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国落とし編

初めての依頼

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 冒険者ギルドへと入った俺たちだったが、ギルド内は外まで聞こえていた騒々しさは無く、俺たちの方をじっと見てくる視線だけがある。

「なんか、すごい視線を感じるね」

「そうですね。まぁこれもいつものことでは?」

「はい。ですが、一番視線を集めているのは……」

 アイリスたちはそう言って一番後ろに立つ俺の方を見ると、三人で納得したように頷いた。

「なんだ?」

 三人は突然俺の方を見てくるが、当の俺は彼女たちがこちらを見ている理由が分からず、首を傾げることしかできない。

「何が言いたいのかはわからないが、とりあえず依頼掲示板を見に行こう」

 俺はそう言って冒険者たちが群がっている依頼掲示板の元へと向かっていくと、何故か目の前にいた冒険者たちが左右へと分かれて道を作る。

 その理由は分からなかったが、正直待つのが面倒だと思っていたので、俺たちは遠慮なくその道を通らせてもらう。

「凄いですね」

「本当だね。美しさだけで人に道を作らせるとは、女として負けた気がするな」

「仕方がありません。ルーナさんですから」

 後ろで三人が何かを話していたが、俺はそれを無視して依頼掲示板に貼られている依頼内容に目を通し、適当な依頼をいくつか取っていく。

「決まりましたか?」

「うん。Bランクの魔物タイガーベアーとオーガ、あとはCランクのゴブリンの群れの討伐。この三つを受ける」

 俺が選んだのは、熊の体に虎の頭を持ったタイガーベアーという魔物で、こいつは普通の虎系の魔物よりも気性が荒く、さらに熊のように仁王立ちして爪で攻撃してくるため動きが読みづらく、並の冒険者なら戦うのは苦労する魔物だ。

 オーガは以前にも戦ったことのある魔物で、鬼のような見た目に手に持った棍棒、そして筋肉質で硬い体が厄介で、同ランクの冒険者が複数で挑むような強敵だ。

 最後がゴブリンの群れ。ゴブリンは一般的には弱い魔物とされているが、その繁殖力は驚異的で、数が増え過ぎれば討伐依頼の難易度もそれに合わせて上がっていく。

 今回のようなCランクの依頼の場合には、事前調査で普通のゴブリンが50体ほどの群れを作っている場合に出される依頼の難易度だが、この依頼は少し違った。

 俺が手にしたこの依頼は、群れを作っているゴブリンの数は30体程度と基準値よりも少ないが、その代わりゴブリンシャーマンという普通のゴブリンの上位種が確認されたと記載が書かれてある。

 ゴブリンシャーマンは魔法とは違う呪術という力を使うのだが、これは人間で言うところの補助魔法のようなもので、祈りを捧げることで仲間たちの身体能力や知力を上昇させる厄介な魔物だ。

 そのため、数は少なくてもゴブリン一体の身体能力が上がれば脅威となるので、依頼の難易度も高めに指定されているのだ。

「オーガですか」

「そういえば、リリィは前にオーガの群れに襲われていたことがあったね」

「はい。そこをルーナさんたちに助けてもらいました。懐かしいですね」

 アイリスはそう言って楽しそうに笑うと、改めてあの時のお礼を言ってくる。

「気にしなくて良いよ。あの時はたまたま依頼を受けていたのがオーガの討伐依頼だっただけで、助けるつもりなんて無かったからさ」

「ふふ。それでも、助けていただいたことは嬉しかったですよ。あの時のルーナさんは本当に素敵で、私思わず胸を押さえてしまうほどでした。あの胸の高鳴りは今でも忘れられず、思い出しただけでもドキドキが止まりません。あの後逃げられてしまったのは少し悲しかったですが、それでも助けていただいたという事実だけで嬉しくて幸せで。私は本当に……」

「そ、そう。もういいよ」

 あの時のことを思い出したアイリスは、早口でその時の自分と俺のことについて語り出したので、終わりそうにないことを察した俺は若干引きつつもその話を止めさせる。

「二人とも。いつまでも遊んでないで、そろそろ依頼を受けに行こうか。周りからの視線もあるしさ」

 シャルエナに言われて周りに目を向けてみれば、確かに左右に分かれていた冒険者たちが興味深げに俺たちのことを見ており、目が合った男とたちは何故か耳まで赤くして目を逸らす。

「ルーナはあまり人と目を合わせない方がいいね。勘違いさせてしまうだろうから」

「何を言ってるんだか。とりあえず、ナルシェの言う通り移動しようか。ここにいるだけじゃ時間の無駄だし」

 夏休みの期間は遠方から来ている生徒のことも考えて二ヶ月と長めに設けられてはいるが、それでも二ヶ月しかないため早めに行動するに越したことはなく、こうして話している時間があるくらいなら依頼を一つでも多く達成し、自分たちの強さを標的たちに分らせる方が有益だ。

 その後、来た時と同じように人が作り出した道を堂々と歩いて行った俺たちは、受付の女性に対応してもらい、三つの依頼を受けるのであった。




「ミーゼ!右からゴブリンが来ています!そちらの気を引いてください!」

「了解です」

「ナルシェさんは後方に隠れているゴブリンシャーマンをお願いします!左と正面のゴブリンたちは私が動きを止めておきますので、そのまま駆け抜けてください!」

「わかったよ」

「ルーナさんはナルシェさんがゴブリンシャーマンの所まで行けるよう、空中に足場の用意をお願いします」

「りょーかい」

 俺たちは現在、ルーマルーニャの町から少し離れたところにある森林地帯へと来ており、タイガーベアーとオーガの討伐を終えて最後の依頼であるゴブリン討伐の依頼に勤しんでいた。

 今回の指揮はアイリスが取っており、彼女がこの森に入ってすぐ、今日は自分に任せて欲しいと言ってきたからだ。

 俺としては楽ができて良かったし、何より魔法がメインのアイリスが後方で指示を出すのは理にかなっていたので、特に迷うことなく了承した。

 最初は指示するタイミングや自身の立ち回り方に苦労している感じはあったが、彼女は元々頭も良く判断力もあるため、ゴブリンの群れと戦う時には的確な指示が出せるようになっていた。

 そして、今は彼女の指示通りミリアが独自に配合した睡眠薬を風魔法で器用にゴブリンたちにだけ匂いを嗅がせ、アイリスが水魔法で壁を作って左側と正面のゴブリンたちの動きを止め、俺が氷魔法でゴブリンたちの頭上に足場を作る。

 その足場を器用に跳びながら、シャルエナは後方で他のゴブリンたちに守られるようにして囲まれているゴブリンシャーマンのもとへと駆けて行くと、腰に下げていた刀に手を添えて魔力を流し込む。

「ギャギャギャ!!」

「ギュァァア!」

「抜刀術三ノ幕『氷華五月雨』」

 最後の足場を蹴ったシャルエナは、気持ち悪い鳴き声を上げるゴブリンたちを抜いた刀で何度も切り裂く。

 冷気を纏った刀によって細かく斬られたゴブリンたちは、肉が氷の欠片となり、最後は地面へと落ちて粉々に砕け散った。

「今です!ミーゼ、残りを片付けてください!」

 ゴブリンシャーマンが死んだことで他のゴブリンたちの力が弱くなり、ゴブリンたちの動きが僅かに止まったのを見逃さなかったアイリスは、すぐに残りを倒すようミリアに指示を出す。

 アイリスの指示を聞いたミリアは、睡眠薬から毒薬に薬を変えると、先ほどと同じように風魔法を使ってゴブリンたちに匂いを嗅がせる。

 すると、ゴブリンたちは自身の鋭い爪で喉を掻きながらもがき苦しみ、紫色の泡を吐いて次々と倒れていく。

 アイリスも水魔法で剣を何本も作り出すと、それを一本も外すことなくゴブリンに突き刺し、数十体のゴブリンを地面に磔にした。

「これで終わりですね」

「お疲れ様でした」

「リリィ、良い指示出しだったよ。最初にゴブリンシャーマンを狙ったのは良かったね」

「ありがとうございます、ナルシェさん。お二人もさすがですね。私の指示に従っていただきありがとうございました。そしてルーナさん。ナルシェさんのサポート助かりました」

「いや、問題ないよ。私は今まで何もしてなかったし、これくらいはね」

「それでも助かりました。では、ルーナさん。修正点をお願いします」

 アイリスは戦闘が終わるごとに改善点や修正すべき点を俺に尋ねてきており、それはミリアやシャルエナも同じで、向上心が強いのか毎回俺に意見を求めてくるのだ。

「そうだね。今回はリリィの指示も良かったし、ミーゼの薬の選び方も悪く無かった。仮に最初から毒を使っていれば、いくらシャーマンが後ろにいるとはいえ、それを見た他のゴブリンたちが逃げる可能性があったからね。そうさせないように油断を誘いやすい睡眠薬を使ったのは良かったし、万が一に備えて逃げられないようにする魔法を準備していたリリィも良かった。ただ……ナルシェ」

「なにかな?」

「シャーマンたちを殺したのは良いんだけど、粉々にしたらダメだ。討伐証明部位とか取れないだろう?」

「あ……」

「ここはダンジョンじゃないんだから、魔物の体は自然消滅しないし、魔石やアイテムも自動で落ちるわけじゃない。今回は魔石を切っていなかったから良かったけど、もし魔石まで無くなっていたら依頼失敗になってしまう」

「それは盲点だった。すまないね、今度から気をつけるよ」

「そうしてくれ」

 シャルエナも優秀ではあるのだが、これまで学園のダンジョンにしか潜ったことのない彼女は外の魔物との戦闘経験が無く、討伐証明部位の確保や魔物の解体、そして魔石を自分たちで取り出す必要があることなど初歩的な事を知らなかった。

 だから今回も、ゴブリンたちを解体する以前に粉々に砕いて殺してしまったし、魔石が無ければ依頼失敗になる可能性すらあった。

 それからも細かな点を確認した俺たちは、最後にゴブリンの耳と魔石を持ってきた袋に入れ、ギルドへと戻るのであった。





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