見上げれば月

夕空余情

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La!

見上げれば月

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「クレセントの3人はこれからも国の音楽に貢献していきたいと語った。」「リタラもういいよ!!ここに来てから20回は読んでるよ…もうわかったから!」スラーが両耳を手で塞ぐ。「だって嬉しいんだもん♪まさか俺たちのことが新聞に載るなんてね~!!」「フフフ、たしかに嬉しいね!」「そうだろ?やっぱり天歌ちゃんは俺のことよくわかってるね~!」スラーは呆れ顔をしていたが、嬉しそうだった。今年も始まったばかりだと思っていたのに1月も去り、2月に入った。以前より雪の降る回数も少なくなりどんどん春に近づいているのがよく感じられる。ピーンポーンとベルが鳴った。その時は小父様も小母様も家にいなかった。「私が出てくるね!」「あぁ、ごめん!」スラーが手を合わせた。私は立ち上がり、はーいと言いながらドアを開けた。「こんにちは。レイニー県警のものです。リタラチュア・ブック・ポエム氏とスラー・トリル・スタッカート氏はこちらにいらっしゃいますよね?」私はドキンとした。やって来た4人の男性は胸に警察のバッヂを付けて、腰には警棒とピストルを持っている。「あ…あの…」私が答えるのなんて待たないで、警察は勝手に家に入り、辺りを見回しながらズカズカと家の奥に入っていった。私は落ち着かない気持ちで警察の後について行く。とうとう警察はスラーの部屋のドアを勢いよく開けた。二人とも当たり前だけど驚いている。「あなた達を著作権法違反の疑いで書類送検いたします。処まで来てください。」そう言うと警察たちは2人を取り囲み、腕を掴んで外に出そうとした。「ちょっと待ってくださいどういうことですか?僕たちは何もしていません!」スラーが叫ぶ。「そうですよ!いったい何なんですか、何かの間違いですよ!!」リタラも警察の連行に抵抗していたが、相手は男2人なので無駄なようだ。「お願いします!乱暴は辞めて下さい!!この二人は無実です!」私は必死に警察官の腕にしがみついた。が、「余計なことしやがってこの小娘め!!」警察官は私など人差し指で弾き飛ばすかのように振り払い、私は転んだ。「天歌!無茶するな!!僕たちはきっと疑いを晴らして帰る!!」スラーのその言葉に返事も出来ないまま二人はパトカーに乗せられて行ってしまった。「天歌!これはいったいどういうことなんだ…?!」畑仕事から帰って来ていた小父様と小母様たちが二人がパトカーに乗せられて行くところを見ていたようだ。「…著作権法違反で連れて行かれてしまったんです…きっと何かの間違いです…」私は力なく答えた。「あぁ…」小母様は小父様の腕を掴んだまま床にドサッと崩れ落ちた。「メアリーしっかりしなさい。天歌が言う通り、きっと何かの間違いだ。うんうん、きっとそうだ…そうだ」小父様も同様を隠しきれない。その日の記憶は実はここまでだ。その後私は何を話しかけても何も聞こえていないかのようだったらしい…。ただただ何時間も窓辺に座って冬の曇り空をボーッと見つめていたようだ。その後二人は一週間ほど帰らなかった。5日目の午後2時頃、面会が許された。まずはリタラと会った。ロボットみたいに無表情な警察官は手錠をかけられたリタラを連れてきた。私は胸がギューと苦しくなって息が出来なくなりそうだった。なんと声をかけていいのかわからない。まだ5日しかたってないのにリタラはとてもやつれ果てていた。私はナイフで心をグサッと刺されたような感覚を覚えた。リタラはくらい顔をしていて全然目を合わせてくれない。1分、また1分と経つうちにどんどん話しづらくなる。そうこうしているうちに面会時間が終わってしまった。リタラは警察に連れ戻される途中、少しだけ振り返ってすまないというような表情になった。面会に来ても言葉一つかけられない私にはそれが一番辛かった。また少し経ってから今度はスラーが連れて来られた。リタラもそうだけど、あんなに善良な人たちに手錠をかけるなんて、私は腹だたしくてこの、面会所のパネルも破壊できるなら破壊したい気持ちだった。何か言わなきゃ、今度こそ…。焦る気持ちが大洪水を起こしそうだ。しかし、なんと言うべきか、果たして言っていいことなのか、考えれば考えるほど分からなくなってくる。「天歌…」スラーが呟いた。そして下にくまができた、青い瞳で真直ぐと私を見つめて「やっと会えた…」とまた一言呟いた。私は目頭が熱くなり、まぶたを押さえたが間に合わなかった。ポロポロと涙が頬をつたる。スラーはやっぱり天歌は泣き虫だなという代わりに「リタラは元気?」と聞いた。私は目を擦りながらフルフルと首を横に振る。スラーがやっぱりねというような顔をした。「とてもやつれてた…リタラがあんなになっちゃうなんて、私それなのに何にも言葉掛けてあげられなくて、ごめんね、ごめんね…」「それはリタラもわかってるよ。天歌が声をかけられなかったのも、リタラを傷つけないようにって、あれこれ考えてのことだったんじゃない?天歌はそういう優しいところがいいとこなのに…」「また私が慰められちゃったね…いっっつもごめんね」「いや、いいんだ。僕はこうして天歌の顔見れて元気が出た。だって天歌は僕の女神《ミューズ》だからね。それに…」面会終了時間です。スラーはまだ何か言いたそうだったが警察に連れられて行ってしまった。帰り道私は空虚な気持ちに襲われた。この数ヶ月間、突然現れた私を受け入れ、時間を共にしてくれた二人の心優しい少年の姿は今はなく、ただ日が落ちて短い影ぼうしが後をついて来ているだけだった。
 2週間後、私は証人として裁判に招かれた。私以外にもウィンドミルの皆が証人だ。弁護人は例のホテルの総支配人の紹介の人で、若くて情熱溢れる小柄な男の人だった。この日の2日前に誰が二人を訴えたのかわかった。知らせてくれたのはカメリアだ。「あの馬鹿!!なんでこんなことするのよ…よりによっていきなり劇団を離れたマックがスラーさんとリタラさんを訴えたですって?!冗談じゃないわ!全てまっっっ赤な嘘なのに!!」ハアハアと息が切れるほど興奮してカメリアが話してくれている。疑いをかけられたのは2曲目の挿入歌「すみれの花びら」だ。「本当に酷い…きっと私たちのせいでもあるの!マックにはウィンドミルの私たちがとても目立っているように見えたのでしょうね。ごめんね…」「ブルスたちのせいじゃないよ!とにかく二人の無実を証明するために協力して欲しいの!!お願いします」私が深々と頭を下げると皆は口々に「もちろん」と言ってくれた。マックはウィンドミルの皆を捨てて、芸能事務所からソロデビューしたがイマイチパッとしないでいる。そもそもデビューしていきなり花開くほうが難しいのに、スラーとリタラのオリジナルの曲を自分の曲だと主張するマックは嫉妬心の権化だ。黒い服に身を包んだ裁判官が裁判の始まりを告げた。原稿人の姿が見えた。そのマックという人は汚い緑色に髪を染め、耳と鼻にピアスをし、赤いマニキュアを塗っている。なんというか、中途半端という言葉がぴったりである。地球の家族の次に憎らしい。あちら側の検察官が厳かな声で起訴状を読み上げる。その検察官をリタラはじーっと睨みつけていた。スラーはというと疲れ果ててぼんやりした表情を浮かべており、何も耳に入っていなさそうだった。マックが証言台に登る。マックはひん曲がった口で捏造をまくしたてる。「この歌の著作権は私にあります。この歌は私がこの歌手のドリゼラのために1年以上前に作曲したものです。なのに、なぁ…パクられちゃあ困るよなぁ…」ドリゼラというのはたぶんあの人のことだ。カールがかった黒髪に真っ赤な口紅をつけ、長すぎるつけまつ毛がケバケバしい。なんか顔も意地悪そうだ。次に、検察官はマックが偽造したであろうUSBのデータなどをスクリーンで映して、彼が著作者であることを説明して見せた。嘘は嘘でもかなり説得力があり、聴衆はマックの主張が正しいと思っているようだった。次はこちらの番だ。弁護士、リタラ、スラーの順に無実を訴えた。若い弁護士はよりによって証拠集めが下手くそだし、何度も同じ一つの証拠を出しては無実だと繰り返すだけだった。このままではいくら無実でもこちら側に勝ち目は無さそうだ。「次は響天歌氏、貴女はクレセントのボーカルですね」裁判官に指名された。私はドキドキしながらも証言台に登る。どうやったら、二人を解放できるのか?考えすぎて頭がぼぉっとしてきた。めまいがする。その時だった。「天歌さん」私は何もない草原にいた。この星に来る前によく見ていた夢と同じ場所だ。カラカラした風がさあーと草木を揺らす。「天歌さん」もう一度呼ばれた。振り返ると、金髪のおさげを青いリボンでとめ、リボンと同じ色の瞳をした美しい少女が立っていた。少女は形の良い眉をハの字に曲げていう。「あの、助けて!!」「へ?」展開がブツブツと切れすぎてよく分からない。「ラの音です!」少女は言った。ますます意味がわからない。「ラ?それってソラシドのラ?というか貴女は誰なの?そしてここはどこ?」「はい。そのラです」少女は私の2つの質問には答えてくれなかった。「とにかくラですからね…」風がもう一度吹いた。少女は草の中に消えた。「響さん、どうかしましたか?証言を始めて下さい。」私は我に返った。私は最初ありきたりな証言をしていた。ららららららららら。口では別のことを喋りながらも頭では「ら」で一杯だった。その時ふと練習中のことが蘇った。スラーがピアノを引きながら言ったこと。「このラは天歌にしか出せないんだ。とっても高いし、普通の人だったら声がかすれてしまうから…」私は思いついたのだ。私はこの曲自身なのだと。だから手を上げた。対決を申し込むために。「ドリゼラさんにお願いがあります。この曲のサビの「すみれの花びら」というフレーズを歌って下さい!」えっ?全員がそんな顔をした。「この花びらの最後の音のラは作曲者のスタッカート氏が高すぎて私にしか出せないと言っていました。ですから、ドリゼラさんが歌って歌うことができたらこの曲は貴方がたのものでしょう。だってまさか歌えない曲なんて作らないでしょうから…では、まず私から歌わせていただきます」私は大きく息を吸った。「すみれの花びラ」高い音がツンと法廷に響く。ドリゼラは顔を引きつらせながら台にあがるそして思いっきり息を吸い込んでから「すみれの花びらぁはー、ゴホッ、ゴホッ…」ドリゼラは蚊の鳴くような声でラの音を出し、無理したのでhaの音がはさまり最後はむせてしまった。聴衆の顔つきはガラッと変わった。その後はカメリアの熱心な証言(マックへの辛辣な批判入り)が続き裁判は終了した。さらに2週間後後の朝私と小父様、そして小母様は郵便箱に飛んでいった。破れるほどの勢いで朝刊を広げると、3枚目に「クレセントの作詞家、作曲家無罪の判決!!」との見出しが掲載されていた。私たちはそれを見たとたん手を繋いで飛び上がり喜びに浸った。記事の本文には「ボーカルの響天歌氏が歌声で無実を証言したという。」と書かれていおり、どうやら決めては私の歌と精密なデータの検証により、マックの偽造が暴かれたことだった。その日の午後警察署にスラーとリタラを迎えに行った。リタラは無罪と大きく書かれた紙をブンブン振り回してはしゃいでいた。いつものリタラに戻って嬉しい。「二人ともお帰りなさい!」嬉しくてたまらない。スラーとリタラの両親も安心しきった様子だ。「やあ~、天歌ちゃんのLaには驚いたなあ。お陰で俺たちは無罪が証明された!ありがとう~!!」リタラがウインクしながら言う。「でも天歌、僕が言ったことよく覚えてたね」「うん。それがね、突然草原に飛んじゃってね…」「何それ?」二人とも笑いながら聞いてくる。「うん、なんか女の子が教えてくれたの。ラの音で助けてって…何だったんだろう、金縛りかな?」「ハハハ、そんなことある?なあスラー…てっえ?」リタラが驚いたのはスラーが真顔で考え込んでいたからだ。「ねえ天歌、もしかしてその女の子って僕と同じような髪と目の色で、三つ編みしてた?」「うん、そうそう!なんで分かったの?」「アニーだ…きっと幽霊のアニーが僕らを助けてくれたんだね…」一瞬、皆黙った。兄思いの少女の優しい気持ちに感動しつつ、幽霊だと聞くとやっぱり少しゾッとしてしまう。私たち3人の鳥肌を3月初頭の春風がサッと撫でた。「天歌さん、ありがとう」もう一度アニーの声がした気がして振り返ったけれど今度は誰もいなかった。「天歌、どうしたの?帰るよー」私は春の花が咲き乱れる小道を2人の少年の背中を追いかけて行った。その道は私が行ったこともないずっと向こうまで続いていた。
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