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第7話 滅亡国ラムレグルスと不審者
しおりを挟む「な、なぁユーベル、俺の腹と背中に穴とか開いていないよな?」
ちょっと早いが、初日の営業時間は18時で終了とさせてもらった。
ここは食堂なんだと覚えてもらうために、ほとんど無料で提供したから売上も無かったし。
「……わっ……ちょ……急に服脱がないでくださいよ! というかあなたはS級モンスター、クイーンドラゴンの猛攻撃を受けても無傷だったじゃないですか。いったいどういう体の構造をしているのやら……」
俺は着ていたシャツを脱ぎ、恐る恐る腹と背中をさする。
くそ……あの盾兄妹め……重鎧装備で前後から抱きついてくるとか、ちょっとした必殺技だろ。
背中とか見えないのでユーベルに確認してもらおうとしたら、顔を真っ赤にして手で覆いだした。
まぁ俺は転移特典なのかレベルは100、当然ステータスはほぼカンスト状態。クイーンドラゴンのレベルが60ぐらいだっただろうか、何回か攻撃を受けたが俺の体には傷一つつかなかった。
『炎狼の二枚盾』の二人はそれより遥か下でレベルは32と30、ダメージなんてほぼないのだが、重鎧で挟まれた痛みとトマトが弾けるイメージ映像が頭に残っている。
「……そんなことよりこれはどうするんですか」
ユーベルがお会計カウンターに置いてあったノートをペラペラとめくり、横に積まれたお金の入った袋を指す。
とりあえず体に穴は開いていない、と。
「俺はギルドなんて立ち上げていないんだがなぁ……」
食堂に集まった冒険者たちが「これは今月のギルド費です!」と言ってお金を置いていった。あれからも続々と人が押し寄せたので、総額は3万G以上。
日本感覚だと300万円ってとこか。
……月収300万、これもう適当にギルド立ち上げれば、諸経費差っ引いても毎月入るギルド費で生きていけるんじゃ。
「……すごいですねこの記名、国内で有名どころがゴロゴロ。昨日騎士を辞めて、次の日である今日だけでこれですよ。噂を聞きすぐに動き、このラムレグルス王都に24時間でで来れた人数でこの数。集まった誰かが言っていましたが、全国各地の冒険者がエイリットの噂を聞きこの王都を目指し動き出した、とか」
ノートにはお金を置いていった人の名前が書いてある。
俺がいくらここは食堂だと言っても誰も聞きやしないでちょっとした暴動が起きそうだったのだが、ユーベルが「とりあえずこちらに所属と氏名、収める金額を」と皆の熱気をうまく誘導してくれて助かった。
このへんはさすが頭のいいユーベル、頼りになるぜ。
「王都を目指し動き出したとか……なんだ、俺って高額の討伐対象で賞金首か何かか」
「……生き残るために強い人の元にいたいと願う……人として自然な考えで、それだけ皆不安だということです。エイリットがいなければ、この国は本当に滅亡寸前でしたから……」
下を向き、ユーベルが悲しげに言う。
俺は5年前、16才のときに日本から異世界転移でこの国に来て、右も左も分からない状態で訳も分からなかったが、師匠に教えを請い生き残るために剣を振ってきた。
行ける場所の選択肢なんてなかったし、いきなりこの国に飛ばされたから知らなかったが、このラムレグルス王国ってかなりヤバい国だったんだよね。
この国の最高レベル保持者がさっき来ていた『炎狼の二枚盾』のホスロウでレベルが32。国の騎士連中はレベル10~20。
そして俺が倒したS級モンスター『白真珠龍クイーンドラゴン』のレベルが60超え。
ホスロウが肉を食いながら言っていたが、レベル40~49のB級モンスターをレベル25超え冒険者が三桁人数集まってやっと動きを止められるか、ぐらいのもの。
それなのに、この国にはレベル40以上のB級からレベル60超えのS級モンスターがうじゃうじゃいるという最悪の状態。
高レベルモンスターが一度暴れだすとそれを止められる戦力がないので、人間はもうおもちゃのように殺され食われ、今までいくつもの街が消え去ったそうだ。
そんな国に住み続けたい民間人なんて多くいるわけもなく他国へ流出、結果この国の人口は激減。本来国を守るべき騎士や命知らずな冒険者も逃げ出し、地図からこのラムレグルス王国が消え去る日も近いと噂が広まり、滅亡へと向かっていたそうだ。
この異世界の国は名前の前に格好いい名称がつくことが多く、例えば空を舞う龍すら落とす騎士がいる国は『龍の国』なんて呼ばれていたり、魔法使いが多く集まる国はまんまだが『魔法の国』とか呼ばれている。他にも『花の国』とかメルヘンな名称なんてのもある。
さぁお待ちかね、このラムレグルス王国についた名称は……『弱小国家』『滅亡国』。
もうイメージ最悪、国内情勢ボロボロ、が5年前に俺が来たときのラムレグルス王国の状況。
「……エイリットはどうしてこの国に残ってくれたのですか。あなたの実力なら世界のどの国だろうと高待遇で迎えてくれるでしょうに」
ユーベルが不安そうな目を向けてくる。
転移してきてスタートがこの国で、他の国の事情なんて知らないしどうしようもなかったしなぁ。それにここで頑張れ的な師匠の闇の言葉もあったし。
「どうってもなぁ選択肢もなかったし、ここがスタートだったから頑張ったってとこかな。俺、ゲームの最初の村とか大好きなんだよね。思い入れがあって」
「……? どういう意味か、理解が追いつきません。たまにエイリットはそういう不思議な表現をしますね」
おっと、日本のゲーム友達にでも話す感じで言ってしまった。
「悪い、俺って頭悪いからたまに表現間違えるんだ。あとなんつーか、ユーベルと一緒にいると安心して素になってしまうっていうか」
「……っ! そ、それもどういう意味でしょう……」
ユーベルが驚いたような顔をする。
16才で異世界であるこっちに来て、生き残るために冒険者として剣を振り戦い師匠と別れたあと、Aランクモンスターに襲われていた馬車を助けたのだが、それに乗っていたのがユーベルなんだよな。王都に騎士の試験を受けに行く途中だったとか。
すっごく感謝され、数カ月後試験に受かり立派な騎士になったユーベルが俺のところに来て、この国を守るために騎士になってくれませんか、と誘われたんだっけ。
それから5年間ずっとそばにいてくれた。無表情だったりたまに……いや結構毒舌気味だったが、それでも親身になってサポートをしてくれた。
異世界であるこっちの常識も分からず知り合いもいない、師匠もどっか行ってしまって孤独状態だった俺にとって、それはとんでもなくありがたく、嬉しかった。
そりゃあ人として感謝をするし信頼もするし、好意も持つだろう。あとユーベルすっげぇ美人さんだし。
「いやほら、俺たち5年間ずっと一緒だったろ。多分俺、そのあいだにユーベルのこと好きになったんだと思う。この国のことも好きになったし、両方守りたいとこの地で踏ん張ったわけよ」
「……す、好……私を守……」
な、なんだ? ユーベルが真っ赤な顔でフラフラと俺に近寄ってきたぞ。
あ、ヤベぇこれ怒らせたのか? あまりの怒りで顔が真っ赤になり体の制御ができず、そのままフラフラと近付いて至近距離からの激烈ビンタなのか……!
「よ、よせユーベル……お前のビンタってHPは減らないかもだけどマジ痛ぇんだって……」
「…………い、いいですよ……エイリットなら、いいです……」
え、な……何が?
ユーベルがビンタをするでもなく、ポスっと俺に体重を預けてきた。
……いい? 俺なら……何がいいの? あの、転移特典でスキル画面とか開けるんだからよ、今の状況を瞬時に理解できる暗黒ヘルプとかねぇの。
「……ん? なんだ?」
俺の胸でもぞもぞしているユーベルをどうしたもんかと困っていたら、窓に複数の人影が見えた。
お客さんか? お店ならもう閉店なんだが……あ、俺とユーベルが抱き合っているように見えて、覗かれてたのか。
ユーベルは美人さんだから、男人気高いんだよな。本人も自信満々に私はモテるとか言っていたしな。
「なぁユーベル」
「……は、はい」
まるで風呂上がりのような紅く惚けた顔で俺を見上げてくるユーベル。
「なんか覗かれてるわ、俺ら。つーかユーベル目当てかな?」
「…………え、あ……い、嫌!」
俺が窓のほうを指すと、ユーベルがまるで二人が抱き合っているように見える現状を理解したのか、残像が見える速度でしゃがみこんでしまった。
お、窓の外の気配も消えたか。
にしても、俺が指した方向以外にいた気配も同時に消えたな。
「…………もうちょっとだったのに……エイリット! だから言ったではないですか、内装さえきちんとしていれば……! カーテン、そうせめてカーテンさえあれば邪魔されることもなかったのです!」
急に怒り出したユーベルが騒ぎ、カバンから例の本『夫婦で始めるおしゃれ喫茶経営』を開きカラフルな店内の写真を見せつけてくる。
そういやカーテンすらないな、この食堂。
なんだか知らないがユーベルが怒ってくるし、明日は内装をがんばってみますかね。
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