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学園編

謝罪

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 序列戦が行われた翌日。教室でいつもの窓際の席に座っている俺は、周囲から向けられる視線について考えていた。

(恐怖と畏怖。あとは…憧れ?なんで?)

 大半の者は、昨日のライドの件で恐怖心や畏怖といった恐れの感情を抱いているようだが、中には僅かだが憧れを抱いているやつもいた。

(まぁ、変に関わってこなければ放置でいいか)

 Sクラスに入るやつらは差はあれど変わり者が多いため、面倒な絡み方だけされなければ気にする必要もないだろう。

「エル」

「ん?」

「あれ…」

 フィエラが何かを見つけたように服の袖を軽く引くので、俺は彼女が視線を向けた方へと目を向ける。

「あれは…ライドか?」

 教室に入ってきたのはどうやらライドのようだが、彼の姿は昨日までとは違いかなり憔悴しているようで、自信に満ちた姿も活力に溢れた様子も感じられなかった。

(隈が酷いな。寝れなかったのか?)

 いつも整えられていた髪はかなり乱れており、目の下には眠れなかったのか酷い隈があった。

「よほどルイスのあれが聞いたみたいね」

「ん。でも仕方ない。ただの生徒がエルの殺気と死ぬ瞬間になんて耐えられるわけない」

「それもそうね。寧ろ学園に来られたことの方が驚きだわ」

「ん。普通なら部屋に引きこ篭ってもおかしくない」

 2人はライドを眺めながらそんな話をするが、俺としては昨日の時点でやつへの興味はすっかり無くなってしまったため、衰弱しようが引き篭もろうがどうでも良かったのですぐに意識の外へと追い出そうとした。

 しかし…

「エル。こっち見てる」

「見てるわね」

 2人が言うように、ライドは気力を感じさせない瞳でこちらをじっと見ると、疲れた様子で席へと座った。

「なんだったんだ?」

「さぁ。私には分からないわ」

「フィエラは?」

「多分。エルに話があるんだと思う」

「俺に?」

「ん。でも、まだ心の準備ができてないんだと思う。そのうち話しかけてくるはず」

「そうか」

 フィエラは俺よりも人の感情の変化に敏感なため、こういうことは彼女に聞いた方が正確な情報が得られる。

(面倒ごとだったらまた潰せばいいか)

 しばらくの間どうしようかと考えたが、また害を成そうとすればその時は前以上に潰せば良いと判断し、ライドのことは向こうから接触してくるまで放置することにした。

 その後、ライムがいつものように教室へと入ってくると、今日の予定を説明してから生徒一人一人に紙を配り始める。

「今配った紙は、みんなが数日前に出した授業予定の紙だよ。間違いがないから確認してね」

 言われた通り手元にある紙にさっと目を通すと、選択した通りに授業が組まれており、この通りなら授業時間よりも自由時間の方が多いため、好きなことをして過ごすことができそうだ。

「そして!昨日徹夜して作った序列戦の結果表を貼るね!みんな確認するように!」

 ライムはそう言って黒板に大きな紙を貼ると、そこには戦闘系と支援系の二つの序列が一位から十位まで書かれてあった。

※ ※ ※ ※ ※

【戦闘系】
一位 ライド・ホルスティン(剣術)
二位 フィエラ・キリシュベイン(格闘)
三位 アイリス・ペステローズ(魔法)
四位 シュヴィーナ(弓術)
五位 メルト(魔法)
六位 ソニア・スカーレット(魔法)
七位 ガゼル(槍術)
八位 シルファ・マーダー(魔法)
九位 カマエル・アルバーニー(短剣術)
十位 ルイス・ヴァレンタイン(魔法)


【支援系】
一位 セフィリア・イシュタリカ(回復系)
二位 クイナ・サマンタ(付与系)
三位 レオ・ノーマ(付与系)
四位 ハイル・ミゼラ(回復系)
五位 バーミュ(回復系)
六位 クリスタ・リチアム(付与系)
七位 オルド(付与系)
八位 カーシュ・テスタロ(付与系)
九位 シャシャ(回復系)
十位 オード(付与系)

※ ※ ※ ※ ※

 序列戦の結果はこの通りで、俺は約束通り十位となっており、ライドはフィエラに譲られた通り一位となっていた。

 そして、支援系の序列一位は聖女であるセフィリアであり、彼女の聖魔法の技術と魔力量を考えれば当然の結果と言えた。

(フィエラとセフィリアが入学したことでいつもとメンバーが少し違うが、その他は見慣れた連中ばかりだな)

 本来なら、入学しないはずのフィエラと来年入学するセフィリアが今年入学したことで、Sクラスの生徒が過去と2人ほど変わっているが、気にするほどのことでもないためライムの方へと意識を向ける。

「これがみんなの最初の序列だよ!昨日の序列戦での勝敗と技術力をみて決めてるから、順位に思うところがあるかもしれないけど、その時は序列戦を挑むといいよ!そこで勝てば順位が上がるから、上を目指す人は頑張ってね!それじゃあ、今日も頑張っていこう!」

 その後、ライムからは来週から始まる授業の詳細についての説明や、明日行われる新入生の歓迎会についてなど、これからのことについて改めて説明されるのであった。




「ルイス・ヴァレンタイン。少し良いか」

 今日の予定が全て終わり帰り支度をしていると、意外なことにライドが俺のもとに来て話しかけてくる。

「なんだ?」

「お前と話しをしたいのだが、ここではちょっとな…」

 ライドはそう言って力のない瞳でフィエラたちの方をチラリと見ると、どう伝えたら良いのか迷っている様子だった。

「エル。行ってきて」

「…わかった。お前たちは先に帰るか?」

「待ってる」

「はいよ。なら、話が終われば戻ってくるよ。いくぞ」

「あぁ」

 フィエラたちと別れて教室を出る時、周りは困惑したり、また問題が起きるのではといった様子でこちらを見ていたが、俺もライドもそんな視線を気にすることなく教室を出ていく。

 それからしばらく歩いて誰もいない空き教室に入ると、俺は椅子に座って足を組み、目の前に立っているライドへと目を向ける。

「それで?話ってなんだ?」

「それは…だな」

 ライドは未だ話すための覚悟ができていないのか、目を泳がせたり口を動かすだけでなかなか話をしようとしない。

「はぁ。要件があるなら早く言ってくれ。男が勿体ぶってうじうじしてんのは気持ち悪いんだよ」

「す、すまない」

 フィエラやアイリスのような容姿の良い女がこんな反応をしていれば誰かに需要はあっただろうが、身長190cmで筋肉質の男がこんな事をしても正直気持ち悪いだけだった。

「…ふぅ。ルイス・ヴァレンタイン。昨日の件、申し訳なかった」

 しばらくしてようやく覚悟が決まったのか、ライドは俺の目をしっかりと見ると、そう言って謝罪をした。

「昨日の件?」

 ライドの話とは、どうやら昨日の序列戦でのことのようだが、俺は敢えて知らないふりをし、彼がどんな反応を見せるのか様子を窺う。

「あぁ。昨日、お前の両親を馬鹿にしたこと、それと八つ当たりをしてしまったことだ。いや、他にもあるな。これまでお前自身のことも馬鹿にして軽んじてきたこと。これまでお前にしてきた全てに対して謝罪する」

「ふーん。どういう心境の変化だ?それとも、何かの策略か?」

「そうだな。疑われるのも無理はない。だが、この謝罪は俺の本心だ。策略や裏などは一切ない。

 俺は昨日、寮に戻った後一人でいろいろと考えてみた。そして、自分の行いを恥たよ。お前は何も悪くないのに一方的に目の敵にし、さらには両親のことまで侮辱してしまった。

 自分の両親が同じように侮辱されたら、俺でも同じ行動を取っていただろう。これは許されざる行為であり、実に愚かな行動だった」

 彼が語る言葉には一つ一つに謝罪の気持ちが込められており、それがライドの本心であることが伝わってくる。

「ふむ。俺や俺の両親に対するお前の気持ちはわかった。なら、お前自身についてはどう思う?」

「それについても、自分の行いを恥じるばかりだ。フィエラ嬢が言ったように、俺は弱かった。慢心し、怠惰だったのも俺自身の方だった。

 父上から代々受け継がれる魔剣を譲り受け、その力に酔いしれていたようだ。魔剣の力ははあくまでも魔剣のものであり、それは自分の力じゃない。その力をしっかりと使えるようになって初めて、魔剣の力も自分の力と言えるのだろう。

 本当に、申し訳なかった」

「お前の謝罪は受け入れよう。だが、なぜ謝罪しようと思ったのか、詳しく教えてくれないか?」

 正直、昨日のことは既に俺の中では終わった話であり、ライドの謝罪などどうでも良かった。

 それよりも、プライドが高く、剣聖という称号に誇りを持ち、自他に厳しいこいつが俺に謝るに至った経緯の方が気になったのだ。

「お前と対峙した時、ようやく俺との実力差が分かったのだ。

 お前は努力をしていないんじゃない、これまでずっと努力をしてきたんだ。それこそ、死に等しい努力を。

 だからお前の実力はこの学園に…いや、きっと帝国でも収まり切らないほどに卓越しているはずだ。そんな実力を持ったお前が、学園にいて退屈に感じてしまうのも仕方がないことだろう。

 それに、お前の動きを見てわかった。お前は今も一人で弛まぬ鍛錬をしている。お前の動きはとても洗練されており、今も尚研ぎ続けられている刃のようだった。俺はそんなお前に憧れを抱いただけさ」

 そう言って笑ったライドの顔は、どこか憑き物が落ちたように穏やかで、それが今の彼の心を表しているようだった。

「よくわかったよ。さっきも言ったが、お前の謝罪は受け入れる。だが、俺からお前に関わることはこれ以上無いだろう」

「構わない。俺もお前に謝罪はしたが、深く関わりたいと言うわけではないし、もちろん教えを乞うつもりもない。俺は俺なりに努力し、より強くなれるよう頑張るつもりだ」

「そうか。話が終わったのなら、俺はもう戻るぞ」

「あぁ。時間を取らせてすまなかったな」

 俺は座っていた椅子から立ち上がり扉に手をかけるが、教室を出る前に一つ伝え忘れた事があるのを思い出し、肩越しにライドを一瞥する。

「お前も公爵家の人間なら、言動には気をつけろよ。お前の言葉と行動一つで、敵も味方も作ってしまう。身分に相応しい行動をと言うのなら、お前も忘れるなよ。それと、あとでフィエラたちにも謝っておけ。俺よりもあいつらの方が怒ってたからな」

「…ありがとう」

 俺はそう言って今度こそ教室を出るが、最後にライドが何を言ったのかは聞き取れず、しかし気にすることも無かった。

 その後、Sクラスの教室で待っていたフィエラたちと合流し、俺は寮にある自身の部屋へと戻る。

 明日はいよいよ新入生の歓迎会であり、そこでついに主人公と出会うことになるだろう。

 歓迎会は今世がどれほど過去と変わったのか知る良い機会となるだろうし、今後の動き方について考えるチャンスとも言える。

「明日がどうなるのか楽しみだな」

 俺は明日の歓迎会に少しだけ期待をしながら、その日はいつもより早めに休むのであった。





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