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冒険編

シュヴィーナの旅

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 エルフの国は、神聖国イシュタリカを更に西に向かった森林の中にあり、世界樹と呼ばれる巨大な木を中心にエルフたちが集まってできた国である。

 そのエルフの国、神樹国オティーニアの出身である私は、同じくエルフである父と母に育てられて来た。

 ただ、特別に愛されて育てられて来たかと言えば別にそういうわけでもなく、ある程度成長した頃には最低限の関わりだけで育って来た。

 それは私の両親が冷たいからとかではなく、エルフは長命であるが故に長生きする過程で感情というものが薄くなっていく人が多いのだ。

 そうしなければ、長生きする中で精神的に病んでしまい、生きる希望を無くして自殺してしまう可能性があるらしい。

 エルフの特徴は長命なこと以外にも、男女問わずみんな非常に美しい容姿をしており、また精霊と契約することで精霊魔法という特殊な魔法を使うことができる。

 精霊と契約ができる時期は人によって異なるが、大抵は生まれた時から相性の良い精霊が守護する形でそばで成長を見守り、体が成長して魔力量も増えた頃に精霊の方からアピールをしてくる。

 そこで初めて精霊と契約することが出来、精霊と契約ができたエルフはそこで初めて一人前のエルフとして認められる。

 私が植物の精霊ドライアドと契約できたのは10歳の時で、それ以降は母親から精霊魔法の使い方や精霊との接し方を教わった。

 私が生まれた時、子供が生まれたのは実に50年ぶりだったらしく、私と歳が近い子は一人もいなくていつも退屈だったが、ドーナと契約してからは彼女が私の遊び相手になってくれた。

 それから2年ほど経った頃、私は変わり映えのしない日々に退屈してしまい、両親に外の世界に出ることを伝えた。

 この時の私には一つの憧れがあり、それはエルフの国に伝わる御伽話に出てくる勇者だった。

 勇者は攫われたお姫様を助けるため、仲間と助け合って苦難を乗り越え、様々な冒険をして魔王を打ち倒す。

 そんなありきたりな話ではあったが、私はその御伽話に出てくる勇者に憧れた。

(私も…冒険をしたら友達ができるかもしれないわ)

 そんな思いを胸に両親に冒険に出ることを伝えると、二人は少し考えてから許可をくれた。

「シュヴィも精霊と契約して一人前になったからね。やりたい事があるならやってみるといいよ」

「そうね。ただ、変な人には気をつけるのよ?あなたは少し抜けているところがあるから、ドーナの言うことをちゃんと聞くのよ?」

「わかったわ。ちゃんとドーナのお話を聞くわ」

 私よりもドーナの方が両親に信頼されている事には少し疑問を感じるが、ドーナが信頼できる事は間違い無いので私は素直に頷いた。

 そして、色々と準備をして半年が経った頃、私は両親や知り合いのみんなに見送られてドーナと2人で国を出た。

 最初に向かったのは神聖国イシュタリカで、私はそこで冒険者登録をする予定だ。

 初めての野営では苦労する事もあったが、エルフは森の中で住んでいるし、狩も小さい頃から教わっていたので食事も何とかなった。

 それからドーナと2人でゆっくりと旅をしながら神聖国イシュタリカについた私は、その景観の美しさに圧倒される。

 私の故郷である神樹国も自然が綺麗で好きだったが、イシュタリカは白い建物と街の中に流れる水路、そして中央にある大聖堂が美しくも厳かな雰囲気を感じさせるそんな国だった。

 私は初めてみる他の国に驚きながらも、街の人に道を聞いて冒険者ギルドへと向かい、そこで無事に冒険者登録を済ませる。

 最初のうちは採取依頼や孤児院の手伝い、街の掃除などの依頼ばかりだったが、私はやる事なす事全てが新鮮で、どんな依頼でも進んでやった。

 そして、イシュタリカに来て4ヶ月が経った頃には気づけばランクもDランクまで上がっており、私はいよいよ魔物討伐の依頼を受けるようになった。

(魔物と戦うなら、やっぱり仲間を募集しないといけないわね)

 私が憧れた勇者の物語では、どんな時もみんなで力を合わせて魔物と戦い、勝利した時にはその感情を分かち合う。

 それが仲間であり、私が国を出ると決めた目標の一つだったので、私はさっそくランクの近そうな人たちに声をかけて回った。

 しかし、殆どの人はすでにパーティーを組んで行動していたし、私を仲間に入れてくれると言った男の人たちもドーナがダメだと意思を伝えてくるので、お断りするしかなかった。

 結局誰ともパーティーを組む事が出来なかった私は、ドーナと2人で魔物討伐の依頼もこなしていき、更に3ヶ月が経った頃にCランクへと昇格できた。

「ドーナ、そろそろ次の街へ行きましょうか」

 約半年間イシュタリカで冒険者をやってみたが、私が求める仲間は結局最後まで作る事ができず、ここでは無理かもしれないと思った私は次の国へ向かう事にした。

「次はルーゼリア帝国に行ってみましょう。あそこはこの大陸で最も人口が多い国らしいから、もしかしたらそこで良い人たちに出会えるかもしれないわ」

 ドーナと2人で神聖国イシュタリカを出た私は、また数ヶ月かけてルーゼリア帝国へと辿り着く。

 最初は西にある街サファリィで2ヶ月ほど冒険者として活動してみたが、やはりここでも仲間や友人を作る事はできず、私たちは南にある湾岸都市ミネルバを目指してみる事にした。

「ミネルバは、帝国でも多くの人が出入りしているところらしいわ。海もすごく綺麗で、もしかしたら良い出会いが出来るかもしれないわね」

 仲間を作って冒険をすると決めてからもう少しで一年が経とうとしている。
 未だ1人も仲間を作れていない状況に落ち込み始めていた私は、運命の出会いを祈りながらミネルバへと向かった。

 しかし、途中で道に迷ってしまった私はお金も底を尽きてしまい、食事もまともに取れず道に倒れ込む。

「私、このまま死ぬのかしら…」

 なかなか思い通りに行かない旅路にすっかり心が折れかけてしまった私はそんな未来を想像してしまうが、そんな時に2人組の冒険者が通りかかった。

 1人は濃紺の髪を背中あたりまで伸ばしたかっこいい男の子で、もう1人は獣人族の女の子で、綺麗な銀髪に整った顔立ちをした美少女だった。

 見た感じ歳が近そうだった彼らに、私は恥も捨てて縋りつき、何とか食事を分けてもらってミネルバまで連れて行ってもらう事ができた。

 その間の旅路は本当に楽しくて、エイルは少し素っ気ないが面倒見は良いし、フィエラも同性という事ですぐに仲良くなれた。

(楽しいわね。いつか私もこんな仲間が欲しいわ)

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので、気づけば私たちはミネルバへと到着し、エイルたちとはそこで別れる。

 本当はもう少し一緒にいたかったが、私には私の目標があるし、彼らには彼らの目標があるはずなので、これ以上迷惑をかけないためにもすぐに別れた。

 それから数日間、ギルドでランクと歳が近そうな子に声をかけては失敗して、1人でダンジョンに挑んで苦労しながら生活していると、5階層に着いた私は牛の魔物に追われる羽目になった。

 最初は何とかドーナと2人で戦っていたのだが、途中で魔力が尽きて戦う術が無くなってしまったのだ。

 弓も使う事は出来るが、ただの矢にあんなのを殺す威力があるはずも無く、私は必死で逃げ続ける。

(だ、ダメだわ。もう、足が…)

 足が疲労で遅くなり始め、もうダメだと諦めかけた時、後ろで牛の鳴き声が聞こえた。

「…え?」

 恐る恐る後ろを振り返ると、そこには一緒にミネルバまできた銀狼族の女の子が立っており、彼女はゆっくりと私の方に歩み寄ってくる。

「大丈夫?シュヴィ」

「ふぃ、フィエラ~!」

 私は助かった安堵から、情けなくも少し涙ぐんで彼女へと抱きつき、落ち着くまでそばにいてもらうのであった。




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