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第二話

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 大学ニ年生になり、私こと三船律は学業とサークルに勤しんでいた。所属した文芸サークルは、基本的に文化祭で自分たちの作った本を出したり、おすすめの本を部内でプレゼンしたりする。それほど大きなイベントはしないので、気軽に参加することができて自分に合っているな、と感じていた。

******

 高校生の頃、私は運動部に所属していたが、半年で辞めてしまった。部活終わりの個人練習や、朝練、終日ある土日の試合などの運動量の多さについていけなかったのだ。

 始めはついていこうとしたが、周りのバイタリティは自分を遥かに上回っていた。加えて、心の中では「たかが部活にどうしてここまで頑張らなくてはならないのか」という気持ちが強く、周りのように切磋琢磨しようなどの意志はまるで持てなかった。
 
 一応、サボったりはせずに参加はしていたが、朝練や個人練習など有志での参加型の練習には参加しなかった。それが周りには良く思われなかったのだろう。
 「律ちゃんなんで参加しないの?一緒に練習しようよ!」
 と、毎回部員に言われた。始めのうちは何となく断れていたが、周りは段々と参加しない私にしびれを切らしたのか、私を無視するようになっていった。運動部に在籍しているのであれば、周りに合わせるという行為をしなかった私が嫌われるのは当然だったかもしれないが、それでも私は辛かった。段々部活での居場所をなくし、私はとうとう部活に行かなくなった。

 部活に行かず、少しずつ学校も休みがちになった。家に居ると、今度は親が私にチクチクと嫌味を言う。

「なんであんたは学校に行かないの。サボってると嫌われちゃうわよ」

(…違うよ、お母さん。サボってなくても、嫌われるんだよ)

 まだ一年生になったばかりの自分に、部活はどうするのか、このままじゃ進学にも響くと親は口を挟んでくる。

「……うるさい、ほっといて!」

 親はびっくりしていた。それもそうだ。
 私とお母さんは周りと比較すると結構仲が良い方である。だから「うるさい」だなんで言ったことはなかった。
 当時はストレスを発散する場がなく、つい泣きながら「うるさい」なんて言うもんだから、お母さんはそれ以来学校生活については口を出さなくなった。

 その代わり、
「学校はいける?お休みしたかったらちゃんと言うのよ。お母さんから連絡してあげるから」
 と、優しい言葉をかけてくれるようになった。

 …親に感謝したわけではないが、言われなくなったことで私は少し冷静さを取り戻していった。
(別に、部活だけ辞めちゃえばいいや。クラスでいじめに遭ってる訳じゃないし…)

 そうだ。部活だけが自分の世界じゃない。逃げてしまえばいい。

(ずっと家に居ると、お母さんに気遣われて気まずいし…)

 親の優しさに罪悪感を覚え始めた私は、部活を辞める旨を担任に伝え、再び学校へ行くようになった。

 登校日、私はお母さんに「大丈夫?無理そうだったら帰ってくるのよ」と優しい言葉をかけられて家を出た。まるで初めて学校に行くみたいなドキドキ感を味わいながらも、部活の友達に会わないかという不安も抱えて通学路をゆっくり歩いて行った。

 教室に着くと、クラスが一瞬静かになった。が、そのあと普通に「おはよう」と挨拶された。

(よかった…誰も嫌な顔をしたりしてない…)

ほっと胸を撫でおろし、自分の席に着くとクラスメイトの舞花ちゃんが話しかけてきた。舞花ちゃんは部活の友達と違って嫌なことは言ってこなかった。明るく微笑み、巻いている髪の毛を右手でくるくるしながら声をかけてくる。

「りつちゃん久しぶり~」
「あはは…舞花ちゃん久しぶり」
「ねぇ昨日の”私とあなたの婚活事情”観た~?」
「え、えっと…私最近あんまドラマ観てなくて…」
「そっかぁ~。面白いよ~?」
「今度配信とかあったら観てみようかな」
「え~?てかうちで観ようよ!一話から録画しているよ~!」
「え!?その~…気持ちは嬉しいんだけど…」
「あ、お世辞だった?」
「ち、違うよ!単純にほら…私休んでたじゃん?だから今度のテストやばくて…」
 あはは、と苦笑いしながらそう言うと、舞花ちゃんは真顔こう言った。
「ふうん。…私、教えよっか?」
「いいの!?
「いいよう~!舞花様って呼んでくれたら」
「ま、舞花様~!!」

 登校初日、私は友達兼講師の舞花様と勉強の約束をした。早速放課後は教室で勉強会をした。

「りつ~。ここは?分かる?」
「ううう…ちょっとわかんない…」
「ふふふ~。さすればこの舞花様が教えてしんぜよう~」
「舞花様愛してる~!」

 舞花はコギャルな見た目とふわふわした不思議ちゃんな雰囲気を持っており、普段勉強してる素振りを見せないが学年の中でもかなり頭が良い。
 一方私は元々頭がそれほど良くはなかったので、遅れを取り戻すことに必死になった。成績が中の上くらいになった頃には既に二年生が終わりかけていた。

 受験先を決めなくてはならない時期に、私は決意していた。無理をしなくていい大学に進学しよう。たまたまクラスメイトに優しい子が居ただけで、次の進学先もそうとは限らない。この受験の結果が出て舞花が合格すればもう頼れる友人は居なくなる。

(それに…もう周りについていけなくなるような、そんな思いはしたくない)

 三年生になっても何か専門的なことを学びたいとか、そういったものが浮かんでいないのはまずいとわかってはいたのだが、浮かんでこないものは仕方がない。一先ずの優先事項は「無理をしない」だ。
 私は進学先について、私が入れそうな大学を先生たちから聞き漁り、そこから受かりそうな学科をいくつか絞った。

******

 そして、時は過ぎ三年生となった私はとある大学の法学部を受験した。
 舞花は自分なんかより全然上の大学を受験した。ここに受かったら舞花は上京するらしい。

「寂しくなるね。またどこかで会えたら嬉しいな」
「まだ受かってないし!ていうか受かっても長期休みは帰ってくるからあ~」
「あはは。…ていうか、私こそ受かるのかな…不安になってきた」
「ちゃんと教えたし、最後のテストの成績は良かったじゃん~!大丈夫だよぉ」

 結論を言うと、私も舞花も無事に大学進学が決まった。友人は号泣しながら「おめでとう~!」と泣いていた。私も「ありがとう~!」と言いながら号泣した。無理をしないとは言ったが、それなりに頑張ったので結果が出るとやっぱり嬉しかった。

 卒業式の日も同じようにおめでとう、と言いながら泣いていた。
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