転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

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第二章 街予定地の問題を解決しよう編

7 リベンジ兼ねて実践演習に向かいます その④

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 軍服めいたロングジャケットを着こなした、長髪黒髪美人。
 それが五十鈴だ。
 彼女は、燃料は自動装填なので椅子にのんびりと座りながら、ノートに何かを書いていた。

「良い案、浮かんだ?」
「そない簡単に浮かぶんなら、苦労は無いわ~」

 五十鈴は手をぱたぱた振って、俺の問い掛けに応えてくれる。
 彼女には、俺達が指揮する志願者の運用をどうするかを考えて貰っているんだ。

「そもそも、2日かそこらで100人以上の運用考えろ言うんが無茶なんよ~」
「ごめん。名門魔術師の人達を止められなかったから」

 一応の協力に応じてくれた名門魔術師の人達だけど、俺達の指示で動くのが嫌だったのか、協力に応じると同時に、即時に魔物を排除することを提案してきたんだ。
 今はシュオルに留まっている魔物達が、いつ王都にやって来るか分からないっていう主張をされると、強くは反対できない。
 もちろんそれは、どう考えても建前だけど。

 魔物は、ある程度近くに人が居ると、そちらに向かう性質を持っている。
 けど、100キロ以上の距離が離れていると、そうそうやって来ない。
 偶にポツポツと、やって来る程度だ。

 ただ、ある程度数が増えると、増えた分が押し出される形で活動範囲が拡大し、最終的には大量の魔物が群れとなってやって来る。
 その段階になる前に駆除する必要があることにはあるんだけど、この前シュオルに訪れた時には、そこまでの兆候は見られなかった。

 名門魔術師の人達には、その事はちゃんと伝えてはいる。
 けど新種の魔物が出てる以上、今までの常識が通じるとは限らないと言われると、反論しきれなかったというのが事実だ。

「こっちは気を遣わなきゃいけない立場やからね~。しょうがないわ、ひいろん」

 俺を気遣ってくれる五十鈴に、

「ありがとう。でも、それでそのツケをそっちに回してるのは悪いから、なにかあったら言って。用意出来る物は用意するから」
「ホンマに~、嬉しいわぁ。やったら、今度作りたい服あるんよ~。どうにか予算回してぇな」
「分かった。何とかならないか、聞いて回ってみるよ」
「いやった~! それならやる気出て来るわ~。うちも頑張らんと~」

 五十鈴は嬉しそうに言うと、ノートに書いていたものを一気にまとめる。そして、

「できた~。とりあえず、この配置で就くように言うといてぇ」

 志願者183名の戦闘時における配置図を渡してくれた。
 軍神シュラの勇者である彼女は、集団で戦う際の最適な人員配置を、直感レベルで感じ取れる。
 彼女の持つ神与能力チートスキル『軍師の才覚』で、味方の最善を感じ取り、敵の最弱を嗅ぎ分けることが出来るんだ。

「10人前後の分隊で分けるんだ」
「最初は、5人ぐらいの班で分けようか思ったんやけど、それやと何かあった時に対応でけへんし。見た限りやと、5人程度やと力づくで押し切られる所も、出てくるかもしれんかったから」
「もっと大きい括りで、やるのは無理かな? みんなで固まって、魔法を撃つ感じに」
「無理やわ~。兵装いうか、一人一人の戦力が、てんでバラバラやもん。相手の届かん距離で一方的に爆撃するんが、一番ええやり方やけど、そこまでようせぇへんやろ?」
「ん~……そういうのするには、一方的にこっちが相手の位置を把握してないと無理だよね」
「そうなんよ~。魔王の呪いのせぇで、肉眼での目視以外で相手の位置確認する方法あらへんからね~。きくのんなら、現地に来てくれれば何とかなるかもしれんけど~。無理なんやろ?」
「うん。菊野さんには、手の回らない場所の監視に付いて貰ってるから」

 俺とカルナが襲われてから、まだ犯人は捕まっていない。
 だから万が一のことを考えて、可能な限り俺達の近しい人達の回りや、重要個所の警護はしてるんだけど、それでも手が足らない部分を、菊野さんには神与能力チートスキルを使って監視して貰ってるので、こちらに来て貰う余裕が無いんだ。

(無理させちゃってるよな……今度なにかで埋め合わせしてあげないと)

 心の中で、そう決心しつつ、五十鈴との話に戻る。

「分隊の中の役割は、近接と遠距離、あとは防御と索敵で分けるんだ」
「あんまり、複雑な分け方しても、どうしょうもないしね~。それよりは、一人一人の能力を活かせる余地を残したまま、役割分担して貰った方がええし」
「魔術が使えるから、一人一人の能力は高いし、その方が良いよね」
「そやね。例えるんなら、バズーカ持ったサムライでニンジャ、みたいなもんやからね~。魔術師って」
「あ~……確かに、そんな感じかも」
「身体強化魔術で野生動物より速う動いて、魔術で造った鉄も切るような刃物振り回して、炎やら雷やらぶっ放すんやもん。うちらの元居た世界でも、そんなんが上陸してゲリラ戦されたら、お手上げやったと思うわ~。一方的に爆撃する以外、勝てる気せぇへん」
「うん。それぐらい強いよね……でも、それでも魔物相手だと、油断は出来ないよね」
「戦力もやけど、向こうは死ぬの気にせぇへんもんね。味方が居ようがお構いなしに、魔術撃ち込んでくるやろうし。やっかいやわ~」
「うん。俺もそう思うよ。でも、それでも一人も死者を出さずにやっていかないと。大変だと思うけど、力を貸して。頼むよ」
「分かっとるんよ~。やってうちら、勇者なんやから」

 気楽に応えてくれる五十鈴に頼もしさを感じながら、俺は自分の役割に戻る。

「それじゃ俺は志願者の人達に、配置を伝えてくるよ。まだ時間はあるから、それまではゆっくり休んどいて」
「ありがとう~。なら遠慮せんと、少し休ませて貰うわ。やから、ひいろんも少しは休んどきぃ」
「そうしたいんだけどね。色々と、回らないといけないから」
「……怪しいヤツ、見つかったん?」

 気遣うような響きを滲ませる五十鈴の問い掛けに、俺は気楽な笑顔を浮かべて返す。

「いまの所は、特にないよ。犯人が、ここに潜り込んでるとは限らないんだし。単なる念のためで見て回ってるだけだから、気にしないで」

 今回の魔術師の人達との協力で一番怖いのは、俺やカルナを襲った犯人が素知らぬ顔で入り込んでる事だ。
 それも考えて車内を回っているんで、正直気疲れするんだとけど、ここで疲れた所を見せる訳にはいかない。

「五郎特製のカツサンドも食べたし、体力は有り余ってるんで大丈夫。そうだ、五十鈴も食べない? 美味しかったよ」

 これに五十鈴は目を輝かせて、

「ホンマに? うわっ、嬉しいわぁ。ここ最近、五郎の料理、食べる機会あらへんかったから。楽しみやわ~」

 ひょいっと立ち上がり、急かすように前に出てきた五十鈴に苦笑しながら、

「うん。じゃ、行こっか。多分今なら、まだ出来立てが食べられると思うよ」

 俺はエスコートするように、五十鈴と一緒に五郎の居る糧食車両に向かった。
 
 そんなことをしている間に、蒸気機関車はシュオルの街の入り口に到着する。
 周囲に魔物が居ないことを確認してから、俺達は陣を展開し、リベンジを兼ねた魔物の討伐戦を開始した。
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