は、腕を切り落とされたり、腕と足の腱を切られて、魔力回路も壊された」
「は?」
「私の時は両足を切り落として動けなくした後、氷の剣で刺したり炎で死なない程度に焼いたりしていたわね」
「それ……本気で言ってる?」
「ん。だから私たちはまだ優しい方」
「そうね。それに、レハムーもよく言ってたわよね?彼がいれば、彼も言ってたって」
「ん。つまり、私たちはエルに言われた通り」
「教わった通り」
『やっただけ』
(やられた。これ、僕の言葉が完璧に裏目に出たやつじゃん)
最後に声を合わせてニヤリと笑ったフィエラとシュヴィーナの姿は、まるで悪戯が成功した時のルイスにそっくりで、謎の敗北感と悔しさがカマエルの胸を一杯にする。
フィエラたちがルイスを仄めかされる度にカマエルの指示に従っていたのは、こういう状況でルイスに教えられた事だからと逆手に取るためであり、それを察することのできなかったカマエルは、ただ彼女たちによって揶揄われていただけだった。
(帰ったら覚えてろよルイス。絶対にやり返してやる)
何もしていないにも関わらず、何故かカマエルに復讐されることが決まったルイスは、この作戦が終わった後、忙しい夏休みを過ごすことになる。
ちなみにだが、彼女たちの他にもカマエルの胃に大ダメージを与えた者がいた。
それは唯一の常識枠だと思っていたセフィリアで、彼女は怒らせると歯止めが効かなくなることを知ったカマエルは、結局このパーティーにいる常識枠は自分だけなのだと思い絶望したのであった。
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