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3 初めて

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 唇が触れたとき、ロゼは少し震えた。ジュストにもその震えは伝わったのか、彼は唇を離して問いかける。
「嫌?」
 ロゼは目を伏せて言葉に迷った。
 有翼人種が唇を合わせるのは呼吸を分け与えること。それは伴侶となるべき者に対する愛情表現で、精を吐き出すだけの生き物にするものではない。
 そんなことをされたら、ロゼの中の幼い恋心が泣いてしまう。
 子どもの頃、花冠を乗せてくれた優しい少年と唇を合わせてみたいと願った。色づいた感情が恥ずかしくて、彼に見せることはできなかったけれど。
「……ご容赦を」
 ロゼはジュストの胸を押し返しながら言った。
 今のロゼは、もう処女ではない。唇も蹂躙され、道具のように扱われた。そんな汚れた唇に、ジュストを触れさせるわけにはいかなかった。
 ロゼのまなじりににじんだ雫に気づいて、ジュストは顔を離した。
「泣かないで。唇には触れない」
 ロゼの髪を梳いて詫びるように額に口づけながら、ジュストはロゼの着衣を紐解いた。一枚布のそれは前合わせで留めてあるだけで、留め具を外せばたやすくほどけてしまう。
 外気にさらされたロゼの体を見たとき、ジュストは眉を寄せた。痛々しいほど痩せた白い体に、ところどころ血がにじんでいた。
「誰にされた?」
 押し殺した声で訊ねたジュストに、ロゼは首を横に振った。
「いいえ。私が」
「君が自分で? なぜ?」
「悪い夢を見るのです」
 ジュストはやるせないというように息をついて、ベルトに下げた袋から何かを取り出す。
 困惑するロゼを寝台に座らせて、ジュストは乳白色の薬を彼女の傷口に塗り始めた。
 有翼人種が持ち歩いているそれは血止めだった。ひと塗りでロゼのひと月分の食費ほどもする高価なものだった。ジュストはそれを惜しげなく腕にも脇腹にも丁寧にすりこんで、他に痛いところはと訊ねる。
「手をどけて」
 ふいにジュストが声をかける。ロゼは肩を抱くようにして胸を隠していた。無性たちは薬で豊満な胸を作っているが、ロゼのそこは子どものように小さかった。
 ジュストに手をつかまれて外される。ふくらみというにはあまりに頼りない胸で、ロゼは恥ずかしかった。
 ジュストはそこにささやかな朱を添える突起をみつけて嘆息する。
「ここもこんなに赤い……」
 あ、とロゼは声を呑み込む。次の瞬間、彼はロゼのそこに舌を這わせていた。
 無性たちが有翼人種の客にそのような愛撫を施すのを見たことがある。けれど自分が彼にそんな行為をされて、背徳感に似たざわつきが体を走っていった。
「ど、どうして」
「可愛い」
 びくりと体を震わせたロゼを、ジュストは上目遣いに見てつぶやく。
 微笑をこぼしたジュストが少年の頃とは違って艶めいて見えて、ロゼは戸惑う。
「唇でなければ許して」
 ジュストはロゼの突起から口を離し、ロゼをもう一度寝台に横たえると、体中に口づけた。足の先や、肩、髪、鎖骨。その間も、指先でロゼの突起を転がすように愛でる。労わるような触れ方が次第に熱を帯びて、ロゼの体もまたほんのりと染まっていく。
 だめなのにと、ロゼは罪悪感に包まれる。この汚れた体が、まるで恋人になったかのようにとろけるなど許されない。ロゼは婚約を破った忌むべき者で、今は王族に姿を見せるのさえ認められない賤しい者なのだから。
 ジュストの指がロゼの秘所に触れたとき、ロゼはたまらずその手を留めていた。何か言おうとすると、ジュストはロゼと額を合わせて哀しく笑う。
「私に触れられるのは嫌?」 
 恋した人にみつめられる喜びで、ロゼは一瞬言葉に詰まった。
「嫌われているね、私は」
 ジュストの声に苦味が混じった。ロゼは彼をなぜ悲しませているのかわからず、体を丸めてそこを隠そうとする。
 それをやんわりと、けれど抵抗を許さない力で元通りに体を寝台に縫い留めて、ジュストはロゼを組み敷く。
「君は悪くない……が、もう遅い」
 ジュストはロゼの足を開かせて、そこに指を忍び込ませる。
 水音を立てながら指を抜き差しされる。ロゼは首を横に振るが、体から勝手にこぼれ出るものが滑りを良くしていく。いやらしい欲望がジュストの指を汚していると思うと、消え入りたいような思いがした。
 暗く沈んでいく心とは相反して、ロゼの体は高みへと導かれる。
 どうして心地よいのだろうと自分の体が不思議だった。この行為はずっと忌むべきもので、そこに甘さはないはずだった。
 ロゼは困惑しながら、襲い来る快楽から逃れるすべを知らず、頬をシーツにこすりつけて声を押し殺す。
 指が増やされ、ふいにロゼの中にある何かにかすめた。ロゼがぴくりと震えて身をよじると、ジュストは嬉しそうにほほえんで、優しくつまむ。
「いや……」
 ロゼの体は如実に震えて、涙をにじませながら離してほしいと訴える。そんな願いを、ジュストが聞き入れる必要などないのだとわかっていながら。
 ジュストはやはり聞き入れなかった。それどころか身を屈めて、ロゼのそこに舌を這わせる。
「あ……う」
 ロゼは抵抗する力さえその行為に奪われてしまった。甘噛みされて、そのあまりに直接的な悦楽で意識が真っ白になる。
 体がけいれんするように数度震えて、一気に力が抜けた。初めての感覚に、ロゼはひとときぼうっとなる。
 視界が晴れてきたとき、ジュストの切羽詰まったような瑠璃色の瞳がすぐ側にあった。
「待てない。……君がここにいるのに」
 ジュストが自らの着衣をほどく気配がした。ロゼは痛みを覚悟しながら、そのときを待つ。
 けれどジュスト自身がロゼの中心に触れたとき、ロゼの中の閉ざされた記憶が蘇った。
 激痛と悲しみがロゼを押しつぶす。
 ロゼの消え入りそうな悲鳴が、房の中に響いた。
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