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18 これはシロウの物語
しおりを挟む「……つまり今の状態は、ロクトソウルを得て魔力が復活、瀕死のヒヨコ状態ではなく人型を維持出来るようになった……つまり消滅の危機は脱した、と」
「そうなのだ! シロウの愛のおかげなのだ! たっぷり注ぎ込まれてしまったのだ!」
とんがった岩の上にあった俺だけに見えた不思議な歪み。
どうやらその中にあった物がロクトソウルというものだったらしく、それを引っ張り出してケーキの形にして与えたら鳳凰として復活したらしい俺のピヨすけ。
今までは小さくて可愛いヒヨコだったから、いきなり小学生ぐらいの女の子になったのは驚きだ。
……てっきり鳳凰っていうんだから、大きな鳥になるものだとばかり……。
とりあえず残り十一ヶ月の消滅危機カウントダウンが無くなってよかった……けどなんかこの子、選ぶ言葉が変じゃね?
「わはーっ! シロウ、この子超可愛いです! もう私たちの子供にしちゃいませんか!?」
ネイシアは大層この子が気に入ったらしく、さっきから興奮気味。
俺たちの子供って……ネイシアも言葉選びを間違っているぞ。
十六歳の俺の横にいる小学生ぐらいの見た目の女の子だぞ、普通『妹みたい』とか言わねぇか?
「よかったなシロウ、ピヨすけが消滅の危機と分かったときの君の顔はとても厳しいものだったが、復活を果たし、やっと優しい笑顔のシロウに戻ったな」
エレンディアさんが俺の肩を優しく掴み微笑んでくる。
え、そんなに酷い顔していたんですか、俺……。
「千年前に途絶えた生物召喚、それを君はよみがえらせ、さらには神獣の頂点に立つ存在である大鳳凰鳥をも復活させた。これがどれほどすごいことか分かるよな? そして君は私の一番弟子、つまりシロウは私の研究に生涯付き合う義務が発生したと」
俺の肩を掴むエレンディアさんの握力値が急上昇。
黒い笑顔で呼吸荒くエレンディアさんが顔を近付けてくるが、いつから俺一番弟子になったの。
生涯付き合う義務って……エレンディアさんは選ぶ言葉が重いっすよ!
「──! ────!!」
あれ、俺の両腕に付いている腕輪がピカピカ光ってる。なんか怒声も漏れてきているが……この二人も呼び出すべきか?
つかこの腕輪、着信ランプ的なもの搭載機なの?
「──んもー! やーーっと出れたぁ! シロウちゃん!? どうして肝心なところで私たちを呼ばないのぉ!? 危なかったでしょう!?」
「王よ、我々では力不足ということなのでしょうか……」
二つの魔力の渦を作り出しディオリーゼとソシエルリーゼを呼び出すが、激怒&悲壮状態で登場。
「ち、ちがっ……あのときは両手が歪みの中にあって呼び出す暇が無くて……」
黒い鎧を纏ったディオリーゼに両肩をつかまれ、ガクガクと前後に頭がゆすられる。
確かにこの二人を事前に呼び出しておけば、もっと楽だった気がするが……まさかあんな巨大な蛇が出るとか予想つかねぇっての。
「王からの『お前たちは無能』宣告……ああああああ……もはや我に生きる価値なし、ここで命を絶って……」
白い翼に鎧を纏ったソシエルリーゼが自慢の槍を自分の喉に突きつけ一筋の涙を流す……っておい待てい!
あんた言葉遣いからして真面目そうだと思っていたけど、結構こじらせ系かよ!
「つ、次、次はそれはもうすぐに呼び出すから! いやぁやっぱ俺にはソシエルリーゼとディオリーゼがいないとさ、なんていうのかな、俺の両脇を固めるポジションとして二人が必要というか、側にいてくれないとやっぱりダメなんだって今回で思い知ったよ! 二人は俺好みの美人さんだし、ずっと俺の横にいて欲しいな、なーんて」
そう言い、俺はソシエルリーゼの槍を必死で止める。
「あれーシロウちゃんそれ私たちへの告白ー? 人間から告白されるとか初めてかもー! いいよーシロウちゃん、お姉さんは少年の不器用な愛を受け入れる準備はとっくに済んでいるよー?」
「なんと……! 王が我を……! あああ、なんということだ、王から民への平等な愛ではなく、我個人へ向けられた愛……! もちろん我は王の所有物でありますし、今宵はどうぞその大いなる愛を我の中に……!」
ん……? 俺の必死な言い訳を二人が妙な方向へ極論解釈していないか?
「お前たち! 私のシロウを横取りとはどういうことなのだ! ……そういえばお前たちも大きな胸に大きなお尻……ぐ、分かったぞ、純粋で押しに弱いシロウを体使って誘惑したんだ……! ぐううう悔しくなんかない、悔しくなんかないけどなんか悔しいのだ……! 私だって元の体を取り戻せば……!」
「あれれー鳳凰様って元からそんな凹凸のない体じゃありませんでしたっけぇ?」
「こ、こらディオリーゼ、空気抵抗の無い素晴らしいお体をお持ちで、と言え」
小学生の女の子ぐらいの体になったピヨすけがディオリーゼとソシエルリーゼに激怒するが、ディオリーゼさんが痛恨の一撃を……。
「う、う、うわああああああん! ディオリーゼが私をいじめるのだー! シロウ、シロウー!」
ピヨすけがギャン泣きで俺に飛び込んでくる。
「あー、泣いちゃった鳳凰様ー。でもこういうやり取り、なっつかしいなぁ」
「……そうだな、これも王であるシロウのおかげだ」
ディオリーゼとソシエルリーゼが目を細め優しく微笑む。
……って良い話風にまとめているけど、俺のピヨすけ泣かせてんじゃねぇ。お前ら千年前からこういう感じだったんかい。
なんか神獣と呼ばれる存在の頂点に立つ者、『輪廻と再生の大鳳凰鳥』とか言うもんだから、もっと落ち着いた威厳のあるお方が来るのかと思っていたんだが。
蓋を開けてみたら外見と中身が小学生の女の子だしなぁ。
「ふ、二人はピヨすけが復活したことが嬉しくて、つい昔の感じで絡んでしまっただけじゃないかな。ほら泣くなピヨすけ、街に帰ったら美味しいケーキごちそうしてやっから、な?」
なんで俺が二人のフォローをしないとならんのか……。
「ケーキ……! ほ、本当かシロウ! 私はもっと成長してバイーンな体を手に入れてシロウを襲うと決心したのだ! そのためにいっぱい食べてボンボン胸をふくらませるのだ! 早く、早く街に戻ってケーキ!」
俺がワンワン泣くピヨすけの頭を撫でたら、ケーキの言葉に反応したピヨすけがグィンと首を伸ばし、超絶笑顔で俺を見てくる。
うーん、超可愛いんだけど、ケーキに釣られる大鳳凰様かぁ……。
「ふふ、そうですね一旦帰りましょうか、目的も達成出来ましたし。ああ、ちなみにリブレリアに戻れば、とっても美味しいケーキを出してくれる私お気に入りのお店を紹介しますよ?」
ネイシアが俺に甘えるピヨすけを笑顔で見守りつつ帰還提案。
「そうですね、夜になる前に戻らないとこの山に囲まれた森を突破するのは厳しくなりますし。さぁシロウ、パーティーのリーダーとしての号令を!」
エレンディアさんが地図を開き帰り道の順路を組み立て始める。
「分かりました。みんなの協力のおかげで俺のピヨすけが無事復活出来ました。起きたことが大きすぎて頭の整理は追いつきませんが、とりあえず街に戻ることを優先とします! 帰って美味しいご飯食べて甘いケーキを食べて疲れを癒やしましょう! いざリブレリアへ!」
「はい、シロウ! やっとリーダーっぽくなってきましたね」
「了解だシロウ。情報の整理は街に戻ってからにしよう……研究と分解を交えて聞きたいことは山程あるのでな……ああ楽しみだ……」
「早くシロウ、ケーキ! シロウの膝の上で美味しいケーキが食べたいのだ!」
「鳳凰様、相変わらずお子様で安心したーうっふふぅ。シロウちゃん、お疲れー」
「さすが我が王、ロクトソウルのサーチから発見、摘出までをこの短時間でこなすとは……これは本当に『王』と、私以外の存在からもそう呼ばれる日が必ず来るでしょう」
俺の声にネイシア、エレンディアさん、ピヨすけ、ディオリーゼにソシエルリーゼが応えてくれる。
──異世界に来て一ヶ月、信用出来る友も出来ずパーティーメンバーにも恵まれず苦労したが、今やっと心を通わせることが出来る仲間が出来た。
さぁ街に戻ってご飯にケーキ、柔らかいベッドでゆっくり休もう。
そして明日からは何をしようか。
まぁなんでもいい、このメンバーとなら何をしても絶対に楽しいことが確定だろう。
毎日ワクワクしながら目を覚ます、そんな楽しい俺の異世界生活が、やっと始まる──
「最弱だと思っていたら実はSSランク召喚士だった~ヒヨコを育てて最強召喚士を目指します~」
──完── 影木とふ
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