何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

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冒険編

別れ

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 フィエラと2人で『果てのない大地』を10階層まで攻略した翌日からはしばらく休みを取り、準備を終えた俺たちはついに湾岸都市ミネルバを離れることにした。

「忘れ物は無いな?」

「ん。大丈夫」

 まだ早朝だというのに、すでに街の中は人で賑わっており、港では多くの船から荷下ろしが行われている。

 俺たちはそんな街の中を歩いて門の外に出ると、軽く準備運動をして走り出そうとした。

「ちょっと待って!」

 しかし、突然後ろから呼び止められて振り返ると、そこには荷造りを終えて息を切らしながら俺たちの方に歩み寄ってくるシュヴィーナの姿があった。

 俺は面倒ごとの予感を感じながらも、とりあえず彼女に話しかける。

「どうした?こんな早朝に」

「エイル。あなたにお願いがあるわ」

「…はぁ。何となく予想はつくが一応聞いてやる。言ってみろ」

「私をあなた達の旅に同行させて欲しいの」

 やはりと言うべきか、シュヴィーナのお願いとはこの間ダンジョンでも話した内容で、どうやらその件についてもう一度話がしたいようだった。

「その話ならもう終わっただろ。お前じゃ俺らの旅にはついて来れない。目的も考え方も覚悟さえも違う。全てが違うお前を連れて行くのは邪魔だって言ったよな」

「わかっているわ。でも、私は他の誰でもないあなた達と冒険がしたいの。だから私も連れて行って。お願い」

 シュヴィーナはそう言うと、真剣な顔で俺の方を見て来て、視線を逸らそうとはしなかった。

「嫌だって言ったら?」

「必ず探し出してまたお願いするわ。ドーナは世界の植物を通して色んなところと感覚を共有できるから、どこまでも追いかけるわよ」

 最初は何かの冗談かとも思ったが、シュヴィーナの目は本気で、背中が思わずゾワっとする。

(こいつから何故かフィエラと同じものを感じるんだが…)

 彼女の気迫に若干引いてしまった俺は、例え逃げたとしても本当に追いかけて来そうだと思い、仕方なく試してやることにした。

「あー、めんどくさい。なら試してやるから場所変えるぞ」

「わかったわ」

 俺たち3人は、しばらく歩いて人気のない森の中に入ると、持っていたカバンを地面に置く。

「ここでいいだろ」

「それで?私は何をすればいいの?」

「簡単だ。そこに立ってろ」

「え?…っ!!」

 シュヴィーナは最初、俺の言葉を理解できていないようだったが、俺が濃密な殺気を彼女に向けて放つと、一瞬で表情を歪ませて息を荒げる。

 俺の放った殺気を感じ取った鳥達が一斉に逃げていき、近くにいた動物達も鳴き声をあげて逃げていく中、シュヴィーナが気を失ったり逃げたりする事はなく、何とか俺の事を見ながら立ち続ける。

「ふーん。耐えたか。まぁ及第点かな」

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 2分ほど俺の殺気に耐えたシュヴィーナは、殺気が消えたことで額から大量の汗が流れ、荒くなった呼吸を何とか整える。

「大丈夫?シュヴィ」

「え、えぇ。大丈夫よ、フィエラ」

 フィエラはシュヴィーナに近づくと、カバンから飲み物を取り出し、シュヴィーナはそれを受け取るとゆっくり飲み込んでいく。

「お前の覚悟は分かった」

「なら!私も一緒に!」

「だが、今のお前じゃ実力が足りていない。だからお前を連れて行くかどうかは3ヶ月後に決める」

「3ヶ月後?」

 本当は連れて行くつもりなど無かったが、シュヴィーナは死ぬ覚悟はまだ無いみたいだが俺の殺気に耐えてみせた。

 それに、エルフの国は他種族をなかなか中に入れてくれず、入るには同じエルフ族と一緒に入るかエルフ族に認められる必要があるという面倒な国なのだ。

 そこでもしシュヴィーナが使えるようであれば、彼女をエルフの国に行くまでは同行を許し、その後のことはまた後で決めれば良いと判断した。

「フィエラ」

「なに?」

「お前がシュヴィーナを使い物になるまで鍛えろ。それまでは別行動にする」

 俺がそう言うと、フィエラはこの世の終わりのような顔をして、少し潤んだ瞳で理由を尋ねてくる。

「別行動?なんで?私何かした?私のこと捨てるの?」

 彼女は何か勘違いをしているようだったので、俺は詳細を説明する。

「落ち着け。鍛えろって言ったろ。どうせお前がこいつを焚き付けたんだろ?なら責任を持って俺らについて来れるように鍛えろ」

「私を捨てる訳じゃない?」

「捨てないよ」

 フィエラが落ち着いたのを確認すると、今度はシュヴィーナの方へと顔を向ける。

「話は聞いていたな?お前にはこれからフィエラと2人で行動し、強くなってもらう。課題は二つ。
 一つは最低でも冒険者ランクをAランクまで上げておけ。じゃないと俺らのダンジョン攻略にはついて来れないからな。
 二つ目は精霊魔法以外の戦い方を覚えろ。魔力が無くなったから戦えませんじゃ意味がない」

「わかったわ。でも、魔法以外ってどうしたら…」

「見た感じ弓が使えるんだろ?それでいいじゃないか」

「でも、弓は魔法を使わないとそんなに威力が出ないわ。弓は矢に魔法を付与して威力が上がるものだもの」

 確かに、普通の人間を相手にするなら付与をしなくても殺せるだろうが、魔物や魔法を使う人間相手に普通に矢を放ったところでダメージを与えられるかは分からない。

「はぁ。仕方ない。弓と矢をかせ」

「わ、分かったわ」

 シュヴィーナから弓と矢を借りた俺、矢をつがえるとゆっくりと息を吸う。

「お前は若いエルフだから知らないかもしれないが、世の中には魔力以外にも力が存在する」

 俺は説明をしながら息を止めると、体のわずかな揺れさえも無くして矢に闘気を付与する。

 そして放たれた矢は、数本の木を貫通して進み、50mほど先にいたゴブリンの頭を吹き飛ばした。

「…うそ」

「これは闘気という。エルフは魔法の方が得意だから使えるものはいなかったと思うが、武術を極めたものが使える魔力とは違う力だ。これを矢に付与すれば、魔力がなくても今みたいな威力の矢が放てるようになる」

 あまりの驚きで言葉が出て来ないのか、シュヴィーナは口を少し開けたまま目をぱちぱちと瞬かせる。

「これができるようになれば、例え魔力が無くなっても戦う事ができるだろうし、逆に魔力を温存して戦うこともできる。
 期間は3ヶ月だ。3ヶ月後、西の街サファリィでお前の成長を確認する。その時に俺の出した課題をどちらか一つでも達成できていなければ、お前を連れて行く話は無しだ」

「あ、あなたは私を鍛えてくれないの?」

「言っただろ。俺は別行動だ。お前を鍛えてやるほど俺は暇じゃない。それに、闘気ならフィエラも使えるから問題ないだろ」

「任せて」

 チラッとフィエラの方に視線を向けると、彼女は自信に満ちた表情で頷く。
 その様子に何故か少しだけ不安になるが、とりあえず今は彼女に任せることにした。

「これで話は終わりだ。あとはお前ら2人で話し合って決めろ。フィエラ。マジックバッグをお前に預ける。中にはそれなりに金と食料が入っているから好きに使え」

「いいの?」

「問題ない。俺には別にあてがあるからな」

「わかった」

「んじゃ、3ヶ月後にまた会おう」

 俺はそう言うと、必要な荷物だけを持ってその場を離れ、森を出てからは身体強化を使って駆け出す。

 目指す場所は特に決めていなかったが、やるべき事は決まっていた。

 それはAランク以上の魔物を倒し、魔力器官を食べること。
 フィエラと2人の時は積極的にダンジョン外の高ランクの魔物と戦う事は無かったが、今は俺だけなので遠慮なく動ける。

「早く時空間魔法を使えるようにならないとな」

 その後、俺は高ランクの魔物を探しに向かうため、色々な街を移動して回るのであった。




~sideフィエラ~

 ルイスがいなくなった後、残されたフィエラも気持ちを切り替えてシュヴィーナの方を振り返る。

「行くよ、シュヴィ。私たちには時間がないから急がないと」

「ま、まってフィエラ!」

 フィエラが歩き出そうとした時、シュヴィーナが慌てて彼女の腕を掴むと、申し訳なさそうな表情でフィエラへと話しかける。

「その…ごめんね。私のせいであなたとエイルを別行動にさせてしまったわ。一緒にいたかったでしょうに」

 シュヴィーナはフィエラがどれほどルイスを愛しているか知っているので、自分の我儘のせいで大切な人と離れさせてしまった事を悔やんでいた。

「気にしなくていい。3ヶ月後にはまた会える。それに、エルが私に任せてくれたことの方が嬉しいから大丈夫」

 これはフィエラの偽りの無い本心で、大抵のことは1人でこなしてしまうルイスが、今回は自分にシュヴィーナの事を任せてくれたのが嬉しかったのだ。

「それより早く行こう。やる事は沢山あるから」

「わかったわ!」

 シュヴィーナもフィエラが本気で自分を鍛えてくれようとしているのを感じとり、彼女もこれまで以上にやる気を出す。

 その後、2人も森から出ると湾岸都市ミネルバへと一度戻り、まずはランクを上げるために依頼を探しに冒険者ギルドへと向かうのであった。





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