何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

文字の大きさ
上 下
110 / 233
冒険編

受け入れること

しおりを挟む
 ライアンを片付けた俺は、端の方でここまでのやり取りを見ていたフィエラたちと合流する。

「エイル…」

 すると、シュヴィーナが何かを言いたそうに声をかけてくるが、俺はそんな彼女を無視して横を通り過ぎると、家の中へと戻っていく。

 その時、俺らを囲んでいた他のエルフたちは恐怖を感じさせる瞳で俺のことを見ると、自然と道を開けてくれた。

 家に戻った俺たちは黙って席に座ると、しばらく沈黙が流れる。

 しかし、シュヴィーナが一度深呼吸をして意を決したような表情に変わると、俺の方を見てきた。

「エイル。さっきのことだけど…」

「なんだ?」

「ライアン様のことだけど、いくらなんでもあれはやりすぎじゃないかしら」

「何故だ?結果的に生きているんだし問題ないだろ」

「それはそうだけど…でも、あんなに一方的な状況で嬲るなんて…」

 シュヴィーナは俺が最後にライアンを嬲ったことに感じるものがあったのか、そう言うと少しだけ非難するような表情へと変わる。

「それに、あなたはライアン様と戦っている時、彼を見ているようで見ていなかった。あなたはあの時、いったい誰と戦っていたの?」

 どうやらライアンと戦っていた時、主人公のあいつとライアンの行動が似ていたせいか、途中から主人公を相手にしている気になっていたのがバレていたようだ。

 だが、俺にはそのことを正直に話すつもりはないし、当然だが過去のことを話すつもりもない。

「なぁ、シュヴィーナ。俺とお前の関係はなんだ?」

「と、突然どうしたのよ」

「いいから答えろ」

「えっと、パーティーを組んでいる仲間だわ」

「そうだな。ただそれだけの関係だ。だから同じパーティーにいるからといって、自分の全てを話すわけじゃないんだよ。

 お前にも話したくないことがあるように、俺にも話したくないことや関わってほしくないことはある。今回の件がまさにそれだ。だから二度と聞くな」

 俺は脅す意味も込めて魔力でシュヴィーナを威圧すると、彼女は冷や汗をかきながらこくりと頷く。

「フィエラ。俺は部屋で休む。あいつのせいで気分が悪い」

「わかった。尻尾はいる?」

「…あとで頼む」

「わかった」

 これまで何かあるごとにフィエラの尻尾を触らせてもらっていたせいか、今ではストレスが溜まったり精神的に疲れた時に彼女の尻尾で癒されたいと思うようになってしまった。

(あの触り心地には逆らえないんだ。仕方ない)

 別にフィエラに絆されているとか、彼女が気になるとかではないが、これまでの人生であれほどモフモフと肌触りが良く落ち着くものもなかったため、疲れた時などはあれを求めてしまうのだ。

 その後、ライアンのせいで精神的に疲れてしまった俺は、フィエラに起こされるまで部屋で休むのであった。




~sideフィエラ・シュヴィーナ~

 ルイスが疲れた様子で部屋へと戻ると、その場にはフィエラとシュヴィーナの2人だけとなった。

「フィエラ?どこいくの?」

 すると、フィエラも席を立ってどこかへと行こうとしていたので、シュヴィーナは思わずそんな彼女を引き止めてしまった。

「自分の部屋。あとでエルに尻尾を触ってもらうから、最高の状態にしないと」

 フィエラはそう言うと、嬉しそうに尻尾を揺らしながら珍しくニコリと笑う。

 しかし、そんなフィエラを見たシュヴィーナは、さっきのルイスの姿を見たにも関わらず何も感じていない様子の彼女に疑問を感じる。

「フィエラ。あなたはさっきのエイルを見て何も感じなかったの?おかしいとか、異常だとか…」

「ん?別に何も。最初にエルが怒った時は驚いたけど、それよりも戦い以外で感情的になってくれたことが嬉しかった。新しいエルが見れて嬉しいかった。ただそれだけ」

 フィエラのこの言葉は偽りのない本心であり、それが彼女の瞳から伝わってきたシュヴィーナは思わず言葉を飲み込んでしまう。

「…やっぱりおかしいわ。エイルのあの行動や考え方も異常だけど…フィエラ、あなたもおかしい。どうしても私には理解が…」

 シュヴィーナはこの旅の中で、ルイスのこともフィエラのこともそれなりに理解したと思っていた。

 例え本当の身分や目的を教えてくれなくても、自分なりに2人のことを見て知ろうとしてきた。

 だが、結果は彼らの本質を何も理解することができず、自分もソニアと同じなのではないかと思い始める。

「シュヴィ、前に自分でソニアに言ったよね。人はこれまでの経験や周りの環境によって、価値観や考え方が変わるって。

 私もその通りだと思う。エルにはエルの過去があるように、私には私の過去がある。それはシュヴィも同じ。シュヴィにもこれまでの経験や過去があるから、私たちの全てを理解するのは無理」

「わかって…るけど。これじゃあ私もソニアと同じ…」

「でも、シュヴィはソニアとは違う。私たちのことをちゃんと理解しようと寄り添い、その結果、理解できなかっただけ。気にすることはない」

「でも…」

 シュヴィーナは2人のことが好きだった。残虐で敵には容赦しないルイスだが、仲間には何だかんだで甘いし優しい。
 フィエラもルイスを優先するところはあるが、自分にも優しくしてくれたし、表情はあまり変わらないが、その分素直に動く尻尾や耳が可愛いと思う。

 そんな2人が好きだったからこそ、2人を理解しきれていないことが悔しかったのだ。

「フィエラは、まるで彼の全てを理解しているみたいで羨ましいわ」

 シュヴィーナは、フィエラがルイスの全てを理解しているような態度が羨ましくて、思わず本音が漏れ出てしまう。

「ん?私もエルの全てを理解しているわけじゃない。ただ彼の全てを受け入れているだけ」

 しかし、そんな言葉を受けたフィエラは、首を傾げながらそんなことを言った。

「受け入れている?」

「そう。私もエルに何があったのかはわからない。でも、私はどんなエルでも好き。例え彼が世界を滅ぼすと言い出しても、私は彼のそばに居続ける。それだけ私は彼が好きで、どんな彼でも受け入れているだけ」

「どうしてそんなに…」

「好きだから。あと、何故か彼の側を離れちゃいけない気がするの」

「はは、敵わないわね」

 フィエラの覚悟を聞いたシュヴィーナは、思わず乾いた笑みを浮かべる。

「私、やっぱり2人の邪魔よね」

「ううん。それは違う」

「え…?」

「私は確かにエルが好きだし愛している。そしてその分、彼にも愛して欲しいとも思ってる。でも、それは私だけじゃない。彼には大切な人をたくさん作って欲しいとも思ってる」

「どうして?」

「エルはああ見えて人と接するのが好き。それは彼の優しいところや面倒見のいいところを知っているシュヴィも分かるはず。

 でも、その気持ちがあるから、余計に過去の何かのせいで人を遠ざけようとしているんだと思う。

 私はそんなエルに幸せになって欲しいと思ってる。そして最後は大切な人たちにみとられながら死なせてあげたい。そうしたら私も後を追うけどね。

 その大切な人の中に、シュヴィもいてくれたら私は嬉しい。シュヴィもエルに惹かれてるんでしょ?」

「フィエラ…」

 フィエラの言っていることはどこまでもルイスを思っての考えであり、どれだけ彼を大切に思い考えているのかがシュヴィーナに伝わる。

 そして、シュヴィーナは自分がルイスに惹かれていることを言い当てられ、自然と彼女の名前を呟いてしまった。

「最後に決めるのはシュヴィだよ。私はシュヴィなら一緒にいても構わないから」

 フィエラはその言葉を最後にシュヴィーナに背を向けると、そのまま自分の部屋へと戻っていく。

「私が決める…」

 1人残されたシュヴィーナは、先ほどのフィエラの言葉を心に刻みながら、自分がどうしたいのかを考えるのであった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

破滅を逃れようとした、悪役令嬢のお話

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥その恋愛ゲームは、一見するとただの乙女ゲームの一つだろう。 けれども、何故かどの選択肢を選んだとしても、確実に悪役令嬢が破滅する。 そんなものに、何故かわたくしは転生してしまい‥‥‥いえ、絶望するのは早いでしょう。 そう、頑張れば多分、どうにかできますもの!! これは、とある悪役令嬢に転生してしまった少女の話である‥‥‥‥ ――――――― (なお、この小説自体は作者の作品「帰らずの森のある騒動記」中の「とある悪魔の記録Ver.2その1~6」を大幅に簡略したうえで、この悪役令嬢視点でお送りしています。細かい流れなどを見たいのであれば、どちらもどうぞ)

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...