何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

文字の大きさ
上 下
208 / 233
国落とし編

夜は終わらない

しおりを挟む
 冒険者ギルドから転移魔法で宿屋に戻ってくると、そこには俺たちの帰りを待っていたシャルエナと、アイリスが助けた獣人の男性、そしてその彼を手当するミリアの姿があった。

「おかえり、ルーナ。それとお疲れ様、リリィ」

「ただいま」

「ありがとうございます。ナルシェさん」

 ミリアはさすがというべきか、慣れた手つきで獣人の男性を手当てしており、回復薬も使ったのか欠損した耳や手の指以外は傷口が塞がっていた。

 そしてシャルエナの方は、フーシルとの戦闘後は鏡の蝶を解除していたため、俺が拷問をしたことやローグランドのこともまだ知らず、いつもと変わらない雰囲気で周囲の警戒をしていた。

「それで、竜人族の方はどうなったのかな?」

「それなら話し合いで解決したよ。今は指示した通りに動いてるはずだ」

「竜人族に指示とは、純粋に褒めるべきなのかあり得ないと否定するべきなのか。いや、あの戦闘を見た後だから褒めるべきなのかな」

「別に褒められるほどのことでもないよ。あいつ弱かったし」

「はは。本当に君は強くなったんだね」

 シャルエナは呆れ混じりに笑いながらそう言うと、周囲の警戒を俺に任せてベッドへと座る。

「それじゃ、彼を休ませたいところではあるけど必要なことの確認をしたいと思う。ルーナとリリィも疲れているとは思うが、情報の共有は早い方がいい。明日にでもギルドやクランが動くかもしれないからね」

「別に構わないよ。ただ、眠いから早めに終わらせよう。ふわぁ~」

「私も大丈夫ですよ。戦闘の方はほとんどルーナさんがやってくれましたから」

「ありがとう。ミーゼとそちらの男性もいいかな?特にあなたは監禁と拷問のせいで辛いと思うけど、協力してもらえると助かる」

「問題ありません」

「私もその意見には賛成です。なので私のことなど気にせず話を続けてください」

 ミリアと獣人の男性が同意したことで、シャルエナは俺に音が外に漏れないよう遮音魔法を掛けるよう指示を出すと、魔法が展開されたのを確認してから話し始める。

「まず、あなたのお名前を聞いても?リリィが助けるところまでは魔法で見ていたんだけど、音までは拾えなくてね。名前や何故あそこにいたのかを教えてもらえる?」

「わかりました。まず、私の名前はロニィで、カーリロの冒険者ギルドで副ギルドマスターをしていました。しかし、今から二週間ほど前、私は密かに集めていたギルマスと毒蛇の鉤爪、そしてこの町にいる騎士たちの悪事に関する証拠を帝都のギルドに送ろうとしていたところ捕まりました。幸いにも、捕まる前に証拠を隠すことはできましたが、逃げ切ることができず、その後はあの牢獄にて証拠のありかについて話すよう拷問を受けていたのです」

「なるほど。なら、他に仲間は?」

「同じギルド職員で何人かいましたが、監禁されてから彼らがどうなったのかはわかりません」

「ふむ」

 ロニィの話を聞いたシャルエナは、テーブルを指でトントンと叩きながらしばらく考えると、今度は俺の方に目を向けて話しかけてくる。

「ルーナ」

「んー?」

「眠そうなところすまないね。君のことだからすでに手を回しているんだろうけど、そっちはどうなってるかな?」

「あー、今確認するから少し待って」

 俺はそう言って感知魔法の範囲を広げていくと、ヴァレンタイン公爵領の首都ヴィーラントと帝都パラミティアからこの町に向かってくる2つの集団を感知する。

「このペースだと、うちの方が二日で、ナルシェの方が三日ってところかな」

「二日と三日か。リリィ、竜人族は何故あの場所に現れたのかな」

「ロニィさんを引き取りに来たと言っていました。おそらくですが、ギルドマスターと竜人族の間でそういった取引があったのではないかと」

「なら、ロニィが消えてもギルドマスターは何も思わないか。ミーゼ。君の方はどれくらい時間が稼げそうかな」

「長くても二日ですね。私たちは既に彼らの敵として判断されていますから、毒や武器、切り口などを変えながら複数人の犯行に見えるよう偽装したところで、私たちだと決め付けられれば意味がありません」

「なるほど」

 俺たちの報告を聞いたシャルエナは、また考え込むような様子を見せるが、この中で状況について行けてないロニィが小さく手を挙げる。

「あの、すみません。皆さんのお話について行けてないのですが……」

「あぁ、そうだね。そういえば、私たちのことをまだ説明していなかった。まず、私たちは冒険者だ。名前は今更だから置いておくとして、私たちがこの町に来たのは、別の町で毒蛇の鉤爪に勧誘されたからなんだ」

「え、それじゃあ……」

「いや。あなたが考えているようなことはないから安心してくれ。私たちはその場で断った……というか、寧ろ喧嘩になってしまってね。それで、うちのリーダーが彼らを潰したくなったようで、彼らに招待されてこの町に来たんだ」

「なるほど、そういうことでしたか」

「それで手分けして動いていたんだけど、ミーゼには毒蛇の鉤爪の人数減らし、リリィにはギルドとクランが繋がっている証拠を手に入れてもらうために潜入をしてもらってたんだ」

「事情はわかりました。では、ルーナさんが仰っていた日数については?」

「それはルーナ自身が説明した方が早いかもね」

「まぁ簡単に言えば、騎士と代わりのギルド職員が到着するまでの時間。騎士がクランと手を組んでいるのは初めからわかっていたし、ギルドが繋がっているのは今日の朝ギルドに行った時にわかった。だから、依頼を受けて近くの森に行った時、魔法でヴァレンタイン公爵領の騎士と帝都のギルドにこの町の事情を書いた手紙を送り、代わりの人員を送ってもらうようお願いしたんだ」

 ルーマルーニャの町に毒蛇の連中が来た時、彼らは騎士に話を通しておくと言っていた。

 つまり、彼らと騎士との間に繋がりがあるのは明白であり、今朝ギルドに入った時のギルド職員の反応を見た時、ギルドも毒蛇と手を組んでいることがわかった。

 カーリロの町はヴァレンタイン公爵家の管轄であるため、この町の状況と騎士について父上に魔法で手紙を送り、冒険者ギルドのことは帝国のギルドをまとめているシャーラーに報告をし、代わりの職員を手配してもらえるよう依頼をしておいたのだ。

「まぁそんな訳で、あとはあなたの集めたという証拠があれば、私たちの方で全てを片付けることが可能だ。証拠は私たちの方で保管した方が安全だろうから、明日にでも取りに行こう。その時はミーゼが付き添ってくれればと思うんだが、いいかな。全員で行くと目立ってしまうからね」

「かしこまりました」

「ありがとう。それじゃあ話はここまでにしてそろそろ休もうか。ルーナも、待たせてしまってごめんね」

「いや、それはいいんだけど。私も話さないといけないことがあるし……」

「ミーゼ、ロニィさん。私たちは隣の部屋に行きましょう」

 俺はそう言ってアイリスの方を少し見ると、彼女はすぐに伝えたいことを理解し、ミリアとロニィを連れて部屋を出て行く。

 それを確認すると、俺は何重にも遮音魔法を掛け、さらに結界魔法と認識阻害の魔法まで使用して外部に情報が漏れないようにする。

「ロニィはともかく、二人も出したということは私に関する話なのかな?」

「そうですね。今から話すことは、ナルシェではなく、シャルエナ・ルーゼリアにとって重要な話になります」

「………わかった」

 俺がシャルエナのことをフルネームで呼んだためか、事の重要性を理解した彼女は先ほどよりも真剣な表情で頷いた。

「それで、話しって何かな?」

「んー、どう伝えるべきか迷いましたが、俺もあなたも周りくどいのは嫌いなので単刀直入にいいましょう。あなたの叔父、ローグランド・ルーゼリアが生きています」

 こうして、面倒な役割だと思いながらも、俺は彼女に竜人族であるフーシルから手に入れた情報を話し、まだ終わることのない長い夜を迎えるのであった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

破滅を逃れようとした、悪役令嬢のお話

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥その恋愛ゲームは、一見するとただの乙女ゲームの一つだろう。 けれども、何故かどの選択肢を選んだとしても、確実に悪役令嬢が破滅する。 そんなものに、何故かわたくしは転生してしまい‥‥‥いえ、絶望するのは早いでしょう。 そう、頑張れば多分、どうにかできますもの!! これは、とある悪役令嬢に転生してしまった少女の話である‥‥‥‥ ――――――― (なお、この小説自体は作者の作品「帰らずの森のある騒動記」中の「とある悪魔の記録Ver.2その1~6」を大幅に簡略したうえで、この悪役令嬢視点でお送りしています。細かい流れなどを見たいのであれば、どちらもどうぞ)

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

処理中です...