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第2章 沿岸地帯ジェイドの海産物勝負

5 クラーケンをハントして食べよう その①

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「やっぱ、デケェな」

 100メート以上離れた先に居るクラーケンを見て、五郎は船の上から思わず声を上げた。

 水面から出ているのは、高さにして数メートルといった所だが、それでも視界を遮るほどに大きい。
 元居た世界の、最大級のタンカーなどに比べれば、長さはそれほどでもないが、ぐるっと円状に広がっているのが圧巻だ。
 見ているだけで、その巨大な質量が圧し掛かってくるような圧迫感さえある。

 それを見ながら、五郎は呟いた。

「やっぱ天ぷらか」
「余裕あんな、にぃさんよ」

 アシュラッドが、呆れたようにツッコミを入れる。

「ん? さっぱりした料理の方が良いか?」
「料理の話してねぇから。それより、あのデカ物どうするか、そっちの方が先だぜ」
「近付いてガーッてやってズバッと斬って、持って帰りゃ良いんじゃねぇか?」
「どんだけ雑な作戦だよ。あんたよく、それで魔王倒したな」
「そういう作戦は陽色たち、あー、要はうちのリーダーとか参謀だな。そっちに任せてたからな」
「苦労したのが目に浮かぶぜ。ったく、どうやって狩りとるかな……?」

 アシュラッドは、使える戦力を口にしながら考える。

「こっちが使えるのは、にぃさんらと俺たち。船にゃ、魚用の網と大物用の銛があるけどよ、こんなんじゃどうにもなんねぇな」
「おっ、銛はあんだな」

 五郎は、能天気なお気軽な声で、アシュラッドが示した銛を手に取る。
 巨大海獣用の金属製の銛は、大人でも1人で持つのは無理がある大きさと重さだ。

 返しの付いたそれは、獲物に突き刺さると抜けないようになっている。
 縄を通す穴も付けられ、それにより、突き刺した獲物を引っ張っていくことが出来る。
 射出は、巨大な機械式の固定弓が使われていた。

「持って帰るのは、これを使えば良いんじゃねぇか?」
「あのデカ物を、仕留められたらな」

 渋い表情で、アシュラッドは五郎に返す。

「どうやって仕留めるんだ? 単純に殺すだけなら、俺たちでも遠距離の攻撃魔術を使えるのが居るからな。炭にして良いってんなら、射程距離ギリギリの200m離れた場所から、延々と撃ち続けるが。でも、食うために仕留めるんだよな? それだと拙いだろ?」
「ああ。料理する前から焦げてちゃ、切ねぇからな。だから、直接切り取りに行くよ」
「……は? ちょっと待て。切り取るって、あのデカ物をか?」
「おう。さすがに全部は、食べ切れそうにないからな。余計な部分まで持って帰ったら、逆に勿体ないだろ」
「いや、気にするところ、そこじゃねぇだろ。どうやって切り取るのかの方が、大変だろうよ」
「そっか? 海に跳び込んで、泳いで近付いてぶった切るつもりなんだが」
「……正気か?」

 胡散臭い物を見る眼差しで、アシュラッドは言った。

「あんなの相手に、泳いでどうにかしようってのは、控えめに言っても自殺行為だぞ」
「大丈夫だって。力場系の魔術防御があるから。あれ、使い手の身体の周りを覆うように発生させられるからな。あれを球状に展開して、その中に入って海の上をぷかぷか浮く感じで近付いて斬るから」
「……いい的だと思うんだが、それだと。動きが遅いから、向こうの狙いたい放題だろ」
「そこはまぁ、気付かれないように近付いて、ザックリ切り取ってすぐに逃げりゃ良いんじゃねぇか? 魔術防御使ってたら、少々打撃受けても平気だし」
「あの大きさの時点で、少々じゃないと思うがな……」

 頭痛を堪えるように、能天気な五郎にアシュラッドはため息をつく。
 そこに、助け舟を出す形で声を上げたのは、レティシアだった。

「ねぇねぇ。海の上で、機敏に動けないのが問題なんでしょ? だったら、どうにか出来るよ」
「マジか?!」

 聞き返してきたアシュラッドに、レティシアは返す。

「水上歩行の魔術を掛けたら、たぶん大丈夫だと思う」
「それ、アンタが掛けられんのか? 生憎と、俺は聞いた事も無いんで、説明してくれるか?」

 アシュラッドの問い掛けに、レティシアは応える。

「大元は、水を弾く魔術なの。この魔術だと、弾く水の量が多ければ多いほど、反発力が大きくなるから。小さな水たまりだと、水を弾くだけで沈んじゃうんだけど。海ぐらい水のある所なら、陸上と大差ないぐらいに動けると思う」
「思うって、試した事はないのか?」
「前に湖で試した時は成功したから、海なら余計に大丈夫。ただ、効果時間は30分が限度だから、そこは気を付けて貰わないとダメだけど」
「時間制限有りの水上歩行か……確かにそれなら、いけるか?」

 安全性と確実性を考えるアシュラッド。そんな彼とは対称的に、五郎は気楽な声で言った。

「じゃ、ひとっ走り行って、切り取って来るよ。悪ぃけど、水上歩行っての、掛けてくれるか?」
「……おいおい、にぃさんよ。独りで突っ込む気かよ。それじゃ、こっちの立つ瀬がねぇってもんだぜ。雇われてんだ、危ないことは俺たちがするよ」
「おう、あんがとな。でもさ、あんたらにゃ、この船の操縦を任せてるし、切り取った後のアレを持って帰るのに、苦労して貰わなきゃなんねぇんだ。それ以外のことは、俺たちでやるさ」
「そうっすよ。それに、どっちかというと、船の上で待機して貰った方が助かるっすよ」

 五郎の言葉を引き継ぐようにして、有希は言った。

「遠距離攻撃が出来るんっすよね? だったら、オレっち達が切り取りに行ってる間に、なにかあったら援護射撃して欲しいんすよ。その方が、安心っすから」
「俺たちって、あんたも行く気か?」
「もちろんっすよ。1人より2人の方が、作業ははかどるっすよ」
「だったら、私も行きます」

 意気込むような声で、カリーナは言う。

「船の上で待ってるだけなんて、嫌です。私は魔術師でもありますから、このくらいのことならへっちゃらです」
「おおっ、それは頼もしいですな。ならば、折角ですから我輩もお供しましょう」
「そうだな。盾になっとけアルベルト」
「我輩には辛辣ですな。アシュラッド」
「テメーは、これぐらいで死にゃしねぇだろ。生き汚なさは、超一流だし」
「嫌な信頼のされ方ですぞ」
「うっせー。信頼されてるだけマシだと思っとけ……さて、それなら4人でクラーケンを切り取りに行って来るってことか。ま、なんかあったら、こっちで援護するけどな。それでも、気を付けろよ」
「おう。いざって時は、頼りにしてるぜ」

 にっと笑いながら、五郎はアシュラッドに返した。

 そうして、レティシアに水上歩行の魔術を掛けられた4人は、クラーケン料理を目指して、船の上から海へと降りた。
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