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第一章 街を作る前準備編

12 秘密な会談 その③

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「技術、ですか。お金ではなく」
「はい。私達にとって、それこそが重要です」

 熱を込めて返すカルナに、俺は笑みを抑えながら、

「必要ですか? 貴方達には、魔術があるじゃないですか」

 反応を見るために、わざと煽るように言う。
 これにカルナは、反発するのではなく、本心を語るように返した。

「だからこそです。今のままの魔術では先が無い。
 それを変えるために、貴方達の技術を知る必要があるんです」
「どういう意味ですか?」
「魔術は、才能が全てだからです」

 自らの熱を抑えるような声で、カルナは言った。

「今の魔術は、個人の技能でしかありません。
 そこには絶対に越えられない壁がある。
 魔術を使えない者は決して使えず、使える者の努力も、才能の限界を超えることは出来ない。
 完全に、技術として行き詰っている。
 それを突破するために、貴方達の技術が必要なんです」
「さて、そうでしょうか?」

 はぐらかすように、俺は返す。

「魔術は素晴らしいですよ。私たち転生者の皆が、そう思っています。
 我々が生きていた世界の技術ではできない事も、魔術は出来てしまうのですから」
「ですが、貴方達の技術は、誰にでも使えるのでしょう?」

 のらりくらりと逃げる俺を捕まえるように、カルナは事の本質を口にした。

「私たちが知りたいのは、誰であろうと使える技術です。
 そうでなくては意味がない。
 後に誰も続かない天才よりも、誰であろうと積み重ね伝えることのできる技術が必要なんです」
「良いんですか? それで」

 カルナの言葉は正しいと、俺は思う。
 けれど、それだけでは済まない。その先に訪れる結末みらいを、俺は口にする。

「貴方のそれは、特別な誰かの否定です。その中には、魔術師も入っている。
 良いんですか、それで?」
「もとよりそのつもりです」

 俺の言葉を認めた上で、カルナはそれを超える意気込みを見せる。

「間違いなく、魔術師は苦難の道を辿るでしょう。貴方達が特許庁を使い、魔術師たちの権益を脅かした時とは、比べ物にならないほどに。
 ですが、私達は絶対にそこで終わらない。
 必ず、いま以上の繁栄を手に入れてみせます。
 その為の努力も、伝えるべき技術も人材も、限界まで積み重ねている。
 だからこそ、その限界を超えるために、貴方達の技術が必要なんです。
 誰もが使える技術を広め、誰もが才能以上の物を手に入れられる。
 その上で努力し、更に今以上の限界を超えていく。
 私達が求めるのは、それが可能だと思える未来なんです」

 もはやカルナは自分の熱を隠すことなく、俺にぶつけるように想いを口にする。
 そこには、自分の想いを隠さずぶつけることで、俺の気持ちを動かそうという強かさが感じられる。
 けれどそれ以上に、カルナ自身も気づけない、本気が込められているようにも感じられた。

 悪くない。けれど足らない。
 これでは駄目だ。これだけでは届かない。
 だから俺は、カルナを追い込む。

「それだけですか?」

 冷めた眼差しで、俺は問い掛ける。

「貴方の気持ちは分かりました。ですが、そこで終わりですか?
 自分達が、今より更に良くなりたい。
 それはよく分かりました。他には、もう無いんですか?」

 俺の追い込みに、カルナは息を飲むように黙る。
 だがすぐに、カルナは返した。

「誰でも、誰もが頑張れる世界にしたいんです。
 生まれや才能や、自分ではどうしようもない何かで努力が否定される今の世界を変えたいんです。
 私は、私達は、魔術師以外の誰かを、否定したくない」
「ご立派。実に理想に燃えていらっしゃる」

 小さな子供の頑張りを嘲るように、俺は乾いた拍手をする。
 そして、続けて言った。

「良いことですよ、理想をお持ちなのは。
 けれど、それだけではね。私は、貴方を信用できない」

 笑みを消し、ただ静かな眼差しを向ける。
 そして無言のまま、なにも口にしない。
 息を殺すような沈黙を続け、カルナが耐えられるギリギリを見極め、俺は口を開く。

「私が、新たな街の領主になることは、貴方は既に知っていますね?」
「……ええ。長老たちから、教えて頂いていますので」
「私は、その街を、私の愛するひとにプレゼントしたいと思っているんですよ」
「…………は?」

 一瞬ならず、カルナは沈黙する。
 そして、理解しきれないというように、小さく声を上げた。
 そこに畳み掛けるように、俺は続ける。

「私が街を作るために重ねている努力も苦労も、全部、私の愛するひとのためです。
 彼女が喜んで、私をもっともっと愛して貰いたいから、私は頑張れるんです。
 それが、私の一番の欲望です」
「…………」

 カルナは何も返せない。なにを返すべきなのか、考え付けていない。
 そこに囁くように、温かで優しい声で、俺は言った。

「カルナ殿。私は貴方の口にした理想を否定しない。
 理想が無ければ、目指す場所など、見つけることさえ出来ないのですから。
 ですが、それは貴方自身の、もっとも根源をさらけ出す物ではないのです。
 私は、貴方の一番奥底にある、真実が知りたい。
 教えて、くれますか?」

 ろくでもない問い掛けを俺はぶん投げる。
 我ながら、わっるい大人だとは自覚しているが、同時にカルナを見極めなければならないという義務感もある。
 そうでなければ、新しい街を作ることに協力してくれているみんなに顔向けが出来ない。
 街を作ることで影響を受ける、この世界の人達に、申し訳が立たない。

 その全ては、理想だけれど、それはそれで大事なので否定する気も放り投げる気も無い。
 単純に、理想と同時に、誰もが自分の欲望は持っているんだから大切にしたいよね、というだけの話だ。

 それをわざわざ、立場が有利な状況で、もったいぶった言い回しで煙に巻くように言われたカルナとしては堪った物ではないだろうけれど、そこは我慢して乗り越えて貰おう。
 賭けるのか、それとも退くか嘘で固めごまかすのか?
 別に、どれでも良い。なんであれ、手を組むのに十分だと思わせてくれれば、それで良い。

(とはいえ、出来れば賭けて欲しいなぁ)

 そんな俺の勝手な期待に、カルナは応えてくれた。

「……力が欲しいんです、私は」

 噛み締めるように、カルナは自分の欲を口にする。

「世界を変えたい事も、皆の願いを叶えたい事も、魔術師以外の誰かの努力が報われたいと思う事も、全部、全部本気です。
 でも、でも一番の想いは、力が欲しいことなんです。私は……――」

 思いを絞り出すように、カルナは言った。

「自分が好きなひとを、誰にも文句を言わせない力が欲しいんです。
 誰にも、誰であろうと、私の好きなひとのことで、何かを言われる筋合いなんかない。
 私は、相手が誰であろうと、自分が好きなひとのことを、大好きだって言いたいし認めさせたい。
 それが出来るだけの力が、私は欲しい……それが、一番最初の想いなんです」

 自分を隠すことなく、カルナはさらす。
 それは賭けだ。俺に全てをさらけ出してでも、望む結果を得ようとしている。
 どんなに無様で情けなくても、齧りついてでも喰いついていこうという意地が感じられた。だからこそ、俺は思う。

 好し。全力で口説き落とそう、と。
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