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国落とし編
前哨戦
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アイリスたちと別れた後、俺とミリアは屋根の上を走りながら、誰にも気づかれることなく例の酒場へとやってくる。
「ここで間違いないね?」
「はい」
酒場は昨日の一件で今日は店を閉めているのか、感知魔法で調べてみても中から人の気配は感じられない。
しかし、地下には他のクランメンバーが全員集まっているようで、奴らは作戦会議でもしているのか一箇所に集まっていた。
「どうやら全員下に集まってるみたいだね」
「そのようですね。どうされますか?」
「そうだなぁ」
全員が一箇所に集まっているのであれば、ミリアの毒を使ってまとめて始末することも可能だろう。
だが……
「それじゃあ面白くないよな。このまま堂々と行こうか」
「かしこまりました」
ミリアやアイリスたちであれば、奇襲や搦手を使うかもしれないが、俺は基本的に正面から殺し合うのが好きだ。
だってその方が、相手も油断せずに正面から俺を殺しに来てくれて楽しいのだから。
そうして俺たちは、気配遮断も認識阻害も使うことなく堂々と酒場の扉から入っていくと、感知魔法で見つけた隠し扉から下へと続く階段を下っていく。
「おぉ~、思ったより広いんだね」
「はい。私も最初にここへ来た時は少し驚きましたが、それだけ規模の大きいクランということでしょう」
「だね。まぁ、いろんな犯罪をやってるみたいだし、これだけ規模が大きくなるのもある意味当然なのかもね」
「そうかもしれませんね。すでに人数は半分以下になりましたが」
「はは。それはお前がやったことだろう?随分と他人事みたいに言うんだね」
「ルーナさんのご指示でしたから」
「ふーん。お前も言うようになったじゃん」
一緒に旅に出たことで、前よりもミリアが俺に対して言い返すようになったが、この程度で気分を悪くする俺でもないため、揶揄いついでにニヤリと笑って返す。
「まぁ、私は一々こんなことで怒ったりしないし、気にしないからいいんだけどさ」
「ありがとうございます」
「っと。ここだね」
ミリアと話していれば、あっという間に地下施設の最奥へと辿り着き、目の前にはそこそこ大きな扉が現れる。
「ははは。無駄に金がかかってるなぁ」
「ですね。犯罪組織のくせに、何とも生意気と言いますか」
「別にいいじゃないか?人の好みはそれぞれなんだし。それより……」
「はい。どうやら中の者たちがルーナさんをお待ちのようですね。良い心がけだと思います」
ミリアの言う通り、気配感知で中を調べてみれば、すでに武装している毒蛇の連中の気配が伝わってきて、彼ら一人一人から明確な殺意が感じられた。
「んじゃ、いつまでも待たせるのも悪いし、さっそく入りますか」
「かしこまりました」
そう言ってミリアが扉を開けると、中には武器を構えた男たちが20人ほどおり、彼らは中央の道を開けるように分かれて俺たちのことを睨んでくるが、その道を真っ直ぐ行った先では大きな椅子に座る女がこちらを見下ろしていた。
「これはまた、随分と歓迎されているね」
「そうですね。今にも襲ってきそうなほどの熱烈な歓迎です」
俺たちはそんな軽口を言い合いながら中央の道を歩いていくと、女が座る場所へと繋がる階段の前で足を止める。
女の見た目はアイリスの報告通り緑色の髪をしており、他に特徴をあげるなら左目のあたりに大きな切り傷がある事と、浅黒く焼けた茶色い肌と黒い瞳が印象的だった。
「あんたらが、群青の彗星ってパーティーかい?」
「別に自分たちで名乗ってるわけじゃないけど、確かにそう呼ばれてはいるね」
「ふん。思った以上に小娘じゃないか」
「ふふ。そう言うあんたは、思ったよりおばさんだね?40くらいかな?」
「はん。口が達者なのは聞いた話の通りだね。本当に生意気な小娘だ」
軽く煽るつもりで年齢のことを言ってみたが、彼女は特に気にした様子もなく言葉を続けると、俺たちの実力を測るように目を細める。
「それで?あんたらがうちに何のようだい」
「あらあら、もうボケちゃったのかなおばあちゃん?私たちにこの町に来いって言ったのはおたくらだったと思うんだけど?」
「そうかい。なら用も済んだし、もう帰ったらどうだい?」
「残念。それがまだ用事は終わってないんだよねぇ。私、あそこにいるあんたのお仲間さんに言ったんだよ……このクランを潰すってさ」
「てめぇ!!!」
俺たちを勧誘しに来た男を指差しながらそう言うと、その男は顔を真っ赤にしながら怒鳴り出し、今にも俺たちに襲い掛かりそうな勢いを見せる。
「潰す……ね。たった二人しかいないお前たちに、それができるとでも思ってるのかい?」
「できるできないじゃない。これはもう決定事項なんだ。現に、お前たちのクランの半数以上が一晩で死んだだろう?」
「まさか。あれはお前たちが?」
俺がそう言ってニヤリと笑えば、それだけで昨日のことを思い出したのか、女は少しだけ怒りを含ませた声で尋ねてくる。
「私たちが……というより、ここにいるミーゼが一人でね」
「おかげで良いデータが取れました。私の即逝きちゃんたちも喜んでおります」
「だって。よかったね、即逝きちゃんの糧になれて」
「てめぇ!!もう許さねぇ!!」
我慢ができなくなったのか、俺たちを勧誘しに来た男が一人で突っ込んで来たので、俺は収納魔法から短剣を一本取り出すと、突き出された拳を避けながら逆手に持った短剣で肘の辺りを切り上げる。
「あぁぁぁぁあ!!!?」
男の腕は筋肉質で切りにくそうに見えたが、肘の関節部分まで筋肉で守られている訳ではないため、骨と骨の繋ぎ目を狙って短剣を振れば、簡単に腕を切り落とすことができた。
「うるさいなぁ。たかが腕の一本如きで喚かないでよ。てか、何でお前一人なの?イッチーたちはどうしたん?」
「お前が!お前たちが俺の部下を殺したんだろうが!!!」
そう言われて改めて周りを見てみれば、確かにあの真ん中だけを残した特徴的な髪型をした奴らは一人もおらず、唯一名前を知っていたイッチーの姿はどこにもなかった。
「私らが殺したか。ミーゼ、殺した記憶は?」
「ありませんね。短剣で殺していれば覚えていましたが、記憶にないということは毒によって殺してしまったのかと」
「だって。ごめんね?うちの子が知らないうちに殺しちゃったみたいで」
「そんな、うちの子だなんて。いくら私でも照れてしまいます」
どこに照れる要素があったのかは分からないが、ミリアは場違いにも頬赤らめながらそう言うと、頬に手を当てて熱っぽい息を吐く。
「殺す!お前たちだけは絶対にこの手で殺してやる!!」
それに対し、未だ跪いたまま切り落とされた腕を押さえている男は、まるで俺たちを呪い殺すかのように睨んでくる。
「はぁ。なんでこういう奴らは最後のセリフがワンパターンなんだろうな。いい加減聞き飽きたよ」
「知能が足りないのでしょうね」
「それに、この手で殺すって言うけど、お前もう片腕ないじゃん」
「殺してやる!絶対に!絶対に殺して……」
「もう黙れよ」
同じことしか言わなくなった男に飽きた俺は、容赦なく男の頭を収納魔法から取り出したイグニードで切り落とすと、黙ってこちらを見続けていた女に視線を戻した。
「さて。話すことも無くなってきたし、そろそろ殺り合わない?」
「ふん。確かに腕はそこそこ立つようだね。けど、お前たちには足りないものがある。人間がどうやって長い間生き残ってきたのか、それを教えてやろうじゃないか」
女がそう言って指を鳴らせば、壁の奥からぞろぞろと人が出てきて、広場には元々いた20人に新しく30人ほどが加わり、その数は50人となった。
「私らだって、この一日で何もしていなかった訳じゃない。他の町にいた仲間と近くにいた盗賊たちを全部集めて、犯人が戻って来るのを待っていたのさ。これが、人間が長い間生きながらえてきた人海戦術ってやつだ。とくと味わって死にな」
女は勝ち誇った顔で笑い、俺たちを取り囲んだ男たちも下卑た笑みを浮かべているが、何もこの状況で笑っているのは彼女たちだけではない。
「ふ、ふふ……あっははははは!」
俺が突然笑い出したことで、女たちは俺の頭がおかしくなったとでも思ったのか訝しむように見てくるが、残念ながら俺の頭は至って正常だ。
「確かに。あんたの言う通り、人間がここまで絶滅せずに生きてこられたのは数が多かったからだ。なら、ドラゴンたちがそんな状況でも生き残ることができた理由は何だと思う?」
「何をおかしなことを。この状況を見て頭がおかしくなっちまったようだね。お前たち、やっちまいな!」
女の言葉と共に毒蛇や盗賊たちは武器を掲げて駆け寄ってくるが、それに対して俺は静かに腰を落としてイグニードを横に構えると、ゆっくりと魔力を流し込んでいく。
俺の流し込む魔力の量に応じて、イグニードの纏う炎が赤から白、そして青へと変わり、最後は黒い炎へと変わった。
「『黒炎刀・焔』」
イグニードの纏う炎が最高火力に達した瞬間。俺は腕の余分な力を抜いて剣を横に一閃すると、黒炎を纏った斬撃が男たちに吸い込まれるように飛んでいき、一瞬にして数十人の首や胴を切り裂く。
「……は?」
誰が漏らしたのか分からないその声に反応するかのように、先ほどまで意気込んでいた男たちが足を止めると、今度はまるで化け物でも見るような目で俺のことを見てくる。
「これでわかっただろ?ドラゴンが数に負けず生き残れたのは、圧倒的な強さがあったからだ。つまり、私の前では寄せ集めのゴミ共は所詮ゴミでしかないってことだよ」
普通であれば、自身をゴミ呼ばわりされれば噛み付いてくる者もいるはずだが、今は恐怖と混乱が感情を支配しているのか、誰一人として反論してくる者はいなかった。
「さて。お遊びはもう終わりだ。ミーゼ」
「はい」
「残り30人くらいいるけど、一人でやれるよね?」
「お任せください」
「なら任せるよ。あ、一応言っておくけど……」
「生け捕りにしておきます」
「さすが。んじゃ、私はあれを相手にしてくるよ」
「いってらっしゃいませ」
ミリアに残りを任せた俺は、ゆっくりと女のもとへと歩いていくが、周りにいた奴らはすっかり戦意が無くなってしまったのか、怯えた様子で俺に道を開けてくれる。
「さぁ。殺し合おうよ、おばさん」
「チッ。こりゃあ、とんだ化け物が来ちまったね」
女はそう言って椅子から立ち上がると、腰に下げていた剣を抜き、それを地面へと突き刺した。
「あたしの名はナグライア。毒蛇の鉤爪のリーダーだ」
「私はルーナ。ただのBランク冒険者だよ」
こうして、毒蛇の鉤爪のリーダーであるナグライアと俺の戦闘が、ようやく始まろうとしていた。
「ここで間違いないね?」
「はい」
酒場は昨日の一件で今日は店を閉めているのか、感知魔法で調べてみても中から人の気配は感じられない。
しかし、地下には他のクランメンバーが全員集まっているようで、奴らは作戦会議でもしているのか一箇所に集まっていた。
「どうやら全員下に集まってるみたいだね」
「そのようですね。どうされますか?」
「そうだなぁ」
全員が一箇所に集まっているのであれば、ミリアの毒を使ってまとめて始末することも可能だろう。
だが……
「それじゃあ面白くないよな。このまま堂々と行こうか」
「かしこまりました」
ミリアやアイリスたちであれば、奇襲や搦手を使うかもしれないが、俺は基本的に正面から殺し合うのが好きだ。
だってその方が、相手も油断せずに正面から俺を殺しに来てくれて楽しいのだから。
そうして俺たちは、気配遮断も認識阻害も使うことなく堂々と酒場の扉から入っていくと、感知魔法で見つけた隠し扉から下へと続く階段を下っていく。
「おぉ~、思ったより広いんだね」
「はい。私も最初にここへ来た時は少し驚きましたが、それだけ規模の大きいクランということでしょう」
「だね。まぁ、いろんな犯罪をやってるみたいだし、これだけ規模が大きくなるのもある意味当然なのかもね」
「そうかもしれませんね。すでに人数は半分以下になりましたが」
「はは。それはお前がやったことだろう?随分と他人事みたいに言うんだね」
「ルーナさんのご指示でしたから」
「ふーん。お前も言うようになったじゃん」
一緒に旅に出たことで、前よりもミリアが俺に対して言い返すようになったが、この程度で気分を悪くする俺でもないため、揶揄いついでにニヤリと笑って返す。
「まぁ、私は一々こんなことで怒ったりしないし、気にしないからいいんだけどさ」
「ありがとうございます」
「っと。ここだね」
ミリアと話していれば、あっという間に地下施設の最奥へと辿り着き、目の前にはそこそこ大きな扉が現れる。
「ははは。無駄に金がかかってるなぁ」
「ですね。犯罪組織のくせに、何とも生意気と言いますか」
「別にいいじゃないか?人の好みはそれぞれなんだし。それより……」
「はい。どうやら中の者たちがルーナさんをお待ちのようですね。良い心がけだと思います」
ミリアの言う通り、気配感知で中を調べてみれば、すでに武装している毒蛇の連中の気配が伝わってきて、彼ら一人一人から明確な殺意が感じられた。
「んじゃ、いつまでも待たせるのも悪いし、さっそく入りますか」
「かしこまりました」
そう言ってミリアが扉を開けると、中には武器を構えた男たちが20人ほどおり、彼らは中央の道を開けるように分かれて俺たちのことを睨んでくるが、その道を真っ直ぐ行った先では大きな椅子に座る女がこちらを見下ろしていた。
「これはまた、随分と歓迎されているね」
「そうですね。今にも襲ってきそうなほどの熱烈な歓迎です」
俺たちはそんな軽口を言い合いながら中央の道を歩いていくと、女が座る場所へと繋がる階段の前で足を止める。
女の見た目はアイリスの報告通り緑色の髪をしており、他に特徴をあげるなら左目のあたりに大きな切り傷がある事と、浅黒く焼けた茶色い肌と黒い瞳が印象的だった。
「あんたらが、群青の彗星ってパーティーかい?」
「別に自分たちで名乗ってるわけじゃないけど、確かにそう呼ばれてはいるね」
「ふん。思った以上に小娘じゃないか」
「ふふ。そう言うあんたは、思ったよりおばさんだね?40くらいかな?」
「はん。口が達者なのは聞いた話の通りだね。本当に生意気な小娘だ」
軽く煽るつもりで年齢のことを言ってみたが、彼女は特に気にした様子もなく言葉を続けると、俺たちの実力を測るように目を細める。
「それで?あんたらがうちに何のようだい」
「あらあら、もうボケちゃったのかなおばあちゃん?私たちにこの町に来いって言ったのはおたくらだったと思うんだけど?」
「そうかい。なら用も済んだし、もう帰ったらどうだい?」
「残念。それがまだ用事は終わってないんだよねぇ。私、あそこにいるあんたのお仲間さんに言ったんだよ……このクランを潰すってさ」
「てめぇ!!!」
俺たちを勧誘しに来た男を指差しながらそう言うと、その男は顔を真っ赤にしながら怒鳴り出し、今にも俺たちに襲い掛かりそうな勢いを見せる。
「潰す……ね。たった二人しかいないお前たちに、それができるとでも思ってるのかい?」
「できるできないじゃない。これはもう決定事項なんだ。現に、お前たちのクランの半数以上が一晩で死んだだろう?」
「まさか。あれはお前たちが?」
俺がそう言ってニヤリと笑えば、それだけで昨日のことを思い出したのか、女は少しだけ怒りを含ませた声で尋ねてくる。
「私たちが……というより、ここにいるミーゼが一人でね」
「おかげで良いデータが取れました。私の即逝きちゃんたちも喜んでおります」
「だって。よかったね、即逝きちゃんの糧になれて」
「てめぇ!!もう許さねぇ!!」
我慢ができなくなったのか、俺たちを勧誘しに来た男が一人で突っ込んで来たので、俺は収納魔法から短剣を一本取り出すと、突き出された拳を避けながら逆手に持った短剣で肘の辺りを切り上げる。
「あぁぁぁぁあ!!!?」
男の腕は筋肉質で切りにくそうに見えたが、肘の関節部分まで筋肉で守られている訳ではないため、骨と骨の繋ぎ目を狙って短剣を振れば、簡単に腕を切り落とすことができた。
「うるさいなぁ。たかが腕の一本如きで喚かないでよ。てか、何でお前一人なの?イッチーたちはどうしたん?」
「お前が!お前たちが俺の部下を殺したんだろうが!!!」
そう言われて改めて周りを見てみれば、確かにあの真ん中だけを残した特徴的な髪型をした奴らは一人もおらず、唯一名前を知っていたイッチーの姿はどこにもなかった。
「私らが殺したか。ミーゼ、殺した記憶は?」
「ありませんね。短剣で殺していれば覚えていましたが、記憶にないということは毒によって殺してしまったのかと」
「だって。ごめんね?うちの子が知らないうちに殺しちゃったみたいで」
「そんな、うちの子だなんて。いくら私でも照れてしまいます」
どこに照れる要素があったのかは分からないが、ミリアは場違いにも頬赤らめながらそう言うと、頬に手を当てて熱っぽい息を吐く。
「殺す!お前たちだけは絶対にこの手で殺してやる!!」
それに対し、未だ跪いたまま切り落とされた腕を押さえている男は、まるで俺たちを呪い殺すかのように睨んでくる。
「はぁ。なんでこういう奴らは最後のセリフがワンパターンなんだろうな。いい加減聞き飽きたよ」
「知能が足りないのでしょうね」
「それに、この手で殺すって言うけど、お前もう片腕ないじゃん」
「殺してやる!絶対に!絶対に殺して……」
「もう黙れよ」
同じことしか言わなくなった男に飽きた俺は、容赦なく男の頭を収納魔法から取り出したイグニードで切り落とすと、黙ってこちらを見続けていた女に視線を戻した。
「さて。話すことも無くなってきたし、そろそろ殺り合わない?」
「ふん。確かに腕はそこそこ立つようだね。けど、お前たちには足りないものがある。人間がどうやって長い間生き残ってきたのか、それを教えてやろうじゃないか」
女がそう言って指を鳴らせば、壁の奥からぞろぞろと人が出てきて、広場には元々いた20人に新しく30人ほどが加わり、その数は50人となった。
「私らだって、この一日で何もしていなかった訳じゃない。他の町にいた仲間と近くにいた盗賊たちを全部集めて、犯人が戻って来るのを待っていたのさ。これが、人間が長い間生きながらえてきた人海戦術ってやつだ。とくと味わって死にな」
女は勝ち誇った顔で笑い、俺たちを取り囲んだ男たちも下卑た笑みを浮かべているが、何もこの状況で笑っているのは彼女たちだけではない。
「ふ、ふふ……あっははははは!」
俺が突然笑い出したことで、女たちは俺の頭がおかしくなったとでも思ったのか訝しむように見てくるが、残念ながら俺の頭は至って正常だ。
「確かに。あんたの言う通り、人間がここまで絶滅せずに生きてこられたのは数が多かったからだ。なら、ドラゴンたちがそんな状況でも生き残ることができた理由は何だと思う?」
「何をおかしなことを。この状況を見て頭がおかしくなっちまったようだね。お前たち、やっちまいな!」
女の言葉と共に毒蛇や盗賊たちは武器を掲げて駆け寄ってくるが、それに対して俺は静かに腰を落としてイグニードを横に構えると、ゆっくりと魔力を流し込んでいく。
俺の流し込む魔力の量に応じて、イグニードの纏う炎が赤から白、そして青へと変わり、最後は黒い炎へと変わった。
「『黒炎刀・焔』」
イグニードの纏う炎が最高火力に達した瞬間。俺は腕の余分な力を抜いて剣を横に一閃すると、黒炎を纏った斬撃が男たちに吸い込まれるように飛んでいき、一瞬にして数十人の首や胴を切り裂く。
「……は?」
誰が漏らしたのか分からないその声に反応するかのように、先ほどまで意気込んでいた男たちが足を止めると、今度はまるで化け物でも見るような目で俺のことを見てくる。
「これでわかっただろ?ドラゴンが数に負けず生き残れたのは、圧倒的な強さがあったからだ。つまり、私の前では寄せ集めのゴミ共は所詮ゴミでしかないってことだよ」
普通であれば、自身をゴミ呼ばわりされれば噛み付いてくる者もいるはずだが、今は恐怖と混乱が感情を支配しているのか、誰一人として反論してくる者はいなかった。
「さて。お遊びはもう終わりだ。ミーゼ」
「はい」
「残り30人くらいいるけど、一人でやれるよね?」
「お任せください」
「なら任せるよ。あ、一応言っておくけど……」
「生け捕りにしておきます」
「さすが。んじゃ、私はあれを相手にしてくるよ」
「いってらっしゃいませ」
ミリアに残りを任せた俺は、ゆっくりと女のもとへと歩いていくが、周りにいた奴らはすっかり戦意が無くなってしまったのか、怯えた様子で俺に道を開けてくれる。
「さぁ。殺し合おうよ、おばさん」
「チッ。こりゃあ、とんだ化け物が来ちまったね」
女はそう言って椅子から立ち上がると、腰に下げていた剣を抜き、それを地面へと突き刺した。
「あたしの名はナグライア。毒蛇の鉤爪のリーダーだ」
「私はルーナ。ただのBランク冒険者だよ」
こうして、毒蛇の鉤爪のリーダーであるナグライアと俺の戦闘が、ようやく始まろうとしていた。
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