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Silver snow16*シンデレラになりたい。

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 そして昼休み。姫乃ひめのちゃんに呼び出されたわたしは屋上階段にいた。

雪羽ゆきは
「復帰したばっかりなのに、こんな寒いところに呼び出してごめんね」
 姫乃ひめのちゃんが手をぱんっと合わせて謝る。

「ううん。姫乃ひめのちゃん話って?」

 姫乃ひめのちゃんの顔が真剣な表情に変わった。
「本気で雪羽ゆきはぎんのこと決着つけたいなと思って」

 わたしは動揺する。
「え……?」

 姫乃ひめのちゃんは右手で自分の左手の袖をぎゅっと掴む。
春花はるかと競いながらあんなに必死にマラソン走る雪羽ゆきはを見て、このままじゃだめだと思った」
「だから勝負受けて欲しい」

「勝負って何を…」

「お互いぎんに0時ちょうどに家に来るように伝えて」
「それぞれの家でぎんが来るのをただ待つの」

「それでぎんが来たら勝負は勝ち」
「負けたらぎんのことは綺麗さっぱり諦める」

 相可おおかくんのこと綺麗さっぱり諦める――?

 姫乃ひめのちゃんは罪悪感に満ちた顔を浮かべる。
「せっかく雪羽ゆきはぎんの隣の席守れたのに」
「ほんと意地悪だよね、ごめん」
「だけど、中2の時、ぎんとキス出来なかったから…」

 姫乃ひめのちゃんは涙ぐみながら感情を爆発させた。
「今度はぎんとちゃんとキスしたい!」
ぎんのシンデレラになりたい!!」

 顔を見たら分かる。
 姫乃ひめのちゃんが本気で言ってること。

 そして、勝負なんかしなくても分かってしまう。
 わたしは相可おおかくんには選んでもらえない。

 だってわたし“黒ずきん”だから。
 “シンデレラひめのちゃん”には絶対に敵わない。

 それでも姫乃ひめのちゃんは、

 ――ハチミツトーストおいしいっ。
 そうと決まればよし、早速、イメチェンだ。
 ――雪羽ゆきは、一緒に写メ撮ろ。

 わたしに楽しい時間をくれた。

 ――行かないよ。一緒に走る。
 ――友達だからだよ。
 ――じゃあ今日からライバルってことで。雪羽ゆきはのこと全力で応援するね。
 ――雪羽ゆきは、頑張って!

 いっぱい幸せな気持ちをくれたから――。

「…分かった」
 わたしの両目に薄っすらと涙が浮かび上がる。

 絶対に諦めない。

「わたしも相可おおかくんのシンデレラになりたいから」

 姫乃ひめのちゃんは指で自分の涙を拭う。
雪羽ゆきは、勝負、受けてくれてありがとう」
ぎん、誘いに行こ」

「うん」



 10分後、空き教室の前に姫乃ひめのちゃんと着いた。

ぎん、昼はいつもここで寝てるんだよね」

 そうなんだ…知らなかった…。

「ゆり、ここで寝てること知らないから助かる」

「ゆりちゃんも?」

「うん」
 姫乃ひめのちゃんの眉が下がる。
「ゆりにもし聞かれて勝負のこと知られたら阻止されそうだしね」

 確かに…。

雪羽ゆきは、私から誘ってもいい?」

「うん」

「じゃあ少しだけここで待ってて」

 ガラッ。
 姫乃ひめのちゃんは扉を開けて空き教室の中に入って行く。

 あ、相可おおかくんの声が聞こえて…。

『何? 姫乃ひめの

『高校が終わったら0時ちょうどに私の家に来て欲しい』

『は? なんで?』
 相可おおかくんは驚いた声を出す。

『お願い』

『…分かった』

 扉が開いた。
 姫乃ひめのちゃんが中から出てくる。

雪羽ゆきは、頑張って」

「うん」
 わたしは勇気を振り絞り、空き教室の中に入った。

 相可おおかくんは、わたしを見て驚く。
「は? 今度は黒図くろず?」

「ごめんなさい」
姫乃ひめのちゃんがここに入って行くのが見えて…」

 …嘘だけど。

「それで何?」

 ドキン、ドキン、と高鳴る胸に右手を当てる。
 勇気出せ、わたし!

「高校が終わったら…0時ちょうどにわたしの家に来て欲しいです」

 はぁ…言えた。
 まだ胸がドキドキしてる…。

 相可おおかくんは何かを察した表情を浮かべる。

「…分かった」

 約束してしまった。
 これで負けたら、席替え前に今度こそほんとうにわたしの恋は終わってしまうのに。



 昼休みが終わる少し前。ぎんは1年A組の教室に戻ると、扉の前でりんが腕を組んで待っていた。

「…ぎん、よく寝れた?」
 りんが小声で尋ねると、

「あぁ」
 ぎんは短く答える。

「何? 深刻そうな顔して」
「何かあった?」

「…姫乃ひめの黒図くろずに家に0時ちょうどに来るように誘われた」

「なるほどね」
「ついにどちらかを失う時が来ちゃったんだね」

 りんの表情が悪魔のような表情に変わる。
「それでぎん、どっちを選ぶの?」
「もちろん、姫乃ひめのだよね?」

 ぎんは静かに口を開き、答えた。
「もう決めてる」



 23時50分。わたしは自分の部屋にいた。
 ベットに座りながらスマホで時間を確認する。

 0時まであと10分。
 相可おおかくんはまだ来てない。

 わたしは不安に陥る。

 どうしよう。
 もう姫乃ひめのちゃんのところに相可おおかくんいるかもしれない。
 そう思ったらベランダのカーテン、怖くて開けられない。

 スマホをベットに置いて降りると、カーテンで隠れたベランダの扉の前まで歩いて行く。

「…お願い」
 わたしは祈るように両指を絡めた。


 相可おおかくん、会いに来て。

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