異世界にて料理勝負をする事になりました

笹村

文字の大きさ
上 下
7 / 28
第1章 牛肉勝負

4 第一の料理勝負 食材 牛肉 その④ なにを選ぶ?

しおりを挟む
「さて、始めるか」

 焼肉の片付けを終らせた五郎は、早速料理に取り掛かる。

「有希。悪いけど、鍋用意してくれるか?」
「良いっすよ。大きさは?」
「大を1つに小を2つ。それと、クロケとサザート茸。あとシロアとバルアも追加で頼む」

 いま五郎が頼んだ食材は、こちらの世界特有の物だ。
 元の世界で似た味の物を上げれば、クロケは昆布。シロアは白ネギで、バルアは白菜と言ったところ。
 サザート茸は、見た目はマッシュルームに似ているが、味はしいたけに近い。

「鍋料理でも、作るつもりっすか?」
「いや。それだと牛肉料理じゃないからな。鍋だと、その他大勢の1つにしかならねぇ。あくまでも今回の主役は牛肉だ。肉を食ってる感じを、味わって貰わねぇとな」

 そう言うと、切り分けられた肉の置かれているテーブルに向かう。

(……どこを使うべきか?)

 すでに作るべき料理を頭の中で浮かべ、手順を組み立てながら、五郎は素早く考える。
 料理は技巧も大事だか、やはり素材が一番の根幹だ。
 自分が作る料理に合うものを選ばなければ、最初から台無しになる。

 それぞれの部位に切り分けられた肉を見回し、すでに無くなっている部分に気付いて笑みが浮かぶ。

(素早いな。焼肉で食べた時点で、作る料理は決まってたってことか)

 五郎は、さっきまで一緒に焼肉を食べていたカリーナとアルベルトに視線を向ける。
 片付けの最後まで付き合ってくれていた2人だが、全部終わるまで付き合わせるのは悪いので、先に勝負に戻って貰っていたのだ。
 そうは言っても、せいぜい数分程度。その間に、自分が作る料理を決めて動けているのは、並々ならぬ経験がなければ無理だ。

(カリーナの嬢ちゃんは、ネックとミスジ、あとはバラか)

 カリーナが選んでいたのは3種類の肉。

 首回りのネックは肉質が硬く、脂は少ないが肉の旨味が強く味わえる。
 肩のごく一部でしか取れないミスジは、弾力はありつつも柔らかな食感を持つ、肉の旨味が濃い部分だ。
 そして残りのバラは、腹回りなので脂の旨味が味わえるが、巧く調理しなければしつこい味になりかねない。

 その3種類の肉から、食感の邪魔になる筋を丁寧に取っている。

(肉の旨味と脂の美味さ、その両方を生かした料理にするつもりかな?)

 カリーナの作ろうとしている料理に、見ている五郎はワクワクする。
 自分が作って、美味しいと食べて貰えるのが一番好きなことではあるが、それと同じぐらい、自分以外の料理人が作る物を見るのは楽しい。
 美味しい物を、持てる限りの工夫と技術で作ろうとしているのを見るのは、とても嬉しいのだ。

 だからつい、他の料理人にも視線が向かう。

(アルは、サーロインか)

 腰の上部にあるサーロインは、脂と肉のバランスが取れ、どちらの旨味も十二分に味わえる上に、やわらかい。

(ステーキにするにゃ最適だが、問題は用意された牛肉自体が硬いからな。
 牛肉としちゃやわらかいサーロインでも、ひと口ふた口はともかく、食べ続けるにはキツい。
 その辺は、どうするつもりかな?)

 興味津々に見ていると、アルは握り拳ほどの、丸くて真っ赤な根菜をすりおろし始める。

(シャロスか……となると、アレかな?)

 元の世界だと、巨大な二十日大根のような見た目のシャロスは、味としては玉ねぎに近い。
 生で食べると辛く、火を通すと甘く柔らかくなる。
 そのすり下ろした物を、赤ワインと塩コショウ、そして幾つかの乾燥させた香草を砕いた物と混ぜ合わせる。
 そこに、2センチほどの厚さに切ったサーロインを漬け込んだ。

(シャリアピンステーキってところか。美味そうなステーキになりそうだな)

 元居た世界だと、肉を叩いた上で玉ねぎのみじん切りに漬け込むシャリピンステーキは、玉ねぎの酵素で肉が柔らかくなった物をステーキにした物だ。
 シャロスも玉ねぎに似た効果があり、肉質を柔らかくする出来るのを五郎も知っている。

(でも、結構シャロスの効果はキツいからな。漬け込み時間間違えると、表面がぐゃちゃぐちゃに……ああ、だから厚めに切ったのを漬けてるのか)  

 色々と工夫を重ねているアルベルトに、五郎は嬉しくなってくる。

(こりゃ、負けてられねぇ。俺もさっさと、肉を選ばねぇとな) 

 楽しさに心を弾ませながら、五郎は肉を選ぶ。
 なにを選び、そして捨てるのか?
 自分の料理に合う最適な部位を見極め、選んだ部位は――

「よし。これにするか」

 肩から腕にかかる部位。1頭から少量しか取れない、脂ではなく肉の旨味を楽しむ、赤身のトンビだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

処理中です...