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ガーベラの花びら
見上げれば月
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ガツンと岩で殴られたような感じがした。私はザラザラとした地面に叩き付けられた。日は赤々と燃えている。「えっ、さっきまで夜だったのに…」ペタリと座り込んでいる私の前を人々は通り過ぎて行く。その人々の足元を見ると、靴は擦り切れていたり、汚れていたりと妙にリアルだ。きっと夢だよね。私は念のため近くの岩に頭を思いっきりぶつけてみた。痛かった…。目の前を星がちらつくとはまさしくこのことだろうと思った。まっ、まさか!どうやら私は別次元または、別世界に来てしまったらしい。このことを感じ始めたのは、この時からだった…。私は呆然とした。
「わぁーん、ここどこ?」聞きたいのはこっちだよと思いながら振り返ると、私の太ももくらいの背丈の男の子がいた。迷子らしい。今の私ではどうしてあげることもできないだろうと思い、私はその場を立ち去ろうとした。しかし、気づくと「どうしたの?」と聞いていた。「パパやママ、お姉ちゃんとはぐれちゃったの!」泣きじゃくる彼を私はなんとかなだめ、手を繋いで歩きだした。その子の家族は案外見つからなくて、思い当たる場所を全部探したが、だめだった。高かった日は、だんだんと暮れてゆく。辺りを吹く風はひんやりと冷たく、私たちの肌を撫でていった。「おいおい、姉ちゃんどこに行くんだい?」二人の前に6本の足が立ちはだかった。明らかに不審者3人組だ。3人の男はがっちりとした体つきで、、安っぽいサングラスをかけ、金属の変なネックレスをしている。私は聞こえないふりをして、お得意のポーカーフェイスでかわそうとしたが、案の定取り囲まれた。「よぉ、姉ちゃん俺たちは何もそんなに怪しい者じゃないぜ~。ちょっといい物を手に入れたから、紹介しにきたのさ。」そう言って男が取り出したのは、注射器と白い粉薬だった。私は全身に鳥肌がたつのを感じた。あれは明らかに…違法薬物だろう。「姉ちゃんその表情だとこれを知ってるな!まずは、その坊主にこれをやるよ。」男が取り出した棒付きキャンディを見たとたん、お腹をすかせていた男の子は飛びつきました。「だめ~!!!」私は彼からかの怪しげなキャンディーを奪い取り、近くの池に投げ入れた。ボチャンという、音を立てキャンディーは池に沈み、溶けて有害そうな色の液体となった。それを見た男はゆでダコのように真っ赤になり、「子供だから手加減してやったのに、生意気な小娘めっ!すぐにこの薬の虜にしてやるからな…。」男がそう言い終わりもしないうちに、残りの二人に羽交い締めにされ、男は私に注射器を向けた。針先は鋭く、細く、そして冷ややかにキラリと光っていた。もうだめ…。無駄だとわかりながらも、体をかばおうと、顔の前で腕をクロスさせた。針先が私の手に触れた瞬間、男の手から、注射器が滑り落ちた。「熱いっっっ!」見ると私が首から下げていたペンダントの液体が漏れ、男の腕にかかっていた。きっと何か化学変化が起きて、危険物になったのだろう。力の抜けている私を男の子が引っ張り、なんとか後を追われる前に逃げることができた。前にも増して、空は暗くなってきていた。風がさらさらと木々を揺らした。「お姉ちゃん、僕なんだか心細いなぁ~。何か歌ってくれない?」正直歌なんて歌える余裕はなかった。けれど、男の子の真っ黒で大きく、真っ直ぐな瞳を見ると、歌わずにはいられなかった。私は控えめな声で『花のワルツ』を歌った。これを歌っていると、いつも亡くなったおばあちゃんのことを思い出す。二人でガーベラ畑に行ったあの日、おばあちゃんは、私にこう聞いたんだっけ…「天歌、天歌は大きくなったら、どんな人になりたいの?」「歌手だよ。だっていつもお父さんがそう言うから。」「そうじゃなくて。」おばあちゃんの柔らかく優しい手が私の頭に触れる。「天歌はまだ8歳だから、よくわからないと思うけど、おばあちゃんは貴女に人生の物悲しささえも愛せるような強い人になってほしいな。これから、貴女には厳しく、辛いことも多いかもしれないわね。でもね、経験したことは良くないことも含めて、貴女の財産となって味方してくれるわ。明けない夜はないの。どうか希望を忘れないで。」家族の中で唯一、私をわかってくれたおばあちゃん…もう一度会いたい。そう思った時、鼻腔の奥から、ふわっとガーベラの甘く、優しく、儚い香りがしたような気がした。目の前の道がぐらりとゆがんで、涙で霞んだ。「ジョー!」「パパ、ママ、お姉ちゃん‼」男の子は両親に駆け寄って、その胸に飛び込んだ。「このお姉ちゃんがねっ僕を送ってくれたんだよ!」「どうもありがとうございます。なんとお礼を申し上げたらいいものか…。よかったら夕食でも…。」「いいえ、見つかってなによりです。せっかくですが、私はこれから予定があるので失礼します。」私はどこかに行く振りをして、立ち去った。「バイバイ~!」男の子にそう言われて、笑顔で手を振る。私の姿が見えなくなったようで、一家は肩を並べて帰っていった。楽しそうな笑い声を立てながら…。家族ってきっと温かいものなんだろうな~。心底羨ましかった。もう辺りは真っ暗だった。私は日頃から楽譜ばかり読んでいたので、それはすごい鳥目だった。ガンッ―倒れていた大木につまずいた。足を捻った。どうやら私の運命は今晩、森で野宿ということらしい…。「$#*%€⊕∑∧∂>∞⊃α≯%∩!?」怒りが爆発した。叫んだ何かは広すぎる夜空へと吸い込まれていった。仕方なしに私は芝生の上に寝転んだ。芝生のチクチクとした感触が服を通じて伝わってくる。見上げると、美しい三日月が空に浮かんでいた。「私このまま死ぬのかな…?」月に向かって聞いてみる。当然返事はない。私がここに来た理由は?またも涙が頬を伝う。私の泣き虫!なんて思っても我慢できない。涙が私のペンダントにポツリと落ちた。ペンダントの中にはあの日のガーベラの花びらが押し花にされて入れてある。今日の出来事でペンダントは前ほど美しくはなかったけど。その涙を月の光が反射して、ダイヤモンドのような光を放った。まるで私に返事をするかのように…。おばあちゃんはきっと、月にいる。そう思うと、つかの間だったが、おばあちゃんともう一度話せたような気がした。森は静まり返り、深い深い夜へと時は流れていった。
「わぁーん、ここどこ?」聞きたいのはこっちだよと思いながら振り返ると、私の太ももくらいの背丈の男の子がいた。迷子らしい。今の私ではどうしてあげることもできないだろうと思い、私はその場を立ち去ろうとした。しかし、気づくと「どうしたの?」と聞いていた。「パパやママ、お姉ちゃんとはぐれちゃったの!」泣きじゃくる彼を私はなんとかなだめ、手を繋いで歩きだした。その子の家族は案外見つからなくて、思い当たる場所を全部探したが、だめだった。高かった日は、だんだんと暮れてゆく。辺りを吹く風はひんやりと冷たく、私たちの肌を撫でていった。「おいおい、姉ちゃんどこに行くんだい?」二人の前に6本の足が立ちはだかった。明らかに不審者3人組だ。3人の男はがっちりとした体つきで、、安っぽいサングラスをかけ、金属の変なネックレスをしている。私は聞こえないふりをして、お得意のポーカーフェイスでかわそうとしたが、案の定取り囲まれた。「よぉ、姉ちゃん俺たちは何もそんなに怪しい者じゃないぜ~。ちょっといい物を手に入れたから、紹介しにきたのさ。」そう言って男が取り出したのは、注射器と白い粉薬だった。私は全身に鳥肌がたつのを感じた。あれは明らかに…違法薬物だろう。「姉ちゃんその表情だとこれを知ってるな!まずは、その坊主にこれをやるよ。」男が取り出した棒付きキャンディを見たとたん、お腹をすかせていた男の子は飛びつきました。「だめ~!!!」私は彼からかの怪しげなキャンディーを奪い取り、近くの池に投げ入れた。ボチャンという、音を立てキャンディーは池に沈み、溶けて有害そうな色の液体となった。それを見た男はゆでダコのように真っ赤になり、「子供だから手加減してやったのに、生意気な小娘めっ!すぐにこの薬の虜にしてやるからな…。」男がそう言い終わりもしないうちに、残りの二人に羽交い締めにされ、男は私に注射器を向けた。針先は鋭く、細く、そして冷ややかにキラリと光っていた。もうだめ…。無駄だとわかりながらも、体をかばおうと、顔の前で腕をクロスさせた。針先が私の手に触れた瞬間、男の手から、注射器が滑り落ちた。「熱いっっっ!」見ると私が首から下げていたペンダントの液体が漏れ、男の腕にかかっていた。きっと何か化学変化が起きて、危険物になったのだろう。力の抜けている私を男の子が引っ張り、なんとか後を追われる前に逃げることができた。前にも増して、空は暗くなってきていた。風がさらさらと木々を揺らした。「お姉ちゃん、僕なんだか心細いなぁ~。何か歌ってくれない?」正直歌なんて歌える余裕はなかった。けれど、男の子の真っ黒で大きく、真っ直ぐな瞳を見ると、歌わずにはいられなかった。私は控えめな声で『花のワルツ』を歌った。これを歌っていると、いつも亡くなったおばあちゃんのことを思い出す。二人でガーベラ畑に行ったあの日、おばあちゃんは、私にこう聞いたんだっけ…「天歌、天歌は大きくなったら、どんな人になりたいの?」「歌手だよ。だっていつもお父さんがそう言うから。」「そうじゃなくて。」おばあちゃんの柔らかく優しい手が私の頭に触れる。「天歌はまだ8歳だから、よくわからないと思うけど、おばあちゃんは貴女に人生の物悲しささえも愛せるような強い人になってほしいな。これから、貴女には厳しく、辛いことも多いかもしれないわね。でもね、経験したことは良くないことも含めて、貴女の財産となって味方してくれるわ。明けない夜はないの。どうか希望を忘れないで。」家族の中で唯一、私をわかってくれたおばあちゃん…もう一度会いたい。そう思った時、鼻腔の奥から、ふわっとガーベラの甘く、優しく、儚い香りがしたような気がした。目の前の道がぐらりとゆがんで、涙で霞んだ。「ジョー!」「パパ、ママ、お姉ちゃん‼」男の子は両親に駆け寄って、その胸に飛び込んだ。「このお姉ちゃんがねっ僕を送ってくれたんだよ!」「どうもありがとうございます。なんとお礼を申し上げたらいいものか…。よかったら夕食でも…。」「いいえ、見つかってなによりです。せっかくですが、私はこれから予定があるので失礼します。」私はどこかに行く振りをして、立ち去った。「バイバイ~!」男の子にそう言われて、笑顔で手を振る。私の姿が見えなくなったようで、一家は肩を並べて帰っていった。楽しそうな笑い声を立てながら…。家族ってきっと温かいものなんだろうな~。心底羨ましかった。もう辺りは真っ暗だった。私は日頃から楽譜ばかり読んでいたので、それはすごい鳥目だった。ガンッ―倒れていた大木につまずいた。足を捻った。どうやら私の運命は今晩、森で野宿ということらしい…。「$#*%€⊕∑∧∂>∞⊃α≯%∩!?」怒りが爆発した。叫んだ何かは広すぎる夜空へと吸い込まれていった。仕方なしに私は芝生の上に寝転んだ。芝生のチクチクとした感触が服を通じて伝わってくる。見上げると、美しい三日月が空に浮かんでいた。「私このまま死ぬのかな…?」月に向かって聞いてみる。当然返事はない。私がここに来た理由は?またも涙が頬を伝う。私の泣き虫!なんて思っても我慢できない。涙が私のペンダントにポツリと落ちた。ペンダントの中にはあの日のガーベラの花びらが押し花にされて入れてある。今日の出来事でペンダントは前ほど美しくはなかったけど。その涙を月の光が反射して、ダイヤモンドのような光を放った。まるで私に返事をするかのように…。おばあちゃんはきっと、月にいる。そう思うと、つかの間だったが、おばあちゃんともう一度話せたような気がした。森は静まり返り、深い深い夜へと時は流れていった。
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