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Silver snow16*シンデレラになりたい。

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 絶対に諦めない。
 わたしも
 相可おおかくんのシンデレラになりたいから。



 12月21日の朝。わたしは1年A組の扉を開けた。

 相可おおかくん…教室にいた。
 机に伏せ寝してる。

 わたしは、ぎゅっと鞄の紐を持ち、相可おおかくんに近づいていく。

相可おおかくん、おはよう」

「遅ぇよ」

 え…起きて…。

 相可おおかくんは机に伏せ寝したまま顔を上げる。
「早朝から待ってたんだけど」

 早朝から!?

 わたしはびっくりするのと同時に頬が熱くなるのを感じた。

「喜ぶな」

「え!? あ、ごめんなさ…」

「ちゃんと来たな」

 相可おおかくんは優しく微笑む。
黒図くろず、おはよう」

 相可おおかくんと挨拶出来ただけで嬉しい。
 でも…。

「…パーカー貸してくれて、ありがとう」

「あぁ」
 相可おおかくんは机に伏せ寝するのをやめ、黒のパーカーが入った紙袋を受け取る。

「隣座らねぇの?」
 相可おおかくんは優しい声で尋ねてきた。

 座りたい。
 だけど、わたしはもう、相可おおかくんの隣の席じゃない。

 ゆらゆらと揺れる鞄の林檎のストラップ。
雪羽ゆきはちゃん、やっと復活したんだ」
 春花はるかちゃんが左肩にチョコレート色の鞄をかけながら歩いてくる。

春花はるかちゃん…」

 わたしは春花はるかちゃんの左肩の鞄を見る。

 いつも鞄、右肩にかけてたはず…。

「今日は鞄、左肩なんだね」

「私、ほんとうは左利きなんだ」
「もう真似する必要なくなったから」
 わたしは複雑な気持ちにさいなまれる。

雪羽ゆきはちゃん、なんでここにいるの?」
 春花はるかちゃんはそう問いかけ、冷たい眼差しでわたしを見た。

 わたしの顔がサァーッと青ざめていく。
「あ…」

「そんなに相可おおかくんと話したかった?」

「っ…」
 わたしは言葉に詰まる。

「それとも、『席返して』って言う為に私のこと待ってたのかな?」
 春花はるかちゃんは、にっこりと笑う。

「違…」

「心配しなくても大丈夫だよ」
「私の席、真ん中の3番目の席のままだから」

 わたしは唖然とする。

 え………。

「なん…で…?」

「…あんな命懸けで走られたら認めるしかないじゃん」
 春花はるかちゃんは悔しそうな表情でボソッと言う。

「え? 今なんて…」

 春花はるかちゃんが耳元に唇を近づけてくる。
「…マラソンの勝負、私の負けだから」

 え、負けって…。

 春花はるかちゃんは自分の席まで歩いて行く。

 相可おおかくんの隣の席守れなかったって思ってたのに――――。

黒図くろず、もう一度聞く」
「隣座らねぇの?」

 ぽたっ…。
 嬉しくて涙がこぼれ落ちる。

 わたし、いいんだ。
 隣に座ってもいいんだ。

 わたしは自分の腕で涙を拭く。

「座る」

 声を震わせながら言うと、
 ガタッ。
 わたしは相可おおかくんの右隣の席に座った。

 夢みたいだ。
 今日からまた相可おおかくんの隣。

 わたしは幸せそうに微笑む。
 嬉しいな。

雪羽ゆきは、おはよう」
雪羽ゆきはちゃん、おはよ」
 右肩に鞄をかけた姫乃ひめのちゃんと左肩に鞄をかけた林崎りんざきくんが歩いて来た。

姫乃ひめのちゃん、林崎りんざきくん、おはよう」
「昨日は寒い中、ありがとう」
 わたしがお礼を言うと、

 姫乃ひめのちゃんは、ううん、と言い嬉しそうに笑う。
雪羽ゆきはが、また高校通えるようになって良かった」

 続けて林崎りんざきくんがにこっと笑った。
雪羽ゆきはちゃん、席守れて良かったね」

「うん」

「…お前がただ隣にいたかっただけだろ」
 相可おおかくんが呟くと、

「…それこっちのセリフなんだけど」
 林崎りんざきくんがボソッと返す。

 姫乃ひめのちゃんの顔が一瞬曇り、覚悟を決めた顔でわたしを見つめる。
「…あのさ雪羽ゆきは
「昼休みに話したいことがあるんだけどいい?」
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