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第8話 爆誕、ギルド暗黒食堂と超最高級ベッド

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「……なんで黒いカーテンなのですか」


 翌日お昼。


 王都のお城から歩いて5分のところにある俺の食堂。

 5年間休み無しでモンスターを倒し続けた俺は暗黒騎士を辞め、第二の人生はスローライフを、と食堂を開店。

 転移特典で貰えたらしいユニークスキル『食堂』が大変便利で、材料さえあればスキル発動で瞬時にシチューやパン、さらにテーブルや椅子、調理器具までもが作れてしまうというチートスキル。

 暗黒騎士時代は『大体なんでも真っ二つ』のユニークスキルで毎日必死にモンスターを倒してきたが、これからはもう一つのユニークスキル『食堂』で流れ行く時間を優雅に楽しみながら余裕のスローライフを満喫したい。

 まぁこの国のお姫様であるロウアイナ様に、しばらくしたら騎士として復帰するようにと口約束させられたけども。


「こっちワイン10杯に焼き立てパンにサラダに固めのチーズ、そっちはビーフシチューにルイーバ? なにそれええと、スキル検索……あ、これか東の漁村でよく作られる小魚の素揚げに辛味を加えた丼ぶりっと、ほい了解……え、なんだってユーベル?」

 何度も言っているが、俺はスローライフを目指し宣伝もせず、果ては看板すら無い状態でお店を開けたのだが、なんだろうこの混雑っぷり。

 店内は剣に斧に弓、それぞれの自慢の武器を携えた屈強な冒険者で溢れている。

 クソ、なんでこいつらここに来るんだよ、冒険者センターの食堂に行けよ。


「……黒いカーテンとか全っ然オシャレじゃないです。これじゃエイリットの代名詞である暗黒……暗黒食堂です」

 大きめのキャスケット帽みたいのをかぶった女性、ユーベルが食堂の全ての窓に付けられた黒いカーテンを指でつつき渋い顔をしている。

 あの、カーテンいいから手伝ってくれよユーベル……。

「おお、名前が決まったんですねエイリットさん! 今日から我らパーティーは『ギルド暗黒食堂所属の炎狼の二枚盾』と名乗らせてもらいます! いやぁまさか千年以上誰も倒せなかったS級モンスターすら瞬殺の暗黒騎士エイリットさんにお誘いを受けるとは光栄っす!」

 ユーベルのつまらなそうな言葉が聞こえたらしい全身重鎧に大盾装備男、ホスロウが興奮気味に叫ぶ。

「うわぁ私たち本当にエイリットくんのギルド暗黒食堂に幹部クラスで招待されちゃったんだ。そうだよね、大剣使いのエイリットくんに必要なのは大盾装備の私。うんうん、二人はお互いの肉体を求め合っているし必要としているもんね」

 ホスロウの妹、こちらも全身重鎧に大盾装備のディアージュが嬉しそうに席から立ち上がりちょっとエロいポーズでアピールしてくる。

「……頭お花畑ですね。剣士には盾役が必要とか思考停止もいいところです。エイリットが生きていくうえで必要と判断したのは身の回りのサポートを完璧にこなせる私。そう、この食堂を立ち上げるにあたり、唯一エイリットが頼ったのが私なのです」

 ディアージュとユーベルが舌打ちをしながら睨み合っているが、俺は盾兄妹をギルドに誘っていないし、幹部なんて役職もない。第一に、ギルドを立ち上げていない。

 俺は騎士を辞めてひっそり一人で食堂を経営しようとしただけで、ユーベルすら誘っていない。

 あとさ、なんか勝手にここがギルドで名前が暗黒食堂に決まっているんですけど、なんで。


 黒いカーテンに関しては、昨日の夜閉店後の店内を覗かれていたから急遽スキルで作り出しただけで、ここが暗黒領域であるとアピールしているわけではない。

 俺はもう暗黒騎士を辞めたし、恥ずかしいから厨二病ワードの暗黒暗黒言わないで欲しい。

 わざわざ黒くするからそう呼ばれる? 

 っても俺、おしゃれとかさっぱり分からないし、10代の頃から着る服とか身の回りのものを無難な黒で固めていたから他の色ってもう選べない体になっているんだよね。

 ああ、これぞユーベルがさっき言っていた思考停止だな……もう大人になって暗黒を卒業したのだから、黒以外にも選択肢を広げ、柔軟な思考の出来る大人をアピールすべきなのだ。

 よしここは反対色の白……いや安易だな。

 だって白って汚れ目立つじゃん。そう、薄い色って汚れたらすぐに分かるから身につけていられる期間が短めなんだよね。洗濯大変。

 多少の汚れにも強く長持ち、かつ落ち着いた大人な色は……やはり黒。

 うむ、元に戻ったぞ。



「…………」
「…………」

 そうか、黒は完全色、この世は黒に還り黒しか勝たん……と左目の魔眼を開眼させるポーズで格好良く決めようとしたら、昨日の夜感じた無言の視線が俺に突き刺さる。

 ほう……やるな、この黒の魔眼持ち暗黒騎士エイリット様の暗黒ポーズを中断させるとはいい目を持っている。

「エイリット~! 鳥ビネガー皿ちょうだ~いっっ!」

 周囲への影響を考え抑えていた黒の魔眼パワーを解放、第一の門を開けようとしたら元気な声とともにケツを叩かれた。

「いっつ……なんだリカルテ来ていたのか」

 遠慮なく男の尻叩くとかなんなの……見ると棘付き鉄球に棒をぶっ刺したみたいな武器を2本持つ女性、雰囲気が猫っぽい小柄なリカルテがニッコニコ笑顔で立っていた。

 しかしよかった、第一の門とはいえ開かれたら最後、半径100メートル周囲を黒の結界により……って鳥ビネガー? なにそれ。

「ここってメニューないし~エイリットなら何でも作れるんでしょ? 地元の味が急に食べたくなってさ~」

 ユニークスキル『食堂』起動……鳥ビネガー、検索……ええと、ラムレグルス王国の南にある大きな湖『月鏡の湖』のそばにあるシルビド地方で食べられる家庭料理か。

 酢漬けされた鳥肉と葉物野菜を塩と香草で炒めた物、と。うん、材料もアイテムボックスにあるしすぐに出来るな。

 ……そういや黒ゴスロリ日傘師匠が、南にあるおっきい湖の闇の力に映し出される光が綺麗とか言っていたな。


「ほい、鳥ビネガーね。おまたせ」

「うっは~そうこれこれっっ! この酸味と香草のいい香り……これをパンに乗せたらいくらでも食べれちゃうんだよ~。うん、美味いっっ! すごいねエイリット、こんな田舎の地方料理まで網羅しているとか天才料理人じゃない。剣は世界クラスで料理も出来るとか、女が目の色変えて群がるわけだね~あっはは」

 出来上がった料理を手渡すと、リカルテが吸い込むように鳥を喰らい、満足気に笑う。

 地元の味か。そういうの大事だよな。

 俺の日本の実家って食堂を経営していてさ、よく親が余った食材であんかけチャーハンを作ってくれたけど、あれ美味かったなぁ。あー、想像でヨダレ出てきた。


「私はマッサージも出来るし、エイリットくんの為に用意した特注の高級羽毛ベッドで心も体も性欲も満たしてあげられるんだよね」

「……頭の中身がお花畑の欲まみれ……それに高級羽毛ベッド? ふふ、なんですかそんなの。私たちには『超最高級』ブランシュバード羽毛ベッドがあるんですよ。ねぇエイリット!」

 あんかけチャーハンってこっちの世界でも作れるのかな、とスキル『食堂』で検索していたら、鬼みたいなオーラを放つユーベルに睨まれた。

 あれ、盾妹のディアージュとユーベルの抗争ってまだ続いていたのかよ。

 超最高級羽毛ベッド? なにその語彙力不足ランク分けネーミングのベッド。そんなんあるわけねぇだろ。

 俺が使っているのは普通のベッドだよ。




「じゃ、じゃあ案内頼むよリカルテ……」

「うんっっ! エイリットと故郷に帰れるなんて嬉しいな。両親に紹介してもいいよね?」

 翌日早朝、俺たちは装備を整え駅に向かう。


 よく分からんが超最高級羽毛ベッドを俺の部屋に置かなくてはならなくなった。

 まぁ質のいい睡眠というのはとても大事だしな。

 しかし最高の上に超とつくベッド一式、これがお店で買うと本当にお高くて、マクラ1個で3万G、日本感覚300万円もする代物。ベッドと掛ふとんが10万G、なんと1000万円なり……。

 今まで高額のお給料をいただいていたので買えなくはないが、一応俺のユニークスキル『食堂』で検索してみたら、出てきた。

 ベッドって食堂に関する物か? 

 自分のユニークスキルの守備範囲の広さに不安を覚えつつも、『ベッド=寝具』って発想こそがユーベル曰く思考停止なんだろうとハテナマークが竜巻のように渦巻く俺の脳を強引に納得させた。

 ……都合のいい、いや常識にとらわれず柔軟なカテゴリ分けが出来る大人なユニークスキルが俺の『食堂』なんだ。

 だって市販品買ったら13万G、日本感覚で1300万円以上すんだぞ。高級すぎだろ。

 ここは材料さえあればタダで作れる『ユニークスキル』さんを頼ろうじゃあないか。


 スキル画面の材料欄を見てみたら必須アイテムに『ブランシュバードの羽毛』とあった。

 原産地として『ラムレグルス王国南、シルビド地方に住む大怪鳥ブランシュバードの羽が生え変わる時期に落とす純白の羽毛』と書いてあり、なにか聞き覚えのある地名だなと思ったら、鳥ビネガー大好き女性、棘鉄球使いリカルテの故郷だった。

 これはちょうどいい、と目的地までの案内をお願いした。

 あと、師匠がその湖に行ったことがあるようなことを言っていたので、会えないものか……と。


「驚くだろうな~父さん母さん。まさか私がラムレグルス王国の英雄『暗黒騎士エイリット』を落としたとか想像もしていないだろうし~」

 残念ながら俺は落とされていないし、なんか良からぬトラブルが起きそうだからご両親に会う気はない。

 あと俺、もう暗黒騎士は辞めているからその二つ名で呼ぶのやめて。昨日はつい偶然魔眼を発動してしまったが、もう厨二は卒業したのさ。


「エイリットくーん、そんな田舎より先に私の親に会いに行かない? 私の実家って海運業やっていてさ、海外産の珍しい物をたくさん見せられるよ? 紐みたいな下着とか」

 盾妹のディアージュがニヤニヤと笑い、俺の腕に抱きついてくる。

 あの、重鎧で抱きつかれるとトマトが圧迫爆発するイメージ映像が流れるのでやめて欲しい。普通に痛いし……せめて鎧脱いで、噂の紐下着装着できてくれたらウェルカムなのですが。

 ディアージュは……正直スタイル抜群だぞ。紐……かぁ……


「……あなたの頭の中って欲しかないのですか? そんなだから男性に引かれているんですよ」

 す、すいませんユーベルさ……! って俺に言ったんじゃなかったのか。

 てっきりディアージュの紐下着姿の妄想をフルカラー脳内再生していた俺にユーベルが怒ったのかと……。


 うん、さっきリカルテの両親に会うと良からぬトラブルが、の理由はこれな。

 ユーベルは俺の相棒だから分かるが、なぜか盾妹ディアージュがくっついてきた。なんだかこの二人、仲悪いんだよな。


「そうか、エイリットさんが妹と一緒になってくれれば、エイリットさんが俺の義弟に……! それは萌える、萌えるっすね!」

 普通に話に入って来た盾兄ホスロウが大興奮で吼えるが、俺が弟だと萌えるって何?

 燃えるじゃなくて、萌えるって表記がちょっと怖いんですけど。



 この盾兄妹、危険な存在だ。

 つか盾兄も来るんかい。






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