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冒険編
試験
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ソニアの魔力を解放した後、俺は試験が始まる少し前にシュヴィーナだけを呼ぶ。
「なに?私に何かようかしら?」
「あぁ。お前に…というより、ドーナに一つお願いがあってな」
「ドーナに?」
「そう。ただその前に、シュヴィーナは精霊魔法以外の魔法も使えるよな?」
「もちろんよ。風と水ならそこそこ使えるわ。他の属性は適性がなかったり使えても大した事ないけれど」
シュヴィーナが精霊魔法以外も使える事を確認した俺は、これなら問題ないと判断して本題に入る。
「ドーナを直ぐにソニアの屋敷に向かわせて欲しいんだ」
「え?どうして?」
「おそらく敵からの襲撃がある。それをドーナに守ってほしい」
「敵ですって?どういうことなの」
俺は過去にソニアから聞いた話を交えながら、予測という形でシュヴィーナにわかりやすく現在の状況を説明をする。
「いいか、シュヴィーナ。今回の敵はかなりの実力者だ。ソニアが小さい頃に彼女の魔力を封じ、それを今まで誰にも気づかせることが無かった。
そんな奴が、魔力封印を解かれたのに気づいたらどうすると思う?」
「もう一度同じ方法を使うか、ソニアを警戒しているなら消すわね」
「そういうこと。そして本人が動くにしろ、部下を動かすにしろ、まず向かうのはソニアの屋敷だ」
「なるほど、わかったわ。ドーナ」
シュヴィーナは状況を理解すると、直ぐにドーナを呼んで彼女に指示を出す。
屋敷の場所は事前にソニアから聞いていたので、場所を言えば直ぐにソニアの屋敷にある庭園にでも移動することだろう。
「シュヴィーナ、少し待て」
「どうかしたの?」
ドーナに指示を出し終えた彼女は、ドーナに移動するよう声をかけようとするが、俺がそれに待ったをかける。
「おそらく襲撃してくる敵もそれなりに強いと思うから、ドーナに多めに魔力を渡そうと思う」
「できれば私もそうしたいけれど、私の魔力が底をついてしまうわ」
「問題ない。俺の魔力をお前に送るから、それをドーナに流してくれ」
俺はそう言うと、シュヴィーナに一声かけてから彼女の背中に触り、ゆっくりと俺の魔力を変質させながら彼女に流し込んでいく。
「すごい濃密な魔力…」
「いいから早くドーナに流せ。でないとお前が耐えきれなくなるぞ」
「わかったわ」
精霊の体は人の形に見えていても、それは召喚主の魔力で形成されたものであり、与えられた魔力分の力しか使うことができない。
そのため、魔力が少なければ簡単な魔法しか使えないし直ぐに消えてしまうが、逆に与えた魔力が多ければ使える魔法もかなり高威力のものになるし、活動時間も増やすことができる。
「よし。これくらいでいいだろ」
「はぁ、はぁ。あなた、どれだけ魔力が多いのよ」
俺の魔力を1/3ほどを与えたことで、ドーナの髪や瞳はいつもよりも深い緑色になっており、体も少し大きくなっていた。
「それじゃあ、ドーナ。ソニアの屋敷をよろしくね」
ドーナはくるりと回って一礼すると、転移するかのように姿を消していなくなる。
「これでとりあえずは大丈夫だろう。それと、この事はソニアに言うなよ。あいつには試験に集中してもらいたいからな」
「当然ね。心配はかけさせたくないもの。でも意外ね。あながここまでソニアを気にかけるなんて」
彼女の言う通り、普通であれば未来で俺の死に関わる可能性がある彼女をここまで気にかけて助ける必要は無いのだが、例え助けなかったとしても辿り着く未来は変わらない。
助けなければこれまで通り彼女の家族が殺され、悲惨な経験をした彼女がシュゼット帝国学園に入学してくるだけだ。
どうせ変わらないのなら、一度くらいは過去の友人を助けても良いかと思ったし、なんなら助けて家族が生きていれば、彼女が帝国学園に入学して来ないという未来もありえるので、俺はその可能性に賭けてみようと思ったのだ。
「まぁ、いろいろあるんだよ」
「ふーん」
「なんだ?」
「別に?ただ、私のことももう少し気にかけて欲しいって思っただけよ」
シュヴィーナはそう言うと、何故か薄っすらと頬を赤くして視線を逸らす。
「何言ってんだ。十分気にかけてやってるだろ。お前の食事代にどれだけ金が減っていることか」
「なっ!?そ、そういう意味じゃないわ!それじゃあまるで、私が大食いみたいじゃない!」
「みたいっていうか、事実そうだろう?」
「失礼ね!私は普通よ!」
「…そうか。まぁとりあえず、お前に頼みたかったことも終わったし俺らも試験会場に行くぞ」
その後、シュヴィーナは会場に着くまでの間ずっと自分は普通だと言い続け、相手にするのが面倒になった俺は適当に同意するのであった。
シュヴィーナと2人で試験会場である訓練場にきた俺たちは、先に来ていたフィエラとソニアの2人と合流する。
訓練場には多くの受験者がおり、緊張した表情の子や自信に満ちた表情の子、それと何を考えているのか分からない無表情な子と様々だった。
「おかえり」
「ただいま。間に合ったか?」
「ちょうど今始まるとこ」
「そうか」
フィエラが今の状況を説明してくれると、突然空に1人の男性が現れる。
そして、その男性は風魔法に乗せて訓練場全体に自身の声を届けると、試験について説明を始める。
『諸君。本日はよく集まってくれた。早速ではあるが、試験の説明を行なっていく。
試験は単純。順番に目の前にある的を魔法を使用し破壊すること。ただし!的は魔法耐性の高い素材で作られているため、程度の低い魔法では破壊できないのでせいぜい頑張るように。
なお、試験の結果は順番が終了した時点で近くにいる試験官から言われるのでしっかりと聞くように。
私からの説明は以上だが、君たちから何か質問はあるかね?……そこの君。なにかな?』
試験官の話が終わると、俺は一つだけ聞きたかったことがあったので手を上げる。
「この学園には図書館があると思いますが、そこにある禁書庫に入るにはどうしたらいいですか?」
『禁書庫だと?』
男性は俺の質問を受けると、しばし黙って俺の方を見下ろしてくるので、俺も目を逸らさずにじっと見返す。
『ふむ。禁書庫に入るには学園に入学後、Sクラスに入る必要がある。
今回の試験では基本的に合否のみを判断し、入学後にクラス分けの試験を行う。そこでSクラスになれば禁書庫に入れるだろう。
だが、何事にも例外はある。この試験で他とは違う実力を見せた場合、クラス分けを行わずともSクラスに入ることができるが、それはごく稀なことだ。この説明で良いかな?』
「ありがとうございます」
『他に質問がある者はいるかね?…いないようだな。では試験を開始する。受付で配配られた番号順に呼ぶので、順次移動して指示に従うように。では、諸君の健闘を祈る』
男性はそう言うと、他の試験官が集まっている方へと向かっていき、次に他の試験官の先生たちが次々と番号を呼んでいく。
そして、何人かの受験者が試験を終えて喜んだり悲しんだりしていると、シュヴィーナが最初に呼ばれた。
「行ってくるわ」
「おう」
「頑張って」
「行ってらっしゃい」
3人でシュヴィーナを見送ると、あたりが少しざわめき出す。
それもそのはずで、エルフ族は俺たち人族に比べて魔法の技術が高いため、彼女が注目されるのは必然と言えた。
シュヴィーナは指定された位置に立つと、的の大きさと距離を確認して右手を前に突き出す。
「『風の弾』」
彼女が魔法を唱えると、不可視の風の塊が的にあたり、見事粉々に打ち壊す。
周りはシュヴィーナが詠唱を短縮して魔法を使用したため、実力の差に落ち込んだり憧れの視線を彼女に向けていた。
「68番、合格。次、69番!」
「俺だな。行ってくる」
次に呼ばれたのは俺で、試験官のもとに向かい受験番号を見せた後、指定された位置に立つ。
(さて。どうしようかな?)
本来の予定では、適当に的を壊して終わらせる予定だったが、実力を示さないと禁書庫に入れないことがわかった今、多少は真面目にやる事に決めた。
「『地獄の業火』」
俺が短縮して魔法を唱えると、的の下に赤色のサークルができ、そこから空へと炎の柱が伸びる。
「……」
あたりは一気に静まり返り、他のところで試験を受けていた受験生たちも手を止めて呆然としていた。
「試験官さん?的、破壊しましたが?」
「…あ、あぁ。いや、破壊というか…消し炭というか…」
試験官が言う通り、先ほどまで的があった場所には消し炭となった灰のようなものしか残っておらず、的と呼べる物は何一つ残っていなかった。
「と、とりあえず合格…です」
「ありがとうございます」
試験の合格を言われた俺は後ろを振り返り歩き出すと、集まっていた受験生たちが何故か左右に分かれて道を作りだす。
俺はそれらを特に気にすることはなく歩き続け、フィエラたちのもとへと戻るのであった。
「なに?私に何かようかしら?」
「あぁ。お前に…というより、ドーナに一つお願いがあってな」
「ドーナに?」
「そう。ただその前に、シュヴィーナは精霊魔法以外の魔法も使えるよな?」
「もちろんよ。風と水ならそこそこ使えるわ。他の属性は適性がなかったり使えても大した事ないけれど」
シュヴィーナが精霊魔法以外も使える事を確認した俺は、これなら問題ないと判断して本題に入る。
「ドーナを直ぐにソニアの屋敷に向かわせて欲しいんだ」
「え?どうして?」
「おそらく敵からの襲撃がある。それをドーナに守ってほしい」
「敵ですって?どういうことなの」
俺は過去にソニアから聞いた話を交えながら、予測という形でシュヴィーナにわかりやすく現在の状況を説明をする。
「いいか、シュヴィーナ。今回の敵はかなりの実力者だ。ソニアが小さい頃に彼女の魔力を封じ、それを今まで誰にも気づかせることが無かった。
そんな奴が、魔力封印を解かれたのに気づいたらどうすると思う?」
「もう一度同じ方法を使うか、ソニアを警戒しているなら消すわね」
「そういうこと。そして本人が動くにしろ、部下を動かすにしろ、まず向かうのはソニアの屋敷だ」
「なるほど、わかったわ。ドーナ」
シュヴィーナは状況を理解すると、直ぐにドーナを呼んで彼女に指示を出す。
屋敷の場所は事前にソニアから聞いていたので、場所を言えば直ぐにソニアの屋敷にある庭園にでも移動することだろう。
「シュヴィーナ、少し待て」
「どうかしたの?」
ドーナに指示を出し終えた彼女は、ドーナに移動するよう声をかけようとするが、俺がそれに待ったをかける。
「おそらく襲撃してくる敵もそれなりに強いと思うから、ドーナに多めに魔力を渡そうと思う」
「できれば私もそうしたいけれど、私の魔力が底をついてしまうわ」
「問題ない。俺の魔力をお前に送るから、それをドーナに流してくれ」
俺はそう言うと、シュヴィーナに一声かけてから彼女の背中に触り、ゆっくりと俺の魔力を変質させながら彼女に流し込んでいく。
「すごい濃密な魔力…」
「いいから早くドーナに流せ。でないとお前が耐えきれなくなるぞ」
「わかったわ」
精霊の体は人の形に見えていても、それは召喚主の魔力で形成されたものであり、与えられた魔力分の力しか使うことができない。
そのため、魔力が少なければ簡単な魔法しか使えないし直ぐに消えてしまうが、逆に与えた魔力が多ければ使える魔法もかなり高威力のものになるし、活動時間も増やすことができる。
「よし。これくらいでいいだろ」
「はぁ、はぁ。あなた、どれだけ魔力が多いのよ」
俺の魔力を1/3ほどを与えたことで、ドーナの髪や瞳はいつもよりも深い緑色になっており、体も少し大きくなっていた。
「それじゃあ、ドーナ。ソニアの屋敷をよろしくね」
ドーナはくるりと回って一礼すると、転移するかのように姿を消していなくなる。
「これでとりあえずは大丈夫だろう。それと、この事はソニアに言うなよ。あいつには試験に集中してもらいたいからな」
「当然ね。心配はかけさせたくないもの。でも意外ね。あながここまでソニアを気にかけるなんて」
彼女の言う通り、普通であれば未来で俺の死に関わる可能性がある彼女をここまで気にかけて助ける必要は無いのだが、例え助けなかったとしても辿り着く未来は変わらない。
助けなければこれまで通り彼女の家族が殺され、悲惨な経験をした彼女がシュゼット帝国学園に入学してくるだけだ。
どうせ変わらないのなら、一度くらいは過去の友人を助けても良いかと思ったし、なんなら助けて家族が生きていれば、彼女が帝国学園に入学して来ないという未来もありえるので、俺はその可能性に賭けてみようと思ったのだ。
「まぁ、いろいろあるんだよ」
「ふーん」
「なんだ?」
「別に?ただ、私のことももう少し気にかけて欲しいって思っただけよ」
シュヴィーナはそう言うと、何故か薄っすらと頬を赤くして視線を逸らす。
「何言ってんだ。十分気にかけてやってるだろ。お前の食事代にどれだけ金が減っていることか」
「なっ!?そ、そういう意味じゃないわ!それじゃあまるで、私が大食いみたいじゃない!」
「みたいっていうか、事実そうだろう?」
「失礼ね!私は普通よ!」
「…そうか。まぁとりあえず、お前に頼みたかったことも終わったし俺らも試験会場に行くぞ」
その後、シュヴィーナは会場に着くまでの間ずっと自分は普通だと言い続け、相手にするのが面倒になった俺は適当に同意するのであった。
シュヴィーナと2人で試験会場である訓練場にきた俺たちは、先に来ていたフィエラとソニアの2人と合流する。
訓練場には多くの受験者がおり、緊張した表情の子や自信に満ちた表情の子、それと何を考えているのか分からない無表情な子と様々だった。
「おかえり」
「ただいま。間に合ったか?」
「ちょうど今始まるとこ」
「そうか」
フィエラが今の状況を説明してくれると、突然空に1人の男性が現れる。
そして、その男性は風魔法に乗せて訓練場全体に自身の声を届けると、試験について説明を始める。
『諸君。本日はよく集まってくれた。早速ではあるが、試験の説明を行なっていく。
試験は単純。順番に目の前にある的を魔法を使用し破壊すること。ただし!的は魔法耐性の高い素材で作られているため、程度の低い魔法では破壊できないのでせいぜい頑張るように。
なお、試験の結果は順番が終了した時点で近くにいる試験官から言われるのでしっかりと聞くように。
私からの説明は以上だが、君たちから何か質問はあるかね?……そこの君。なにかな?』
試験官の話が終わると、俺は一つだけ聞きたかったことがあったので手を上げる。
「この学園には図書館があると思いますが、そこにある禁書庫に入るにはどうしたらいいですか?」
『禁書庫だと?』
男性は俺の質問を受けると、しばし黙って俺の方を見下ろしてくるので、俺も目を逸らさずにじっと見返す。
『ふむ。禁書庫に入るには学園に入学後、Sクラスに入る必要がある。
今回の試験では基本的に合否のみを判断し、入学後にクラス分けの試験を行う。そこでSクラスになれば禁書庫に入れるだろう。
だが、何事にも例外はある。この試験で他とは違う実力を見せた場合、クラス分けを行わずともSクラスに入ることができるが、それはごく稀なことだ。この説明で良いかな?』
「ありがとうございます」
『他に質問がある者はいるかね?…いないようだな。では試験を開始する。受付で配配られた番号順に呼ぶので、順次移動して指示に従うように。では、諸君の健闘を祈る』
男性はそう言うと、他の試験官が集まっている方へと向かっていき、次に他の試験官の先生たちが次々と番号を呼んでいく。
そして、何人かの受験者が試験を終えて喜んだり悲しんだりしていると、シュヴィーナが最初に呼ばれた。
「行ってくるわ」
「おう」
「頑張って」
「行ってらっしゃい」
3人でシュヴィーナを見送ると、あたりが少しざわめき出す。
それもそのはずで、エルフ族は俺たち人族に比べて魔法の技術が高いため、彼女が注目されるのは必然と言えた。
シュヴィーナは指定された位置に立つと、的の大きさと距離を確認して右手を前に突き出す。
「『風の弾』」
彼女が魔法を唱えると、不可視の風の塊が的にあたり、見事粉々に打ち壊す。
周りはシュヴィーナが詠唱を短縮して魔法を使用したため、実力の差に落ち込んだり憧れの視線を彼女に向けていた。
「68番、合格。次、69番!」
「俺だな。行ってくる」
次に呼ばれたのは俺で、試験官のもとに向かい受験番号を見せた後、指定された位置に立つ。
(さて。どうしようかな?)
本来の予定では、適当に的を壊して終わらせる予定だったが、実力を示さないと禁書庫に入れないことがわかった今、多少は真面目にやる事に決めた。
「『地獄の業火』」
俺が短縮して魔法を唱えると、的の下に赤色のサークルができ、そこから空へと炎の柱が伸びる。
「……」
あたりは一気に静まり返り、他のところで試験を受けていた受験生たちも手を止めて呆然としていた。
「試験官さん?的、破壊しましたが?」
「…あ、あぁ。いや、破壊というか…消し炭というか…」
試験官が言う通り、先ほどまで的があった場所には消し炭となった灰のようなものしか残っておらず、的と呼べる物は何一つ残っていなかった。
「と、とりあえず合格…です」
「ありがとうございます」
試験の合格を言われた俺は後ろを振り返り歩き出すと、集まっていた受験生たちが何故か左右に分かれて道を作りだす。
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