何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

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武術大会編

準備

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「みんなおはよー!おやおや?今日は珍しい人がいるね!!」

 ライムは教室に入ってくるなりすぐに俺を見つけると、まるで珍獣でも見つけたかのように楽しそうに笑った。

「最近は授業にもあんまりでなくなったから君に会うのは久しぶりだね。今日は来てくれて嬉しいよ!でも…朝からそんなに女の子とベッタリなのは良くないかなぁ」

 先ほどまで笑顔だったライムは僅かに目を細めて俺たちを見ると、すぐにいつもの笑顔に戻って話し始める。

「それじゃあ!今日はちょうどみんないることだし、一ヶ月後に行われる武術大会について説明するね!!」

 ライムはそう言って後ろを向くと、黒板に「武闘大会について」と書いてから説明を始めていく。

「武闘大会は、学年関係なく行われる学園イベントの一つだよ!開催日はこれから約一ヶ月後で、期間は五日間もあるだ!この日は街の人たちも学園に来ることができて、出店なんかもあるからすっごく楽しいんだよ!まぁ、一種のお祭りみたいなものだね!し・か・も!帝国騎士団の団長たちや宮廷魔法師の団長たちも来るから、良い成績を残せた人はスカウトされるかもね!」

 帝国騎士団には元帥と呼ばれる剣の実力者が一人おり、その下に三つの騎士団が存在している。

 その三つとは、皇族を守る皇室騎士団の天剣の騎士団アーク・イポルテ、帝都全体を警備して守る地舞の騎士団ガイア・イポルテ、そして帝国と他の国との国境で魔物や侵略者たちと戦い続ける冥蝶の騎士団プシュケ・イポルテだ。

 実力的に一番高いのは常に最前線で戦い続けている冥蝶の騎士団で、その次が皇族を守る天剣の騎士団、最後に帝都を守る地舞の騎士団となっている。

 次に宮廷魔法師だが、こちらは大きく分けて二つの組織に分かれている。

 一つは魔法の研究と帝都に結界魔法を張る緑陰の魔法師団クロテス・マギアで、二つ目が冥蝶の騎士団と共に最前線で戦う赤劫の魔法師団エリュト・マギアだ。

 実力的にはやはり赤劫の魔法師団の方が高いが、そもそもこの二つでは役割が違うため、一概に比較することはできない。

 そんな国を代表する帝国騎士団や宮廷魔法師の団長たちが来ると聞いてか、クラスの生徒たちは希望と羨望に満ちた表情でライムの話の続きを聞く。

「大会は自主参加だけど、例年だとほとんどの生徒が参加してるから、自分の実力を試したい子や将来に繋げたい子たちは積極的に参加してね!例え上級生と当たったとしても、実力を見せられればそれだけで今後に繋がるし、来年や再来年にはスカウトがあるかもしれないから諦めずに頑張って!」

 武術大会では武器や魔法の有無に関係なくクジで対戦相手が決められ、戦闘技術や戦略が見られることになる。

 その場合、一見すると魔法使いの方が有利なように見えるが、技術のある剣士であれば魔法を切ったり盾で防いだりすることも可能なため、それで距離を詰められれば魔法使いが不利になることもある。

 一般の観客たちはそんな胸が熱くなる戦闘を待ち望んでおり、団長たちはどう対処するのか、スカウトするに値するのかをみさだめにくるというわけだ。

「特にSクラス生の君たちは周りからとても期待されているし、卒業後のスカウトも受けやすい位置にいるから、みんな参加してくれると嬉しいな!」

 ライムはそう言って笑うとチラチラと俺の方を見てくるが、どうやら今回は参加して欲しいと訴えているようだ。

 それに対して俺は何も言わずに微笑んで返すと、彼女は少し安心したように息を吐いた。

「参加するの?」

「まさか。面倒だからするわけないだろ」

 俺の様子を近くで見ていたフィエラは小声で尋ねてくるが、俺は表情に出さず参加しないことを伝える。

「お前たちは参加するのか?」

「今回は私もしない。騎士団も宮廷魔法師も興味ないから」

「私も参加しないわ。そんなところに入ったら、あなたたちと一緒にいられる時間が無くなるもの」

「そうか」

 どうやら今回はフィエラたちも参加するつもりが無いようで、あとでライムが泣き目になっている姿をら容易に想像することができ、少しだけ面白くて笑ってしまった。




 それから俺たちは武術大会に参加しない代わりに忙しい日々を過ごすことになり、気が付けばあっという間に武術大会が行われる前日を迎えていた。

「武術大会が終わればすぐに夏の長期休暇に入るな。そうしたら、いよいよ作戦を実行に移すことになる」

 この一ヶ月間、俺は作戦に向けての準備やシャーラーとの話し合い、そしてサルマージュとクランの情報集めなど休む暇もないほど忙しい日々を過ごしていた。

「お疲れ様です。ルイス様」

「あぁ、ありがとう」

 ミリアが入れてくれた紅茶を飲んで頭をスッキリさせると、再び机の上に置いてある資料に目を向ける。

「サルマージュの連中はどうやら帝国の北側をメインに人を攫っているようだな」

「そのようですね。同じくクランも西側から集めているようですが、移動距離や人目を考えるとそれが妥当かもしれません」

「だろうな。わざわざ端から攫って連れてくるのは距離的にも通る場所の多さからもリスクが多すぎる。しかも、タチが悪いのは小さな村を集中的に狙っていることだ。これじゃあ冒険者ギルドに依頼する金も無いだろうし、ギルドに依頼しようとしても距離が遠すぎて難しい」

「はい。それに加えて、以前ルイス様が相手をしたという盗賊たちのように、別に依頼をしているようなので足もつきにくい状況です」

「そうだな」

 ミリアの言う通り、やつらは俺たちが前に相手をした盗賊たちのような連中を他にも雇っているらしく、そいつらは冒険者を依頼で誘き寄せては捕まえ、奴隷としてサルマージュやクランに運んでいるようだった。

「冒険者は基本的に他者の依頼に関与しないからな。例え帰って来なくとも、心配はすれど様子を見に行ったり助けに行ったりはしない」

「はい。やつらもそこは理解しているようで、うまくそれを利用しているようです」

「よくわかった。なら、やっぱり俺たちは奴隷として捕まってから行った方が良さそうだな。その方が相手も油断するだろうし、馬鹿正直に正面から入って無理矢理連れて行かれた人たちと戦うのも面倒だ」

「わかりました」

 正直、わざわざ捕まっていくのは俺らしくなくてつまらないのだが、今回は国家間の問題である以上、何の証拠もなく国を潰すと俺たちの責任となるため今は我慢するしかない。

「あとは必要となるアイテムを作ってみんなに渡すだけだな。もうしばらくは忙しくなりそうだ」

「最後までお供いたします」

「ありがとう。早くこの件を終わらせて、ゆっくり公爵領で休みたいな」

 それから俺たちは日が昇るまでアイテム作りを行い、いよいよ参加しない武術大会当日を迎えるのであった。







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