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冒険編
お片付け
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図書室を出たあと、俺はソニアの誘いで庭園へと向かい、そこで何故かお茶会をすることになった。
俺はソニアが入れてくれた紅茶を何気なく飲むが、向かい側に座ったソニアはじっと俺のことを見てくる。
「どうした?」
「ずっと思っていたのだけど、エイルってどこかの貴族なの?」
「なんでだ?」
「なんていうか、隠してはいるようだけど紅茶を飲む時とか品があるのよね。あたしもそういう教育は一通り受けているから分かるのよ」
「さぁな。ただ品が良い平民かもしれないだろ」
「そんなわけないじゃない」
ソニアはそう言うと黙ってしまい、テーブルに置かれたお茶菓子を一口食べたあと、紅茶で喉を潤す。
「…あのね。あたし、あれからずっとあなたが言っていた言葉について私なりに考えてみたの」
「それで?」
彼女が話しているのは、魔物討伐実習の時にアイドたちに襲われ、俺が死ぬことに対して何も感じないといったことや感情を押し付けるなと言ったことについて話しているようだった。
「でも、やっぱりいくら考えてもあなたが考えていることや気持ちが分からなかった。
だからあたしは理解することも共感することも出来ないし、あなたの考えを認めることも今は出来ない。
あなたは自分が死んでなんになるって言ったけれど、それは死ぬ側だから言えることだわ。
あなたのことを慕っている人や大切に思っている人、それに友人だって、残される側のことは何も考えられていない言葉。
残された側はあなたを大切に思っていた分だけ、失った時の喪失感が大きいはずよ。
あたしだってそうだわ。初めてできた友人であるあなたを失うのはとても悲しくて、考えただけでも胸が張り裂けそうなくらいに辛くなる。
あたしたちにとって、あなたという存在はあなたが思う以上に大きな存在なの。
そんなあたしたち残される側の気持ちを聞かされても、エイルは関係ないと言い切るの?」
ソニアの言葉は、一般的に考えればそれが普通であり、人生が一度しかないのならばどこまでも正しい。
しかし、俺の場合には根本的な部分が違うのだ。俺の人生は既に何度も繰り返されており、残される側の気持ちとかを考えられないくらいには壊れている。
そもそも、俺が死んで悲しんでくれたのはせいぜい両親くらいで、他のやつらはみんな喜んだり安堵した表情のやつらばかりだった。
死に際に見た主人公たちの笑顔は、何度死に戻っても忘れることは出来ず、今でもはっきりと思い出す事ができる。
そんな俺に、俺が死んで悲しむやつのことを考えろと言われても、正直よく分からない。
「お前の気持ちはわかった。けど、その気持ちを理解することは俺にも出来ないよ」
「どうして…」
「お前にはお前の気持ちや考え方があるように、俺には俺の気持ちや考え方があるっていうだけだ。
それが俺たちでは合わなかっただけ。ただそれだけのことだから気にするな」
俺はすっかり冷めてしまった紅茶を飲み干すと、席を立って歩き出す。
「紅茶、美味かったよ。じゃあな」
最後にソニアは何かを言いたそうにしていたが、結局その言葉がかけられることはなく、俺はソニアの屋敷を後にするのであった。
ソニアの屋敷から戻ったその日の夜。俺はとあるところに転移魔法で手紙を送った後、海底の棲家で白鯨から手に入れた霧の隠者のローブを身に纏う。
「エル。どこいくの?」
そして、1人で窓から外へと出ようとした時、突然後ろからフィエラに声をかけられた。
「最後の片付けをしてこようかと思ってな」
「ん。なら私も行く?」
「いや、今回はすぐに終わらせるからお前はシュヴィーナと休んでてくれ」
「わかった。でも、帰って来たら毛づくろいして。待ってるから」
フィエラは俺がこれから誰を相手にしに行こうとしているのか分かっているようで、そう言って俺のことを見送る。
「はいよ。行ってくる」
「いってらっしゃい」
フィエラに見送られた俺は窓から飛び降りると、飛行魔法を使って空を飛ぶ。
目指すはこの国で一番大きな場所であり、この国の象徴とも呼べる場所である。
「さぁ。最後の仕上げと行きますかね」
俺は空を飛びながら霧の隠者に魔力を流し込むと、誰にも気づかれることなく目的地へと辿り着くのであった。
~side???~
その男は今、慌てながら長い廊下を歩いていた。
いつもは何も感じないはずのこの廊下が、今は酷く長く感じ、また一歩ずつ目的地に近づくにつれて足が重くなって行く。
「いったい誰がこんな手紙を私の部屋に…」
男はいつもの仕事を終えた後、自分の部屋へと戻って休もうとした。
しかし、机の上には見たことのない手紙が置かれており、中を見た男は疲れなど忘れて急いで部屋を出た。
「誰かは知らぬが、この秘密を知っている者を生かしておくことは出来ぬ。早く始末せねば」
男は肥え太った体を懸命に動かし、ようやく手紙の差出人が待つ玉座の間へと辿り着く。
そして、重く閉ざされたその扉を開けて中へと入ると、そこには…
「やぁ。待っていたよ、王様。いや、それとも賢者様と呼んだ方がいいかな?」
そう男に声をかけたのは、王のみが座ることを許された玉座へと座り、頬杖を付きながら少しだるそうにしている少年だった。
月明かりに照らされた長い銀色の髪と、月を思わせるほどに神秘的な黄金の瞳。
その容姿は非常に整っており、一瞬女ではないかと思ってしまうほどに美しい。
しかし、その美しき少年から放たれる気配は真逆のもので、彼が魔王だと言われても納得してしまうほどの恐ろしさがあった。
「さぁ。少し俺と話をしようか」
少年はそう言うと、魔法で扉を閉めて逃げ道を無くし、この場には王と少年だけとなる。
王はこの瞬間、自分はもう終わりなのだと悟るのであった。
~sideルイス~
「やぁ。待っていたよ、王様。いや、それとも賢者様と呼んだ方がいいかな?」
俺は玉座に座りながら、部屋へと入って来た肥え太った男を見下ろして声をかける。
「さぁ。少し俺と話をしようか」
「……お前は何者だ」
王様はしばらく間を開けた後、ようやく俺に話しかけてくる。
「おや?知っているだろう?お前の部下が俺たちのことを報告していたはずだが?」
「部下だと?…まさか」
「そうさ。お前がソニアを殺すために雇った暗殺者。あれを片付けてやったのは俺だぞ?」
王様は俺の言葉がよほど衝撃的だったのか、驚いた顔のまま動かなくなる。
「…なら、あの娘のために私を殺しに来たと…」
「は?んなわけねぇだろ。俺が他人のためにこんなところまで来るわけねぇだろうが」
「な、なら何をしに来たというのだ!」
俺があまりにも的外れな事を言われて少しだけ殺気を漏らしてしまうと、王様は怯えながらここに来た理由について聞いてくる。
「んー、お前にと言うより、お前ら一族がずっと手を組んできた魔族に用があるんだよ」
「な!?何故その事知っている!!」
「はは。ソニアにかけられていた魔力封印を解いたのは俺だぞ?その時に魔力の波長が人族と違うことくらい気づけるさ」
魔力の波長には種族ごとに違いがある。そして、ソニアにかけられていた魔法を解いた時、その魔力の波長を読み取った俺はその魔法が魔族によるものだと気づいていた。
「お前の一族の事は色々知っているよ。例えば、お前らの先祖が初代賢者の魔力を魔族に手を貸してもらいながら封印し、無理やり今の地位を手に入れたこと。
あとは、この国の身寄りのない孤児を魔族に定期的に渡していること。ここから少し離れたところにある小さな村を魔族に渡し、そこで非道な実験をやらせていることとかな」
そう。ソニアがあの地下で読んでいた手帳には、弟子の一人が自身の魔力を魔族と共謀して封印し、その弟子が賢者の座についたことが書かれてあった。
また、孤児を魔族に渡していることや村の話は、未来でソニアが復讐相手である王族を調べた結果分かった話で、俺は彼女にその話を聞かされたことを覚えたいた。
「くっ!全て知っているということか!」
「そういうこと。お前はソニアに圧倒的な魔法の才能があることをしり、真実が明るみになること恐れて彼女を殺そうとしたんだろ?」
「そうだ!魔族の男が言っていたのだ!初代賢者は過去のことを記録に残し、彼の血を濃く受け継ぐものが現れた時、我が一族の秘密が明るみになると!」
「そうなりたくなければ、こちらの指示に従えとでも言われたのか?」
俺に言われた言葉が図星だったのか、王様は黙り込んでしまい、それ以上何も言う事はなかった。
「まぁ、俺にとってはあんたらの事情なんてどうでもいいんだ。孤児がどうとか村がどうとかも興味がない。言っただろ?俺が用があるのは魔族だってさ」
俺はそう言って立ち上がると、天井を一度見てからニヤリと笑って魔力を解放させる。
「さぁ、先祖の業を背負わされた哀れな王よ。魔族に踊らされ、良いように遊ばれた可哀想な王よ。お前にその座は相応しくない。お前にその力は相応しくない。よって、この俺が全てをいただくとしよう。『□□□□』」
俺が魔法名を唱えると、黒い魔力が一瞬のうちに王様を飲み込み、次の瞬間には抜け殻のように虚な目をした王様が立っているだけだった。
「これで終わりだ。あとは自分でやるべき事をやれ」
「…わかった」
王様はそう言うと、来た時とは違いふらふらと歩きながら玉座の間を出て行く。
(気配が消えたな。どうやらやつも出て行ったようだ)
先ほどまでこの部屋の様子を見ていた魔族の気配が消えたことで、俺は玉座へと座り直し力無く崩れる。
「くそ。まだこの力は上手く扱えないな」
実は先ほど使った力が何なのか、それは俺自身もよく分かっていない。
しかもこの力には自我があるのか、使用すれば俺の自我を乗っ取ろうとしてくる厄介なもので、普段は魔力で厳重に封印している。
しかし、この力の波長を調べた結果、魔族の波長に似ていることが分かったので、魔族にこの力を見せればこれが何なのか分かるかもしれないと思い、この場を利用させてもらったのだ。
「はぁ。この結果が良い方に転がってくれると良いが…まぁ、悪い方に行ったらそれはそれで楽しいか。あはは。今日は気分が良いなぁ」
俺は天井から差し込む月明かりを眺めながら、久しぶりに穏やかな気持ちで1人の時間を楽しむのであった。
俺はソニアが入れてくれた紅茶を何気なく飲むが、向かい側に座ったソニアはじっと俺のことを見てくる。
「どうした?」
「ずっと思っていたのだけど、エイルってどこかの貴族なの?」
「なんでだ?」
「なんていうか、隠してはいるようだけど紅茶を飲む時とか品があるのよね。あたしもそういう教育は一通り受けているから分かるのよ」
「さぁな。ただ品が良い平民かもしれないだろ」
「そんなわけないじゃない」
ソニアはそう言うと黙ってしまい、テーブルに置かれたお茶菓子を一口食べたあと、紅茶で喉を潤す。
「…あのね。あたし、あれからずっとあなたが言っていた言葉について私なりに考えてみたの」
「それで?」
彼女が話しているのは、魔物討伐実習の時にアイドたちに襲われ、俺が死ぬことに対して何も感じないといったことや感情を押し付けるなと言ったことについて話しているようだった。
「でも、やっぱりいくら考えてもあなたが考えていることや気持ちが分からなかった。
だからあたしは理解することも共感することも出来ないし、あなたの考えを認めることも今は出来ない。
あなたは自分が死んでなんになるって言ったけれど、それは死ぬ側だから言えることだわ。
あなたのことを慕っている人や大切に思っている人、それに友人だって、残される側のことは何も考えられていない言葉。
残された側はあなたを大切に思っていた分だけ、失った時の喪失感が大きいはずよ。
あたしだってそうだわ。初めてできた友人であるあなたを失うのはとても悲しくて、考えただけでも胸が張り裂けそうなくらいに辛くなる。
あたしたちにとって、あなたという存在はあなたが思う以上に大きな存在なの。
そんなあたしたち残される側の気持ちを聞かされても、エイルは関係ないと言い切るの?」
ソニアの言葉は、一般的に考えればそれが普通であり、人生が一度しかないのならばどこまでも正しい。
しかし、俺の場合には根本的な部分が違うのだ。俺の人生は既に何度も繰り返されており、残される側の気持ちとかを考えられないくらいには壊れている。
そもそも、俺が死んで悲しんでくれたのはせいぜい両親くらいで、他のやつらはみんな喜んだり安堵した表情のやつらばかりだった。
死に際に見た主人公たちの笑顔は、何度死に戻っても忘れることは出来ず、今でもはっきりと思い出す事ができる。
そんな俺に、俺が死んで悲しむやつのことを考えろと言われても、正直よく分からない。
「お前の気持ちはわかった。けど、その気持ちを理解することは俺にも出来ないよ」
「どうして…」
「お前にはお前の気持ちや考え方があるように、俺には俺の気持ちや考え方があるっていうだけだ。
それが俺たちでは合わなかっただけ。ただそれだけのことだから気にするな」
俺はすっかり冷めてしまった紅茶を飲み干すと、席を立って歩き出す。
「紅茶、美味かったよ。じゃあな」
最後にソニアは何かを言いたそうにしていたが、結局その言葉がかけられることはなく、俺はソニアの屋敷を後にするのであった。
ソニアの屋敷から戻ったその日の夜。俺はとあるところに転移魔法で手紙を送った後、海底の棲家で白鯨から手に入れた霧の隠者のローブを身に纏う。
「エル。どこいくの?」
そして、1人で窓から外へと出ようとした時、突然後ろからフィエラに声をかけられた。
「最後の片付けをしてこようかと思ってな」
「ん。なら私も行く?」
「いや、今回はすぐに終わらせるからお前はシュヴィーナと休んでてくれ」
「わかった。でも、帰って来たら毛づくろいして。待ってるから」
フィエラは俺がこれから誰を相手にしに行こうとしているのか分かっているようで、そう言って俺のことを見送る。
「はいよ。行ってくる」
「いってらっしゃい」
フィエラに見送られた俺は窓から飛び降りると、飛行魔法を使って空を飛ぶ。
目指すはこの国で一番大きな場所であり、この国の象徴とも呼べる場所である。
「さぁ。最後の仕上げと行きますかね」
俺は空を飛びながら霧の隠者に魔力を流し込むと、誰にも気づかれることなく目的地へと辿り着くのであった。
~side???~
その男は今、慌てながら長い廊下を歩いていた。
いつもは何も感じないはずのこの廊下が、今は酷く長く感じ、また一歩ずつ目的地に近づくにつれて足が重くなって行く。
「いったい誰がこんな手紙を私の部屋に…」
男はいつもの仕事を終えた後、自分の部屋へと戻って休もうとした。
しかし、机の上には見たことのない手紙が置かれており、中を見た男は疲れなど忘れて急いで部屋を出た。
「誰かは知らぬが、この秘密を知っている者を生かしておくことは出来ぬ。早く始末せねば」
男は肥え太った体を懸命に動かし、ようやく手紙の差出人が待つ玉座の間へと辿り着く。
そして、重く閉ざされたその扉を開けて中へと入ると、そこには…
「やぁ。待っていたよ、王様。いや、それとも賢者様と呼んだ方がいいかな?」
そう男に声をかけたのは、王のみが座ることを許された玉座へと座り、頬杖を付きながら少しだるそうにしている少年だった。
月明かりに照らされた長い銀色の髪と、月を思わせるほどに神秘的な黄金の瞳。
その容姿は非常に整っており、一瞬女ではないかと思ってしまうほどに美しい。
しかし、その美しき少年から放たれる気配は真逆のもので、彼が魔王だと言われても納得してしまうほどの恐ろしさがあった。
「さぁ。少し俺と話をしようか」
少年はそう言うと、魔法で扉を閉めて逃げ道を無くし、この場には王と少年だけとなる。
王はこの瞬間、自分はもう終わりなのだと悟るのであった。
~sideルイス~
「やぁ。待っていたよ、王様。いや、それとも賢者様と呼んだ方がいいかな?」
俺は玉座に座りながら、部屋へと入って来た肥え太った男を見下ろして声をかける。
「さぁ。少し俺と話をしようか」
「……お前は何者だ」
王様はしばらく間を開けた後、ようやく俺に話しかけてくる。
「おや?知っているだろう?お前の部下が俺たちのことを報告していたはずだが?」
「部下だと?…まさか」
「そうさ。お前がソニアを殺すために雇った暗殺者。あれを片付けてやったのは俺だぞ?」
王様は俺の言葉がよほど衝撃的だったのか、驚いた顔のまま動かなくなる。
「…なら、あの娘のために私を殺しに来たと…」
「は?んなわけねぇだろ。俺が他人のためにこんなところまで来るわけねぇだろうが」
「な、なら何をしに来たというのだ!」
俺があまりにも的外れな事を言われて少しだけ殺気を漏らしてしまうと、王様は怯えながらここに来た理由について聞いてくる。
「んー、お前にと言うより、お前ら一族がずっと手を組んできた魔族に用があるんだよ」
「な!?何故その事知っている!!」
「はは。ソニアにかけられていた魔力封印を解いたのは俺だぞ?その時に魔力の波長が人族と違うことくらい気づけるさ」
魔力の波長には種族ごとに違いがある。そして、ソニアにかけられていた魔法を解いた時、その魔力の波長を読み取った俺はその魔法が魔族によるものだと気づいていた。
「お前の一族の事は色々知っているよ。例えば、お前らの先祖が初代賢者の魔力を魔族に手を貸してもらいながら封印し、無理やり今の地位を手に入れたこと。
あとは、この国の身寄りのない孤児を魔族に定期的に渡していること。ここから少し離れたところにある小さな村を魔族に渡し、そこで非道な実験をやらせていることとかな」
そう。ソニアがあの地下で読んでいた手帳には、弟子の一人が自身の魔力を魔族と共謀して封印し、その弟子が賢者の座についたことが書かれてあった。
また、孤児を魔族に渡していることや村の話は、未来でソニアが復讐相手である王族を調べた結果分かった話で、俺は彼女にその話を聞かされたことを覚えたいた。
「くっ!全て知っているということか!」
「そういうこと。お前はソニアに圧倒的な魔法の才能があることをしり、真実が明るみになること恐れて彼女を殺そうとしたんだろ?」
「そうだ!魔族の男が言っていたのだ!初代賢者は過去のことを記録に残し、彼の血を濃く受け継ぐものが現れた時、我が一族の秘密が明るみになると!」
「そうなりたくなければ、こちらの指示に従えとでも言われたのか?」
俺に言われた言葉が図星だったのか、王様は黙り込んでしまい、それ以上何も言う事はなかった。
「まぁ、俺にとってはあんたらの事情なんてどうでもいいんだ。孤児がどうとか村がどうとかも興味がない。言っただろ?俺が用があるのは魔族だってさ」
俺はそう言って立ち上がると、天井を一度見てからニヤリと笑って魔力を解放させる。
「さぁ、先祖の業を背負わされた哀れな王よ。魔族に踊らされ、良いように遊ばれた可哀想な王よ。お前にその座は相応しくない。お前にその力は相応しくない。よって、この俺が全てをいただくとしよう。『□□□□』」
俺が魔法名を唱えると、黒い魔力が一瞬のうちに王様を飲み込み、次の瞬間には抜け殻のように虚な目をした王様が立っているだけだった。
「これで終わりだ。あとは自分でやるべき事をやれ」
「…わかった」
王様はそう言うと、来た時とは違いふらふらと歩きながら玉座の間を出て行く。
(気配が消えたな。どうやらやつも出て行ったようだ)
先ほどまでこの部屋の様子を見ていた魔族の気配が消えたことで、俺は玉座へと座り直し力無く崩れる。
「くそ。まだこの力は上手く扱えないな」
実は先ほど使った力が何なのか、それは俺自身もよく分かっていない。
しかもこの力には自我があるのか、使用すれば俺の自我を乗っ取ろうとしてくる厄介なもので、普段は魔力で厳重に封印している。
しかし、この力の波長を調べた結果、魔族の波長に似ていることが分かったので、魔族にこの力を見せればこれが何なのか分かるかもしれないと思い、この場を利用させてもらったのだ。
「はぁ。この結果が良い方に転がってくれると良いが…まぁ、悪い方に行ったらそれはそれで楽しいか。あはは。今日は気分が良いなぁ」
俺は天井から差し込む月明かりを眺めながら、久しぶりに穏やかな気持ちで1人の時間を楽しむのであった。
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