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デニスと犯人

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    デニスは自室のドアを開けようと、
フリルたっぷりの袖口の手を伸ばした。

   …ドアが少し開いてる?

   驚いてそっと覗くと、使用人の格好をした男が居た。
   机の引き出しや衣装箪笥を、音を立てずに開いては閉じていく。
   そして、何かをポケットに入れた。


   これって…スパイ?……だよな?


   どうしよう…オレで捕まえられるかな……。

   時間にして数秒。

   ギィ…と、ドアが揺れて音を立てた。

   男が振り向く。オレと目が合った。



「………バロード…。」

「デニス様………。」

    男はオレに親切だった使用人、バロードだった。年の頃は20代後半だったか。

   オレは覚悟を決めた。



「バロード、何故なんだ?」

「……分かっていて、聞いてるんですか?デニス様。」

「…ああ。予想はついてる。こんなこと止めろよ。」

「わたしを、嗤ってるんでしょう。馬鹿な奴だって。」

「思わないよ。今ならまだ間に合う。……一緒に行ってやるから…。」


「……!!!」

バロードの目が見開かれた。



「ほ…本気で言ってるんですか?あ…そうか…。」

そして、嬉しそうにニヤついた。

「だから…そんなにオシャレして、
わたしに会いに来て下さったんですね?」

「……え?」

「とても良くお似合いです。
では一緒に逃げましょう、デニス様………。」

「…うん?…え、ちょっと待って?」

なんだか、おかしな返事が反ってきた…??

「あの、バロード…お前、逃げるのか?」

「ええ、身分違いの私達が一緒になる為には、
逃げるしかありません。」

……っはぁ?!一緒になるって何?!


「ちょっと待て!お前自首するって話じゃないの?!
    何でそんな話になってる?!」

「自首って何ですか?デニス様?」

    その時、バロードのポケットから、
オレのパンツがヒラリと落ちて来た。


………オレのパンツ…。


「……えーー。もしかして…違った…??」

     頭がクラクラして来た。
え?なんで゛デニス゛にストーカーが居るんだよ…。
    はっきり言って゛デニス゛は悪役令息だぞ?!
これは何の冗談だ?!

    呆然としていると、バロードの目がおかしくなってきた。


「わたしをからかったんですか?
    でも、言ったのですから、今さら無かった事には出来ませんよ。
    覚悟して下さい、デニス様。」

    そして縄を取り出した。
    何で持ってるの?!館仕事の作業用?!
    ああ使用人だもんね!!

「ぎゃぁぁぁヤメッッ……!モガモガッッ!!」

     叫びかけて直ぐに猿轡をされ、縄で縛られた。
そのまま担ぎ上げられ、あっという間に館から庭の買い出し用の荷馬車に積まれた。
    荷台にテントが付いた簡易な物だが、
しっかり縛られて、声も出せ無いし動けない!

    誰か気付いて!
    何でこういう時に限って誰も通ら無いんだよ!!

「行きますよデニス様。愛の逃避行ですね?」

(キモイキモイーー!!!)

    もう…泣きそう!!



     馬車の中で、デニスは何とか逃げようともがいて、取り敢えず猿轡は外れた。

「バロード考え直せ!」

「駄目です。」

    御者台と荷車の間に仕切りなんか無い、簡素な荷馬車だ。
    声もよく聞こえるし、姿も良く見える。

「バロード!!…ん、頼む!せめて縄を外してくれ!食い込んで、痛いんだ……!!」

    涙目になっている事に気付かず、バロードを見上げると、バロードがデニスを凝視した。

(話を聞いてもらえる?)

    モゾモゾと尺取虫のように這ってバロードに近付いた。

    …すると縄がズレて、偶然膝が固定され、
お尻を付き出したポーズで動けなくなってしまった。

「…んんんっ?!動けないっ…!痛いっ!!」

    もがいたら、ビリビリビリビリ!

    尻の部分の布が破けて、デニスの生尻がバロードの目にさらされた。

    バロードは無言で荷馬車を止め、ゆらりと立ち上がり、デニスに近付く。

「バ、バロード……?」

    バロードの息がハアハアと荒くなっている。

「デニスたんの生尻……ハアハア…」


    こ…こここここわいっ!!


「や…やぁ…来るな!!!」

「今…可愛いがってあげるよ…。」

    た…助けて……。

    本当に駄目かもしれない……。




――――――――――――――――――――――
【捕捉】部屋での会話
※デ=デニスの意図
※バ=バロードの意図


「バロード、なぜなんだ?」

デ(なぜスパイをやってる?)

バ(どうしてオレのパンツを盗ったんだ?)




「…分かっていて、聞いてるんですか?デニス様。」

デ(スパイだと確信した上で、問い質しているんですか?)

バ(私があなたに劣情を持っていると、気付いて聞いてますか?)





「…ああ。予想はついてる。こんなこと、止めろよ。」

デ(お金か、本当の主は別かだろ?でも、良くない事だから止めろよ。)

バ(オレの事が好きなんだろ?でも、パンツ盗るのは止めろよ。)




「わたしを、嗤ってるんでしょう。馬鹿な奴だって。」

デ(スパイなんて汚い仕事をするなんて、馬鹿だと思ってるんでしょう?)

バ(貴方が好きで物を盗むなんて、身の程を知れと思ってるでしょう?)




「思わないよ。今ならまだ間に合う。…一緒に行ってやるから…。」

デ(馬鹿だなんて思わない。この時期ならまだ任務途中だろ?一緒に行って取り成してやるから、自首しよう?)

バ(お前の想いを馬鹿にしたりしない。今なら誰にも気付かれて無いから、お前と一緒に駆け落ちできるよ?)




「……!!!」
バ(キタコレやった~!!神様有難う!!デニスたんも、私が好きだったんだね?!もう拐っちゃうよ?!ラブラブペロペロだよ!!)



―――という訳でした……。デニス合掌。





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