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第二章 街予定地の問題を解決しよう編

9 進撃開始 その⑤

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「うあああああっ!」

 恐怖を紛らわすために大声を上げながら、魔術師たちは魔物に突進する。
 その表情には隠しきれない恐怖が滲み、けれど確かな勇気もそこにはあった。

 けれど魔物はあざ笑うかのように、ミリィに向けていた8本の腕の内、1本を使い翻弄する。
 鞭のようにしなり、触れた地面を抉るような攻撃。

 それをまともに、1人で受け止められる魔術師は居ない。
 先ほどと同じ、ただ逃げ惑うだけしか魔術師は出来ない。

 魔物は、そう思ったのかもしれない。
 けれどそんな物、魔術師たちは踏み越える。

「ざっけんなーっ!」

 最初に踏み越えたのは、魔術で造り出した大きな盾を掲げたザエル。
 まだ少年と言ってもいい彼は、半泣きで魔物の腕の軌道に立ちはだかった。

 迫り来る魔物の腕は一瞬。けれどそれを待つザエルは死線を味わいながら、けっして逃げることなく受け止めた。
 激音と共に、魔物の腕を受け止めたザエルの盾に大きくひびが入る。
 それどころか、それだけでは収まらず、大きく後方に吹っ飛ばされた。

 受け身も取れず地面に激突する。
 それを、仲間の魔術師が受け止める。

「タイミング合せろっ!」

 ザエルが突進した時には、すでに後方に動いていた双子の兄弟、マルクとムルアが、魔術で造り出した旗を掲げる。
 布の部分を操作し、吹っ飛んでくるザエルの軌道上に設置し、くるむようにして受け止めた。

 受け止めた勢いで地面を削りながら後退したが、ザエルには怪我一つさせない。助け出してすぐに、気安く声をぶつける。

「お前馬鹿か! 1人で突っ込んでんじゃねー!」
「うっせーっ! メイドさんに良いとこ見せるんだよ!」
 
 勢いよく言うと、すぐに魔物に向かって行こうとする。けれどそれより早く、

「お前一人に見せ場持ってかれてたまるか!」

 他の魔術師たちの方が動きが速かった。
 ザエルの盾に弾かれ動きが鈍った所に、一斉に襲い掛かる。

 蛇のようにうねる腕に、魔術で造り出した武器を次々ぶつけていく。
 斬り裂き叩き付け、あるいは撃ち付けるが、表面を傷つけることは出来ても、中々それ以上のダメージを与えられない。

 だが、動きは確実に鈍る。
 そこに、杭打ち機のような魔術武器が叩き込まれる。

 ドズンッ! という音と共に、杭が半ばまで食い込む。
 だが貫通するほどではない。しかしそこに追撃が入った。

「縫い付けるから! アンタたち動きを止めて!」

 巨大なハンマーのような魔術武器を持った小柄な少女が、杭が食い込んだ腕に突進する。

「俺の見せ場が!」
「言ってる場合か!」

 軽口を叩き合いながらも、みんなの動きに無駄は無い。
 動き回ろうとする腕に攻撃を叩き込み抑え込むと、その隙に踏み込んだハンマー持ちの少女が、腕に食い込んだ杭にハンマーを力いっぱい叩き付ける。

 地響きを立てながら、深々と杭は地面に突き刺さり、貫かれた腕は固定される。

「ギュイイイイッ!」

 忌々しげに声を上げる魔物。そんな余裕は無いというのに。
 腕を固定され動きが止まった魔物に、ミリィが一気に突進する。

「ギイイイイイッ!」

 叫ぶように声を上げながら、魔物は迎撃に腕を撃ち出す。
 拳4つを融合させひと塊にして、真っ直ぐに。今までの攻撃で、これなら防げないと思ったのか、どこか魔物には余裕があった。

 それをミリィは撃ち砕く。
 避けることなく待ちかまえ、全身のひねりを拳に込め、そこに魔術を乗せて叩き込む。

「爆拳!」

 魔物の拳を砕き減り込んだ瞬間、魔術手甲に覆われたミリィの拳は爆発させる。
 一瞬で粉砕し、粉々に吹き飛ばした。

 しかしまだ3つ。魔物の拳は残っている。
 間髪入れず左から襲い掛かって来た拳を上体を逸らすだけで躱し、右からの一撃を左の直打ちストレートで砕く。

 だがその瞬間、死角となる背後から最後の1つが迫る。
 それをふわりと、スカートを舞い上がらせながら、後ろ回し蹴りでミリィは迎撃し粉砕した。

「ちくしょう! 見えんかった!」
「お前絶対あとでカルナ隊長にぶっとばされるからな」

 心底残念そうに言うザエルにツッコミながら、魔術師たちは魔物に突撃する。
 ミリィに腕のほとんどを破壊された魔物は、迎撃しようにも手段がない。
 辛うじて残された腕も、迎撃に回そうとした所でミリィに撃ち砕かれ、残り一つも地面に固定された状態で、ろくに動くことも出来ない。

 そこに、ここぞとばかりに魔術師たちの連続攻撃が叩き込まれる。
 少しずつ少しずつ、再生するよりも早く魔物は破壊されていった。

 それに、自分の助けはいらなくなったと判断したミリィは、カルナの元に向かった。
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