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第二章 街予定地の問題を解決しよう編
10 魔物の軍勢 その② 三人称視点
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「30体、といった所じゃな。全て低級のようじゃが」
和花は、数百メートル先の、開けた場所に居る魔物を見詰めラングレーに言う。
「ある程度近付いて遠距離攻撃するのが一番良いが、問題は射撃地点に行くまでの道中じゃな」
魔術師が遠距離攻撃できる、有効射程距離である200メートル前後。
その周辺には、形を留めた家屋が幾つか見られる。
「あの廃屋の中に魔物が隠れておったら、不意打ちされかねんのう」
「そうですね。かといって、あの廃屋全てを崩すほど攻撃魔術を撃ち込んでは、魔力も精神力も体力も足りません」
「じゃな。連続して戦い過ぎておるし、ここはいったん戻るとするかのう」
「いいえ、その必要はありません」
どこか白々しい笑顔を浮かべるラングレーに、和花は眉を寄せ尋ねる。
「どうするつもりじゃ? 無理をして犠牲者を出しては、元も子もないぞ」
「犠牲など。そんなもの出さなくても良いほどに、今ここに居る皆さんは優秀ですよ」
視線の先は、今まで前線に出さずにいた魔術師たち。彼らのリーダーを呼び寄せ、ラングレーは言った。
「我々が、これからあの魔物に近付いて攻撃します。その間に周囲から攻撃されたら、我々の防御と援護射撃をして下さい」
「……まだ我々を矢面に立たせぬ気か。我々は、お前達の小間使いではないぞ」
明らかにイラついた声で、指示を出された壮年の男性は返す。
(こんな所で、権力闘争をしてる場合じゃなかろうに)
苦虫を噛み潰すような気持ちで、和花はラングレー達を見る。
いますぐにでもツッコミを入れたい所だが、下手に口を挟んでこじれても困る。
それ以前に、あくまでもこの場での指揮権はラングレーにある。協力関係にあるだけで部外者でしかない和花が口を挟めば、あとで監督責任者として陽色に飛び火が移りかねない。
そうして和花が手をこまねいている内に、事態は悪化する。
「そこまで仰られるなら、役割を変わりましょう。魔物への直接討伐の役はお譲りします。我々は、ここで貴方達の援護に回りましょう」
「……2言は無いな?」
不敵な笑みを浮かべる壮年の男に、和花は心の中で突っ込む。
(この馬鹿者が! 功を焦って部下を危険にさらす気か!)
おそらく、今までの魔物の討伐を傍で見ているだけで、自分達にも出来ると高をくくっている。
それは傲慢さと過信が滲んでいる表情を見れば明らかだ。
(お前の所の部隊は、ただでさえ数が少ないじゃろうに。質も飛び抜けて高い訳でもない。調子にのっとる場合か。こんな馬鹿は放るに限るというのに、そういう訳にもいかぬ)
どう動くべきか? 和花が悩んでいると、のんびりとした声が響いた。
「私も混ざる~」
「私も混ぜて」
見れば、人懐っこい笑顔で近付いてくる武子と瑠璃が。それに口を挟まれるより早く、
「よしっ! 行って来い2人とも! なに、頼りになる相手が居るんじゃ。危険は無かろう」
和花が強引に言うと、
「は~い、じゃ、行こう~」
「そうしようそうしよう」
武子と瑠璃の2人は、両サイドから壮年の男の腕を取ると、ぐいぐい胸を押し付けながら引っ張っていく。
気のせいか、顔が緩んでたりするが、その辺は悲しい男の性である。
「……助かります」
「気にするな。お互いさまじゃ」
笑顔のまま、牽制し合うラングレーと和花。そんな2人が見詰める中、40名ほどの部隊が魔物に近付いていく。
周囲を警戒しながら少しずつ、廃屋の中を確認しながら進んでいく。
進軍する音以外は聞こえて来ない。張り詰めた緊張の中、狙撃地点に辿り着く。
「構え」
部下である魔術師たちに壮年の男は、号令を告げるべく手を上げる。
そして、振り下ろすより先に殴り飛ばされた。
「ギイィィィウ」
なにが起ったのか周囲が理解できるより早く、魔物の鳴き声が響く。
それは廃屋その物から。建物の一部が形を変え巨大な腕と化した、そこから聞こえてきた。
「擬態じゃと!」
和花が驚きの声を上げる中、廃屋に擬態していた魔物たちは、次々に正体を現す。
周囲にあった数十の廃屋。その全てが魔物と化し、四方から襲い掛かろうと動き出す。
同時に、離れていた場所に居た魔物たちも真っ直ぐに進み出し、本体から孤立した部隊を襲うべく動き出した。
(統率が取れ過ぎとる!)
本来魔物は、それぞれが場当たり的に動く。せいぜい近くに他の仲間が居れば、協力の真似事をする程度だ。
魔術師たちの一部が突出し、自分達が囲む只中に来るまで待ってから、一斉に動き出すような真似はしない。
今のように、まるで誰かに指揮をされているような動きを見せたのは、魔王とその眷属が率いていた時と――
「気を付けろ! 新種が近くに居るぞ!」
和花の不安は的中する。
突如、小さな地響きがしたかと思うと、少し離れた場所にある地面が盛り上がっていく。
そこから現れたのは、100を超える魔物。
そしてそれを率いる、巨大な杖を持った巨人。新種の魔物だった。
地面の中に隠れ活動を停止させていた魔物たちは、囮としてわざと目に付く所に置いていた魔物からの信号を受けて活動を再開する。
「防御しろ! 来るぞ!」
和花の必死な声をあざ笑うように、100を超える攻撃魔術が、和花の居る本隊に向け撃ち放たれた。
和花は、数百メートル先の、開けた場所に居る魔物を見詰めラングレーに言う。
「ある程度近付いて遠距離攻撃するのが一番良いが、問題は射撃地点に行くまでの道中じゃな」
魔術師が遠距離攻撃できる、有効射程距離である200メートル前後。
その周辺には、形を留めた家屋が幾つか見られる。
「あの廃屋の中に魔物が隠れておったら、不意打ちされかねんのう」
「そうですね。かといって、あの廃屋全てを崩すほど攻撃魔術を撃ち込んでは、魔力も精神力も体力も足りません」
「じゃな。連続して戦い過ぎておるし、ここはいったん戻るとするかのう」
「いいえ、その必要はありません」
どこか白々しい笑顔を浮かべるラングレーに、和花は眉を寄せ尋ねる。
「どうするつもりじゃ? 無理をして犠牲者を出しては、元も子もないぞ」
「犠牲など。そんなもの出さなくても良いほどに、今ここに居る皆さんは優秀ですよ」
視線の先は、今まで前線に出さずにいた魔術師たち。彼らのリーダーを呼び寄せ、ラングレーは言った。
「我々が、これからあの魔物に近付いて攻撃します。その間に周囲から攻撃されたら、我々の防御と援護射撃をして下さい」
「……まだ我々を矢面に立たせぬ気か。我々は、お前達の小間使いではないぞ」
明らかにイラついた声で、指示を出された壮年の男性は返す。
(こんな所で、権力闘争をしてる場合じゃなかろうに)
苦虫を噛み潰すような気持ちで、和花はラングレー達を見る。
いますぐにでもツッコミを入れたい所だが、下手に口を挟んでこじれても困る。
それ以前に、あくまでもこの場での指揮権はラングレーにある。協力関係にあるだけで部外者でしかない和花が口を挟めば、あとで監督責任者として陽色に飛び火が移りかねない。
そうして和花が手をこまねいている内に、事態は悪化する。
「そこまで仰られるなら、役割を変わりましょう。魔物への直接討伐の役はお譲りします。我々は、ここで貴方達の援護に回りましょう」
「……2言は無いな?」
不敵な笑みを浮かべる壮年の男に、和花は心の中で突っ込む。
(この馬鹿者が! 功を焦って部下を危険にさらす気か!)
おそらく、今までの魔物の討伐を傍で見ているだけで、自分達にも出来ると高をくくっている。
それは傲慢さと過信が滲んでいる表情を見れば明らかだ。
(お前の所の部隊は、ただでさえ数が少ないじゃろうに。質も飛び抜けて高い訳でもない。調子にのっとる場合か。こんな馬鹿は放るに限るというのに、そういう訳にもいかぬ)
どう動くべきか? 和花が悩んでいると、のんびりとした声が響いた。
「私も混ざる~」
「私も混ぜて」
見れば、人懐っこい笑顔で近付いてくる武子と瑠璃が。それに口を挟まれるより早く、
「よしっ! 行って来い2人とも! なに、頼りになる相手が居るんじゃ。危険は無かろう」
和花が強引に言うと、
「は~い、じゃ、行こう~」
「そうしようそうしよう」
武子と瑠璃の2人は、両サイドから壮年の男の腕を取ると、ぐいぐい胸を押し付けながら引っ張っていく。
気のせいか、顔が緩んでたりするが、その辺は悲しい男の性である。
「……助かります」
「気にするな。お互いさまじゃ」
笑顔のまま、牽制し合うラングレーと和花。そんな2人が見詰める中、40名ほどの部隊が魔物に近付いていく。
周囲を警戒しながら少しずつ、廃屋の中を確認しながら進んでいく。
進軍する音以外は聞こえて来ない。張り詰めた緊張の中、狙撃地点に辿り着く。
「構え」
部下である魔術師たちに壮年の男は、号令を告げるべく手を上げる。
そして、振り下ろすより先に殴り飛ばされた。
「ギイィィィウ」
なにが起ったのか周囲が理解できるより早く、魔物の鳴き声が響く。
それは廃屋その物から。建物の一部が形を変え巨大な腕と化した、そこから聞こえてきた。
「擬態じゃと!」
和花が驚きの声を上げる中、廃屋に擬態していた魔物たちは、次々に正体を現す。
周囲にあった数十の廃屋。その全てが魔物と化し、四方から襲い掛かろうと動き出す。
同時に、離れていた場所に居た魔物たちも真っ直ぐに進み出し、本体から孤立した部隊を襲うべく動き出した。
(統率が取れ過ぎとる!)
本来魔物は、それぞれが場当たり的に動く。せいぜい近くに他の仲間が居れば、協力の真似事をする程度だ。
魔術師たちの一部が突出し、自分達が囲む只中に来るまで待ってから、一斉に動き出すような真似はしない。
今のように、まるで誰かに指揮をされているような動きを見せたのは、魔王とその眷属が率いていた時と――
「気を付けろ! 新種が近くに居るぞ!」
和花の不安は的中する。
突如、小さな地響きがしたかと思うと、少し離れた場所にある地面が盛り上がっていく。
そこから現れたのは、100を超える魔物。
そしてそれを率いる、巨大な杖を持った巨人。新種の魔物だった。
地面の中に隠れ活動を停止させていた魔物たちは、囮としてわざと目に付く所に置いていた魔物からの信号を受けて活動を再開する。
「防御しろ! 来るぞ!」
和花の必死な声をあざ笑うように、100を超える攻撃魔術が、和花の居る本隊に向け撃ち放たれた。
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