何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

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冒険編

甘さ

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「待たせたわね」

「いや、大丈夫」

 ソニアは少し慌てた様子で部屋に入ってくると、そう言いながら近くのソファーへと座る。

 彼女はどうやら身支度に時間がかかっていたらしく、今日はいつものローブ姿ではなく濃い紫色の綺麗なドレスで身を包んでおり、いつもと違った落ち着いた雰囲気が感じられた。

「な、なに?何かあるなら言ってよ」

 すると、見慣れない姿の彼女を見過ぎたせいか、ソニアは少し顔を赤くしながら話しかけてくる。

「いつもと違う服だから少し新鮮だなと思っただけだ」

「…変かしら」

「いや、似合ってるよ」

「そう」

 彼女はそう言ってテーブルに置かれた紅茶を飲むと、その後は一向に話そうとも場所を移動しようともしない。

「すまないが、そろそろ魔導書を見せてもらってもいいか?」

 このままではいつまで経っても話が進まなそうだと判断した俺は、今日ここに来た目的を果たすために彼女に本を見せるようお願いする。

「そ、そうね。案内するからついて来て」

 ソニアがそう言って立ち上がったので俺も立つと、彼女と2人で部屋を出て屋敷内を歩いて行く。

 その間、屋敷内にいるメイドや執事たちから微笑ましいものを見るような目で見られるが、俺はその全てを無視した。

 そんな視線を無視しながら彼女に案内されてやって来たのは屋敷の奥にある図書室で、そこにある棚の一つにソニアが触れて魔力を流し込むと、その棚が動き出し奥へと続く道が現れる。

「この先よ」

 彼女に続いて薄暗い道を進んでいくと、そこにはたくさんの魔導書や論文らしきものが綺麗に並べられていた。

「これはすごいな」

「でしょ?あたしも初めて見た時はとても驚いたわ。ここにあるものは好きに読んでいいってお父様から言われているから、気が済むまで読んでいいわよ」

「ありがとう」

 ソニアはそう言って近くにあった本を手に取ると、部屋の隅にある椅子に座ってその本を読み出す。

 俺も本棚を見て周り気になったものをいくつか手に取ると、ソニアの向かい側にあった椅子に座って本に目を通して行く。

 その光景は奇ししくも未来の俺らと同じ姿であり、俺たちはこうして向かい合いながら本や魔法の話をよくしていた。

 しかし、今の俺たちにはそんな雰囲気は一切なく、静かに本のページが捲られる音だけが部屋へと響く。

 それからしばらくして、俺は知らない魔法や知らない理論、今では失われてしまった魔力の使い方さえも記されているこの本や論文たちを読むのが楽しくて、少しだけ気持ちが舞い上がってしまう。

(すごいな。自然魔力を意図的に体内に吸収し、それを瞬時に自分の魔力に変換することができれば、擬似的に無限に近い魔力が手に入るのか)

 通常魔力を消費した場合、その魔力を回復するには体がゆっくりと空気中にある自然魔力を吸収し、それを体内で時間をかけて適した形に変換させて行く必要がある。

 その速度は魔力の総量にもよるが、およそ半日から一日ほどかかるのが普通だ。

 しかしこの理論が実現できれば、魔力の総量が増えるわけではないので、魔力量以上の魔法を使うことは出来ないが、それでも魔力を気にせずに魔法が使えるようになる。

(これは試してみる価値がありそうだ)

 かなり高度な魔力操作が必要となるようだが、そういった技術を身に付けていくことは好きなので、あとで時間がある時に試すことにする。

 その後も時間の許す限りたくさんの本に目を通していき、満足したところで最後に気になっていた場所を見てみることにした。

「ソニア、ちょっと来てくれ」

「何かしら」

 俺は何重にも封印魔法が掛けられた床の上にソニアを呼ぶと、彼女の手を取ってストレージからナイフを取り出す。

「すまないが少し指の先を切ってもいいか?ここに何かがあるようなんだ」

「…わかったわ」

 ソニアは少し考える素振りを見せたが、すぐに了承してくれたので、俺は彼女の指先をナイフで切ってその血を床へと一滴垂らす。

 すると、血の当たった場所が魔法陣によって光り輝き、少しして地下へと続く道が現れる。

「こ、これは?」

「行ってみよう」

 俺たちはゆっくりと階段を降りて行くと、そこには小さな机と椅子、そしてランプと棚だけが置かれた書斎のような場所へと辿り着く。

「こんな場所、初めてみるわ」

「だろうな。入り口がかなり高度な魔法によって守られていたから、おそらく誰も気づくことは無かったんだろう」

 実際、入り口となっていたあの場所には、今では使われていない魔法やオリジナルの技術が使われていた。

 あの入り口を開くにはソニアのように初代賢者の血を引いた者であり、さらにその中でも規定量の魔力を持ったものが血族である事を示さなければ開かない仕組みとなっていた。

 ソニアは机の上に置かれていた手帳を手に取ると、ゆっくりとページを捲りながら目を通して行く。

 俺も近くにあった書棚から一冊の本を取るが、保存魔法がかけられているのかとても綺麗なままだった。

 しかし、どういうわけかその本は開く事が出来ず、俺は目に魔力を集めて本に施された魔法を解析して行く。

(随分厳重に守られているな)

 この本は全属性の魔法で厳重に守られており、本を開くには全属性の魔法を高レベルで使え、しかもそれを決められた波長に合わせて全てを複合してから本に流し込まなければロックが解除されないようになっていた。

(チッ。今の俺じゃ開く事はできないな)

 俺はその本を開けようと試してみるが、今の俺の実力では足りていないのか、その本を開ける事はできなかった。

 これだけで、過去の賢者がどれだけレベルの高い実力者だったのかを知る事ができ、そんな実力者が封印したこの本には何が書かれているのかとても気になるところである。

 俺はその本をソニアにバレないようストレージにしまうと、思わぬ収穫があったことで今後の事を改めて考える。

(とりあえず、今は予定通りに行動しよう。この本を開けるのはもっと力をつけてからだな)

「…これ、どういうことなの」

 俺が今後の予定について考えていた時、後ろで別の手帳を読んでいたソニアから困惑した様子の声が聞こえてきたので振り返る。

「どうした?」

 俺は彼女のもとへと近づき、後ろから彼女が読んでいた手帳に目を通すと、そこには隠されていた真実が書かれていた。

「これが本当なら、あたしを狙っていたのって…」

「だろうな。それで?この真実を知ったお前はどうする?」

「どうするって…」

「この秘密を世間にバラすのか、それとも見なかったことにして忘れるのか。お前には選ぶ権利がある」

「あなたはどうしたら良いと思う」

「さぁな?俺には関係ないことだから知らん。お前が決めろ」

「あたしは…この秘密を隠すわ。この秘密のせいで国のみんなを混乱させたくないもの。平和な今のこの国を壊したくはないわ」

「そうか。お前がそうしたいならそれで良いんじゃないか」

 彼女の答えを聞いた俺は、やはり彼女らしいと思うと同時に、少しだけがっかりしてしまった。

(お前がそれで良くても、相手はそうも行かないだろう。そこら辺の考えが少し足りていないな)

 例え彼女がこの秘密を隠そうとしても、それで相手が放っておいてくれるわけではない。

 現に、ソニアはこの秘密を知る前からその命を狙われていたわけで、気が動転しているせいかその事実に気づいていないようだった。

 その後、ソニアは手帳を机の上に戻すと、俺たちは来た道を戻って地下室を出るのであった。





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