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第2章 沿岸地帯ジェイドの海産物勝負

1 第2の勝負の始まり まずはスポンサーの御屋敷に行きますよ

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「おおっ、すげーな」

 空を飛びながら、五郎は感嘆の声を上げた。
 遥か眼下に大地が広がり、青空の中を進んでいく。

「ファンタジーっすよねぇ」

 五郎に連いてきた有希は、自分達が腰を下ろしているもふもふを撫でる。

「話には聞いてたっすけど、思った以上に乗り心地が好いっすねぇ。グリフォンって」

 獅子の身体に鷲の顔と翼を持った魔獣。
 それがグリフォンだ。

 五郎たちが元居た世界では、空想としては存在しても実在はしてなかったその生き物も、こちらの世界では実在していた。
 もっとも、身体の大きさがとんでもなかったが。

 全長が優に10mはある。 
 五郎たちが元居た世界の基準だと、バス以上の大きさの生き物だ。

 なので、楽に数人が背中に乗れる。
 だからと言って、うつぶせで転がるのは、どうなのかという感じではあったが。

「レティ、もう、起きてっ」

 五郎たちと一緒にグリフォンの背中に乗っているカリーナが、助手であり親友のレティシアを、ゆさゆさ揺さ振る。
 しかし、グリフォンのもふもふな背中に顔を埋めるようにして寝っころがるレティシアは、

「あと五分」

 二度寝しそうな返事をした。

「それ五分間前にも言ったでしょっ。もう三十分近くそうじゃないっ」
「え~、だって~、憧れのグリフォン。それも大型種に触れられる機会なんて、そうそうないんだもん。全身で満喫しないと」
「だからって身体を埋めてどうするのっ」
「このもふもふが、もふもふが、たまらないのよ~。う~、契約魔術が使えれば、私もビーストマスターになって日がな一日、もふれるのに~」

 いまレティシアが口にしたビーストマスターとは、獣の女神バステトに祈ることで授けられたと言われる契約魔術、それを用いて魔獣を意のままに操る者のことだ。
 魔獣に一定の代償を払うことで、それを可能にしている。
 例えばではあるが、死ぬまでご飯の面倒をみる、週に3日はお風呂に入れる、週休2日制などであるが。

 それを用いて陸上では、巨大な猫型の魔獣ミークンに貨物を引かせていたりするのだが、空の輸送にはグリフォンが用いられるのだ。

「私に契約魔術の才能が有ればな~。そうすればビーストマスターになったのに~」
「……そうなってたら、一緒に料理を作れてないから、やだな」

 ぽつりと呟くカリーナ。それにレティシアは、がばっと起き上がると、

「も~、甘えんぼ~。私がリナを1人にする訳ないでしょ~」

 カリーナの頬を両手で挟み、ふにふにする。そんな2人に、微笑ましげにアルベルトが声を掛ける。

「仲が好いですな、御2人は」

 それにレティシアは嬉しそうに笑顔を浮かべ、カリーナの腕に抱き着きながら返す。

「へへ~、幼馴染ですから~」
「ほぅ。それはそれは。良いものですな」

 和やかな雰囲気に、その場は包まれる。
 これから料理勝負をする間とは思えないほど、穏やかだった。

 今この場に五郎たちが居るのは、新たな料理勝負をガストロフに頼まれたからだ。
 牛肉を用いた料理勝負の次の日には連絡が来て、早朝から屋敷に訪れたのだが、そこでいま乗っているグリフォンを紹介され飛んでいる。
 目指す場所は、沿岸地方のジェイド。その地域一帯の豪商たちの代表として、牛肉料理の審査員をしていたクリスの屋敷だ。

「おっ、速いな。もう海が見えてきた」

 地平線の先に広がる、空の蒼とは異なる海の青に気付き、五郎が声を上げる。

「まだ2時間も経ってないってのに、すげーな」
「時速300キロ以上は楽勝らしいっすからね」
「新幹線より速いってことか」

 感心したような声を上げる五郎。
 ちなみに、それだけの速度を出してはいるが、風1つ五郎たちの元には届いていない。
 これはグリフォンの飛行が、魔術によるものだからだ。

 グリフォンを中心として包み込む球状の力場が、周囲の空気を操作する事で空を飛んでいるため、中に居る五郎たちには風の影響はない。
 時折、中の空気は入れ替えつつ温度は一定に保つ、といった細かな操作もされているので快適である。

 そんな空の旅を楽しみながら、一行は目指すクリスの屋敷へと辿り着いた。
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