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死に戻り編
女の戦い
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屋敷に戻ってきた俺は、アイリスとフィエラのせいで疲れた体を癒すため、水クッションで浮きながらお風呂に向かっていた。
しかし、タイミング悪く廊下でアイリスと出会してしまい、俺は今すぐにでも逃げ出したい気持ちで一杯になっている。
「奇遇ですね、ルイス様。これからどちらへ?」
「疲れたから浴場へ向かっていたところです」
「そうですか。では、今まではどちらへ?」
何故か今までと聞かれた瞬間、アイリスから妙な威圧を感じた気がするが、気のせいだと思い部屋で寝ていたと伝える。
「なるほど。では、何故フィエラさんの匂いがするのですか?」
「……」
匂いと言われて、俺はフィエラとのやり取りを思い出す。
彼女も俺とアイリスの繋がりを匂いで暴いて見せたが、アイリスは俺と同じ人族だ。そんな彼女が匂いで気づくなどあり得るのだろうか。
「それに、服にフィエラさんの尻尾の毛がついてますよ」
いや、これはおそらくブラフだろう。なぜなら、今日はフィエラの尻尾を触らずに帰ってきている。
これは巷で聞く、「浮気相手の髪がついてますよ」と言われて慌てたところを責めるあれだろう。
(いや、別に浮気してるとかじゃないけど)
その事に気がついた俺は、余裕を持って対応するべく笑顔で言葉を返す。
「フィエラさんは獣人の方なのですか?獣人の方とは会ったことがないので、ついていないと思いますよ」
俺の答えを聞いたアイリスは、ニコニコしながら近づいてくると、袖についた一本の毛を手に取る。
「これは銀狼族の尻尾の毛に見えますが、私の勘違いでしょうか?」
(…嘘だろ。ブラフじゃなくてガチかよ)
フィエラに会ってきたことがバレた俺は、全力でこの場から逃げたくなったが、そんな事をするとさらに状況が悪化しそうだったので、俺は素直に認める事にした。
「はぁ。その通りです。フィエラに会ってきました。ただ、別に疚しい事をしたとかではなく、しばらく一緒に冒険者ができなくなりそうだったので伝えにいっただけです」
もう騙す事ができない事を悟った俺は、彼女に会いにいったことや要件を全て話した。
アイリスは終始ニコニコ笑っていたが、その笑顔を恐ろしく感じるのは何故だろうか。
「あの、もう行ってもいいですか?」
説明を終えた俺は、早く一人になりたくてそう切り出して離れようとする。
「えぇ。いいですよ。ただ、一つお願いがあります」
「お願い…と言うと?」
「私をフィエラさんに会わせてください」
「……は?」
「いろいろとお話ししたい事がありますから」
「わ、分かりました。フィエラにも話して見ます」
「お願いしますね」
一瞬拒否しようかとも考えたが、アイリスの「拒否なんてしませんよね?」という感情が込められた瞳で見られ、俺は了承することしかできなかった。
それから三日後。魔法で変装した俺とアイリスは、フィエラに会うため街中を歩いていた。
ただ、今の時期が冬のため屋台などは無く、視界に入るのは雪ばかりだが。
この三日間、俺は本当に疲れた。図書館で本を読んでいれば、何故かアイリスがやってきてそばから離れようとしないし、騎士団に混ざって訓練をしていれば終始ニコニコしながら見てくる。
さすがに訓練中に何もせず見ているだけなのは寒いだろうと思い、屋敷に戻るように伝えたこともあったが…
『大丈夫です。お気になさらないでください。ささ、訓練を頑張ってください』
と言われて、結局終わるまで見張られ続けたのであった。
そして、今日の朝はいつものよう変装魔法でエイルになろうとしたとき、何故かアイリスから待ったがかけられた。
『ルイス様、今日の変装は金髪碧眼でお願いします。私のような』
『……は?』
『そして私は銀髪金眼でお願いします』
『いや、それ俺の…』
『お願いします』
ニコニコ笑っているはずなのに、アイリスから感じる謎の圧力に負けた俺は、分かったと頷くことしかできなかった。
『これでいいですか?』
『はい。さすがですね』
『大したことないです』
アイリスのご希望通りに姿を変えた俺は、何故かご機嫌な彼女にフードつきのローブを渡す。
『さすがに目立つから、これを着てください』
『分かりました』
俺からローブを受け取った彼女は、フードを深く被ると準備ができたと言ってきた。
それを確認した俺は、自身とアイリスに飛行魔法を使って空を飛ぶ。
空を飛ぶのが初めてなアイリスは、終始楽しそうにしており、あっという間に街へと着いたのであった。
「それで、フィエラさんとはどこで会うんですか?」
「彼女が泊まっている宿屋です。あそこは個室の食事部屋もあるので、そこでお昼を食べながら会う予定です」
「わかりました」
アイリスを連れてフィエラのいる宿屋に着くと、中に入って彼女のことを探す。
「いた」
すぐにフィエラのことを見つけた俺は、アイリスと一緒に壁際の方へと向かう。
「フィエラ、待たせたか?」
「大丈夫。時間通り」
俺らのことを待っていたフィエラは、いつもの冒険者用の服ではなく、スカートを履いた可愛らしい格好をしていた。
「それより、何でフードなんて被ってるの」
「それはあとで説明する。それより移動するぞ」
「ん。わかった」
俺たちは店員さんを呼んで案内を任せ、フィエラが予約をしておいてくれた個室へと入る。
「ふぅ。やっと脱げる」
周りに誰もいなくなったことで、俺とアイリスはずっと着ていたローブを脱ぐ。
すると、俺たちのことを見ていたフィエラの目が少しだけ鋭くなり、耳がピクピクッと動く。
「どういうこと」
「うん?なにが?」
「その髪と目の色。この間と違う」
確かにこの前フィエラに見せた時は、俺の元の姿のため銀髪金眼だった。
しかし、今はアイリスの要望で金髪碧眼になっており、またアイリスは銀髪金眼になっている。
フィエラもオーガを倒した時にアイリスのことを見ているため、彼女のことを覚えていればお互いに色を交換していることには気づくだろう。
「ふふ。私がお願いしたんですよ。どうですか?似合っているでしょうか?」
「似合ってない。すぐにやめるべき」
謎に勝ち誇った様子でいうアイリスに対して、フィエラは若干怒りを滲ませた声で返答する。
「エルは元の姿の方がいい。それを変えるとかセンスない」
「この間まで本当の姿も知らなかった方が何を言ってるのかしら」
何で言い争いをしてるのかは知らないが相手をするのも面倒だと感じた俺は、店員さんを呼んで適当に注文を済ませる。
注文した料理が来てからも、二人は言い争いをやめることはなく、俺はそれを眺めながら料理を食べていく。
(この二人、何でこんなことしてんだ…)
何がしたいのかさっぱり分からなかった俺は、全て食べ終えたあと、面倒だと思いながらも尋ねる。
「二人は何をやってるんだ?」
「ルイス様は気にしなくて大丈夫です」
「エルは気にしなくていい」
なら帰っても良いだろうかと思いもしたが、それを口に出すと藪蛇になりそうだったので何も言わないでおく。
俺は最後にデザートのパフェを食べると、水枕を作って眠りについた。
ルイスが水枕を魔法で作って眠りにつくと、アイリスとフィエラは遠回しな話ではなく直接的な話を始める。
「フィエラさんは、ルイス様のことが好きなんですか?」
「…わからない。ただ、一緒にいたいとは思う。あなたはどうなの」
「私は好きですよ。愛しています。だから…そんな中途半端な気持ちなら、これ以上ルイス様には近づかないでください」
アイリスの真剣さが伝わったのか、フィエラはすぐに言葉を返すことができなかった。
彼女の気持ちは本物だ。本気でルイスのことが好きで、彼のためなら何でもするという強い覚悟が感じられる。
「…離れない。私は絶対に離れない」
フィエラはまだ好きかどうかは分からなかったが、今ルイスと離れたら、今後彼と同じ道を歩むことは二度とできないような気がした。
「そうですか。…まぁ、とりあえずは及第点としておきます。ただ、次に会った時もそのような曖昧な感情であれば、その時はわかっていますね?」
「わかった」
こうして、アイリスとフィエラの女の戦いが終わったわけだが、彼女たちはまだ知らない。ルイスの本当の目的と感情を。
彼の目的は永遠の死を手に入れることであり、彼の心には恋愛感情が存在しない。
何度も生と死を繰り返したことで、人を愛する感情を無くした彼を、今後この二人が振り向かせることができるのか。
それはまだ誰にも分からないのであった。
しかし、タイミング悪く廊下でアイリスと出会してしまい、俺は今すぐにでも逃げ出したい気持ちで一杯になっている。
「奇遇ですね、ルイス様。これからどちらへ?」
「疲れたから浴場へ向かっていたところです」
「そうですか。では、今まではどちらへ?」
何故か今までと聞かれた瞬間、アイリスから妙な威圧を感じた気がするが、気のせいだと思い部屋で寝ていたと伝える。
「なるほど。では、何故フィエラさんの匂いがするのですか?」
「……」
匂いと言われて、俺はフィエラとのやり取りを思い出す。
彼女も俺とアイリスの繋がりを匂いで暴いて見せたが、アイリスは俺と同じ人族だ。そんな彼女が匂いで気づくなどあり得るのだろうか。
「それに、服にフィエラさんの尻尾の毛がついてますよ」
いや、これはおそらくブラフだろう。なぜなら、今日はフィエラの尻尾を触らずに帰ってきている。
これは巷で聞く、「浮気相手の髪がついてますよ」と言われて慌てたところを責めるあれだろう。
(いや、別に浮気してるとかじゃないけど)
その事に気がついた俺は、余裕を持って対応するべく笑顔で言葉を返す。
「フィエラさんは獣人の方なのですか?獣人の方とは会ったことがないので、ついていないと思いますよ」
俺の答えを聞いたアイリスは、ニコニコしながら近づいてくると、袖についた一本の毛を手に取る。
「これは銀狼族の尻尾の毛に見えますが、私の勘違いでしょうか?」
(…嘘だろ。ブラフじゃなくてガチかよ)
フィエラに会ってきたことがバレた俺は、全力でこの場から逃げたくなったが、そんな事をするとさらに状況が悪化しそうだったので、俺は素直に認める事にした。
「はぁ。その通りです。フィエラに会ってきました。ただ、別に疚しい事をしたとかではなく、しばらく一緒に冒険者ができなくなりそうだったので伝えにいっただけです」
もう騙す事ができない事を悟った俺は、彼女に会いにいったことや要件を全て話した。
アイリスは終始ニコニコ笑っていたが、その笑顔を恐ろしく感じるのは何故だろうか。
「あの、もう行ってもいいですか?」
説明を終えた俺は、早く一人になりたくてそう切り出して離れようとする。
「えぇ。いいですよ。ただ、一つお願いがあります」
「お願い…と言うと?」
「私をフィエラさんに会わせてください」
「……は?」
「いろいろとお話ししたい事がありますから」
「わ、分かりました。フィエラにも話して見ます」
「お願いしますね」
一瞬拒否しようかとも考えたが、アイリスの「拒否なんてしませんよね?」という感情が込められた瞳で見られ、俺は了承することしかできなかった。
それから三日後。魔法で変装した俺とアイリスは、フィエラに会うため街中を歩いていた。
ただ、今の時期が冬のため屋台などは無く、視界に入るのは雪ばかりだが。
この三日間、俺は本当に疲れた。図書館で本を読んでいれば、何故かアイリスがやってきてそばから離れようとしないし、騎士団に混ざって訓練をしていれば終始ニコニコしながら見てくる。
さすがに訓練中に何もせず見ているだけなのは寒いだろうと思い、屋敷に戻るように伝えたこともあったが…
『大丈夫です。お気になさらないでください。ささ、訓練を頑張ってください』
と言われて、結局終わるまで見張られ続けたのであった。
そして、今日の朝はいつものよう変装魔法でエイルになろうとしたとき、何故かアイリスから待ったがかけられた。
『ルイス様、今日の変装は金髪碧眼でお願いします。私のような』
『……は?』
『そして私は銀髪金眼でお願いします』
『いや、それ俺の…』
『お願いします』
ニコニコ笑っているはずなのに、アイリスから感じる謎の圧力に負けた俺は、分かったと頷くことしかできなかった。
『これでいいですか?』
『はい。さすがですね』
『大したことないです』
アイリスのご希望通りに姿を変えた俺は、何故かご機嫌な彼女にフードつきのローブを渡す。
『さすがに目立つから、これを着てください』
『分かりました』
俺からローブを受け取った彼女は、フードを深く被ると準備ができたと言ってきた。
それを確認した俺は、自身とアイリスに飛行魔法を使って空を飛ぶ。
空を飛ぶのが初めてなアイリスは、終始楽しそうにしており、あっという間に街へと着いたのであった。
「それで、フィエラさんとはどこで会うんですか?」
「彼女が泊まっている宿屋です。あそこは個室の食事部屋もあるので、そこでお昼を食べながら会う予定です」
「わかりました」
アイリスを連れてフィエラのいる宿屋に着くと、中に入って彼女のことを探す。
「いた」
すぐにフィエラのことを見つけた俺は、アイリスと一緒に壁際の方へと向かう。
「フィエラ、待たせたか?」
「大丈夫。時間通り」
俺らのことを待っていたフィエラは、いつもの冒険者用の服ではなく、スカートを履いた可愛らしい格好をしていた。
「それより、何でフードなんて被ってるの」
「それはあとで説明する。それより移動するぞ」
「ん。わかった」
俺たちは店員さんを呼んで案内を任せ、フィエラが予約をしておいてくれた個室へと入る。
「ふぅ。やっと脱げる」
周りに誰もいなくなったことで、俺とアイリスはずっと着ていたローブを脱ぐ。
すると、俺たちのことを見ていたフィエラの目が少しだけ鋭くなり、耳がピクピクッと動く。
「どういうこと」
「うん?なにが?」
「その髪と目の色。この間と違う」
確かにこの前フィエラに見せた時は、俺の元の姿のため銀髪金眼だった。
しかし、今はアイリスの要望で金髪碧眼になっており、またアイリスは銀髪金眼になっている。
フィエラもオーガを倒した時にアイリスのことを見ているため、彼女のことを覚えていればお互いに色を交換していることには気づくだろう。
「ふふ。私がお願いしたんですよ。どうですか?似合っているでしょうか?」
「似合ってない。すぐにやめるべき」
謎に勝ち誇った様子でいうアイリスに対して、フィエラは若干怒りを滲ませた声で返答する。
「エルは元の姿の方がいい。それを変えるとかセンスない」
「この間まで本当の姿も知らなかった方が何を言ってるのかしら」
何で言い争いをしてるのかは知らないが相手をするのも面倒だと感じた俺は、店員さんを呼んで適当に注文を済ませる。
注文した料理が来てからも、二人は言い争いをやめることはなく、俺はそれを眺めながら料理を食べていく。
(この二人、何でこんなことしてんだ…)
何がしたいのかさっぱり分からなかった俺は、全て食べ終えたあと、面倒だと思いながらも尋ねる。
「二人は何をやってるんだ?」
「ルイス様は気にしなくて大丈夫です」
「エルは気にしなくていい」
なら帰っても良いだろうかと思いもしたが、それを口に出すと藪蛇になりそうだったので何も言わないでおく。
俺は最後にデザートのパフェを食べると、水枕を作って眠りについた。
ルイスが水枕を魔法で作って眠りにつくと、アイリスとフィエラは遠回しな話ではなく直接的な話を始める。
「フィエラさんは、ルイス様のことが好きなんですか?」
「…わからない。ただ、一緒にいたいとは思う。あなたはどうなの」
「私は好きですよ。愛しています。だから…そんな中途半端な気持ちなら、これ以上ルイス様には近づかないでください」
アイリスの真剣さが伝わったのか、フィエラはすぐに言葉を返すことができなかった。
彼女の気持ちは本物だ。本気でルイスのことが好きで、彼のためなら何でもするという強い覚悟が感じられる。
「…離れない。私は絶対に離れない」
フィエラはまだ好きかどうかは分からなかったが、今ルイスと離れたら、今後彼と同じ道を歩むことは二度とできないような気がした。
「そうですか。…まぁ、とりあえずは及第点としておきます。ただ、次に会った時もそのような曖昧な感情であれば、その時はわかっていますね?」
「わかった」
こうして、アイリスとフィエラの女の戦いが終わったわけだが、彼女たちはまだ知らない。ルイスの本当の目的と感情を。
彼の目的は永遠の死を手に入れることであり、彼の心には恋愛感情が存在しない。
何度も生と死を繰り返したことで、人を愛する感情を無くした彼を、今後この二人が振り向かせることができるのか。
それはまだ誰にも分からないのであった。
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