何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

文字の大きさ
上 下
61 / 233
冒険編

しおりを挟む
 再び濃い霧で覆われた部屋の中、俺はイグニードを構えて周囲の警戒をする。

(やっぱり感知系の魔法は使えないな)

 まずは一度霧を払ったことで感知系の魔法が使えるようになったか確認してみるが、案の定使用することは出来なかった。

「フィエラ。敵の位置はわかるか」

「問題ない」

 フィエラは感覚的に白鯨の位置を捉えているのか、位置を示すように正面を見続ける。

「来る。後ろ」

 フィエラがそう言うと、後ろから巨大な白い物体が押し寄せてきて、俺たちは左右へと分かれて飛び退く。

「本当に突然後ろから現れたな」

 先ほどまでフィエラは正面を見ていたはずなのに、白鯨が攻撃をしてきたのは後ろで、移動したにしてはあまりにも速すぎる。

「やはり転移系の種族魔法みたいだな」

 あの巨体で突然背後に現れるなどそれ以外にあり得ないし、何よりあの巨体が動けば霧の流れが変わるはずなのに全く変わらなかった。

「となると。あとはその転移に条件があるのかだが…ありそうだな」

 仮に条件が無いのだとしたら、俺が蒼炎の大華で焼いた際、すぐに転移で宙高く逃げられたはずだ。
 しかし、実際は霧が晴れても逃げる事はなく、そのまま炎で焼かれていた。

「さてさて。何が条件かな…おっと!」

 俺が色々と可能性を考えながらあたりを警戒していると、横から白いヒレが俺を叩き飛ばそうと迫ってきた。

 その攻撃に対して、イグニードで勢いを受け流すようにして添えると、そのままヒレの向きが逸れていく。

「ふむ。ビルドと戦ったおかげで、前より体の動かし方が良くなったな」

 以前よりも相手の攻撃を受け流しやすくなったことを実感した俺は、また霧の中に消えていった白鯨を目を閉じて感覚的に探す。

(見つけた)

 この部屋へ来るまでの間、目隠しをして感知能力と空間把握能力を鍛えてきたおかげか、白鯨がどこにいてどんな動きをしているのか何となく把握することが出来た。

「今はフィエラのところか」

 どうやら俺に攻撃を受け流されたあと、今度はそのままフィエラに攻撃を仕掛けにいったようだった。

「やられっぱなしはつまらんし、こっちから攻めるか」

 今度はこちらから攻めることにした俺は、イグニードを腰元に構えると、腰を低く落として地面を蹴り、一気に白鯨のもとへと近づく。

 そして、イグニードに炎を纏わせながら下段から切り上げるようにして剣を振った。

「あん?」

 しかし、どういう訳か振った剣には白鯨を切った感触はなく、しかも白鯨自体も全く違うところへと気配が移っていた。

「どういうことだ?」

 確かに先ほどまでは気配が目の前にあったし、剣を振った軌道上にもやつがいたはずなのに、何故か実際は切った感触も白鯨自体も居なかった。

「フィエラ。お前が1人で戦ってた時は殴った感触はあったか?」

「あった」

「ふむ」

 フィエラの時と俺の時の違いを考えると、彼女と白鯨が戦っていた時は正面からの戦闘で、俺の時は不意打ちだったくらいだ。

(試してみるか)

「フィエラ。確かめたいことがあるからあいつを引きつけてくれるか」

「わかった」

 一つの仮説を立てた俺は、それを確かめるためにもう一度さっきと同じ状況を作ることにする。

 俺がフィエラのもとを離れると、今度は彼女の方から白鯨へと正面から攻撃を仕掛ける。

 霧のせいで姿を見ることはできないが、フィエラと白鯨の戦闘音や衝撃を肌で感じながら、俺は気配を消して白鯨の背後へと回り込む。

 そして、イグニードを横に構えると、炎を纏わせて横薙ぎに切り払う。

「やっぱりか」

 しかし、先ほどと同じように切った感触は無く、白鯨の気配がまた離れたところに現れる。

「エル。何かわかった?」

「あぁ。おそらくあいつに攻撃を当たるには、あいつに俺らの攻撃を認識させる必要があるんだろう。
 多分あいつの能力は自身をこの霧に同化させる霧化だ。自身を霧化させることで、転移したように突然違うところに現れるし、不意打ちとかにも対処しているんだろう」

 それならば、俺が剣で切っても感触がなかった理由にもなるし、突然他のところに現れたのにも頷ける。

「それは厄介」

「だが、逆に言えば俺らの攻撃をあいつに認識させれば当たるってことだ。あとはあいつが自分の意思で霧化できるかどうかだが…できるんだろうなぁ」

 でなければ、俺らが攻撃をしていないのに突然背後に現れた理由が説明できない。

「だが、これでやつの能力と対処方法はわかった。なら、あとはその通りにあいつを倒すだけだろう」

「ん。正面からの戦闘。楽しみ」

 フィエラはそう言うと、まるでおもちゃを見つけたかのように尻尾を激しく揺らす。

「部屋の広さは把握しているな?」

「問題ない」

「なら俺は右」

「私は左」

 俺たちはお互いの持ち場を決めると、左右に分かれて霧の中へと消える。

「まずは俺からだ」

 俺が持ち場の右側に来ると、白鯨は俺に向かって突っ込んでくる。

「はは!攻撃がワンパターンだな!」

 俺は身を低くして地面を駆けると、白鯨の頭突きを避けながら腹の下へと潜り、イグニードを突き刺して尾ひれの方へと切り裂いて行く。

 白鯨は腹を割かれる激痛から悲鳴のような鳴き声を上げると、逃げるようにして姿を霧化させた。

「次はフィエラの方へ行ったか」

 俺たちの作戦は至ってシンプルで、部屋の中心から左右に分かれ、お互いの持ち場に来た白鯨を正面からぶっ叩くというものだった。

 これは下手に連携をして霧化で逃げられたり、部屋の端に逃げられて休む時間を与えたりしないためである。

 まるで脳筋のような作戦ではあるが、今回のボスに対してはこの作戦の方が有効だと判断したのだ。

 そして案の定、フィエラのもとから帰ってきた白鯨は右目から血を流し、片目を失った状態で戻ってきた。

「容赦ねぇな」

 フィエラが具体的に何をしたのかは分からないが、俺も彼女に続いてやつの右側にあるヒレを切り落とす。

 それからは俺のところとフィエラのところを往復する白鯨に対し、俺たちは休む間も与えずに攻撃し続ける。

 白鯨も最終ボスとしての意地を見せ、俺らの攻撃に対して反撃してくるが、生憎とこいつは体が大きくて死角も多いため、俺らの速さにも攻撃にもついてくることができない。

 ほぼ一方的に攻撃を受けるだけとなった白鯨に少しだけ同情はするが、俺らは攻撃の手を止めることはなかった。

「ん?止まったな」

 すると、白鯨も流石に限界を感じたのか、俺とフィエラのちょうど中間地点で動きを止める。

 フィエラもその事を感じ取ったとか、白鯨に向かって移動しているのが感じられた。

「なら、終わらせるとしますか」

 俺もイグニードの剣先を下げて白鯨に近づくと、青い炎を纏わせて下から上へと首元を切り上げる。

 フィエラは反対側から同じ箇所に闘気を纏わせて手刀を振り下ろしたのか、俺の斬撃とフィエラの斬撃が首の真ん中あたりでぶつかり、そのまま白鯨の太い首が落ちた。

 宙に浮いていた胴体も少しずつ消えながら地面へと落ちていき、最後は魔石とアイテムだけを残して完全に消滅する。

 白鯨が倒された事で部屋に満ちていた霧もなくなり、残ったのは俺たちと未だ意識を失っているヴィオラたちだけとなった。

「さてさて。何が落ちたかな?」

 俺は白鯨の魔石をマジックバッグにしまうと、横に落ちていたアイテムを拾う。

「使えそう?」

「あぁ。どうやらこいつは『霧の隠者』というローブ型のアイテムみたいだな。
 効果は装備者の気配をほとんど消して、感知系の魔法にも引っ掛からなくなるみたいだ。ただ、フィエラのように種族としての勘までは防げないみたいだが、感知系の魔法を防ぐだけでもかなり優秀だな」

「なるほど。すごく強そう」

「これは共有で使おう」

「わかった」

 俺がこのアイテムを共有で使用する事を伝えると、何故かフィエラは嬉しそうに尻尾を揺らす。

(それにしても、過去のヴィオラはこいつを1人で倒したんだもんな。改めて思うけど、やっぱ強かったんだな)

 前世で出会ったヴィオラが、目の見えない状態で白鯨を1人で倒したのを考えると、あの時の俺が彼女に敵わなかったのも当然と言えるだろう。

「さてと。ボスも倒した事だし、ここを出ますか。その前に…」

 気を失ったヴィオラたちをこのままここに残して行くわけにもいかないので、俺とフィエラはどうしようかと話し合うのであった。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

破滅を逃れようとした、悪役令嬢のお話

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥その恋愛ゲームは、一見するとただの乙女ゲームの一つだろう。 けれども、何故かどの選択肢を選んだとしても、確実に悪役令嬢が破滅する。 そんなものに、何故かわたくしは転生してしまい‥‥‥いえ、絶望するのは早いでしょう。 そう、頑張れば多分、どうにかできますもの!! これは、とある悪役令嬢に転生してしまった少女の話である‥‥‥‥ ――――――― (なお、この小説自体は作者の作品「帰らずの森のある騒動記」中の「とある悪魔の記録Ver.2その1~6」を大幅に簡略したうえで、この悪役令嬢視点でお送りしています。細かい流れなどを見たいのであれば、どちらもどうぞ)

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

ある平民生徒のお話

よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。 伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。 それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――

処理中です...