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学園編
禁忌の言葉
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フィエラたちの戦闘が終了後、フィエラは舞台から降りて俺のもとに駆け寄り、ライドは悔しそうにこちらを睨んでくる。
(まぁ、あんな負け方して勝利を譲られれば悔しくもなるよな。同情はしないけど)
地面に転がっているライドを眺めながらそんなことを考えていると、フィエラがスッキリした表情で俺の隣へと座った。
「どうだった?」
「まぁ、殺してないならいいんじゃないか」
「私はとてもスッキリしたわ!やっぱりフィエラに任せてよかったわね!」
「あたしもよ。正直、ざまぁって感じ。アイリスにも見せてあげたかったわね」
俺自身はあいつの発言に感じるものは無かったが、フィエラたちはかなり頭にきていたらしく、3人とも楽しそうに笑いながら話していた。
「おい!」
そんな3人の話を聞き流しながらだらけていると、脳震盪から回復したのか、怒りを隠そうともしないライドが怒鳴りながら近づいてくる。
「お前!あの勝負はなんだ!なぜ俺に勝ちを譲った!!」
「ん?言ってる意味がよくわからない。私は言った。序列に興味なんてないって。でも、あなたは一位が欲しいようだったからあげただけ。深い意味はない」
フィエラは淡々と答えるが、そんな彼女の態度が癇に障ったのか、ライドは怒りに震える。
「舐めるのもいい加減にしろ!確かに俺は一位になりたかった!だが、それはこんな形じゃない!自分の実力で手に入れたかったんだ!」
「ふふ。自分の実力?そもそも相手の実力も見抜けてないあなたが、何を言ってるの?」
「なに?!」
「あなたは私たちとエルの実力も見抜けず、しかも自分の実力も理解できていない。だから半分も引き出せていない魔剣なんかで満足して威張ってたんでしょ?その程度のくせに、自分の力で私たちに勝てるわけない」
「そんなこと!!」
「そもそも、相手の実力も見抜けていないのに格下と決めつけて戦おうとすること自体が愚か。それはエルのような強者に許されたもの。あなたはただ、自分の力を過信して相手を見下していただけ。怠惰なのはどっち?」
フィエラの言葉はライドを客観的に見た時の意見としては正しく、彼は俺を怠惰だ傲慢だというが、実際は相手を見下し舐めて戦っていたのはライドの方であり、自分の力に慢心していたのもまた彼の方であった。
「いい加減、自覚したら?あなたは確かに学園内では強いかもしれない。でも、それは学園という小さな箱の中でだけ。外に出れば、今のあなた程度の実力者は数えきれないほどいる。あなたは弱い。そのことを自覚した方がいい」
「くっ。そんなの…そんなこと…」
ライドはフィエラに言われた言葉に思うところがあるのか、俯いたまま手のひらを強く握ると、赤い血が雫となって落ちていく。
「なぁ、もう戻っていいか?」
「エル」
「いつまでこんな茶番を見てればいいんだ」
「待たせてごめん。もう行こう」
フィエラたちが真剣な話をしている中、全く興味のない会話を見せられた俺は、退屈さを隠すことなくそう言うと、フィエラが申し訳なさそうにしながら謝ってくる。
「はは…ははははは!!!」
俺が観客席から立ち上がり教室に戻ろうとライドに背を向けた時、彼は突然、まるで壊れた人形のように笑い始めた。
「あはははは!貴様も…お前も俺を馬鹿にするのか!」
「…なに?」
「どうせお前も俺を馬鹿にしているんだろ?!女に負けて情けないと思ってるんだろ!」
「別に俺はそんなこと思ってないが…」
「黙れ!!だいたい、何なんだお前は!その舐めた態度も怠けた姿も努力をしている雰囲気も見せないくせに、俺よりも強いだと!ふざけるな!!俺は小さい頃から父上や騎士たちに鍛えられてきたんだ!それなのに…それなのに!!」
(いや、それ俺に関係ないだろ。第一、お前の相手をしたのはフィエラなのに何で俺が責められてるんだ?)
ライドの言葉は全て俺に対するただの八つ当たりでしかなく、呆れを通り越して相手にするのも面倒になった俺は、彼を無視して教室へと戻ろうとするが、そんな俺にライドは禁忌とも言える言葉を吐き捨てる。
「どうせ親に甘やかされて育ったんだろ!子が子なら親も親だな!どうせ碌な親じゃないんだろ!!」
「あ?今なんつった?」
「親も愚か者だと言ったんだ!どうせ碌な親じゃな…がは!!」
俺は一瞬でライドとの距離を詰めると、右手でライドの首を掴み、そのまま空中へと持ち上げる。
「いいだろう。俺が相手をしてやる」
「ぐはっ!!!」
右手に掴んでいたライドを思い切り舞台へと投げ捨てると、俺も飛行魔法を使って舞台へとゆっくりと降り立つ。
「ライム先生」
「はいは~い。どうしたの?」
「俺がこいつを倒しても、今回は序列に変更は無しでお願いします。面倒なんで」
「わかったよ」
「セフィリア」
「はい」
「こいつの傷や体力を完全に治してやれ」
「かしこまりました」
「ソニア」
「なにかしら?」
「魔力譲渡は?」
「できるわ」
「ならやれ」
「わかった」
セフィリアとソニアにライドを完璧な状態に治すよう指示を出すと、俺はやつが回復するまでじっと待つ。
「くっ。どういうつもりだ」
「どういうつもりだと?そんなの簡単だ…」
俺はそこで一度言葉を区切ると、嗜虐心を隠すことなくニヤリと笑う。
「お前を完璧な状態で倒し、言い訳する余地を潰すためだ」
「なんだと」
「人間はな、何かと理由をつけては言い訳をし、自身を正当化しようとするんだ。テスト勉強をあまりしていないから点数が悪いだろう。体調が良くないから負けてしまった。そうやって予防線を張り、言い訳をし、自分の心を保とうとする。なぜだかわかるか?」
「……」
「認めたくないからだ。そうやって逃げ道を作りたいからだ。その根幹にあるのは気持ちの弱さ。そして、気持ちの弱いやつは上手くいかなかったり、思い通りにいかないと相手のせいにする。まさにお前のようにな」
「くっ」
「だからお前には逃げ道を与えない。徹底的にその道を潰すんだ」
例え両親が死んでも…いや、目の前で殺されようとも、俺がここまで怒ることはないだろう。
それは両親の死を過去で経験しているのもあるし、今ではそれが2人の運命だったのだと割り切ることができるからだ。
しかし、2人を馬鹿にする言葉だけは違う。彼らは尊重されるべき人間であり、俺の誇りであり、そして過去の俺の心の支えでもあった。
だから2人を馬鹿にする言葉だけは許せないし、何より許したくなかった。
「カマエル」
「なに?」
「短剣を貸せ」
「なんでさ」
「わかるだろ?」
「…はぁ。りょーかい」
カマエルは呆れたようにそう言うと、袖から隠していた短剣を一本取り出して投げてくる。
「僕の商売道具なんだから壊さないでよ」
「わかった」
俺は短剣の具合を確かめたあと、未だに呆けているライドへと目を向ける。
「お前も早く武器を構えろ」
「貴様、まさか他人の武器で戦う気か」
「あぁ。言っただろ?お前の逃げ道を無くすと。これはただの短剣で、しかも俺の慣れている武器でもない。これでお前は武器のせいにもできなくなったわけだ。わかったなら早く武器を構えろ」
「それは俺への侮辱だ!人の武器を使うなど!」
剣士にとって、武器とは自分の命よりも大切なものだ。それは敵の命を奪うものであり、同時に自分の命を助けるものでもあるからだ。
そして、ライドはそんな剣士の頂点である剣聖ホルスティン公爵家の息子であるため、俺が他人の武器を使うことが許せないのである。
「はは。俺に勝てるわけもないのに、勝った時のことを考えるとは随分と余裕だな。いいからさっさと剣を抜け」
「くそっ。貴様なんかに負けるわけがない!」
「ライム先生、お願いします」
「わかったよ。けど、死者は頼むから出さないでね。それじゃあ始め!」
ライムが開始の合図をしてからしばらく、ライドは剣を構えたまま動く様子はなく、徐々に焦りを見せ始める。
「どうした?こないのか?」
「黙れ!!」
(くそ。どう言うことだ。全く隙がない)
ライドは隙を窺うようにじっとこちらの様子を見てくるが、その隙が見つからないのか逆に焦りを見せていた。
「こないなら俺からいくぞ」
俺はそう言って一歩を踏み出した瞬間、ライドが認識する間もなく彼の後ろを取ると、短剣を首の一番太い血管に当てる。
「……は?」
「これでお前は一回死んだ」
距離を取って右手に持った短剣をクルクルと回しながらニヤリと笑うと、彼に一回目の死を伝える。
「何が…」
「さぁ?なんだろうな」
動揺しているライドを無視してもう一度踏み込むと、今度は目の前に現れて燃えるような瞳に短剣を突きつける。
「これで二回目だ。このまま短剣を眼球ごと脳に突き刺して捻れば、お前は死ぬだろうな」
「いったい…どうやって」
「自分で考えろ」
俺は少し怯えを感じ始めたライドの瞳を覗き込みながらそう言うと、その後も胸や眉間、さらには腹などに短剣を当てながら死亡回数を伝えていく。
回数が増えるごとにライドの瞳からは闘争心が消えていき、逆に恐怖の色に染まっていくが、俺はそんは彼を無視してさらに続けていく。
俺がやっていることはとても単純で、前にフィエラが戦った暗殺者の死角を使った戦闘方法と、森の王ビルドから学んだ自然体になる技術を合わせて使っているだけだった。
この二つの技はとても相性が良く、合わせて使った時の効果はまさに存在自体がこの世から消えたように錯覚するため、ライドごときが俺の動きを捉えるなど出来るはずもなかった。
「これで二十回目だ」
「ひっ…」
二十回目の死を迎えたライドは恐怖のあまり情けない声を出し、そのまま怯えたように尻餅をつく。
「わかっただろ?お前と俺とじゃ次元が違うんだ。お前なんかが俺の相手になるわけないだろ」
未来のライドなら主人公と一緒にいろんな経験をして強くなるだろうが、今のこいつでは正直言って話にならないレベルで弱い。
「はぁ。もう飽きたわ。これ以上虐めても面白みがないし、終わりにしよう」
俺はすっかり闘争心を無くして恐怖に震えてしまったライドに興味をなくすと、舞台の上から降りて短剣をカマエルに返す。
「ありがとう」
「いいよ。僕もいいものが見れたし」
「ふふ。そうか」
「エル。もう行こう」
「そうだな。ライム先生。疲れたんで教室に戻ってていいですか?」
「まぁいいよ。この後は支援系の序列決めをやるけど、君たちは興味ないみたいだしね」
「ありがとうございます」
「はぁ。ライドくん大丈夫かな。心折れてないといいけど…」
俺たちがライムに背を向けて歩き出すと、後ろからライドを心配した様子のライムの声が聞こえたが、もはや俺には彼がどうなろうと興味が無かったため、無視して教室へと戻る。
その後、支援系の序列戦が終わり全員が教室へと戻ってくるまで、俺はフィエラの尻尾を膝に乗せながら眠るのであった。
(まぁ、あんな負け方して勝利を譲られれば悔しくもなるよな。同情はしないけど)
地面に転がっているライドを眺めながらそんなことを考えていると、フィエラがスッキリした表情で俺の隣へと座った。
「どうだった?」
「まぁ、殺してないならいいんじゃないか」
「私はとてもスッキリしたわ!やっぱりフィエラに任せてよかったわね!」
「あたしもよ。正直、ざまぁって感じ。アイリスにも見せてあげたかったわね」
俺自身はあいつの発言に感じるものは無かったが、フィエラたちはかなり頭にきていたらしく、3人とも楽しそうに笑いながら話していた。
「おい!」
そんな3人の話を聞き流しながらだらけていると、脳震盪から回復したのか、怒りを隠そうともしないライドが怒鳴りながら近づいてくる。
「お前!あの勝負はなんだ!なぜ俺に勝ちを譲った!!」
「ん?言ってる意味がよくわからない。私は言った。序列に興味なんてないって。でも、あなたは一位が欲しいようだったからあげただけ。深い意味はない」
フィエラは淡々と答えるが、そんな彼女の態度が癇に障ったのか、ライドは怒りに震える。
「舐めるのもいい加減にしろ!確かに俺は一位になりたかった!だが、それはこんな形じゃない!自分の実力で手に入れたかったんだ!」
「ふふ。自分の実力?そもそも相手の実力も見抜けてないあなたが、何を言ってるの?」
「なに?!」
「あなたは私たちとエルの実力も見抜けず、しかも自分の実力も理解できていない。だから半分も引き出せていない魔剣なんかで満足して威張ってたんでしょ?その程度のくせに、自分の力で私たちに勝てるわけない」
「そんなこと!!」
「そもそも、相手の実力も見抜けていないのに格下と決めつけて戦おうとすること自体が愚か。それはエルのような強者に許されたもの。あなたはただ、自分の力を過信して相手を見下していただけ。怠惰なのはどっち?」
フィエラの言葉はライドを客観的に見た時の意見としては正しく、彼は俺を怠惰だ傲慢だというが、実際は相手を見下し舐めて戦っていたのはライドの方であり、自分の力に慢心していたのもまた彼の方であった。
「いい加減、自覚したら?あなたは確かに学園内では強いかもしれない。でも、それは学園という小さな箱の中でだけ。外に出れば、今のあなた程度の実力者は数えきれないほどいる。あなたは弱い。そのことを自覚した方がいい」
「くっ。そんなの…そんなこと…」
ライドはフィエラに言われた言葉に思うところがあるのか、俯いたまま手のひらを強く握ると、赤い血が雫となって落ちていく。
「なぁ、もう戻っていいか?」
「エル」
「いつまでこんな茶番を見てればいいんだ」
「待たせてごめん。もう行こう」
フィエラたちが真剣な話をしている中、全く興味のない会話を見せられた俺は、退屈さを隠すことなくそう言うと、フィエラが申し訳なさそうにしながら謝ってくる。
「はは…ははははは!!!」
俺が観客席から立ち上がり教室に戻ろうとライドに背を向けた時、彼は突然、まるで壊れた人形のように笑い始めた。
「あはははは!貴様も…お前も俺を馬鹿にするのか!」
「…なに?」
「どうせお前も俺を馬鹿にしているんだろ?!女に負けて情けないと思ってるんだろ!」
「別に俺はそんなこと思ってないが…」
「黙れ!!だいたい、何なんだお前は!その舐めた態度も怠けた姿も努力をしている雰囲気も見せないくせに、俺よりも強いだと!ふざけるな!!俺は小さい頃から父上や騎士たちに鍛えられてきたんだ!それなのに…それなのに!!」
(いや、それ俺に関係ないだろ。第一、お前の相手をしたのはフィエラなのに何で俺が責められてるんだ?)
ライドの言葉は全て俺に対するただの八つ当たりでしかなく、呆れを通り越して相手にするのも面倒になった俺は、彼を無視して教室へと戻ろうとするが、そんな俺にライドは禁忌とも言える言葉を吐き捨てる。
「どうせ親に甘やかされて育ったんだろ!子が子なら親も親だな!どうせ碌な親じゃないんだろ!!」
「あ?今なんつった?」
「親も愚か者だと言ったんだ!どうせ碌な親じゃな…がは!!」
俺は一瞬でライドとの距離を詰めると、右手でライドの首を掴み、そのまま空中へと持ち上げる。
「いいだろう。俺が相手をしてやる」
「ぐはっ!!!」
右手に掴んでいたライドを思い切り舞台へと投げ捨てると、俺も飛行魔法を使って舞台へとゆっくりと降り立つ。
「ライム先生」
「はいは~い。どうしたの?」
「俺がこいつを倒しても、今回は序列に変更は無しでお願いします。面倒なんで」
「わかったよ」
「セフィリア」
「はい」
「こいつの傷や体力を完全に治してやれ」
「かしこまりました」
「ソニア」
「なにかしら?」
「魔力譲渡は?」
「できるわ」
「ならやれ」
「わかった」
セフィリアとソニアにライドを完璧な状態に治すよう指示を出すと、俺はやつが回復するまでじっと待つ。
「くっ。どういうつもりだ」
「どういうつもりだと?そんなの簡単だ…」
俺はそこで一度言葉を区切ると、嗜虐心を隠すことなくニヤリと笑う。
「お前を完璧な状態で倒し、言い訳する余地を潰すためだ」
「なんだと」
「人間はな、何かと理由をつけては言い訳をし、自身を正当化しようとするんだ。テスト勉強をあまりしていないから点数が悪いだろう。体調が良くないから負けてしまった。そうやって予防線を張り、言い訳をし、自分の心を保とうとする。なぜだかわかるか?」
「……」
「認めたくないからだ。そうやって逃げ道を作りたいからだ。その根幹にあるのは気持ちの弱さ。そして、気持ちの弱いやつは上手くいかなかったり、思い通りにいかないと相手のせいにする。まさにお前のようにな」
「くっ」
「だからお前には逃げ道を与えない。徹底的にその道を潰すんだ」
例え両親が死んでも…いや、目の前で殺されようとも、俺がここまで怒ることはないだろう。
それは両親の死を過去で経験しているのもあるし、今ではそれが2人の運命だったのだと割り切ることができるからだ。
しかし、2人を馬鹿にする言葉だけは違う。彼らは尊重されるべき人間であり、俺の誇りであり、そして過去の俺の心の支えでもあった。
だから2人を馬鹿にする言葉だけは許せないし、何より許したくなかった。
「カマエル」
「なに?」
「短剣を貸せ」
「なんでさ」
「わかるだろ?」
「…はぁ。りょーかい」
カマエルは呆れたようにそう言うと、袖から隠していた短剣を一本取り出して投げてくる。
「僕の商売道具なんだから壊さないでよ」
「わかった」
俺は短剣の具合を確かめたあと、未だに呆けているライドへと目を向ける。
「お前も早く武器を構えろ」
「貴様、まさか他人の武器で戦う気か」
「あぁ。言っただろ?お前の逃げ道を無くすと。これはただの短剣で、しかも俺の慣れている武器でもない。これでお前は武器のせいにもできなくなったわけだ。わかったなら早く武器を構えろ」
「それは俺への侮辱だ!人の武器を使うなど!」
剣士にとって、武器とは自分の命よりも大切なものだ。それは敵の命を奪うものであり、同時に自分の命を助けるものでもあるからだ。
そして、ライドはそんな剣士の頂点である剣聖ホルスティン公爵家の息子であるため、俺が他人の武器を使うことが許せないのである。
「はは。俺に勝てるわけもないのに、勝った時のことを考えるとは随分と余裕だな。いいからさっさと剣を抜け」
「くそっ。貴様なんかに負けるわけがない!」
「ライム先生、お願いします」
「わかったよ。けど、死者は頼むから出さないでね。それじゃあ始め!」
ライムが開始の合図をしてからしばらく、ライドは剣を構えたまま動く様子はなく、徐々に焦りを見せ始める。
「どうした?こないのか?」
「黙れ!!」
(くそ。どう言うことだ。全く隙がない)
ライドは隙を窺うようにじっとこちらの様子を見てくるが、その隙が見つからないのか逆に焦りを見せていた。
「こないなら俺からいくぞ」
俺はそう言って一歩を踏み出した瞬間、ライドが認識する間もなく彼の後ろを取ると、短剣を首の一番太い血管に当てる。
「……は?」
「これでお前は一回死んだ」
距離を取って右手に持った短剣をクルクルと回しながらニヤリと笑うと、彼に一回目の死を伝える。
「何が…」
「さぁ?なんだろうな」
動揺しているライドを無視してもう一度踏み込むと、今度は目の前に現れて燃えるような瞳に短剣を突きつける。
「これで二回目だ。このまま短剣を眼球ごと脳に突き刺して捻れば、お前は死ぬだろうな」
「いったい…どうやって」
「自分で考えろ」
俺は少し怯えを感じ始めたライドの瞳を覗き込みながらそう言うと、その後も胸や眉間、さらには腹などに短剣を当てながら死亡回数を伝えていく。
回数が増えるごとにライドの瞳からは闘争心が消えていき、逆に恐怖の色に染まっていくが、俺はそんは彼を無視してさらに続けていく。
俺がやっていることはとても単純で、前にフィエラが戦った暗殺者の死角を使った戦闘方法と、森の王ビルドから学んだ自然体になる技術を合わせて使っているだけだった。
この二つの技はとても相性が良く、合わせて使った時の効果はまさに存在自体がこの世から消えたように錯覚するため、ライドごときが俺の動きを捉えるなど出来るはずもなかった。
「これで二十回目だ」
「ひっ…」
二十回目の死を迎えたライドは恐怖のあまり情けない声を出し、そのまま怯えたように尻餅をつく。
「わかっただろ?お前と俺とじゃ次元が違うんだ。お前なんかが俺の相手になるわけないだろ」
未来のライドなら主人公と一緒にいろんな経験をして強くなるだろうが、今のこいつでは正直言って話にならないレベルで弱い。
「はぁ。もう飽きたわ。これ以上虐めても面白みがないし、終わりにしよう」
俺はすっかり闘争心を無くして恐怖に震えてしまったライドに興味をなくすと、舞台の上から降りて短剣をカマエルに返す。
「ありがとう」
「いいよ。僕もいいものが見れたし」
「ふふ。そうか」
「エル。もう行こう」
「そうだな。ライム先生。疲れたんで教室に戻ってていいですか?」
「まぁいいよ。この後は支援系の序列決めをやるけど、君たちは興味ないみたいだしね」
「ありがとうございます」
「はぁ。ライドくん大丈夫かな。心折れてないといいけど…」
俺たちがライムに背を向けて歩き出すと、後ろからライドを心配した様子のライムの声が聞こえたが、もはや俺には彼がどうなろうと興味が無かったため、無視して教室へと戻る。
その後、支援系の序列戦が終わり全員が教室へと戻ってくるまで、俺はフィエラの尻尾を膝に乗せながら眠るのであった。
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