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冒険編

ドジっ子

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 シュヴィーナの家を出た後、俺たちはゆっくりと歩きながら王城の方へと向かっていた。

「あー、久しぶりの外はいいな」

 ヒュドラと戦ってからの二週間。俺はずっとシュヴィーナの家にある部屋で休んでいたため、二週間ぶりに浴びる太陽の光は心地よく感じた。

「けど、体がだいぶ鈍ってるな。フィエラ。体がもう少し回復したら模擬戦するぞ」

「わかった」

 フィエラは久しぶりに俺と模擬戦ができると決まって嬉しいのか、尻尾をふらふらと揺らしながら前を歩いていく。

「エイル、大丈夫?転びそうになったら私の腕を掴んでいいからね?」

「お前は俺の母親か?シュヴィーナじゃないんだから、こんなところで転ぶわけないだろ」

「な!?いつ私が転んだっていうのよ!」

「ミネルバに行く道で」

「違う。あれは空腹で行き倒れまただけ。シュヴィがドジなの事実だけど」

「フィエラまで私をドジっ子扱いするの?!」

 どうやらシュヴィーナのことをドジだと思っていたのは俺だけではないようで、フィエラにも言われたことでシュヴィーナが少しだけ涙目になる。

「まぁシュヴィーナがドジなのは今更どうでもいいとして」

「なんだか言い方が酷いわ!」

「そういえば一つ気になってたんだが、ケイリーさんはどうやって世界樹の様子を見に行っていたんだ」

 この国は世界樹を中心にできた大きな森の中でも西の方にあり、世界樹までとの距離はかなり離れている。

 俺とフィエラであれば朝に出て夕方ごろには戻れるだろうが、獣人のように身体能力が高くないエルフでは、あそこまで行くのに1日半はかかるだろう。

「ケイリーさんに直接聞いて。私に聞かないでちょうだい」

 シュヴィーナは先ほどの話で拗ねてしまったのか、胸元で腕を組みながらそっぽを向いてしまった。

「それもそうだな。普通に考えて、お前に聞いて全部答えられていたら、いくら王族と婚戚関係だと言っても情報漏洩しすぎだ。俺が王だったら、国を売ったとみなしてお前の首を跳ねるだろう」

 前にこの国に来たばかりの頃、シュヴィーナに森に張られている結界魔法について尋ねたが、彼女は素直にアーティファクトの力であることやその位置まで教えてくれた。

 あの時はアーティファクトの結界に感心していて言わなかったが、普通に考えればあれはエルフの国においてかなり重要な話であり、誰彼構わず教えて良いような話ではなかった。

「ばか」

 シュヴィーナは期待していた言葉と違うことを言われたせいか、軽く俺を睨みながらそんなことを呟く。

 しかし、俺が言っていることも理解はできているようで、それ以上何かを言うことは無かった。

(何を言われたかったのかは分かるが、俺が人の機嫌を取りに行くわけないだろ)

 彼女は俺が謝って彼女の機嫌を取ることに少しだけ期待していたようだが、俺は人の機嫌なんかに興味はない。

 むしろ戦闘時は相手を煽って怒らせるくらいなので、俺にそんなことを期待するのは無駄なのだ。

 その後、街の雰囲気を眺めながら王城へと辿り着いた俺たちは、衛兵がケイリーに確認を行い、王城の一室へと案内されるのであった。




 神樹国の王城は、他の国のものに比べるとかなり落ち着いた雰囲気のある場所で、装飾品などもあまり多くなく、飾らない感じがとても俺の好みだった。

「この城いいな。詫びの品としてここを貰うのもありかもな」

「はは。それは勘弁してくれ。私の住む場所が無くなってしまうよ」

 案内された部屋でそんな冗談を言っていると、執務の途中で抜けてきた様子のケイリーが頬を引き攣らせながら部屋へと入ってくる。

「冗談ですよ。ここは確かにいいところですが、俺には退屈すぎる」

 本当にこの城を貰ったとしても、閉鎖的なこの国はあまりにも平和で、俺が生活していくには退屈すぎた。

「そうか。私はすっかり慣れてしまったから、その感覚は分からないな」

 ケイリーはそう言いながらソファーに座ると、入れられたお茶を飲みながら一息つく。

「随分と疲れているようですね」

「まぁな。ライアンのことがあったし、今はやらなければいけないことがたくさんあるからな」

 ライアンのことで責任を感じていたケイリーは、一年後に王位を退くことに決めたらしい。

 今はそのための引き継ぎ作業で忙しいらしく、寝る間も惜しんで仕事ばかりしているようだ。

 ただ幸いにも、後継のキャイルはかなり優秀らしく、彼が教えることはほとんど無いそうで、その面に関してだけは楽ができているという。

 それと、この二週間の間にヒュドラの死体の処理や魔石の回収なども俺たちに代わって行ってくれていたらしく、あとでその素材も全て貰えるとのことだった。

「さて。こっちの話は終わりだ。次は君たちの話を聞かせてくれ」

「わかりました」

 それから俺たちは、森で魔物化したライアンの話と、二手に別れた後のヒュドラとの戦闘について話、シュヴィーナはライアンとの戦闘について詳細を話した。

 そして、最後に今回の一件は全て魔族のウールという男によるものであり、ライアンもその男に唆されたであろうことも話しておく。

「なるほど。君たちには最後まで愚息が迷惑をかけてしまったようだ。本当にすまない。そして、ヒュドラのことも討伐してくれてありがとう。この国の王として、深く感謝する」

 ケイリーは俺たちに向かって深く頭を下げると、その態勢のまま動かなくなってしまう。

「そうですね。今回はかなり迷惑を被りました。なので、約束通り精霊魔法を教えてもらう件と宝物庫からアイテムをもらう件、よろしくお願いしますね」

「ふっ…ははは!わかっているとも。約束は守ろう。まずは宝物庫に行こうと思うが、今日は時間はあるか?」

「もちろんです」

 俺の言葉を聞いて少しだけ気が楽になったのか、ケイリーは先ほどよりも明るく笑うと、席を立って俺たちを宝物庫へと案内してくれる。

「ここだ」

 宝物庫は人気のない廊下を進んだ先にあり、そこでは衛兵のエルフが2人で見張をしていた。

 俺たちはそんな2人の間を通って部屋の中へと入ると、魔道具が人の気配を感じ取って自動的に明かりをつける。

「これは魔法国のものですか?」

「あぁ。私が若い頃、あの国に行って見つけたのだ。自動で明かりがつくのが気に入って、たくさん買ってしまった」

 どうやらケイリーも若い頃は国を出て旅をしていたようで、気に入ったものはよく買って国へと持ち帰ってきていたらしい。

「さて。この中から好きなものを選んでくれ」

 そう言われて宝物庫内を見渡すと、綺麗に分けられた武器やアクセサリーがたくさんあり、見て回るだけでも楽しそうだった。

「よし。それぞれ気になるのを見て回ろう」

「わかった」

「えぇ」

 俺たち3人は、別れて気になるものや今後使えそうなものを見て回り、2時間ほど経った頃に貰うものを決めて最初の場所へと戻ってくる。

「フィエラは何にしたんだ?」

「私は動体視力を上げる指輪と魔法陣が描かれたスクロールを何個かにした」

「さすがだな」

 速さを活かして戦うフィエラであれば、動体視力が上がって損をする事はないし、属性魔法が使えない彼女が自身の欠点を補うためにスクロールを選んだのはさすがと言える。

 スクロールは予め魔法陣が描かれた巻物に、自身の魔力を流し込むだけで魔法が使えるというものであり、ダンジョンでドロップするのを狙うしかないレアなアイテムなのだ。

 しかも、スクロールに書かれている魔法陣は字が細かく複雑であり、書かれている言葉も意味不明な点が多いため、現代で複製する事はできない。

「シュヴィーナは?」

「私は矢をたくさん入れられる空間魔法がかけられた矢筒と、護身用に闇魔法が付与された短剣よ」

「ふむ。良い選択だ」

 シュヴィーナが持っているものを鑑定してみると、確かに矢筒には空間魔法がかけられており、かなりの矢が入れられるようになっていた。

 また、短剣の方も護身用に使うことができるのはもちろん、地面に刺せば半径3mに闇の結界を張ることができ、結界内にいる人を守る効果があるようだ。

「エルは何にしたの?」

「俺はアイテムだけだな。武器も面白そうなものはあったが、レイピアが殆どだったから今回はやめた」

「アイテムは?」

「ライアンが使っていた転移ができるものと、登録した相手の位置が分かる水晶。あとは同じく登録した相手と遠隔で話せるアーティファクトのピアスが一対に、他にも面白そうなものを何個か貰った」

 転移ができるアイテムは何かに使えそうだったので一応貰ったのと、登録した相手の位置が分かる水晶は主人公の位置や気になった奴らを登録して監視するためだ。

 そして遠隔で話ができるピアスは俺も初めて見た代物で、個人的に仕組みや作りがすごく気になったし、その他にも研究をしたら面白そうなものがいくつかあったのでそれらを貰うことにした。

「「それ、片方欲しい」」

「は?」

 俺がピアスの説明を終えると、フィエラとシュヴィーナの声が重なり、じっとピアスのことを見つめる。

「欲しいって言われても、一対しか無いんだが?」

「…フィエラ。ここは公平に運に任せて決めない?例えば、コイントスとかで」

「わかった」

「いいわ。なら、トスはケイリーさんに任せましょう。ちなみに、魔法を使用するのはダメよ」

 シュヴィーナはルールの説明をしながらケイリーにコインを渡すと、最初に3回当てた方が勝ちというルールで勝負を始める。

(はぁ。だからドジなんだよお前は。この勝負でお前が勝てるわけないだろ)

 俺は既に勝敗が決まっている勝負を眺めながら、内心で彼女の間抜けさに呆れ、思わずため息をついてしまった。

 そして…

「勝った」

「うそ…でしょ…」

 勝負に勝利したのは当然フィエラであり、シュヴィーナはこの世の終わりでも見たかのような顔で地面に手をついて落ち込む。

「お前はやっぱりドジだな」

 フィエラが俺の手からピアスの片方をとって大事そうに眺めているのを無視しながら、俺は未だ落ち込んでいるシュヴィーナに声をかける。

「なんで私がドジなのよ」

「だってそうだろ。普通の人がコイントスで勝負すらのならまだ分かるが、動体視力が関わってくるものでお前に勝ち目なんてあるわけ無いだろ?フィエラにはコインの回転数がスローで見えるだろうから、そこから落下速度と回転数を見て、さらにケイリーさんが隠す直前まで見続けて答えを言うことができるんだ。どう考えてもお前が勝てるわけ無いじゃないか」

「あ…」

 シュヴィーナはピアスのことで頭がいっぱいだったのかそこまで考えが至っておらず、俺に言われて初めて気がついたという表情でこちらを見てくる。

「エル。あとでピアス開けて。さすがに自分でやるのは怖い」

「はいはい、わかったよ。とりあえず、次は精霊魔法について教わるからピアスは帰ってからな」

「ん」

 その後、俺は良いアイテムが手に入ったことに満足し、フィエラもピアスがもらえて嬉しいのかいつもより軽い足取りで宝物庫を出る。

 それに対してシュヴィーナは一向に元気が戻る様子はなく、ケイリーはそんな彼女を慰めながら俺たちの後へとついてくるのであった。





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