何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

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冒険編

覚悟の違い

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 ダンジョンに使われている空間拡張の分析を終えた俺がフィエラのもとに戻ってくると、見たことのあるやつが彼女の近くに座っていた。

「何でこいつがいるんだ」

「そこで拾った」

「遅かったわね。どこに行っていたのかしら?」

 フィエラの隣に座っていたのは、何故か当たり前のように堂々としているシュヴィーナがおり、俺が戻ってくるなり当然のように声をかけてくる。

「どこで拾った?」

「休んでたら牛から逃げてるのを見つけた」

「逃げてたんじゃないわ。あれはああいう作戦だったのよ」

「作戦?誰かとパーティーを組んでいたのか?」

「……」

「ぼっちエルフかよ」

「ぼ、ぼっちじゃないもん!」

 てっきり誰かとパーティーを組んでダンジョンに挑んでいるのかと思えば、まさかのソロ攻略だったようだ。

「ちゃんと友達がいるわ!ほら!」

 シュヴィーナはそういうと、手のひらに魔力を集めていく。
 すると、集められた魔力が少しずつ形になっていき、手のひらサイズの人の形をしたものが現れる。

「精霊か」

 精霊とは、自然界を守護する存在であり、エルフ族だけが唯一契約する事のできるもので、彼らと契約すると精霊魔法という特殊な魔法が使えるようになる。

 精霊魔法とは、魔法が自身の魔力を使って魔法を発動するのに対し、精霊魔法は精霊に魔力を送り、その魔力によって精霊が魔法を行使する。

 精霊魔法は通常の魔法に比べてワンテンポ発動が遅くなるが、その分精霊魔法は自然に直接干渉することができる。

 例えば、俺たちが使う魔法は魔力にイメージを持たせることで火や水を作り出すが、精霊魔法は火や水を作るのに加え、焚き火や空から降る雨にも干渉することができる。

 そうすることで、火をさらに激しく燃やして炎にすることもできるし、雨の雫を槍の形にして攻撃することもできる。

 これは精霊が自然の守護者であり、自然との親和性が高いからこそできる技なのだ。

「この子が私の友達。植物の精霊ドライアドのドーナよ」

 シュヴィーナがドーナを紹介すると、彼女は手の上でくるりと周り、そのあとぺこらと頭を下げた。

「お前より賢そうだな」

「あなた失礼ね。と言いたいところだけど、確かにこの子は私より賢いのよね」

「それはそうだろ。精霊の方が長生きしてるんだから」

 精霊に寿命という概念はなく、自然がある限り精霊たちは存在し続ける。
そのため、ドーナがシュヴィーナよりも賢いのも当たり前なのだ。

 そして、ダンジョンがいつから存在しているのか知っている可能性のある例外がこの精霊たちで、ドーナは中級の精霊なので喋れないようだが、上級以上になると話せる精霊もいるため聞けば教えてくれる可能性もある。

(まぁ。上級精霊なんて滅多に会えないんだけどな)

 俺が精霊について考えながら指先でドーナを撫でていると、シュヴィーナが俺に改めて話しかけてくる。

「それで?あなたはフィエラを置いてまでどこに行っていたのよ」

「ちょっとこのフロアの壁まで行って来た」

「壁?え、ここ壁なんてあるの?」

「そりゃあるだろ。ダンジョンの中なんだし」

「そ、それもそうね。でも…」

 シュヴィーナは少し困惑した様子で言葉を詰まらせるが、彼女がこんな反応をするのも無理はない。

 このダンジョンは各階層がかなり広いので、彼女がここをダンジョン内であることを忘れ、壁があることすら気にしなくなるのも当然と言えた。

「まぁ、俺のことはいいさ。それより、俺たちはもう行くからな」

「またね、シュヴィ」

 これ以上話すことも無かったため、俺たちはダンジョンの攻略を再開しようとしたのだが、何故かシュヴィーナに手首を掴まれて動けなかった。

「なんだ?まだ何かようか?」

「あ、あのね?お願いがあるのだけど…」

 シュヴィーナはそう言って、何故か恥ずかしそうに自身の太ももを擦り合わせながら、長い耳をピクピクと動かす。

「言いたいことがあるなら早く頼む」

「その…わ、私も!一緒に連れて行って欲しいの!」

「無理」

 俺がシュヴィーナのお願いを即答で断ると、彼女は呆気に取られて綺麗な顔をアホみたいな表情に変える。

「な、なんでよ!」

「俺らにお前を連れていくメリットが無いじゃん」

「そ…れは。でも、あなたたちもここに挑んでるってことはCランクよね?みんなで力を合わせて高ランク冒険者を目指しましょうよ!」

「あぁ。そういえば言ってなかったな」

 俺は彼女に自身のランクを伝えていなかったことを思い出すと、懐からギルドカードを出して見せてやる。

「うそ。Sランク?」

「ちなみに、フィエラもだからな」

「ん」

 フィエラもシュヴィーナにギルドカードを見せると、彼女はまた驚いた顔で言葉をなくす。

「これで分かっただろ?俺たちにお前を連れていく意味はない。むしろ邪魔だな」

 容赦なく切り捨てられた俺の言葉に、さすがのシュヴィーナも傷ついたのか泣きそうな顔でフィエラに追い縋る。

「フィエラ…」

「ごめん、シュヴィ。あなたの事は嫌いじゃないけど、エルが決めたなら私には何も言えない」

「うぅ…」

 頼みの綱だったフィエラにもどうにも出来ないと言われ、ついにシュヴィーナは泣いてしまった。

 何故ここまで俺たちと一緒に行動することに拘るのか理由が気になった俺は、取り敢えず座って話を聞いてみる事にした。

「なぁ。なんでそんなに俺たちと一緒に行きたいんだ?」

「それは…私、ずっと歳が近い友達が欲しくて、冒険者になれば仲間や友達ができると思ったの。

 でも、ドーナが人嫌いだからなかなかパーティーを組めなかったし、組もうと言ってくる人も下心が見え見えで気持ち悪くて。

 もうダメかもしれないって思っていた時、あなた達に出会ったの。フィエラは優しいし、あなたは態度は悪いけど性格は悪いやつじゃないしドーナも懐いてる。だからこのチャンスを逃したくないと思って…」

「なるほどな」

 彼女の思いは、長命であるが故にあまり子供を作らないエルフだからこそ感じる寂しさであり、精霊という自然の守護者と契約した彼女だからこそ感じる悩みだったのだろう。

「だが、それなら尚更俺たちの旅には邪魔でしかない。悪いが他を当たってくれ」

「どういうこと?」

「そうだな。一つ聞くが、お前は死ぬ事は怖いか?強くなるためな命を賭けられるか?」

「何を言っているの?普通に死ぬのは怖いわ。それに、強くなるためだけに命を賭けるなんて出来るわけないじゃない」

「そうだよな。それがお前と俺らの違いだ。俺たちは死ぬ事に対して恐怖は無い。戦う時はいつも死ぬ気で戦うし、いつ死んでもいいように覚悟も決めてる。強くなるためなら命だって平気で賭ける。
 だが、お前にはその覚悟が無い。俺らと同じ所を見れていない。

 これが俺らとお前の違いだ。分かったか?」

 正直、精霊魔法自体にはすごく興味があるし、魅力的な魔法だとも思う。

 だが、それと引き換えに覚悟のないやつを連れて行って、今後俺たちにメリットがあるのかと言えば、はっきり言って全くないし足手まといでしかない。

「お前の求める仲間なら、探してればそのうち出来るだろうよ。んじゃな」

「ばいばい」

 未だ下を向いて落ち込んでいるシュヴィーナを尻目に別れを告げると、俺たちはまた最速でダンジョン内を駆けていく。




「よかったの?精霊魔法、興味あったんじゃ?」

 シュヴィーナと別れてからしばらく走っていると、さっきまで黙っていたフィエラが話しかけて来た。

「別にいいさ。精霊魔法は確かに惜しいが、別にあいつにしか使えないわけじゃない。
 それに、予定ではエルフの国にも行くつもりだから、その時にでもよく見せてもらうよ」

「そう」

「お前は仲間にしたかったのか?」

「ううん。エルがシュヴィに言った通り、彼女には覚悟が足りない。
 私たちとは見てる景色がちがう。だから可哀想だとは思っても仲間にしたいとは今のところ思わない」

 フィエラは俺よりもシュヴィーナと仲が良かったため、もしかしたら説得してくるかとも思ったが、彼女は表情一つ変えずに俺と同じことを言う。

「お前もだいぶ言うようになったな」

「ふふ。誰かさんに似たのかもね」

「ふっ。そうかよ」

 その後、止まることなく10階層まで駆け抜けた俺たちは、10階層のボスである黒い牛ブラック・カウを倒し、その日の攻略を終えるのであった。






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