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冒険編
会いたくない人
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シュヴィーナが闘気を使えるようになったその日の夜は、彼女が仲間になったお祝いということでフィエラが食事会を開いた。
どうやらこの3ヶ月間でフィエラはかなりシュヴィーナのことが気に入ったらしく、彼女が苦しんでいたことも知っているためか珍しく率先して動いていた。
シュヴィーナも悩み事が無くなって気持ちが軽くなったのか、ものすごい量の料理を注文しては彼女の腹の中へと消えて行く。
俺は見ているだけでお腹がいっぱいになってしまい、食事をそこそこにして飲み物を飲みながらまったりしていた。
「ふぅ。美味しかったわ!」
「ん。満足」
「おー、よかったなぁ」
目の前には高く積まれた皿と、お腹いっぱいで満足そうにしている2人の美少女。
そんな状況は何とも表現しずらく、周りにいる他の客たちも目を見開いて驚いている。
俺は何杯目になるかわからないお茶で喉を潤しながら、食事も終わったので明日以降の予定について話をする。
「それで、明日以降についてだが…」
「ん」
「どこに行くのかしら」
「魔導国ファルメルに行く」
「魔導国?」
魔導国ファルメルとは、名前の通り魔法使いたちが多く集まっている国で、この国を作ったのが500年ほど前に賢者と呼ばれた偉大な魔法使いだった。
その後、国の運営には興味のなかった賢者が弟子の1人に国を任せ、その子孫が今も賢者という名を引き継ぎ魔導国を治めている。
特徴としては魔法の研究が好きな人たちが多く、魔法や魔道具を使った技術力は我が帝国でも足元にも及ばないほど技術の最先端を行く国である。
「何をしに行くの?」
エルフという種族柄、シュヴィーナもファルメルのこたが気になるのか少しだけ目が輝いて見える。
「もちろん魔法の勉強だ」
俺は何度も人生をやり直しているとは言っても、他国に行った経験はほとんどなく、ファルメルに興味はあっても行ったことは無かった。
ファルメルは魔導国というだけあって、魔法に関する本や論文が数えきれないほどある。なので、俺が知らない魔法やさらに効率良く魔法を使う方法が知れるかもしれないと思い、俺は魔導国に行くことにしたのだ。
「だが、一つ問題がある」
「フィエラよね」
「あぁ」
俺とシュヴィーナは同時にフィエラの方に目を向けるが、当の本人は理由がわかっていないのか首を傾げている。
ファルメルには魔法を絶対の力として考えている人たちが多く、その影響で属性魔法を使えない獣人たちを同じ人として認識していない。
実験用のモルモットか魔法練習用の的、あとは体力があるため雑用を押し付けるための奴隷としか見ていないのだ。
なので、このままフィエラを連れて行くと面倒なことになるだろうことを彼女に説明する。
「エルの魔法で、エルみたいに姿を変えられない?」
「え。エイルって魔法で姿を変えているの?!」
「出来なくはないが、おそらく意味はないだろう。あそこは国に入る前に魔法解除《ディスペル》が付与された門を通るから、かけた魔法がすぐに解ける。あと俺の姿については聞くな」
「なんでよ!フィエラが知ってるのなら、私にも知る権利があるわ!」
「いつかな。気が向いた時にでも多分見せるよ」
「今のエルもかっこよくて好きだけど、元のエルはもっと好き」
「ぐぬぬ。いつか絶対見せてもらうわよ!」
シュヴィーナはそう言って不服そうに頬を少し膨らませながらそっぽを向く。
俺は相手にするのも面倒だったので、話を戻すためにフィエラの方へと目を向ける。
「それでだが、結果的に言えばお前にはそのままの姿で入ってもらうしかない。ファルメルに入ったら嫌な思いをたくさんすることになるかもしれないがどうする?嫌なら別行動でもいいが」
「気にしなくていい。私はエルと一緒にいたいし、周りが私をどう思おうが気にしない」
「そうか。まぁ、気が変わったらいつでも言ってくれ。その時は別行動にするから」
「わかった」
という事で、次はいよいよルーゼリア帝国を出て他国に向かうことにした俺たちは、出発を二日後にしてその日はそれぞれの部屋で休むのであった。
フィエラが企画したシュヴィーナの歓迎会を終えた翌日は、旅に必要な物を買い揃えるのに一日使い、そのまた翌日にはいよいよ魔導国ファルメルに向かう日がやってくる。
旅の準備と言っても、主に買ったのは食料ばかりで、うちには大食いエルフがいるためこれまで以上に買わなければならなかったのだ。
そうしてサファリィを出ようと街を歩いていた時、街の中央が何故か賑わっているのに気がつく。
「何かあったのかしら?」
「さぁな。まぁ、俺らには関係ないから行くぞ」
そう言って歩き出そうとした時、俺は聞き流せない言葉を聞いて思わず足を止める。
『おい。あれが新しい聖女様らしいぞ』
『おぉ。まだ若いのに風格があるな』
『それにとても美しい』
(は?聖女だと?)
聖女と聞いて、俺は思わず先ほど人が集まっていた方へと目を向けてしまう。
すると、人の合間からチラッと見えた少女と一瞬だけ目が合い、俺の心臓がドクンと鳴り、早くこの場を離れたい気持ちでいっぱいになる。
目が合った少女は、肩のあたりまで伸ばされたピンクブロンドの髪に、鏡のように全てを映し出すかのような銀色の瞳をした美少女だった。
(クソ。最悪だ。何でここにあいつがいるんだ)
聖女とは、神に選ばれた神の代行者であり、世界で唯一、聖魔法と呼ばれる魔法が使える存在だ。
聖魔法は光魔法より上位の魔法で、光魔法の限界が欠損部位の再生であるのに対し、聖魔法は制限はあれど死者の蘇生すら可能とする。
しかも、魔物が使う死霊魔法とは違い完璧な蘇生であり、それはまさに神の御技と言っても過言では無かった。
そして、そんな聖女の役目は神の言葉を民に伝えることと、勇者と呼ばれる存在を神の意思に従い導く事である。
そのため、本来であれば聖女は神聖国イシュタリカの大聖堂で大切に育てられるはずなのだが、何故か今はそこを離れてこんなところにいる。
他の人々は聖女が珍しくて一目見るために集まっているようだが、俺にとってはそんな聖女がこの世で2番目に嫌いな存在であり、関わりたくもない相手だった。
「そこのお方!お待ちください!」
「行くぞ」
聖女が俺を見た瞬間、何故か慌てた様子で人を掻き分けながら俺たちのもとへと駆け寄ろうとしてきたので、俺は早くこの場を離れるためにフィエラ達と一緒に歩き出そうする。
「エル?」
「無視しろ」
そうして少し歩くと、突然目の前に鎧を着た男たちが現れ、俺を見下ろしながら睨みつけてきた。
「聖女様が待てと言っている。小僧、止まるのだ」
白い鎧に白いマント、腰に刺した剣までもが真っ白なこの騎士は聖騎士と呼ばれ、聖女を守るために選ばれた実力者たちである。
俺はそいつらも無視してこの場を去ろうとするが、話しかけてきた騎士に肩を掴まれて止められた。
「止まれと言っているであろう!」
「黙れ」
「ぐあぁぁぁあ!!!」
俺は瞬時にイグニードを抜くと、掴んできた右腕を切り落として足払いをかけ、首筋に剣を当てる。
「次は殺す」
一瞬の出来事に他の騎士たちは動くことができず、腕を切られた騎士は大量の汗を流しながらガクガクと震えた。
「おやめください!」
しかし、そこに割り込むようにして聖女が現れ、僅かに震えながらも俺をじっと見返してきた。
「どうかご無礼をお許しください!この方達は私のために行動してくださっただけなのです!だからどうか剣を納めてくださいませ!」
「…チッ。躾はしっかりしておけ」
俺は剣を鞘に収めてこの場を離れようとするが、聖女によってまたもや止められる。
「お待ちください!どうか…どうか一度だけお話をさせてください!ルイス様!」
「は?」
本来、まだ出会っていないはずの俺の名前を呼ばれた事で、俺は思わず彼女の方を振り向いてしまった。
「お願いします。どうか少しだけで構いません。お話をさせてくださいませ」
聖女はそう言うと、あろうことか俺に向かって頭を下げてくる。
そのせいで周りにいた人たちもこの場を離れずじっとこちらを見ており、この場を離れることができなくなった。
「…はぁ。少しだけだからな。フィエラ、すまないがシュヴィーナと2人でここにいてくれ」
「私も行く」
「悪いが今回はダメだ」
「…わかった」
付いてきたそうにしていたフィエラをシュヴィーナに任せ、俺と聖女は彼女が乗ってきた馬車へと乗り込むのであった。
どうやらこの3ヶ月間でフィエラはかなりシュヴィーナのことが気に入ったらしく、彼女が苦しんでいたことも知っているためか珍しく率先して動いていた。
シュヴィーナも悩み事が無くなって気持ちが軽くなったのか、ものすごい量の料理を注文しては彼女の腹の中へと消えて行く。
俺は見ているだけでお腹がいっぱいになってしまい、食事をそこそこにして飲み物を飲みながらまったりしていた。
「ふぅ。美味しかったわ!」
「ん。満足」
「おー、よかったなぁ」
目の前には高く積まれた皿と、お腹いっぱいで満足そうにしている2人の美少女。
そんな状況は何とも表現しずらく、周りにいる他の客たちも目を見開いて驚いている。
俺は何杯目になるかわからないお茶で喉を潤しながら、食事も終わったので明日以降の予定について話をする。
「それで、明日以降についてだが…」
「ん」
「どこに行くのかしら」
「魔導国ファルメルに行く」
「魔導国?」
魔導国ファルメルとは、名前の通り魔法使いたちが多く集まっている国で、この国を作ったのが500年ほど前に賢者と呼ばれた偉大な魔法使いだった。
その後、国の運営には興味のなかった賢者が弟子の1人に国を任せ、その子孫が今も賢者という名を引き継ぎ魔導国を治めている。
特徴としては魔法の研究が好きな人たちが多く、魔法や魔道具を使った技術力は我が帝国でも足元にも及ばないほど技術の最先端を行く国である。
「何をしに行くの?」
エルフという種族柄、シュヴィーナもファルメルのこたが気になるのか少しだけ目が輝いて見える。
「もちろん魔法の勉強だ」
俺は何度も人生をやり直しているとは言っても、他国に行った経験はほとんどなく、ファルメルに興味はあっても行ったことは無かった。
ファルメルは魔導国というだけあって、魔法に関する本や論文が数えきれないほどある。なので、俺が知らない魔法やさらに効率良く魔法を使う方法が知れるかもしれないと思い、俺は魔導国に行くことにしたのだ。
「だが、一つ問題がある」
「フィエラよね」
「あぁ」
俺とシュヴィーナは同時にフィエラの方に目を向けるが、当の本人は理由がわかっていないのか首を傾げている。
ファルメルには魔法を絶対の力として考えている人たちが多く、その影響で属性魔法を使えない獣人たちを同じ人として認識していない。
実験用のモルモットか魔法練習用の的、あとは体力があるため雑用を押し付けるための奴隷としか見ていないのだ。
なので、このままフィエラを連れて行くと面倒なことになるだろうことを彼女に説明する。
「エルの魔法で、エルみたいに姿を変えられない?」
「え。エイルって魔法で姿を変えているの?!」
「出来なくはないが、おそらく意味はないだろう。あそこは国に入る前に魔法解除《ディスペル》が付与された門を通るから、かけた魔法がすぐに解ける。あと俺の姿については聞くな」
「なんでよ!フィエラが知ってるのなら、私にも知る権利があるわ!」
「いつかな。気が向いた時にでも多分見せるよ」
「今のエルもかっこよくて好きだけど、元のエルはもっと好き」
「ぐぬぬ。いつか絶対見せてもらうわよ!」
シュヴィーナはそう言って不服そうに頬を少し膨らませながらそっぽを向く。
俺は相手にするのも面倒だったので、話を戻すためにフィエラの方へと目を向ける。
「それでだが、結果的に言えばお前にはそのままの姿で入ってもらうしかない。ファルメルに入ったら嫌な思いをたくさんすることになるかもしれないがどうする?嫌なら別行動でもいいが」
「気にしなくていい。私はエルと一緒にいたいし、周りが私をどう思おうが気にしない」
「そうか。まぁ、気が変わったらいつでも言ってくれ。その時は別行動にするから」
「わかった」
という事で、次はいよいよルーゼリア帝国を出て他国に向かうことにした俺たちは、出発を二日後にしてその日はそれぞれの部屋で休むのであった。
フィエラが企画したシュヴィーナの歓迎会を終えた翌日は、旅に必要な物を買い揃えるのに一日使い、そのまた翌日にはいよいよ魔導国ファルメルに向かう日がやってくる。
旅の準備と言っても、主に買ったのは食料ばかりで、うちには大食いエルフがいるためこれまで以上に買わなければならなかったのだ。
そうしてサファリィを出ようと街を歩いていた時、街の中央が何故か賑わっているのに気がつく。
「何かあったのかしら?」
「さぁな。まぁ、俺らには関係ないから行くぞ」
そう言って歩き出そうとした時、俺は聞き流せない言葉を聞いて思わず足を止める。
『おい。あれが新しい聖女様らしいぞ』
『おぉ。まだ若いのに風格があるな』
『それにとても美しい』
(は?聖女だと?)
聖女と聞いて、俺は思わず先ほど人が集まっていた方へと目を向けてしまう。
すると、人の合間からチラッと見えた少女と一瞬だけ目が合い、俺の心臓がドクンと鳴り、早くこの場を離れたい気持ちでいっぱいになる。
目が合った少女は、肩のあたりまで伸ばされたピンクブロンドの髪に、鏡のように全てを映し出すかのような銀色の瞳をした美少女だった。
(クソ。最悪だ。何でここにあいつがいるんだ)
聖女とは、神に選ばれた神の代行者であり、世界で唯一、聖魔法と呼ばれる魔法が使える存在だ。
聖魔法は光魔法より上位の魔法で、光魔法の限界が欠損部位の再生であるのに対し、聖魔法は制限はあれど死者の蘇生すら可能とする。
しかも、魔物が使う死霊魔法とは違い完璧な蘇生であり、それはまさに神の御技と言っても過言では無かった。
そして、そんな聖女の役目は神の言葉を民に伝えることと、勇者と呼ばれる存在を神の意思に従い導く事である。
そのため、本来であれば聖女は神聖国イシュタリカの大聖堂で大切に育てられるはずなのだが、何故か今はそこを離れてこんなところにいる。
他の人々は聖女が珍しくて一目見るために集まっているようだが、俺にとってはそんな聖女がこの世で2番目に嫌いな存在であり、関わりたくもない相手だった。
「そこのお方!お待ちください!」
「行くぞ」
聖女が俺を見た瞬間、何故か慌てた様子で人を掻き分けながら俺たちのもとへと駆け寄ろうとしてきたので、俺は早くこの場を離れるためにフィエラ達と一緒に歩き出そうする。
「エル?」
「無視しろ」
そうして少し歩くと、突然目の前に鎧を着た男たちが現れ、俺を見下ろしながら睨みつけてきた。
「聖女様が待てと言っている。小僧、止まるのだ」
白い鎧に白いマント、腰に刺した剣までもが真っ白なこの騎士は聖騎士と呼ばれ、聖女を守るために選ばれた実力者たちである。
俺はそいつらも無視してこの場を去ろうとするが、話しかけてきた騎士に肩を掴まれて止められた。
「止まれと言っているであろう!」
「黙れ」
「ぐあぁぁぁあ!!!」
俺は瞬時にイグニードを抜くと、掴んできた右腕を切り落として足払いをかけ、首筋に剣を当てる。
「次は殺す」
一瞬の出来事に他の騎士たちは動くことができず、腕を切られた騎士は大量の汗を流しながらガクガクと震えた。
「おやめください!」
しかし、そこに割り込むようにして聖女が現れ、僅かに震えながらも俺をじっと見返してきた。
「どうかご無礼をお許しください!この方達は私のために行動してくださっただけなのです!だからどうか剣を納めてくださいませ!」
「…チッ。躾はしっかりしておけ」
俺は剣を鞘に収めてこの場を離れようとするが、聖女によってまたもや止められる。
「お待ちください!どうか…どうか一度だけお話をさせてください!ルイス様!」
「は?」
本来、まだ出会っていないはずの俺の名前を呼ばれた事で、俺は思わず彼女の方を振り向いてしまった。
「お願いします。どうか少しだけで構いません。お話をさせてくださいませ」
聖女はそう言うと、あろうことか俺に向かって頭を下げてくる。
そのせいで周りにいた人たちもこの場を離れずじっとこちらを見ており、この場を離れることができなくなった。
「…はぁ。少しだけだからな。フィエラ、すまないがシュヴィーナと2人でここにいてくれ」
「私も行く」
「悪いが今回はダメだ」
「…わかった」
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