転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

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第一章 街を作る前準備編

12 秘密な会談 その②

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「貴方達が、特許庁に提出された技術書を元に、作らせて頂きました」

 カルナは平然と言うと、箱から更に、丸められた紙を取出し広げる。

「こちらは、貴方達が作ろうとされている移動機械。それをこちらで予想して描きあげた設計図です」

 無言で確認する。
 それは確かに、蒸気機関車の設計図だった。

「どういうつもりですか?」

 俺はカルナが出して来た物を精査しながら、静かな声で問い掛ける。
 それにカルナは、変わらず平然とした声で応えた。

「単刀直入に申し上げます。貴方達と交渉がしたいのです。魔術協会を挟まずに」
「…………」

 応えは、すぐには返さない。
 あえて無視するようにして、設計図に目を向ける。

(八雲達の工房から技術を盗んだ……わけじゃないな。技術が荒すぎる。八雲達が作っている物を、外部から集められるだけ集めた情報で強引に作ってる感じだな)

 蒸気機関車を作るに当たって、八雲達から教わった知識を総動員して俺は判断する。

(素人考えで判断するのは危険だけど、どう考えても、無理して未熟なことを自覚した上で作ってるようにしか見えない)

 要はハッタリ。張りぼての城を背にして、交渉を仕掛けているようにしか思えない。
 それは、カルナやミリィ様子を見ても明らかだ。

 カルナは笑顔のまま微動だにしないけど、逆にそれが不自然だ。
 余裕の無さを無理やり飲み込んで、全力でブラフを掛けて来ているようにしか思えない。

 ミリィを見れば、変わらぬ無表情だけど、ずっと祈るようにカルナを見詰めている。

(余裕の無さを隠してる……それ自体が演技の可能性もあるけど……まず無いな)

 こちらの世界で、そして元居た世界でも、交渉仕事をしてきた経験から判断する。
 だが、油断はしない。油断をしなくても失敗する事は、普通にあるのだから。

「これは、貴方だけの考えなのですか?」

 まずは背後関係から探る。
 魔術協会を飛ばして交渉しようとしているけれど、だからといって単独行動とは限らない。
 するとカルナは、あっさりと応えてくる。

「私だけの考えではありません。もちろん、複数の協力者がいます」

 声によどみは無く、平静としている。
 おそらく、向こうが予想していた問い掛けだったのだろう。
 事前に返答を、練習していたのかもしれない。

(単独ではなく複数……となると、意見を統一できるまとめ役が要るけど……誰なのか……?) 

「貴方がリーダーなのですか?」

 この問い掛けにカルナは、堂々と応えた。

「はい。私が、今では皆の取りまとめをさせて貰っています」

 わずかな揺らぎも感じられない。
 自信では無く確信を持って、カルナは応えているのだと感じられる。
 そして同時に、嬉しさも滲んでいるように思えた。

(ん……これは……)

 確認するために、俺は一つ問い掛ける。

「みんな、好い人達ですか?」

 蒸気機関車の設計図から視線を上げ、消していた表情を灯し、俺は尋ねる。
 やわらかな笑みを浮かべ、親しい友人に語り掛けるようにして。

 それはカルナにとって予想外だったのか、不意を突かれたように黙ってしまったが、

「……はい。みな、好いヤツらです」

 ほんの一瞬だけ、自然な誇らしい笑みを浮かべながら、ハッキリとした声で返してきた。
 その応えに心地好さを感じながら、俺は確信する。

 複数だが少数のグループ。それも意志疎通と目的が巧くいってる集団だと。

(いまカルナが浮かべた表情は、組織の誰か一人を思い浮かべるんじゃなく、一人一人の顔を思い浮かべていなければ無理だ。
 大企業ではなく、意気込みのあるベンチャー企業を相手にするつもりで対応した方が良いのかもしれないな)

 交渉前に、相手のイメージを作り上げながら、俺は本格的に言葉を重ねていく。

「分かりましたカルナ殿。魔術協会を挟まない交渉、まずはこの場限りですが、行いましょう」

 俺の言葉に、カルナの表情が厳しさを増す。
 変わらず笑顔のままだったが、伝わってくる必死さは強くなっていた。

「ありがとうございます。では、まずは一つ」

 俺が無言で待つ中、カルナは言った。

「貴方達が求められている素材の全てを、私達は提供できる準備があります。
 望まれるなら、いつでも差し上げます」
「素晴らしいですね」

 俺は静かな眼差しを向け、問い掛けた。

「代償に、なにを望まれるのですか? 我々は、何を差し上げれば良いのでしょう?」

 これにカルナが返した応えは、

「貴方達の技術を。この世界ではない、貴方達が元居た世界の技術を、私達は望みます」

 こちらが期待する中で、もっとも高い物だった。
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