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幕間 ウィルとアーシェ
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「固定の魔法まで使って、ドアを閉める事は無かったんじゃない」
無言のまま先を進むウィルに、アーシェは連れ立って歩きながら言った。
「そんなに嫌? あの子を巻き込むのが」
「当然だ」
言葉だけ返し、ウィルは廊下を歩き続ける。
そこは、どこか寒々しい気配を感じさせる廊下だった。
あるいは人の温かみが感じられない、と言っても良いかもしれない。
人が住み暮らす中で、移っていく残滓とも言える熱のような物。
それが、酷く薄い。
仕方のないことではある。
何しろお屋敷と言ってもよいここに、いま住んでいるのはウィルとアーシェのみなのだから。
そんな寒々しい場所を歩くウィルは、融け込むような自然さがある。
そう思えるほど、冷たい気配を滲ませていた。
「随分と無愛想な感じだけど、それで会うわけ?
あの可愛らしい婚約者のお嬢ちゃんに」
一瞬の間を空けて、ウィルは応える。
「ああ。いい加減、叶わぬ願いは諦めさせるべきだ」
「だからわざと冷たく当たると……無理ね、そんなことぐらいで諦めないわよ、あの可愛らしいお嬢ちゃんは」
応えは返ってこない。だから、アーシェは続ける。
「貴方の事を愛してるのよ。心の底から、ずっとね」
僅かに、アーシェはウィルの応えを待つ。
だが応えは返ってこない。
ため息をつくような間を空けて、アーシェは続けた。
「貴方も愛してるでしょ。女としてじゃないけれど」
アーシェの言葉に、ウィルの気配が僅かに強張る。
その強張りを崩すように、アーシェは続けた。
「全部、教える? そうすれば、納得してくれるかもね」
「出来る訳が……ないだろ」
激昂しそうになった声を無理やり抑えウィルは返した。
「なら、ちゃんと振ってあげなさい」
やさしいとさえ言える声で、アーシェは言った。
「本気でね」
「いつもそのつもりだ」
「馬鹿言ってんじゃないの、子犬」
くすくすと笑うようにして、アーシェは言った。
「誰も愛さない、なんて戯言は、恋する乙女にだって効きはしないわよ。
それって、誰の者でもないってことなんだから。
ましてや貴方の相手は、愛する女よ。諦める訳ないじゃない。
ちゃんと、貴方が本気で愛してる相手を見せつけなきゃ」
「だからソフィアを巻き込めと? そんな選択肢は無い。彼女には、あの部屋に居て貰う」
そう言うとウィルは、これ以上は返す事が無いとでも言いたげに、無言で足を速める。
「あらあら……」
アーシェは、無言で進むウィルの背中を追い掛けながら、
(あの子猫ちゃんが、大人しく部屋に居続けるような子だと本気で思ってるのかしら? そんなんだから、いつまでたっても子犬なのよ)
声には出さず、くすくすと笑いながら、ウィルと共に向かって行った。
無言のまま先を進むウィルに、アーシェは連れ立って歩きながら言った。
「そんなに嫌? あの子を巻き込むのが」
「当然だ」
言葉だけ返し、ウィルは廊下を歩き続ける。
そこは、どこか寒々しい気配を感じさせる廊下だった。
あるいは人の温かみが感じられない、と言っても良いかもしれない。
人が住み暮らす中で、移っていく残滓とも言える熱のような物。
それが、酷く薄い。
仕方のないことではある。
何しろお屋敷と言ってもよいここに、いま住んでいるのはウィルとアーシェのみなのだから。
そんな寒々しい場所を歩くウィルは、融け込むような自然さがある。
そう思えるほど、冷たい気配を滲ませていた。
「随分と無愛想な感じだけど、それで会うわけ?
あの可愛らしい婚約者のお嬢ちゃんに」
一瞬の間を空けて、ウィルは応える。
「ああ。いい加減、叶わぬ願いは諦めさせるべきだ」
「だからわざと冷たく当たると……無理ね、そんなことぐらいで諦めないわよ、あの可愛らしいお嬢ちゃんは」
応えは返ってこない。だから、アーシェは続ける。
「貴方の事を愛してるのよ。心の底から、ずっとね」
僅かに、アーシェはウィルの応えを待つ。
だが応えは返ってこない。
ため息をつくような間を空けて、アーシェは続けた。
「貴方も愛してるでしょ。女としてじゃないけれど」
アーシェの言葉に、ウィルの気配が僅かに強張る。
その強張りを崩すように、アーシェは続けた。
「全部、教える? そうすれば、納得してくれるかもね」
「出来る訳が……ないだろ」
激昂しそうになった声を無理やり抑えウィルは返した。
「なら、ちゃんと振ってあげなさい」
やさしいとさえ言える声で、アーシェは言った。
「本気でね」
「いつもそのつもりだ」
「馬鹿言ってんじゃないの、子犬」
くすくすと笑うようにして、アーシェは言った。
「誰も愛さない、なんて戯言は、恋する乙女にだって効きはしないわよ。
それって、誰の者でもないってことなんだから。
ましてや貴方の相手は、愛する女よ。諦める訳ないじゃない。
ちゃんと、貴方が本気で愛してる相手を見せつけなきゃ」
「だからソフィアを巻き込めと? そんな選択肢は無い。彼女には、あの部屋に居て貰う」
そう言うとウィルは、これ以上は返す事が無いとでも言いたげに、無言で足を速める。
「あらあら……」
アーシェは、無言で進むウィルの背中を追い掛けながら、
(あの子猫ちゃんが、大人しく部屋に居続けるような子だと本気で思ってるのかしら? そんなんだから、いつまでたっても子犬なのよ)
声には出さず、くすくすと笑いながら、ウィルと共に向かって行った。
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