上 下
75 / 231
冒険編

会いたくない人

しおりを挟む
 シュヴィーナが闘気を使えるようになったその日の夜は、彼女が仲間になったお祝いということでフィエラが食事会を開いた。

 どうやらこの3ヶ月間でフィエラはかなりシュヴィーナのことが気に入ったらしく、彼女が苦しんでいたことも知っているためか珍しく率先して動いていた。

 シュヴィーナも悩み事が無くなって気持ちが軽くなったのか、ものすごい量の料理を注文しては彼女の腹の中へと消えて行く。

 俺は見ているだけでお腹がいっぱいになってしまい、食事をそこそこにして飲み物を飲みながらまったりしていた。

「ふぅ。美味しかったわ!」

「ん。満足」

「おー、よかったなぁ」

 目の前には高く積まれた皿と、お腹いっぱいで満足そうにしている2人の美少女。
 そんな状況は何とも表現しずらく、周りにいる他の客たちも目を見開いて驚いている。

 俺は何杯目になるかわからないお茶で喉を潤しながら、食事も終わったので明日以降の予定について話をする。

「それで、明日以降についてだが…」

「ん」

「どこに行くのかしら」

「魔導国ファルメルに行く」

「魔導国?」

 魔導国ファルメルとは、名前の通り魔法使いたちが多く集まっている国で、この国を作ったのが500年ほど前に賢者と呼ばれた偉大な魔法使いだった。

 その後、国の運営には興味のなかった賢者が弟子の1人に国を任せ、その子孫が今も賢者という名を引き継ぎ魔導国を治めている。

 特徴としては魔法の研究が好きな人たちが多く、魔法や魔道具を使った技術力は我が帝国でも足元にも及ばないほど技術の最先端を行く国である。

「何をしに行くの?」

 エルフという種族柄、シュヴィーナもファルメルのこたが気になるのか少しだけ目が輝いて見える。

「もちろん魔法の勉強だ」

 俺は何度も人生をやり直しているとは言っても、他国に行った経験はほとんどなく、ファルメルに興味はあっても行ったことは無かった。

 ファルメルは魔導国というだけあって、魔法に関する本や論文が数えきれないほどある。なので、俺が知らない魔法やさらに効率良く魔法を使う方法が知れるかもしれないと思い、俺は魔導国に行くことにしたのだ。

「だが、一つ問題がある」

「フィエラよね」

「あぁ」

 俺とシュヴィーナは同時にフィエラの方に目を向けるが、当の本人は理由がわかっていないのか首を傾げている。

 ファルメルには魔法を絶対の力として考えている人たちが多く、その影響で属性魔法を使えない獣人たちを同じ人として認識していない。

 実験用のモルモットか魔法練習用の的、あとは体力があるため雑用を押し付けるための奴隷としか見ていないのだ。

 なので、このままフィエラを連れて行くと面倒なことになるだろうことを彼女に説明する。

「エルの魔法で、エルみたいに姿を変えられない?」

「え。エイルって魔法で姿を変えているの?!」

「出来なくはないが、おそらく意味はないだろう。あそこは国に入る前に魔法解除《ディスペル》が付与された門を通るから、かけた魔法がすぐに解ける。あと俺の姿については聞くな」

「なんでよ!フィエラが知ってるのなら、私にも知る権利があるわ!」

「いつかな。気が向いた時にでも多分見せるよ」

「今のエルもかっこよくて好きだけど、元のエルはもっと好き」

「ぐぬぬ。いつか絶対見せてもらうわよ!」

 シュヴィーナはそう言って不服そうに頬を少し膨らませながらそっぽを向く。
 俺は相手にするのも面倒だったので、話を戻すためにフィエラの方へと目を向ける。

「それでだが、結果的に言えばお前にはそのままの姿で入ってもらうしかない。ファルメルに入ったら嫌な思いをたくさんすることになるかもしれないがどうする?嫌なら別行動でもいいが」

「気にしなくていい。私はエルと一緒にいたいし、周りが私をどう思おうが気にしない」

「そうか。まぁ、気が変わったらいつでも言ってくれ。その時は別行動にするから」

「わかった」

 という事で、次はいよいよルーゼリア帝国を出て他国に向かうことにした俺たちは、出発を二日後にしてその日はそれぞれの部屋で休むのであった。




 フィエラが企画したシュヴィーナの歓迎会を終えた翌日は、旅に必要な物を買い揃えるのに一日使い、そのまた翌日にはいよいよ魔導国ファルメルに向かう日がやってくる。

 旅の準備と言っても、主に買ったのは食料ばかりで、うちには大食いエルフがいるためこれまで以上に買わなければならなかったのだ。

 そうしてサファリィを出ようと街を歩いていた時、街の中央が何故か賑わっているのに気がつく。

「何かあったのかしら?」

「さぁな。まぁ、俺らには関係ないから行くぞ」

 そう言って歩き出そうとした時、俺は聞き流せない言葉を聞いて思わず足を止める。

『おい。あれが新しい聖女様らしいぞ』

『おぉ。まだ若いのに風格があるな』

『それにとても美しい』

(は?聖女だと?)

 聖女と聞いて、俺は思わず先ほど人が集まっていた方へと目を向けてしまう。

 すると、人の合間からチラッと見えた少女と一瞬だけ目が合い、俺の心臓がドクンと鳴り、早くこの場を離れたい気持ちでいっぱいになる。

 目が合った少女は、肩のあたりまで伸ばされたピンクブロンドの髪に、鏡のように全てを映し出すかのような銀色の瞳をした美少女だった。

(クソ。最悪だ。何でここにあいつがいるんだ)

 聖女とは、神に選ばれた神の代行者であり、世界で唯一、聖魔法と呼ばれる魔法が使える存在だ。

 聖魔法は光魔法より上位の魔法で、光魔法の限界が欠損部位の再生であるのに対し、聖魔法は制限はあれど死者の蘇生すら可能とする。

 しかも、魔物が使う死霊魔法とは違い完璧な蘇生であり、それはまさに神の御技と言っても過言では無かった。

 そして、そんな聖女の役目は神の言葉を民に伝えることと、勇者と呼ばれる存在を神の意思に従い導く事である。

 そのため、本来であれば聖女は神聖国イシュタリカの大聖堂で大切に育てられるはずなのだが、何故か今はそこを離れてこんなところにいる。

 他の人々は聖女が珍しくて一目見るために集まっているようだが、俺にとってはそんな聖女がこの世で2番目に嫌いな存在であり、関わりたくもない相手だった。

「そこのお方!お待ちください!」

「行くぞ」

 聖女が俺を見た瞬間、何故か慌てた様子で人を掻き分けながら俺たちのもとへと駆け寄ろうとしてきたので、俺は早くこの場を離れるためにフィエラ達と一緒に歩き出そうする。

「エル?」

「無視しろ」

 そうして少し歩くと、突然目の前に鎧を着た男たちが現れ、俺を見下ろしながら睨みつけてきた。

「聖女様が待てと言っている。小僧、止まるのだ」

 白い鎧に白いマント、腰に刺した剣までもが真っ白なこの騎士は聖騎士と呼ばれ、聖女を守るために選ばれた実力者たちである。

 俺はそいつらも無視してこの場を去ろうとするが、話しかけてきた騎士に肩を掴まれて止められた。

「止まれと言っているであろう!」

「黙れ」

「ぐあぁぁぁあ!!!」

 俺は瞬時にイグニードを抜くと、掴んできた右腕を切り落として足払いをかけ、首筋に剣を当てる。

「次は殺す」

 一瞬の出来事に他の騎士たちは動くことができず、腕を切られた騎士は大量の汗を流しながらガクガクと震えた。

「おやめください!」

 しかし、そこに割り込むようにして聖女が現れ、僅かに震えながらも俺をじっと見返してきた。

「どうかご無礼をお許しください!この方達は私のために行動してくださっただけなのです!だからどうか剣を納めてくださいませ!」

「…チッ。躾はしっかりしておけ」

 俺は剣を鞘に収めてこの場を離れようとするが、聖女によってまたもや止められる。

「お待ちください!どうか…どうか一度だけお話をさせてください!ルイス様!」

「は?」

 本来、まだ出会っていないはずの俺の名前を呼ばれた事で、俺は思わず彼女の方を振り向いてしまった。

「お願いします。どうか少しだけで構いません。お話をさせてくださいませ」

 聖女はそう言うと、あろうことか俺に向かって頭を下げてくる。
 そのせいで周りにいた人たちもこの場を離れずじっとこちらを見ており、この場を離れることができなくなった。

「…はぁ。少しだけだからな。フィエラ、すまないがシュヴィーナと2人でここにいてくれ」

「私も行く」

「悪いが今回はダメだ」

「…わかった」

 付いてきたそうにしていたフィエラをシュヴィーナに任せ、俺と聖女は彼女が乗ってきた馬車へと乗り込むのであった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...