何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

文字の大きさ
上 下
164 / 233
学園編

水色の薔薇

しおりを挟む
 クランの話をフィエラたちにしてから数日後。俺は数少ない授業のうち、今日は歴史の授業を受けていた。

「今日の歴史の授業は、帝国の成り立ちについてお話しいたします。では、教科書の方を開いてください」

 歴史の授業を担当しているのはグランスという50代くらいの男性で、白髪で口元にはおしゃれな髭があり、片眼鏡をかけた紳士的な雰囲気のある男性だった。

「皆さんも知っての通り、我がルーゼリア帝国は約2000年の歴史を持ち、この大陸の中で最も長く続いている国です。2000年前、元々は三つの王国がこの場所に存在しておりましたが、その時代はまさに戦乱の時代でした。

 存在する国はどれも小国ばかりで、外は魔物が蔓延り、その魔物たちのせいで食料が無くなれば国同士でも争う。そんな荒れた時代を生き残るため三つの国は協力し合い、今の帝国を築いたのです」

 グランスの説明通り、今から約2000年前は今ほど平和ではなく、凶悪な魔物どもが国の外を闊歩し、人間たちはそんな魔物から逃げるように生活してた。

 しかし、例え人間側が逃げていても魔物側から攻められればどうしようもないため、より平和な土地を求めた当時の人間たちは、愚かなことに人間同士でも争いを行った。

 そんな中、三つの国だけは生き残るために近隣の国と協力することに決め、その協力があったおかげで戦乱の時代を生き残ったのだ。

「その三つの国というのが、現在の皇家であるゼリセド王国、ホルスティン公爵家のルークリア王国、ヴァレンタイン公爵家のアルベダ王国です。

 この三つの国は協力して辛い時代を生き抜き、当時聖剣を所持していたゼリセド王国の王子を皇帝とした、現在のルーゼリア帝国が建国されました。

 その後、共に戦ったルークリア王国の王族とアルベダ王国の王族はこの国に二つしかない公爵家へとなり、今日まで皇家と共にこの国を支えてきました」

 実はヴァレンタイン公爵家とホルスティン公爵家は元王族の家系であり、ルーゼリア帝国が建国される基盤を作った忠臣でもあった。

 そして、二つの公爵家には建国に貢献した褒賞として特別な権利が与えられており、それは皇族が悪事を働いたり暴政を行った場合には処罰する権利が与えられている。

 そのため、公爵家の人間が忠誠を誓っているのは皇帝でも皇族でもなく、ルーゼリア帝国という国そのものに忠誠しているのだ。

「その後、世界樹を中心に作られた神樹国オティーニア、神を崇める神聖国イシュタリカ、魔法使いたちが集まってできた魔導国ファルメルなどができ、その他にもいくつかの王国が作られてきました。そして、最近できたばかりの獣王国キリシュベインは、皆さんもよく知っていることと思います」

 神聖国イシュタリカは宗教を重んじる国であり、セフィリアが生まれた場所でもある。

 この世界の創造神であるラファリエルを唯一神とし、その教えを絶対的に信じている信者たちの国だ。

「では、次にルーゼリア帝国が建国されてからの歴史について説明していきましょう」

 その後もグランスによる歴史の授業は続いていくが、実はここまでの説明の中で、彼がルーゼリア帝国が最も長い歴史を持つという話があったが、それには誤りである。

 この大陸で最も長い歴史を持つのは、西にある山をいくつも越えた先にある魔族領であり、その魔族領がいつから存在しているのかを知る者はいない。

 ただ、帝国にある建国史の中には当時から魔族領があったと思わせる記載があり、強力な魔物と一緒に魔族らしきものが西側からやってきたという記録が残っていた。

 それからも授業が終わるまでグランスの話は続き、俺は授業が終わるまで彼の話を聞き流しながら窓の外を眺めるのであった。




 その日の授業が全て終わった後、俺とフィエラとシュヴィーナの3人は広場にある木陰で春の暖かさを感じながら休んでいた。

「やぁ、イス。今大丈夫かな?」

「ん?あぁ、シャルエナ皇女殿下。どうされました?」

 あと少しで眠りにつきそうだった時、懐かしい呼び方が聞こえて顔を上げると、そこには第二皇女であるシャルエナが立っていた。

「眠そうなところすまないね。今日の授業はもう終わった?」

「はい。先ほど終わりました」

「そうか。なら、前に話したお茶をする件、よければこの後付き合ってもらえないかな」

 最初は何のことを言われているのか分からなかったが、思い返してみれば確かに入学式のあった日にそんなことを言われたのを思い出した。

「まぁ、俺は大丈夫ですが、フィエラたちはどうだ?」

「私も大丈夫」

「私もよ」

「よかった。なら、二年生のSクラス用に用意されている庭園に移動しよう」

「わかりました」

 俺はフィエラに手を貸してもらい立ち上がると、シャルエナの後に続いて広場を抜けていき、しばらく歩いて二年生用の庭園へとやってくる。

「綺麗」

「本当ね」

 二年生用の庭園は俺たちが使っている一年生用の庭園とは違った花が植えられており、特に目を引くのは席を囲むように植えられた青い薔薇たちだった。

「この薔薇、もしかしてシャルエナ皇女殿下が植えたんですか?」

「え…どうしてそう思うんだい?」

 シャルエナは心底驚いたといった表情で俺のことを見ると、少しだけ戸惑った様子を見せ始める。

「青い薔薇を育てた後、枯れないように魔法をかけたんじゃないですか?僅かではありますが、殿下の魔力が感じられます。それに…」

「それに?」

「昔言ってましたよね。青い薔薇が好きだって」

 かなり昔のことなので見るまで忘れていたが、彼女がヴァレンタイン公爵家にいた時、母上の庭園を2人で見てまわっていた際に彼女はそんなことを言っていた。

「覚えて…たんだ」

「まぁ、記憶力は良い方なので」

 シャルエナが公爵領にいた頃は、まだ彼女も可愛い物やドレスが好きで、特に母上と同じで花が好きだと言っていた。

「なら、これは覚えてるかな?」

「何をです?」

「私が青い薔薇が好きだと言ったら、君がシャル姉には青い薔薇より、私の瞳と同じ水色の薔薇が似合うって。そして、いつか僕がプレゼントするって言ってくれたじゃないか」

「俺がそんなことを?」

「はは。私も記憶力は良い方だからね。間違いなくそう言っていたよ」

 過去を懐かしむようにシャルエナはそう言うと、近くにあった青い薔薇を愛しむようにそっと撫でた。

「ふむ。そうですか。なら、これをどうぞ」

 俺は覚えていないが、約束したのなら仕方がないと思い、氷魔法で氷の薔薇を一本だけ作ると、それをシャルエナに渡す。

「これは、氷の薔薇?」

「そうです。まぁ、重要なのは色が水色ってことですね」

「どうして?」

「昔の俺が言ったんでしょう?なら、約束は果たさないと。俺、約束は守る方なんですよ」

「…ありがとう」

 シャルエナは少し恥ずかしそうにしながら氷の薔薇を受け取ると、その薔薇を大事そうに握った。

「君は、昔と変わらず優しいね」

「あはは。俺が優しいですか?そんなことないと思いますけどね」

「ん。エルは優しい」

「確かにね。ルイスって、敵には容赦しないけど、仲間の面倒だったらちゃんと見てくれるし、約束だって守ってくれるのよね」

「お前らまで」

 俺は自身のことを優しい人間だなんて思っていないが、どうやらフィエラとシュヴィーナもシャルエナと同じ意見のようで、話を聞いていた彼女らも同意するように頷いた。

「もういいや、面倒だし」

「はは。良い仲間じゃないか。おっと、私としたことが、いつまでも立ち話でごめんね。さぁ、席に座ってくれ」

 シャルエナに案内されて席に着くと、彼女のメイドがお茶を用意して近くへと控える。

「今日呼んだのは、特に何かあるって訳じゃないんだけど、一つだけ報告があってね」

「報告とは?」

「君は歓迎会の時のアイリス嬢のことを覚えているかい?」

「あぁ。上級生が絡んで、殿下が止めたやつですね」

「その通り。それで、その生徒たちをしばらく謹慎させていたんだが、来週からその謹慎が終わって学園に戻ってくるんだ」

「ふむ。つまり、戻ってきたら何かあるかもしれないってことですか?」

「あぁ。それがアイリス嬢に対してか、それともあの時の青年に対してかはわからないけど、アイリス嬢が狙われる可能性もある以上、君にも伝えた方がいいと思ってね」

「なるほど。でも、なぜ俺に?」

 アイリスが狙われる可能性があるというのは分かったが、その話を俺にする理由が分からずシャルエナに理由を尋ねると、彼女は少し呆れたように溜め息を吐いた。

「はぁ。君はもう少し、婚約者に興味を持つべきだと思うよ」

「…あぁ、だから俺に言ったんですね」

 婚約者と言われたことで、彼女がこの事を俺に話した理由がようやくわかった。

「理由はわかりました。では、一つ尋ねますが、その生徒から最初に何かをされた場合、それは正当防衛として認められますか?」

「まぁ、最初に何かをされたのならね。その時は、罰せられるのは彼らだけになるだろうし、国同士のことについても気にしなくていいよ。私が証言するから」

「わかりました」

「…まさか、何かする気?」

「それこそまさかですよ。俺が何かするわけないでしょう」

「なら、どうするつもりかな」

「言ったでしょう、正当防衛だと。自分の身くらい自分で守れるはずですよ」

「そういうことか」

 シャルエナも俺の考えが理解できたようで、それで良いのならと言った感じで頷いた。

「まぁ、話くらいはしておきます。あとは彼女次第ということで」

「わかったよ」

 序列戦でのフィエラとの戦いを見た限り、アイリスがあの程度の輩に負けるはずが無いし、もしそれで負けるようなら、彼女の実力はその程度だったというだけの話だ。

 アイリスの話が終わった後は、シャルエナが旅の話を聞かせてほしいと言ってきたので、どんな国を旅したのかなどを軽く話しながら、4人でゆっくりとした時間を過ごすのであった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

破滅を逃れようとした、悪役令嬢のお話

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥その恋愛ゲームは、一見するとただの乙女ゲームの一つだろう。 けれども、何故かどの選択肢を選んだとしても、確実に悪役令嬢が破滅する。 そんなものに、何故かわたくしは転生してしまい‥‥‥いえ、絶望するのは早いでしょう。 そう、頑張れば多分、どうにかできますもの!! これは、とある悪役令嬢に転生してしまった少女の話である‥‥‥‥ ――――――― (なお、この小説自体は作者の作品「帰らずの森のある騒動記」中の「とある悪魔の記録Ver.2その1~6」を大幅に簡略したうえで、この悪役令嬢視点でお送りしています。細かい流れなどを見たいのであれば、どちらもどうぞ)

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

処理中です...