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冷たい陽だまり
見上げれば月
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陽だまりのようなスポットライトがステージを照らした。「第124回ジュニア音楽コンクール準優勝、響天歌《ひびきてんか》さんおめでとうございます!」ステージの下の何百という瞳が一斉にこちらへ向けられる。この後どんなことが私を待っているかと思うと震えがとまらなかった。表彰式が終わり私はステージの袖をゆっくり、なるべくゆっくり歩いていった。少しでも時間をかせぎたかったから…。控え室に戻ると、もう迎えの車が来ていると知らせられた。私は準優勝の銀色の装飾がしてあるピカピカのガラス製のトロフィーを抱いて車に乗り込んだ。車はバリバリと秋の色とりどりの落ち葉を踏みながら、家へと続く坂道を進んでいった。私は葉がひらひらと舞い落ちる様子を見ながら、まるで自分の努力や希望が散ってゆくかのように思った。家に付き車から降りると、真っ先に迎えに来てくれたのは紛れもなく、父だった。父は私に近づくなり、私が隠すように抱えていたトロフィーをひっつかみ腕にうなりをつけて、庭の手前の道のアスファルトにたたきつけた。トロフィーはガシャンと、大きさくしかし、きめ細かい音をたてて、無惨に割れてしまった…。なぜ優勝してこなかったんだという意味だろう。そして父は何も言わず、うつむいている私など見向きもせず、去っていた。
家に入るとヴァイオリンの美しい音色が聴こえてきた。「愛のあいさつ」、私の兄の一番得意な曲だ。そのもの悲しく、ヴァイオリンの弦が織りなす滑らかな旋律を聴くと私は今にも泣きだしそうだった。ふと、兄が私に気づいて、ヴァイオリンを弾く手を止めた。
一瞬目が合ったが、兄の目は虚ろなすり硝子のようで無機質に冷たく私を睨んでいた。もう、今日の結果を父から聞かされているのかもしれない…。私は気まずくなり、ぐるぐると渦を巻く螺旋階段を駆け上がった。2階には私の部屋がある。1人ではとても広すぎて、落ち着かないこの部屋が私は大嫌いだった。その重苦しいドアを無造作に押し開け、中に入った。私の家は先祖代々続く音楽一家だ。この16年間音楽と共に生き、全てを、捧げてきた。いつも私の側には音楽があった。
父はチェロ、母はヴィオラ、兄はヴァイオリン、姉はピアノ、そして私は歌だ…。私は音楽を恨んている。
幼いころから、何時間も厳しい教育を受けてきたからだと思う。私は疲れた体をベッドに投げ出した。
そのまま天井を見たら、音楽家の肖像画と目があったので睨みつけた。私は何もかもが終わったと感じていた。そして今日こそ、最期の勇気を奮おうと心に決めた。「夕食の準備ができた」と、メイドが呼びに来たけれど、「気分が悪いから、今日は早めに休む」と伝えた。私は寝たふりをしようと、布団をかぶっていると、いつの間にか本当に寝てしまっていた。気がついたのは、部屋の鳩時計が12時を知らせた時だった。
私は小さな袋に炭、ガムテープ、マッチをいれ誰にも気づかれないように外に出た。外は静まり返っており、そして暗く、あるのは月明かりだけだった。しばらく庭を歩くと倉庫がある。私はそこに入った。倉庫の中には使わなくなった家財道具がたくさんしまわれていた。目的地であるクローゼットへと足を進める。「頑張っていたらいつか報われる」この言葉は嘘だったのだろうか…。思えば、私の人生なんて出来の良い兄や姉と比べられ、父と母に叱られてばかりだった。私が何かのコンクールで優勝したときだけは、両親は周りの人に散々自慢した。まるで、自慢の道具かのように…。そんな状況に何も言えない自分が私は、情けなくてならなかった。だから私は今日自分で私と言う物語に終止符を打つ。なんて考えていたら、ふいに涙が頬を伝った。私はクローゼットのドアを開けて、中に入った。昔使われていたものなので中は空だった。しかし、これはなかなか優れ物で、天井に小さなライトが付いており、暗くても服を収納しやすいようになっている。私はそれを知っていたから、スイッチをつけようと、壁に手を伸ばした。壁に指先が触れたとたん、壁が急に柔らかく感じた。何これ、私、感覚がおかしいのかな?そう思った瞬間…グッと指先が向こうから何かに引っ張られるような感じがした。壁はグニグニと曲がり私はみるみるうちに吸い込まれていった。誰か助けて!恐怖が大波のように押し寄せ、ギュッと目を閉じた。
家に入るとヴァイオリンの美しい音色が聴こえてきた。「愛のあいさつ」、私の兄の一番得意な曲だ。そのもの悲しく、ヴァイオリンの弦が織りなす滑らかな旋律を聴くと私は今にも泣きだしそうだった。ふと、兄が私に気づいて、ヴァイオリンを弾く手を止めた。
一瞬目が合ったが、兄の目は虚ろなすり硝子のようで無機質に冷たく私を睨んでいた。もう、今日の結果を父から聞かされているのかもしれない…。私は気まずくなり、ぐるぐると渦を巻く螺旋階段を駆け上がった。2階には私の部屋がある。1人ではとても広すぎて、落ち着かないこの部屋が私は大嫌いだった。その重苦しいドアを無造作に押し開け、中に入った。私の家は先祖代々続く音楽一家だ。この16年間音楽と共に生き、全てを、捧げてきた。いつも私の側には音楽があった。
父はチェロ、母はヴィオラ、兄はヴァイオリン、姉はピアノ、そして私は歌だ…。私は音楽を恨んている。
幼いころから、何時間も厳しい教育を受けてきたからだと思う。私は疲れた体をベッドに投げ出した。
そのまま天井を見たら、音楽家の肖像画と目があったので睨みつけた。私は何もかもが終わったと感じていた。そして今日こそ、最期の勇気を奮おうと心に決めた。「夕食の準備ができた」と、メイドが呼びに来たけれど、「気分が悪いから、今日は早めに休む」と伝えた。私は寝たふりをしようと、布団をかぶっていると、いつの間にか本当に寝てしまっていた。気がついたのは、部屋の鳩時計が12時を知らせた時だった。
私は小さな袋に炭、ガムテープ、マッチをいれ誰にも気づかれないように外に出た。外は静まり返っており、そして暗く、あるのは月明かりだけだった。しばらく庭を歩くと倉庫がある。私はそこに入った。倉庫の中には使わなくなった家財道具がたくさんしまわれていた。目的地であるクローゼットへと足を進める。「頑張っていたらいつか報われる」この言葉は嘘だったのだろうか…。思えば、私の人生なんて出来の良い兄や姉と比べられ、父と母に叱られてばかりだった。私が何かのコンクールで優勝したときだけは、両親は周りの人に散々自慢した。まるで、自慢の道具かのように…。そんな状況に何も言えない自分が私は、情けなくてならなかった。だから私は今日自分で私と言う物語に終止符を打つ。なんて考えていたら、ふいに涙が頬を伝った。私はクローゼットのドアを開けて、中に入った。昔使われていたものなので中は空だった。しかし、これはなかなか優れ物で、天井に小さなライトが付いており、暗くても服を収納しやすいようになっている。私はそれを知っていたから、スイッチをつけようと、壁に手を伸ばした。壁に指先が触れたとたん、壁が急に柔らかく感じた。何これ、私、感覚がおかしいのかな?そう思った瞬間…グッと指先が向こうから何かに引っ張られるような感じがした。壁はグニグニと曲がり私はみるみるうちに吸い込まれていった。誰か助けて!恐怖が大波のように押し寄せ、ギュッと目を閉じた。
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