何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

文字の大きさ
上 下
220 / 233
国落とし編

教わった通りですが?

しおりを挟む
「こんにちは。本日はどうされましたか?」

「どうも。僕たちこの町に来たばかりなんですが、さっそく依頼を受けようと思いまして。盗賊の討伐依頼を受けたいんですが、良いものはありますか?」

「盗賊の討伐依頼ですか?すみませんが、まずはギルドカードをお見せいただいてもよろしいですか?」

「はい」

 カマエルはそう言うと、フィエラたちにもカードを出すよう指示を出し、全員からカードを渡された受付嬢は一枚ずつ確認をしていく。

「ふむ。ラフィさん、ヴィシェさん、アンさん、アリィさん、そしてレハムーさんですか。ん?レハムー?……あぁ、そういう…」

 フィエラたちのカードを順番に確認し、最後にカマエルのカードを見たところで名前と彼の状況を察した受付嬢は、少し軽蔑したような目でカマエルのことを見た。

(うぅ。泣きたい。なんで僕がこんな目に……)

 ルイスの悪戯は思った以上にカマエルに対してダメージを与えていたようで、心の中で泣きながら返されたカードを受け取ると、受付嬢から盗賊討伐の依頼について説明がされる。

「ランクの方に問題はありませんでしたので、盗賊討伐の依頼についてお話しさせていただきます。今この町にある盗賊討伐の依頼は2件で、一つが近くの山にある洞窟を拠点としているもの、もう一つは村を襲い、そこを根城にしている盗賊たちのものになりす。現状と致しましては、洞窟の方には冒険者を派遣いたしましたが失敗に終わり、村の方は最近発覚したことのため、現在は両方とも依頼を受けてくださる冒険者を募集している最中になります」

「募集ということは、盗賊の人数が多いんですか?」

「今回の盗賊団の規模はどちらも中規模程度であり、人数は15人から20人程度という情報が入っております。そのため、今回は冒険者パーティー単体ではなく、複数の冒険者パーティーによる共同依頼として、依頼を出させていただいております」

「なるほど」

 他国と近いところにある小さな町や村は盗賊たちの標的になりやすく、どちらの国の首都からも遠いことと人口が少ないことを理由に、盗賊たちが集まりやすい場所でもあった。

「現在はどちらの依頼もあと一パーティーの参加待ちとなりますので、レハムーさんたちがどちらかの依頼を受けるのであれば、その依頼のため他の冒険者と共に指定された場所へと向かっていただくことになります」

「わかりました。なら両方受けます」

「え、両方ですか?」

「はい」

「ですが、それでは片方の依頼が遅れてしまうことになりますし、他の冒険者も依頼を受けるため迷惑をかけることになってしまいます」

「それなら安心してください。ラフィとアンは村の方に行って、僕とヴィシェ、そしてアリィは洞窟の方に行こう」

「ん。わかった」

「村の方はあたしたちに任せなさい」

「了解よ」

「わかりました」

 カマエルの提案にフィエラたちは当たり前のように頷くが、近くで話を聞いていた受付嬢は思わず驚いてしまう。

「え、パーティーを二つに分けるんですか?」

「はい。彼女たちであれば実力に問題はありませんし、それに他にも冒険者がいるのであれば大丈夫でしょう」

「で、ですがそれでも危ないと思いますよ?あなたはお仲間が心配じゃないんですか?」

 受付嬢はそう言いながらまるで非難するかのようにカマエルを睨むが、その視線を受けた彼は気まずそうに苦笑いしながら説明をする。

「あの、何か誤解しているようですが、僕と彼女たちはそういう関係ではありませんからね。それと、僕たちはランクこそそこまで高いわけではありませんが、実力はある方ですよ。それはすぐに証明できるかと」

「それはいったいどういう……」

「おい兄ちゃん。ちょっと話があんだけだよ」

「ほらね」

 カマエルの言葉にどういうことかと受付嬢が尋ねようとした瞬間、周りにいた5人の男たちがゆっくりと近づいて来ると、下心が透けて見えるような下卑た笑みを浮かべながら話しかけてくる。

「なんですか?」

「お前、聞いてた話によると力に自信があるようだが、どれくらい強いんだ?」

「はは。こんな可愛い嬢ちゃんたちを4人も侍らせるとは、さぞかし強いんだろうなぁ?」

 案の定と言うべきか、4人の美少女を連れているカマエルに嫉妬して近づいてきた男たちは、さながら花に吸い寄せられた虫のようであるが、それが猛毒を持った花であることに彼らは気付いていない。

「そこそこ自信はありますし、あなた方より強いとも思いますが、一つだけ忠告しておきます。彼女たちに気安く触れないように」

「はは!俺たちより強いだぁ?それに彼女たちに触れないようにだとぉ?」

「騎士のように気取ってんじゃねぇぞ!」

「そんなに自信があんなら、自分の女くらい守れるよなぁ!!」

 男たちはそう言うと、リーダーらしき男を残して他の4人がフィエラたちに触れようとするが、残念ながら勝敗は一瞬でついてしまった。

 まず、フィエラに触れようとした男は手を伸ばした瞬間に側頭部を蹴られると、下がった頭を蹴り上げられギルドの天井へと突き刺さる。

 次にシュヴィーナの腰に触れようとした男は彼女に足払いを掛けられると、そのまま地面へと蹴り倒され、胸の辺りを膝で押さえられながれ眼球の前で右手に持った矢を寸止めされる。

 ソニアに向かって近づこうとした男は、一歩近づいた瞬間、彼女の重力魔法によって押し潰され床にめり込み、肋骨が折れたのか苦しそうに呻き声を漏らす。

 最後にセフィリアに近づいた男は、彼女が回復魔法を何重にも掛けた結果、魔力酔いを起こして膝を突き、その場で何度も嘔吐した。

「汚い。触るな」

「あなた如きが触れていいほど、私は安い女じゃないわ」

「あたしに触れて良い距離まで近づくことを許している人は限られてるの。あなたはその対象外だから、それ以上近づかないでくれる?」

「申し訳ありませんが、この体は神とあの方にのみ捧げたものです。なので、無断でお触れにならないようお願い致します」

「……は?」

 仲間が一瞬でやられたことで、リーダーの男は状況を飲み込めないまま呆然と立っているが、それは他の冒険者やギルド職員も同じで、あまりにも一瞬の出来事だったため、誰一人この状況を理解することができなかった。

「だから言ったでしょう。彼女たちに触れないようにと。あれは僕が強いとか、彼女たちを心配しての言葉ではなく、寧ろあなたたちを心配して言ったんですよ」

「こ、これは……いや、まて!俺たちは武器を抜いていなかった!つまりお前たちの行動は正当防衛として認められない!慰謝料を払ってもらうぞ!」

 カマエルの言葉で何とか正気に戻った男が、自分たちが武器を抜いていないことやフィエラたちの行動が正当防衛に当たらないと主張すると、それを聞いた彼女たちが今度は急に萎らしくなる。

「腕を伸ばされて怖かった。殴られると思った。だから正当防衛」

「腰に伸ばされた腕を見た瞬間、そのまま腰を折って殺されると思ったわ。正当防衛よね」

「精神系魔法でも使われたのか、彼が歩き出した瞬間、踏み潰される幻覚を見たような気がする。正当防衛だわ」

「神に捧げたこの身に触れることは簡単に許されるものではありません。それに怖かったので正当防衛ですね」

「だって」

「そんなふざけた言い分が通るわけないだろ!」

「なら、職員さんに聞いてみようか。ねぇ、お姉さん。この状況を見て、どちらに非があると思う?」

「……え?私ですか?」

「そうです」

 まさか自分が話しかけられるとは思っていなかった先ほどの受付嬢は、困惑した様子で男とカマエルたちを見比べるが、そこでふと、先ほどのカマエルの言葉を思い出す。

『なら、両方受けます』

 カマエルは先ほど、盗賊討伐の依頼をパーティーを二つに分けて両方受けると言っていた。

 実はこの討伐依頼の募集が始まったのは四日ほど前なのだが、残り一つのパーティーが見つかっていない状態で数日が経っており、そのせいで他のパーティーからは依頼の参加を辞退したいと言われていたのだ。

「今回は相手が女性であったこと、そして神に仕えるシスターにむやみに触れようとしたことを考慮し、正当防衛とさせていただきます」

「な!?」

「しかし、過剰防衛であったことも認めざるおえない状況のため、今回は互いに慰謝料の請求は認めないものとします。また、レハムーさんのパーティーについては二箇所の破壊がありましたので、そちらの修理費をお支払いください」

「あぁ、はい。わかりました」

 男は最後まで不服そうに文句を言っていたが、フィエラに濃密な殺気を向けられると子犬のようにおとなしくなり、天井から仲間を引き抜いた後、他の仲間も連れてギルドを出て行った。

「レハムーさん。あなたたちのパーティーの実力はわかりました。なので、例外として二つに別れて依頼を受けることを許可します。他の方々には私の方から説明しておきますので、二日後にこの場所に来てください」

「わかりました」

 その後、カマエルはルイスから渡されていたお金で修理費を支払い、胃痛に耐えながらフィエラたちを連れてギルドを出ると、少し怒りを込めた声でフィエラたちに話しかける。

「君たちやりすぎ」

「ん?これはエルに教わったことだから問題ない。それに、エルも敵には容赦するなって言ってた」

「そうね。彼なら腕くらい折ってたと思うわよ?」

「え」

「実際、前にエルに絡んできた人は、腕を切り落とされたり、腕と足の腱を切られて、魔力回路も壊された」

「は?」

「私の時は両足を切り落として動けなくした後、氷の剣で刺したり炎で死なない程度に焼いたりしていたわね」

「それ……本気で言ってる?」

「ん。だから私たちはまだ優しい方」

「そうね。それに、レハムーもよく言ってたわよね?彼がいれば、彼も言ってたって」

「ん。つまり、私たちはエルに言われた通り」

「教わった通り」

『やっただけ』

(やられた。これ、僕の言葉が完璧に裏目に出たやつじゃん)

 最後に声を合わせてニヤリと笑ったフィエラとシュヴィーナの姿は、まるで悪戯が成功した時のルイスにそっくりで、謎の敗北感と悔しさがカマエルの胸を一杯にする。

 フィエラたちがルイスを仄めかされる度にカマエルの指示に従っていたのは、こういう状況でルイスに教えられた事だからと逆手に取るためであり、それを察することのできなかったカマエルは、ただ彼女たちによって揶揄われていただけだった。

(帰ったら覚えてろよルイス。絶対にやり返してやる)

 何もしていないにも関わらず、何故かカマエルに復讐されることが決まったルイスは、この作戦が終わった後、忙しい夏休みを過ごすことになる。

 ちなみにだが、彼女たちの他にもカマエルの胃に大ダメージを与えた者がいた。

 それは唯一の常識枠だと思っていたセフィリアで、彼女は怒らせると歯止めが効かなくなることを知ったカマエルは、結局このパーティーにいる常識枠は自分だけなのだと思い絶望したのであった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

破滅を逃れようとした、悪役令嬢のお話

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥その恋愛ゲームは、一見するとただの乙女ゲームの一つだろう。 けれども、何故かどの選択肢を選んだとしても、確実に悪役令嬢が破滅する。 そんなものに、何故かわたくしは転生してしまい‥‥‥いえ、絶望するのは早いでしょう。 そう、頑張れば多分、どうにかできますもの!! これは、とある悪役令嬢に転生してしまった少女の話である‥‥‥‥ ――――――― (なお、この小説自体は作者の作品「帰らずの森のある騒動記」中の「とある悪魔の記録Ver.2その1~6」を大幅に簡略したうえで、この悪役令嬢視点でお送りしています。細かい流れなどを見たいのであれば、どちらもどうぞ)

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

処理中です...